愛の物語を囁いて

ひなた翠

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無慈悲な相手

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◇惣二郎side◇
 自宅に帰ってくるなり、呼び鈴が鳴った。玄関に鞄を置き、すぐにドアを開けた。

「隣に引っ越してきた真嶋 暁です。よろしく、センセっ」

 綺麗に包装された茶菓子の箱を差し出しつつ、真嶋が最大級の笑顔を振りまいた。

 真嶋が水色のポロシャツのボタンをとめず、胸元を大きく開けている。

 まるで女が男を惑わすために、武器である豊満な胸の谷間を見せるかのような格好だ。

 少し垂れ気味な目に、泣きボクロのある真嶋は自分自身が同性にどのように映っているかをよくわかっている。

 どう見られているのかわかっていて、計算して動くのだ。狙った相手を、確実な方法で私物化するために。

 十代の真嶋がどんなに汚れた考えをもっているかなんて、誰も気づかない。気が付かないまま、誰もが真嶋の駒になっている。

 そうやって手にいれた相手を利用し、真嶋はチェス盤でゲームを楽しむように、相手を操るんだ。

 俺は「はあ」と息を吐き出すと、首を左右に振った。

「操れないピエロはもう用無しになったんじゃないのか?」

「何を言っているのか、僕にはさっぱりわからない。センセ、詰まらないものですが、お近づきにどうぞ」

 真嶋が茶菓子の箱を前に突き出した。

 俺は茶菓子の箱を押し返した。

「いらない」

「僕が茶菓子だけを持ってきたと思っているの? 受け取っておいたほうがいいと思うけど」

「受け取らないほうが良いと、俺の危機判断能力が訴えている」

 クスクスと真嶋が肩を震わせて笑う。

「相変わらずだね、先生は。そういうところ、僕は大好きだよ。好きすぎて、ここまで追いかけてきちゃった」

 俺のスーツの胸ポケット内で、携帯を震え始めた。マナーモードにしているある携帯は、『ブーブー』と静かに唸る。

 三回以上バイブが震えて、メールではなくて電話がかかってきているとわかった。

「何が入っていようと、その箱は要らない」

「ああ、そ。要らないの。ふうん」

 真嶋が、ポイッと茶菓子の箱を共同廊下に投げ捨てた。

「伊坂 瑠衣に関するデータが入っているとしても、要らないんだぁ」

「『伊坂』? 俺の生徒を調べたのか?」

 俺は眉に力が入る。

 真嶋がにっこり笑って、俺のネクタイに人差し指を撫でつけた。

「僕が何もしないで、ポンっとここに飛び込んでくるとでも? 先生の生徒全員調べたよ。誰が先生を好きか。僕の邪魔になる人間は排除しなくちゃだからね。それに僕の本気を、先生に知ってもらわないと。前回は伝わってなかったみたいだから」

 俺は真嶋が投げ捨てた茶菓子の箱を、腰を折り曲げて拾い上げた。

「い、さ、か」と真嶋が一文字ずつはっきりした声で言い放つ。

「僕と同種がいるとはねえ。正直、驚いたよ。相手が先生じゃなきゃ、良い友人関係を築けたはずだけど……」

「伊坂に何かしたのか?」

「内緒。彼にだけは優しくしちゃ駄目だよ、先生。僕、見てるから。先生のこと。伊坂に優しくしたら、僕……彼に何をするかわからない」

 ニコッと真嶋が微笑んで、「じゃあ、また」と隣の部屋に戻っていった。

 俺は玄関のドアを閉めて、鍵をかけると、まだ胸ポケットの中で震えている携帯に手を伸ばした。

『伊坂 瑠衣』と携帯の液晶画面に名前が出ている。

 俺は通話ボタンを押すと、耳にあてた。

「どうした?」

『あ、先生。ごめんなさい。気になることがあって……』

「真嶋か?」

『う、うん』

 俺は玄関で靴を脱いで、鞄と茶菓子を持って部屋の奥に足を進めた。

「何かされたか?」

『あの人って、先生の前の学校の生徒?』

「そうだ。で、何かされたか?」

『宣戦布告された。僕が先生に片想いしている限り、容赦なく僕を叩く、って』

 ベッドに腰を落として、俺はネクタイを緩めた。

「伊坂、真嶋は恐ろしい人間だ。伊坂に何をするかわからない。だから、今から俺の言うことを実行してくれ」

 俺は、深呼吸をすると意を決して伊坂に告げた――。

◇惣二郎side 終わり◇
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