異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ

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第3話:猛獣(おねえさん)を飼いならす

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「さて、善さん。これからどうやって稼ぐかだけどね」

翌日の放課後。私たちは再び、昨日の公園のベンチを「仮説オフィス」として作戦会議を開いていた。 私は学校の制服、善さんはヨレヨレのスーツ。傍から見れば、援助交際の交渉現場にしか見えないだろう。

「はい、社長! 俺は何でもします! 昨日のアレのおかげで、今ならビルだって素手で登れそうです!」

善さんが鼻息を荒くして言う。 昨日の魔法の効果は切れているはずだが、一度味わった全能感と、どん底から救われた高揚感で、ナチュラルハイ状態が続いているらしい。扱いやすいコマで助かるよ。

「あんたのやる気は買ったよ。でもね、今の私たちには致命的に足りないものがある」

私は人差し指を立てた。

「第一に、金。資本金ゼロどころか、私の全財産は三百円だ。第二に、信用。中学生とリストラおじさんのコンビを信用する銀行なんてない。そして第三に――武力だ」

「武力、ですか?」

「そうさ。これから私たちがやろうとしてるのは、表立って看板を出せないような、グレーゾーンギリギリの商売になる。そうなれば、必ず面倒な連中が寄ってくる。ヤクザもどきとか、チンピラとかね」

私は異世界での経験を思い出す。美味しい商売には、必ずハエがたかるものだ。 魔法で強化した善さんでもある程度は戦えるだろうが、彼はあくまで一般人だ。荒事の専門家じゃない。

「私の魔法を最大限に活かせる、戦闘のプロが必要なんだよ。それも、金に困っていて、訳ありのやつがね」

「そんな都合のいい人材、どこにいるんですか……?」

「探しに行くのさ。繁華街の裏路地あたりにね」

***

私たちは、ネオンサインが輝き始めた夕暮れの繁華街へと繰り出した。 善さんは「こんな場所に社長を連れ歩いて補導されたら……」とオドオドしているが、私は構わず路地裏へと進んでいく。

私の【魔力感知】は、人間の感情の昂りもある程度察知できる。 怒り、恐怖、焦燥――そういった負の感情が渦巻く場所には、トラブルがある。そしてトラブルがある場所には、金と人材が転がっているものだ。

「……ん、ビンゴだね」

薄暗い雑居ビルの裏手から、男たちの怒鳴り声と、何かが壁にぶつかる鈍い音が聞こえてきた。

私たちは物陰からそっと様子を窺った。

そこには、四人の柄の悪い男たちに囲まれている、一人の若い女がいた。 男たちは典型的なチンピラだ。安っぽいスーツに、尖った革靴。手には鉄パイプを持っている奴もいる。

対する女は――目を引く容姿をしていた。 身長は百七十センチはあるだろうか。燃えるような赤い長髪をポニーテールにまとめ、服装はラフなタンクトップにカーゴパンツ。その服装の上からでも、鍛え上げられたしなやかな筋肉が分かる。 顔立ちは整っているが、目つきが鋭く、野生動物のような獰猛さを秘めていた。

「おいコラ、リオちゃんよぉ。今月分の利息、まだ足りねえんだよ」

チンピラのリーダー格が、ニヤニヤしながら女――リオに詰め寄る。

「……うるさいわね。弟の入院費で飛んだのよ。来週には必ず払うって言ってるでしょ」

リオの声は低いが、よく通る。どうやら借金取りに追われているらしい。「弟の入院費」ねえ。ベタだけど、悪くない動機だ。

「来週、来週って、もう聞き飽きたんだよ! 体で払ってもらおうか!」

男の一人が、リオの肩に手を伸ばした、その瞬間。

バキィッ!!

目にも止まらぬ速さで、リオの右ストレートが男の顔面に炸裂した。 男は鼻血を吹き出しながら、ゴミ箱に突っ込んだ。

「……触るな、クズが」

リオが低い声で唸る。

(ほう……いいねえ)

私は思わず感嘆の声を漏らしそうになった。 今のパンチ、腰の回転といい、踏み込みの鋭さといい、素人のそれじゃない。完全にプロの動きだ。格闘技の経験者、それもかなりの手練れと見た。

「て、てめえ! やりやがったな!」

残りの三人が、鉄パイプを振りかざして一斉に襲いかかる。 さすがのリオも、武器を持った三人が相手では分が悪いようだ。防戦一方になり、ジリジリと壁際に追い詰められていく。

「社長、まずいですよ! 警察を呼びましょう!」

善さんが慌ててスマホを取り出そうとするのを、私は手で制した。

「馬鹿お言い。最高の見せ場じゃないか」

私はニヤリと笑う。 ダイヤの原石を見つけた。あとは、磨いてやるだけだ。

「善さん、見てな。私の魔法の真骨頂をさ」

私は路地裏の闇に紛れ、意識を集中した。 対象は、あの赤髪の女、リオ。

(――【身体能力超強化(グレーター・ブースト)】、――【反応速度上昇(ヘイスト)】、おまけに――【痛覚遮断(ペイン・ブロック)】!)

