3 / 67
第3話:猛獣(おねえさん)を飼いならす
しおりを挟む
「さて、善さん。これからどうやって稼ぐかだけどね」
翌日の放課後。私たちは再び、昨日の公園のベンチを「仮説オフィス」として作戦会議を開いていた。 私は学校の制服、善さんはヨレヨレのスーツ。傍から見れば、援助交際の交渉現場にしか見えないだろう。
「はい、社長! 俺は何でもします! 昨日のアレのおかげで、今ならビルだって素手で登れそうです!」
善さんが鼻息を荒くして言う。 昨日の魔法の効果は切れているはずだが、一度味わった全能感と、どん底から救われた高揚感で、ナチュラルハイ状態が続いているらしい。扱いやすいコマで助かるよ。
「あんたのやる気は買ったよ。でもね、今の私たちには致命的に足りないものがある」
私は人差し指を立てた。
「第一に、金。資本金ゼロどころか、私の全財産は三百円だ。第二に、信用。中学生とリストラおじさんのコンビを信用する銀行なんてない。そして第三に――武力だ」
「武力、ですか?」
「そうさ。これから私たちがやろうとしてるのは、表立って看板を出せないような、グレーゾーンギリギリの商売になる。そうなれば、必ず面倒な連中が寄ってくる。ヤクザもどきとか、チンピラとかね」
私は異世界での経験を思い出す。美味しい商売には、必ずハエがたかるものだ。 魔法で強化した善さんでもある程度は戦えるだろうが、彼はあくまで一般人だ。荒事の専門家じゃない。
「私の魔法を最大限に活かせる、戦闘のプロが必要なんだよ。それも、金に困っていて、訳ありのやつがね」
「そんな都合のいい人材、どこにいるんですか……?」
「探しに行くのさ。繁華街の裏路地あたりにね」
***
私たちは、ネオンサインが輝き始めた夕暮れの繁華街へと繰り出した。 善さんは「こんな場所に社長を連れ歩いて補導されたら……」とオドオドしているが、私は構わず路地裏へと進んでいく。
私の【魔力感知】は、人間の感情の昂りもある程度察知できる。 怒り、恐怖、焦燥――そういった負の感情が渦巻く場所には、トラブルがある。そしてトラブルがある場所には、金と人材が転がっているものだ。
「……ん、ビンゴだね」
薄暗い雑居ビルの裏手から、男たちの怒鳴り声と、何かが壁にぶつかる鈍い音が聞こえてきた。
私たちは物陰からそっと様子を窺った。
そこには、四人の柄の悪い男たちに囲まれている、一人の若い女がいた。 男たちは典型的なチンピラだ。安っぽいスーツに、尖った革靴。手には鉄パイプを持っている奴もいる。
対する女は――目を引く容姿をしていた。 身長は百七十センチはあるだろうか。燃えるような赤い長髪をポニーテールにまとめ、服装はラフなタンクトップにカーゴパンツ。その服装の上からでも、鍛え上げられたしなやかな筋肉が分かる。 顔立ちは整っているが、目つきが鋭く、野生動物のような獰猛さを秘めていた。
「おいコラ、リオちゃんよぉ。今月分の利息、まだ足りねえんだよ」
チンピラのリーダー格が、ニヤニヤしながら女――リオに詰め寄る。
「……うるさいわね。弟の入院費で飛んだのよ。来週には必ず払うって言ってるでしょ」
リオの声は低いが、よく通る。どうやら借金取りに追われているらしい。「弟の入院費」ねえ。ベタだけど、悪くない動機だ。
「来週、来週って、もう聞き飽きたんだよ! 体で払ってもらおうか!」
男の一人が、リオの肩に手を伸ばした、その瞬間。
バキィッ!!
