愛の物語を囁いて

ひなた翠

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時季外れの転校生

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「君って、伊坂君だよね?」

 移動教室の際、僕は今日転校してきたばかりの男子に呼び止められた。

 美術の教科書と、絵具を手に持ったまま僕は振り返った。

「伊坂だけど、なに?」

 僕は足を止める。

「僕は真嶋 暁。僕と友達になってくれないかな? 僕はぜひ、君と仲良くなりたい」

「はあ……別にいいけど」

 僕は、握手を求めるように手を差し出してきた真嶋君の顔をまじまじと眺めた。

 綺麗な顔立ちだ。繊細というべきか。色白で、きめのある肌で艶もある。まるで女優の肌質と言うのだろうか?

 なんだろ? どう表現していいのか、わからないけど、なんか別格なオーラがある。

『色気』

 そう!! それだ。色気があるんだ。

 中性的な顔立ちにプラスして、色気がある。

 僕は真嶋君と握手を交わした。友達になったという証なのだろう。

 これからよろしく的な感じで、僕は真嶋君の手を握りしめた。

「僕と君って、よく似ているんだ。君は知らないかもしれないけれど、僕は君を知っている」

 真嶋君がにこっと笑った。

「はあ……」と僕は曖昧な返事をして、真嶋君の体系を眺めながら類似点を探した。

 何がどう似ているのか?

 見た目的な部分で似ている部分があるのだろうか?

 僕は、真嶋君のように美人タイプとは言えない。色気もないし。

 真嶋君が、ぐいっと僕の腕を強く引っ張った。

「わからない? 僕と君との共通点。それはね……」

 真嶋君が僕の耳元で、『英先生』と呟いた――。

 僕は、真嶋君の胸をドンっと押すと、距離をあけた。

「まさかっ……!?」

 よろよろっと後ずさり、僕はドンっと窓に背中を軽く打ちつけた。

『伊坂、少しいいか?』

 昨日、英先生が何かを言いかけて止めた言葉が蘇る。

 先生、もしかして言いかけて止めたのってこのこと?

「宣戦布告しておこうと思って。僕は、君のことをすごくよく知っているのに、君は僕を何も知らないのは可哀想かと思って。ごめんねえ。不本意だけど、僕は君を蹴落とすよ。君が英先生に片想いしている限りは、ね」

『さっさと身を引きなよ。僕は手段を選ばない人間だからね。容赦なく、君を叩く』と真嶋君が、誰にも聞かれないほどの小声で、僕を脅してきた。

 パッと真嶋君が僕との距離を開けると、にっこりと爽やかな笑みを見せた。

「じゃ。僕は行くよ」とひらひらと手を振って、真嶋君が廊下を颯爽と歩きだした。

 僕は、茫然と小さくなっていく真嶋君の背中を見送った。

 僕は、とんでもない宣戦布告を受け取ってしまったのかもしれない。
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