私の体から、目に見えない魔力の奔流が放たれ、リオの体に吸い込まれていく。

***

――獅子戸(ししど)リオは、覚悟を決めていた。 (くそっ、さすがに多勢に無勢か……!) 鉄パイプが横腹に食い込む鈍い痛み。視界が少し霞む。 元地下格闘技のチャンピオンだった自分が、こんなチンピラ相手に後れを取るなんて。でも、弟の治療費のために無理な試合を続けて、体はボロボロだった。

「おらぁ! 死ねや!」

目の前の男が、鉄パイプを全力で振り下ろしてくる。 避けきれない。私は歯を食いしばり、衝撃に備えて腕をクロスさせた。

だが。

いつまで経っても、衝撃が来ない。

「……え?」

目を開けると、世界がスローモーションのようにゆっくりと動いていた。 振り下ろされる鉄パイプが、まるで止まっているかのように見える。

いや、違う。私の感覚が、異常なまでに研ぎ澄まされているのだ。

体が熱い。全身の細胞が沸き立ち、底知れぬ力が体の奥底から湧き上がってくる。 先ほどまでの疲労感も、脇腹の痛みも、嘘のように消え去っていた。

(な、何これ……?)

私は無意識のうちに動いていた。 スローモーションに見える鉄パイプを、ひょいと避ける。 そして、がら空きになった男の脇腹に、軽く――本当に軽く、牽制のつもりでミドルキックを放った。

ドォォォン!!

「ごふっ!?」

男の体が、まるでトラックに跳ねられた人形のように、路地の向こう側まで吹き飛んでいった。 壁に激突し、そのまま動かなくなる。

「……は?」

私自身が一番驚いた。今、私、そんなに力入れてないわよね?

「な、なんだコイツ!? 化け物か!?」

残りの二人が怯んだ隙を、私は逃さなかった。 体が勝手に動く。思考するよりも速く、最適な攻撃動作を繰り出していく。

一人の顎をアッパーで打ち抜き、もう一人を回し蹴りでなぎ倒す。

ものの十秒。 路地裏には、四人の男たちが無様に転がっていた。

「……嘘でしょ」

私は自分の両手を見つめた。震えている。 何が起きたのか分からない。火事場の馬鹿力? それとも、最近飲み始めた安物のプロテインが、実はすごい効き目だったとか?

***

「……ふん、上出来だね」

呆然と立ち尽くすリオの姿を見て、私は満足げに頷いた。 素質は十分。私のバフがかかれば、戦車だって素手で止められるかもしれないね。

「行くよ、善さん。スカウトの時間だ」

私は制服のスカートをパンパンと払い、善さんを引き連れて路地裏へと歩み出た。

「すっげえ……姉ちゃん、あんた何者だ?」

善さんが、転がっているチンピラたちを見て目を丸くしている。

リオは私たちが近づいてくるのに気づき、警戒心を露わにした。獣のような鋭い視線が私を射抜く。

「……何よ、あんたたち。こいつらの仲間?」

「まさか。ただの通りすがりさ」

私は、できるだけ可愛らしい、無邪気な中学生の笑顔を貼り付けた。

「お姉さん、すごいね! 映画みたいだった!」

「……茶化しに来たなら、帰ってくれる? 今、機嫌が悪いの」

「茶化してなんかないよ。ねえ、お姉さん。一つ聞きたいんだけど」

私は一歩、彼女に近づき、声を潜めた。

「さっき、急に体が軽くなったろ? 信じられないくらいの力が湧いてきて、相手の動きが止まって見えたはずだ」

リオの瞳孔が開いた。

「……どうして、それを」

「私がやったからさ」

「は?」

「私の『能力』だよ。他人の潜在能力を、極限まで引き出す力さ」

私はニヤリと笑った。もう、猫を被る必要はない。

「獅子戸リオさん。元地下格闘技の女王。今は弟さんの医療費のために、怪しげな借金取りに追われる日々……そんな生活、もうやめにしないかい?」

「な、なんで私のことを……」

「調べさせてもらったよ(嘘さ。今、あんたの様子を見て推測しただけだよ)」

私は善さんから、なけなしの五百円玉を受け取ると、それをリオに向かってピンと弾いた。 リオは反射的にそれを受け止めた。

「それが契約金の前払いだ。安くて悪いけどね」

「……は? 五百円? 舐めてんの?」

「これから、もっとデカい金を稼ぐんだよ。あんたには、私の専属ガードマンになってもらう」

私は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、宣言した。

「私が、あんたの借金を全部返させてやる。弟さんの病気だって、最高の医者にかからせてやる。その代わり――あんたのその力、私に売りな」

リオは、手の中の五百円玉と、私の顔を交互に見た。 怪しんでいる。当然だ。中学生にこんなことを言われて、ハイそうですかと信じる馬鹿はいない。

だが、彼女は自身の体で体験したはずだ。あの、理屈では説明できない「奇跡」の力を。

「……あんたの、仕業なのね? さっきのあれは」

「ああ。そして、私はあれを、いつでも、何度でもかけてあげられる」

リオがゴクリと喉を鳴らした。武人としての本能が、私の力に惹かれているのが分かる。

しばらくの沈黙の後。 リオは深い溜息をつき、乱れたポニーテールをかき上げた。

「……胡散臭いガキね。でも、今の私には他に選択肢がないみたい」

彼女は五百円玉をポケットにねじ込むと、不敵に笑った。

「いいわよ。乗ってあげる。ただし、給料は弾みなさいよ? 私、高いから」

「交渉成立だね。よろしく頼むよ、リオ」

私は心の中でほくそ笑んだ。 これで、頭脳(私)、手足(善さん)、武力(リオ)が揃った。

「じゃあ、早速最初の仕事だ。このゴミどもから、治療費と慰謝料をふんだくってきな。それが今日の晩飯代だよ」

私は気絶しているチンピラたちを顎でしゃくった。

「……あんた、本当に中学生?」

「さあね。戸籍上はね」

こうして、私の会社――株式会社『コガネ』(仮)に、最強の用心棒が加わった。 さあ、いよいよ本格的な金儲けの始まりだ。まずは、元手となる資金を稼がなきゃならないねえ。
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