目にも止まらぬ速さで、リオの右ストレートが男の顔面に炸裂した。 男は鼻血を吹き出しながら、ゴミ箱に突っ込んだ。
「……触るな、クズが」
リオが低い声で唸る。
(ほう……いいねえ)
私は思わず感嘆の声を漏らしそうになった。 今のパンチ、腰の回転といい、踏み込みの鋭さといい、素人のそれじゃない。完全にプロの動きだ。格闘技の経験者、それもかなりの手練れと見た。
「て、てめえ! やりやがったな!」
残りの三人が、鉄パイプを振りかざして一斉に襲いかかる。 さすがのリオも、武器を持った三人が相手では分が悪いようだ。防戦一方になり、ジリジリと壁際に追い詰められていく。
「社長、まずいですよ! 警察を呼びましょう!」
善さんが慌ててスマホを取り出そうとするのを、私は手で制した。
「馬鹿お言い。最高の見せ場じゃないか」
私はニヤリと笑う。 ダイヤの原石を見つけた。あとは、磨いてやるだけだ。
「善さん、見てな。私の魔法の真骨頂をさ」
私は路地裏の闇に紛れ、意識を集中した。 対象は、あの赤髪の女、リオ。
(――【身体能力超強化(グレーター・ブースト)】、――【反応速度上昇(ヘイスト)】、おまけに――【痛覚遮断(ペイン・ブロック)】!)
私の体から、目に見えない魔力の奔流が放たれ、リオの体に吸い込まれていく。
***
――獅子戸(ししど)リオは、覚悟を決めていた。 (くそっ、さすがに多勢に無勢か……!) 鉄パイプが横腹に食い込む鈍い痛み。視界が少し霞む。 元地下格闘技のチャンピオンだった自分が、こんなチンピラ相手に後れを取るなんて。でも、弟の治療費のために無理な試合を続けて、体はボロボロだった。
「おらぁ! 死ねや!」
目の前の男が、鉄パイプを全力で振り下ろしてくる。 避けきれない。私は歯を食いしばり、衝撃に備えて腕をクロスさせた。
だが。
いつまで経っても、衝撃が来ない。
「……え?」
目を開けると、世界がスローモーションのようにゆっくりと動いていた。 振り下ろされる鉄パイプが、まるで止まっているかのように見える。
いや、違う。私の感覚が、異常なまでに研ぎ澄まされているのだ。
体が熱い。全身の細胞が沸き立ち、底知れぬ力が体の奥底から湧き上がってくる。 先ほどまでの疲労感も、脇腹の痛みも、嘘のように消え去っていた。
(な、何これ……?)
私は無意識のうちに動いていた。 スローモーションに見える鉄パイプを、ひょいと避ける。 そして、がら空きになった男の脇腹に、軽く――本当に軽く、牽制のつもりでミドルキックを放った。
ドォォォン!!
「ごふっ!?」
男の体が、まるでトラックに跳ねられた人形のように、路地の向こう側まで吹き飛んでいった。 壁に激突し、そのまま動かなくなる。
「……は?」
私自身が一番驚いた。今、私、そんなに力入れてないわよね?
「な、なんだコイツ!? 化け物か!?」
残りの二人が怯んだ隙を、私は逃さなかった。 体が勝手に動く。思考するよりも速く、最適な攻撃動作を繰り出していく。
一人の顎をアッパーで打ち抜き、もう一人を回し蹴りでなぎ倒す。
ものの十秒。 路地裏には、四人の男たちが無様に転がっていた。
「……嘘でしょ」
私は自分の両手を見つめた。震えている。 何が起きたのか分からない。火事場の馬鹿力? それとも、最近飲み始めた安物のプロテインが、実はすごい効き目だったとか?
