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時季外れの転校生
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「惣二郎にも恋人が出来たのか。色恋沙汰には全く興味が無さそうな生活だったからなあ。心配していたが、それは良かった。今夜も存分に甘えるといい。明日からキツイ日々になるだろうから」
「はい、そうします」と俺は答えると、校長室を後にした。
職員室を経由して、俺は二年の教室に向かう。
夕暮れ時のオレンジ色に染まる廊下を歩き、教室に足を踏み入れると、机に突っ伏して気持ちよさそうに寝ている伊坂がいた。
まだ帰ってなかったのか!? ……って、自宅に帰りづらいか。
俺は足音をたてないように身をひそめながら伊坂に近づくと、前の椅子に腰を落とした。
伊坂の顔の下には数学のノートが見えた。
眠る直前まで、どうやら勉強をしていたらしい。
シャーペンを握りしめたまま、スースーと寝息をたてている。
柔らかそうな髪を数本摘まむと、俺はツンツンと引っ張った。
「伊坂、起きろ」
恋人に甘える……か。
おじさんの言葉を思い出して、フッと口元を緩めた。
「……ぅん……」と伊坂が声を漏らして、髪を摘まんでいる俺の手を払った。
「伊坂、起きろ!!」
さっきよりも強めな口調で、俺は言う。
「……あ、れ? 英先生……」
伊坂が寝ぼけ眼で、俺を見つめた。開き切っていない瞼が二重になっていた。
「風邪ひくぞ」
「僕、寝てました?」
「寝てた。顔に数式が書いてある」
「え!? ほんとに……?」
伊坂ががばっと身体を起こして、両方の手で左右の頬を隠した。
「嘘」と俺はニヤリと口元を緩めた。
『真嶋 暁』が来る。明日から。
伊坂のあたふたした表情を見ながら、思い出したくもない過去が蘇り、胸をぎゅっと締めつけられた。
苦しい。息をするのも辛いくらいだ。
ごくりと大量の唾を飲み込んで、モヤモヤした感情も飲み込もうとする。
「伊坂、少しいいか?」
「あ、はい……!?」
ぴしゃりと背筋を伸ばした伊坂が、きりっとした目つきに変化した。
言うべき、なのか?
伊坂に『真嶋』の話をしておくべきなのか?
俺は手を前に出すと、伊坂の頬に触れた。
俺は選んだはずだ。
伊坂とは、教師と生徒の関係のまま過ごすと。そう決めた。
卒業までは、俺は伊坂とは一線は越えない。それは精神面でも同じだろ?
明日からクラスメートになるのに、前もって悪い印象を与えるわけにはいかない、な。それは教師として失格だ。
俺はこのまま黙っておくべきなのだろう。
おじさんにも言ったじゃないか。社会人として、教師として、真嶋には接すると。
伊坂に対しても、真嶋に対しても、俺は大人として接しなくてはいけない。
「……せんせい……?」と伊坂が困った表情で、俺を見つめていた。
俺は口元を緩めて微笑むと、「なんでもない」と呟いた。
◇惣二郎side 終わり◇
「はい、そうします」と俺は答えると、校長室を後にした。
職員室を経由して、俺は二年の教室に向かう。
夕暮れ時のオレンジ色に染まる廊下を歩き、教室に足を踏み入れると、机に突っ伏して気持ちよさそうに寝ている伊坂がいた。
まだ帰ってなかったのか!? ……って、自宅に帰りづらいか。
俺は足音をたてないように身をひそめながら伊坂に近づくと、前の椅子に腰を落とした。
伊坂の顔の下には数学のノートが見えた。
眠る直前まで、どうやら勉強をしていたらしい。
シャーペンを握りしめたまま、スースーと寝息をたてている。
柔らかそうな髪を数本摘まむと、俺はツンツンと引っ張った。
「伊坂、起きろ」
恋人に甘える……か。
おじさんの言葉を思い出して、フッと口元を緩めた。
「……ぅん……」と伊坂が声を漏らして、髪を摘まんでいる俺の手を払った。
「伊坂、起きろ!!」
さっきよりも強めな口調で、俺は言う。
「……あ、れ? 英先生……」
伊坂が寝ぼけ眼で、俺を見つめた。開き切っていない瞼が二重になっていた。
「風邪ひくぞ」
「僕、寝てました?」
「寝てた。顔に数式が書いてある」
「え!? ほんとに……?」
伊坂ががばっと身体を起こして、両方の手で左右の頬を隠した。
「嘘」と俺はニヤリと口元を緩めた。
『真嶋 暁』が来る。明日から。
伊坂のあたふたした表情を見ながら、思い出したくもない過去が蘇り、胸をぎゅっと締めつけられた。
苦しい。息をするのも辛いくらいだ。
ごくりと大量の唾を飲み込んで、モヤモヤした感情も飲み込もうとする。
「伊坂、少しいいか?」
「あ、はい……!?」
ぴしゃりと背筋を伸ばした伊坂が、きりっとした目つきに変化した。
言うべき、なのか?
伊坂に『真嶋』の話をしておくべきなのか?
俺は手を前に出すと、伊坂の頬に触れた。
俺は選んだはずだ。
伊坂とは、教師と生徒の関係のまま過ごすと。そう決めた。
卒業までは、俺は伊坂とは一線は越えない。それは精神面でも同じだろ?
明日からクラスメートになるのに、前もって悪い印象を与えるわけにはいかない、な。それは教師として失格だ。
俺はこのまま黙っておくべきなのだろう。
おじさんにも言ったじゃないか。社会人として、教師として、真嶋には接すると。
伊坂に対しても、真嶋に対しても、俺は大人として接しなくてはいけない。
「……せんせい……?」と伊坂が困った表情で、俺を見つめていた。
俺は口元を緩めて微笑むと、「なんでもない」と呟いた。
◇惣二郎side 終わり◇
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