***
「……ふん、上出来だね」
呆然と立ち尽くすリオの姿を見て、私は満足げに頷いた。 素質は十分。私のバフがかかれば、戦車だって素手で止められるかもしれないね。
「行くよ、善さん。スカウトの時間だ」
私は制服のスカートをパンパンと払い、善さんを引き連れて路地裏へと歩み出た。
「すっげえ……姉ちゃん、あんた何者だ?」
善さんが、転がっているチンピラたちを見て目を丸くしている。
リオは私たちが近づいてくるのに気づき、警戒心を露わにした。獣のような鋭い視線が私を射抜く。
「……何よ、あんたたち。こいつらの仲間?」
「まさか。ただの通りすがりさ」
私は、できるだけ可愛らしい、無邪気な中学生の笑顔を貼り付けた。
「お姉さん、すごいね! 映画みたいだった!」
「……茶化しに来たなら、帰ってくれる? 今、機嫌が悪いの」
「茶化してなんかないよ。ねえ、お姉さん。一つ聞きたいんだけど」
私は一歩、彼女に近づき、声を潜めた。
「さっき、急に体が軽くなったろ? 信じられないくらいの力が湧いてきて、相手の動きが止まって見えたはずだ」
リオの瞳孔が開いた。
「……どうして、それを」
「私がやったからさ」
「は?」
「私の『能力』だよ。他人の潜在能力を、極限まで引き出す力さ」
私はニヤリと笑った。もう、猫を被る必要はない。
「獅子戸リオさん。元地下格闘技の女王。今は弟さんの医療費のために、怪しげな借金取りに追われる日々……そんな生活、もうやめにしないかい?」
「な、なんで私のことを……」
「調べさせてもらったよ(嘘さ。今、あんたの様子を見て推測しただけだよ)」
私は善さんから、なけなしの五百円玉を受け取ると、それをリオに向かってピンと弾いた。 リオは反射的にそれを受け止めた。
「それが契約金の前払いだ。安くて悪いけどね」
「……は? 五百円? 舐めてんの?」
「これから、もっとデカい金を稼ぐんだよ。あんたには、私の専属ガードマンになってもらう」
私は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、宣言した。
「私が、あんたの借金を全部返させてやる。弟さんの病気だって、最高の医者にかからせてやる。その代わり――あんたのその力、私に売りな」
リオは、手の中の五百円玉と、私の顔を交互に見た。 怪しんでいる。当然だ。中学生にこんなことを言われて、ハイそうですかと信じる馬鹿はいない。
だが、彼女は自身の体で体験したはずだ。あの、理屈では説明できない「奇跡」の力を。
「……あんたの、仕業なのね? さっきのあれは」
「ああ。そして、私はあれを、いつでも、何度でもかけてあげられる」
リオがゴクリと喉を鳴らした。武人としての本能が、私の力に惹かれているのが分かる。
しばらくの沈黙の後。 リオは深い溜息をつき、乱れたポニーテールをかき上げた。
「……胡散臭いガキね。でも、今の私には他に選択肢がないみたい」
彼女は五百円玉をポケットにねじ込むと、不敵に笑った。
「いいわよ。乗ってあげる。ただし、給料は弾みなさいよ? 私、高いから」
「交渉成立だね。よろしく頼むよ、リオ」
私は心の中でほくそ笑んだ。 これで、頭脳(私)、手足(善さん)、武力(リオ)が揃った。
「じゃあ、早速最初の仕事だ。このゴミどもから、治療費と慰謝料をふんだくってきな。それが今日の晩飯代だよ」
私は気絶しているチンピラたちを顎でしゃくった。
「……あんた、本当に中学生?」
「さあね。戸籍上はね」
こうして、私の会社――株式会社『コガネ』(仮)に、最強の用心棒が加わった。 さあ、いよいよ本格的な金儲けの始まりだ。まずは、元手となる資金を稼がなきゃならないねえ。
翌日の放課後。私たちは再び、昨日の公園のベンチを「仮説オフィス」として作戦会議を開いていた。 私は学校の制服、善さんはヨレヨレのスーツ。傍から見れば、援助交際の交渉現場にしか見えないだろう。
「はい、社長! 俺は何でもします! 昨日のアレのおかげで、今ならビルだって素手で登れそうです!」
善さんが鼻息を荒くして言う。 昨日の魔法の効果は切れているはずだが、一度味わった全能感と、どん底から救われた高揚感で、ナチュラルハイ状態が続いているらしい。扱いやすいコマで助かるよ。
「あんたのやる気は買ったよ。でもね、今の私たちには致命的に足りないものがある」
私は人差し指を立てた。
「第一に、金。資本金ゼロどころか、私の全財産は三百円だ。第二に、信用。中学生とリストラおじさんのコンビを信用する銀行なんてない。そして第三に――武力だ」
「武力、ですか?」
「そうさ。これから私たちがやろうとしてるのは、表立って看板を出せないような、グレーゾーンギリギリの商売になる。そうなれば、必ず面倒な連中が寄ってくる。ヤクザもどきとか、チンピラとかね」
私は異世界での経験を思い出す。美味しい商売には、必ずハエがたかるものだ。 魔法で強化した善さんでもある程度は戦えるだろうが、彼はあくまで一般人だ。荒事の専門家じゃない。
「私の魔法を最大限に活かせる、戦闘のプロが必要なんだよ。それも、金に困っていて、訳ありのやつがね」
「そんな都合のいい人材、どこにいるんですか……?」
「探しに行くのさ。繁華街の裏路地あたりにね」
***
私たちは、ネオンサインが輝き始めた夕暮れの繁華街へと繰り出した。 善さんは「こんな場所に社長を連れ歩いて補導されたら……」とオドオドしているが、私は構わず路地裏へと進んでいく。
私の【魔力感知】は、人間の感情の昂りもある程度察知できる。 怒り、恐怖、焦燥――そういった負の感情が渦巻く場所には、トラブルがある。そしてトラブルがある場所には、金と人材が転がっているものだ。
「……ん、ビンゴだね」
薄暗い雑居ビルの裏手から、男たちの怒鳴り声と、何かが壁にぶつかる鈍い音が聞こえてきた。
私たちは物陰からそっと様子を窺った。
そこには、四人の柄の悪い男たちに囲まれている、一人の若い女がいた。 男たちは典型的なチンピラだ。安っぽいスーツに、尖った革靴。手には鉄パイプを持っている奴もいる。
対する女は――目を引く容姿をしていた。 身長は百七十センチはあるだろうか。燃えるような赤い長髪をポニーテールにまとめ、服装はラフなタンクトップにカーゴパンツ。その服装の上からでも、鍛え上げられたしなやかな筋肉が分かる。 顔立ちは整っているが、目つきが鋭く、野生動物のような獰猛さを秘めていた。
「おいコラ、リオちゃんよぉ。今月分の利息、まだ足りねえんだよ」
チンピラのリーダー格が、ニヤニヤしながら女――リオに詰め寄る。
「……うるさいわね。弟の入院費で飛んだのよ。来週には必ず払うって言ってるでしょ」
リオの声は低いが、よく通る。どうやら借金取りに追われているらしい。「弟の入院費」ねえ。ベタだけど、悪くない動機だ。
「来週、来週って、もう聞き飽きたんだよ! 体で払ってもらおうか!」
男の一人が、リオの肩に手を伸ばした、その瞬間。
バキィッ!!
目にも止まらぬ速さで、リオの右ストレートが男の顔面に炸裂した。 男は鼻血を吹き出しながら、ゴミ箱に突っ込んだ。
「……触るな、クズが」
リオが低い声で唸る。
(ほう……いいねえ)
私は思わず感嘆の声を漏らしそうになった。 今のパンチ、腰の回転といい、踏み込みの鋭さといい、素人のそれじゃない。完全にプロの動きだ。格闘技の経験者、それもかなりの手練れと見た。
「て、てめえ! やりやがったな!」
残りの三人が、鉄パイプを振りかざして一斉に襲いかかる。 さすがのリオも、武器を持った三人が相手では分が悪いようだ。防戦一方になり、ジリジリと壁際に追い詰められていく。
「社長、まずいですよ! 警察を呼びましょう!」
善さんが慌ててスマホを取り出そうとするのを、私は手で制した。
「馬鹿お言い。最高の見せ場じゃないか」
私はニヤリと笑う。 ダイヤの原石を見つけた。あとは、磨いてやるだけだ。
「善さん、見てな。私の魔法の真骨頂をさ」
私は路地裏の闇に紛れ、意識を集中した。 対象は、あの赤髪の女、リオ。
(――【身体能力超強化(グレーター・ブースト)】、――【反応速度上昇(ヘイスト)】、おまけに――【痛覚遮断(ペイン・ブロック)】!)
私の体から、目に見えない魔力の奔流が放たれ、リオの体に吸い込まれていく。
***
――獅子戸(ししど)リオは、覚悟を決めていた。 (くそっ、さすがに多勢に無勢か……!) 鉄パイプが横腹に食い込む鈍い痛み。視界が少し霞む。 元地下格闘技のチャンピオンだった自分が、こんなチンピラ相手に後れを取るなんて。でも、弟の治療費のために無理な試合を続けて、体はボロボロだった。
「おらぁ! 死ねや!」
目の前の男が、鉄パイプを全力で振り下ろしてくる。 避けきれない。私は歯を食いしばり、衝撃に備えて腕をクロスさせた。
だが。
いつまで経っても、衝撃が来ない。
「……え?」
目を開けると、世界がスローモーションのようにゆっくりと動いていた。 振り下ろされる鉄パイプが、まるで止まっているかのように見える。
いや、違う。私の感覚が、異常なまでに研ぎ澄まされているのだ。
体が熱い。全身の細胞が沸き立ち、底知れぬ力が体の奥底から湧き上がってくる。 先ほどまでの疲労感も、脇腹の痛みも、嘘のように消え去っていた。
(な、何これ……?)
私は無意識のうちに動いていた。 スローモーションに見える鉄パイプを、ひょいと避ける。 そして、がら空きになった男の脇腹に、軽く――本当に軽く、牽制のつもりでミドルキックを放った。
ドォォォン!!
「ごふっ!?」
男の体が、まるでトラックに跳ねられた人形のように、路地の向こう側まで吹き飛んでいった。 壁に激突し、そのまま動かなくなる。
「……は?」
私自身が一番驚いた。今、私、そんなに力入れてないわよね?
「な、なんだコイツ!? 化け物か!?」
残りの二人が怯んだ隙を、私は逃さなかった。 体が勝手に動く。思考するよりも速く、最適な攻撃動作を繰り出していく。
一人の顎をアッパーで打ち抜き、もう一人を回し蹴りでなぎ倒す。
ものの十秒。 路地裏には、四人の男たちが無様に転がっていた。
「……嘘でしょ」
私は自分の両手を見つめた。震えている。 何が起きたのか分からない。火事場の馬鹿力? それとも、最近飲み始めた安物のプロテインが、実はすごい効き目だったとか?
***
「……ふん、上出来だね」
呆然と立ち尽くすリオの姿を見て、私は満足げに頷いた。 素質は十分。私のバフがかかれば、戦車だって素手で止められるかもしれないね。
「行くよ、善さん。スカウトの時間だ」
私は制服のスカートをパンパンと払い、善さんを引き連れて路地裏へと歩み出た。
「すっげえ……姉ちゃん、あんた何者だ?」
善さんが、転がっているチンピラたちを見て目を丸くしている。
リオは私たちが近づいてくるのに気づき、警戒心を露わにした。獣のような鋭い視線が私を射抜く。
「……何よ、あんたたち。こいつらの仲間?」
「まさか。ただの通りすがりさ」
私は、できるだけ可愛らしい、無邪気な中学生の笑顔を貼り付けた。
「お姉さん、すごいね! 映画みたいだった!」
「……茶化しに来たなら、帰ってくれる? 今、機嫌が悪いの」
「茶化してなんかないよ。ねえ、お姉さん。一つ聞きたいんだけど」
私は一歩、彼女に近づき、声を潜めた。
「さっき、急に体が軽くなったろ? 信じられないくらいの力が湧いてきて、相手の動きが止まって見えたはずだ」
リオの瞳孔が開いた。
「……どうして、それを」
「私がやったからさ」
「は?」
「私の『能力』だよ。他人の潜在能力を、極限まで引き出す力さ」
私はニヤリと笑った。もう、猫を被る必要はない。
「獅子戸リオさん。元地下格闘技の女王。今は弟さんの医療費のために、怪しげな借金取りに追われる日々……そんな生活、もうやめにしないかい?」
「な、なんで私のことを……」
「調べさせてもらったよ(嘘さ。今、あんたの様子を見て推測しただけだよ)」
私は善さんから、なけなしの五百円玉を受け取ると、それをリオに向かってピンと弾いた。 リオは反射的にそれを受け止めた。
「それが契約金の前払いだ。安くて悪いけどね」
「……は? 五百円? 舐めてんの?」
「これから、もっとデカい金を稼ぐんだよ。あんたには、私の専属ガードマンになってもらう」
私は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、宣言した。
「私が、あんたの借金を全部返させてやる。弟さんの病気だって、最高の医者にかからせてやる。その代わり――あんたのその力、私に売りな」
リオは、手の中の五百円玉と、私の顔を交互に見た。 怪しんでいる。当然だ。中学生にこんなことを言われて、ハイそうですかと信じる馬鹿はいない。
だが、彼女は自身の体で体験したはずだ。あの、理屈では説明できない「奇跡」の力を。
「……あんたの、仕業なのね? さっきのあれは」
「ああ。そして、私はあれを、いつでも、何度でもかけてあげられる」
リオがゴクリと喉を鳴らした。武人としての本能が、私の力に惹かれているのが分かる。
しばらくの沈黙の後。 リオは深い溜息をつき、乱れたポニーテールをかき上げた。
「……胡散臭いガキね。でも、今の私には他に選択肢がないみたい」
彼女は五百円玉をポケットにねじ込むと、不敵に笑った。
「いいわよ。乗ってあげる。ただし、給料は弾みなさいよ? 私、高いから」
「交渉成立だね。よろしく頼むよ、リオ」
私は心の中でほくそ笑んだ。 これで、頭脳(私)、手足(善さん)、武力(リオ)が揃った。
「じゃあ、早速最初の仕事だ。このゴミどもから、治療費と慰謝料をふんだくってきな。それが今日の晩飯代だよ」
私は気絶しているチンピラたちを顎でしゃくった。
「……あんた、本当に中学生?」
「さあね。戸籍上はね」
こうして、私の会社――株式会社『コガネ』(仮)に、最強の用心棒が加わった。 さあ、いよいよ本格的な金儲けの始まりだ。まずは、元手となる資金を稼がなきゃならないねえ。
300
あなたにおすすめの小説
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
俺のレベルが常人では到達不可の領域にある件について ~全ユーザーレベル上限999の中俺だけレベル100億いった~
仮実谷 望
ファンタジー
ダンジョンが当たり前のようにある世界になって3年の月日が流れてずっとダンジョンに入りたいと願っていた青年が自宅にダンジョンが出現する。自宅の押し入れにダンジョンが出現する中、冷静に青年はダンジョンを攻略する。そして自分だけがレベル上限を突破してレベルが無尽蔵に上がり続けてしまう。そうしていづれは最強への探索者として覚醒する青年なのであった。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!! ~異世界帰りの庶民派お嬢様、ダンジョン無双配信を始めます~
SAIKAI
ファンタジー
「わたくしの平穏なニート生活を邪魔するゴミは……殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!!」
ブラック企業の理不尽な上司に対し、「代わりがいくらでもいるとおっしゃるなら、さっそくその有能な方を召喚なさってはいかが?」と言い残し、颯爽と退職届を置いてきた華園凛音(はなぞのりおん)。
実家で優雅なニート生活を満喫しようとした彼女だったが、あろうことか自宅の裏庭にダンジョンが出現してしまう。
「お庭にゴミを捨てるなんて、育ちが悪くってよ?」
実は彼女、かつて学生時代に異世界に召喚され、数多の魔王軍を「殲滅(ジェノサイド)」してきた伝説の勇者だった。
現代に戻り力を封印していた凛音だが、暇つぶしと「デパ地下のいいケーキ代」を稼ぐため、ホームセンターで購入したお掃除用具(バール)を手に、動画配信プラットフォーム『ToyTube』でのダンジョン配信を決意する!
異世界の常識と現代の価値観がズレたままの凛音がバールを一振りするたび、世界中の視聴者が絶叫し、各国の専門家が物理法則の崩壊に頭を抱え、政府の調査団が土下座で資源を請い願う。
しかし本人はいたって庶民派。
「皆様、スパチャありがとうございますわ! これで今夜は高い方のメンチカツですわ! 最高ですわ~~!!」
これは、本人は至って普通の庶民派お嬢様だと思っているニートが、無自覚に世界ランクをのぼり詰める殲滅の記録。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる