異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ

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第19話:教授の敗北と、怪物の復活

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「……ふぅー……、ふぅー……」

静寂に包まれた寝室に、善さんの深く長い呼吸音が響く。 彼は五条の痩せ細った背中に手を当て、ゆっくりと、一定のリズムでさすっている。 傍から見れば、ただの優しいマッサージだ。 だが、その手のひらからは、私の魔力が奔流となって五条の体内へ流れ込んでいる。

(……こりゃあ、思った以上に根が深いね)

私は善さんの斜め後ろ、「助手の娘」というポジションでタオルの準備をするフリをしながら、額の汗をぬぐった。 五条龍之介の体は、ボロボロだった。 加齢による衰えだけじゃない。長年、裏社会で多くの人間の恨みや妬みを買ってきた代償か、どす黒い「呪い」に近い負のエネルギーが、神経の隅々にまでこびりついている。これが原因で、生命力が枯渇しかけているのだ。

現代医学で治せるわけがない。これは「病気」というより「霊障」に近い。

(だが、相手が悪かったね。私は元聖女だ。この手の穢れを払うのはお手の物さ!)

私は意識を研ぎ澄ます。

(――術式展開。【聖なる循環(ホーリー・サーキュレーション)】)

善さんの手を経由して、純白の魔力を五条の血管へと送り込む。 ドロドロに淀んだ血液を浄化し、詰まった血管をこじ開け、壊死しかけた神経回路を焼き切って繋ぎ直す。

「……ぐ、うぅ……っ!?」

五条が、苦悶の声を漏らした。 体の中を熱い鉄が駆け巡るような感覚だろう。だが、それは破壊の痛みではなく、再生の痛みだ。

「おい! 患者が苦しんでいるじゃないか! 今すぐやめさせろ!」

後ろで見ていた高田教授が叫んだ。

「心拍数が上がっている! 血圧も上昇中だ! このままでは心停止するぞ! 鏡、貴様、責任を取れるのか!?」

教授たちが騒ぎ出し、ガードマンたちが動こうとする。

「……動くな」

鏡が冷徹な声で制した。

「モニターをよく見てください。心拍数は上がっていますが、波形は安定しています。これは危険な発作ではない。……『運動』に近い反応です」

「な、なんだと……?」

「五条先生の細胞が、戦っているんです。病魔と」

鏡の言葉通り、モニターの数値は異常な上昇を見せていたが、警告音は鳴らない。 生命力のグラフが、V字回復を始めていた。

(よし、毒素は抜けた。ここからが仕上げだよ!)

私はさらに魔力の出力を上げた。 善さんの手が、かすかに発光しているように見える(気のせいだと思わせるレベルで)。

(――【筋肉再生(マッスル・リビルド)】、――【神経覚醒(ニューロ・アウェイク)】!)

五条の痩せこけた手足の筋肉が、ピクリと動いた。 一度、二度。 そして、痙攣ではなく、意志を持った動きとして、五条の拳が強く握りしめられた。

「……あ、あぁ……」

五条の口から、深い溜息が漏れた。 それまでの苦痛に満ちた表情が消え、紅潮した顔に、恍惚とした色が浮かぶ。

「……熱い。体が……燃えるようだ……」

五条が呟く。 そして。

ガバッ!

五条龍之介は、自らの力で上半身を起こした。 繋がれていた心電図のコードがいくつか外れ、ピーという音が鳴るが、そんなものはもう関係ない。

「なっ……!?」

高田教授が腰を抜かした。 「ば、馬鹿な……! 半年間、寝たきりだったんだぞ!? 筋肉は萎縮し、自力で起き上がることなど不可能なはずだ!」

「……不可能です。現代医学ではね」

鏡が勝ち誇ったように言い放つ。

「ですが、目の前の現実を見てください。教授。これが、私が選んだ治療法です」

五条は、自分の両手を見つめ、そしてゆっくりとベッドから足を下ろした。 善さんが慌てて支えようとするが、五条はそれを手で制した。

「……いらん」

五条は、震える足で、しかし確かな力強さを持って、床の大理石を踏みしめた。 そして、立ち上がった。

日本の黒幕が、半年ぶりに大地に立った瞬間だった。

「……立った。ワシは、立ったぞ……!」

五条の声が震えている。 全身を駆け巡る力。指先の感覚。そして何より、長年彼を苛み続けてきた、あの骨を削るような激痛が、嘘のように消え去っている。

「……は、ははっ……! 痛くない! 痛くないわ!」

五条が高笑いした。その声には、かつて政財界を震え上がらせた怪物の覇気が戻っていた。

「……板東、と言ったな」

五条が振り返り、善さんを見据えた。 善さんは魔力供給を終え、精根尽き果ててフラフラだったが、なんとか直立していた。

「……は、はい」

「見事だ。……ワシの体の中に、何かが流れ込んでくるのが分かった。あれはマッサージなどという生易しいものではない。……『気』か?」

「え、ええ、まあ……そのようなものです」

善さんが冷や汗をかきながら答える。

五条はニヤリと笑い、善さんの肩を強く叩いた。

「気に入った。貴様、本物の『ゴッドハンド』だ」

そして、五条は高田教授たちの方を向いた。その目は、氷のように冷ややかだった。

「……高田。貴様ら、半年間ワシに何をしていた?」

「ひっ……! い、いえ、我々は最善を尽くして……」

「最善? 笑わせるな。検査漬けにして、高い薬を投与して、結果はこのザマだ。それに比べて、この男はたった三十分でワシを立たせたぞ」

五条の一喝に、教授たちは縮み上がった。 権威も、名誉も、圧倒的な「結果」の前では紙切れ同然だ。

「……もうよい。下がれ。貴様らの顔など二度と見たくない」

「そ、そんな……五条先生……!」

「聞こえんのか! 失せろ!!」

雷のような怒号。 教授たちは蜘蛛の子を散らすように、逃げるように部屋を出て行った。

残されたのは、私たちと、鏡、そして復活した怪物。

「……鏡。礼を言うぞ。貴様が正しかった」

五条が鏡に声をかける。

「過分なお言葉です。私はただ、最良の選択肢を提示したまで」

鏡が恭しく頭を下げる。

「そして、板東先生」

五条が善さんに向き直る。

「約束通り、報酬は弾ませてもらう。……だが、それだけではない」

五条は、部屋の隅に控えていた執事に目配せをした。 執事がうやうやしく盆を持ってくる。そこには、一冊の小切手帳と、金色のカードが載っていた。

「一千万円の小切手だ。……そして、このカードはワシの直通連絡先と、系列ホテルや施設のフリーパスだ。今後、貴様を『五条龍之介の主治医』として遇する」

とんでもないビッグボーナスだ。 善さんが震える手でそれを受け取る。

(……よっしゃあぁぁぁ!!)

私はジャージのポケットの中で、小さくガッツポーズをした。 一千万。それがたった三十分で手に入った。しかも、日本のドンの後ろ盾付きだ。

これで、株式会社『コガネ』の地位は盤石なものとなった。 どんな権力者も、どんな大金持ちも、五条龍之介の主治医という肩書きにはひれ伏すだろう。

「……ありがとうございます。光栄です」

善さんが深々と頭を下げる。

五条は満足げに頷き、そして――ふと、私のことを見た。

「……そこの、娘」

ドキリとした。 五条の鋭い目が、私を射抜いている。

「……はい」

私はできるだけ無邪気な中学生を装って返事をした。

「……貴様、ただの助手ではないな?」

五条が目を細める。

「治療中、板東の背後で……奇妙な『空気』が動くのを感じた。貴様、何をした?」

(……ッ! さすがは怪物。勘が鋭いねぇ!)

心臓が跳ねる。バレたか? いや、証拠はない。あくまで「勘」だ。

私はニコリと笑って、首を傾げた。

「父の汗を拭いたり、応援したりしていましたけど?」

「……応援、か」

五条はしばらく私をじっと見つめていたが、やがてフッと口元を緩めた。

「まあよい。……板東の娘。貴様も、なかなか『良い目』をしている。肝が据わっておるわ」

五条はそれ以上追求せず、執事に私の分の「お小遣い(分厚い封筒)」を渡すよう命じた。

「また頼むぞ、板東。次はワシの友人の政治家を紹介してやる。腰抜けだが金だけは持っている男だ」

「は、はい! 喜んで!」

こうして、私たちは一千万円の小切手と、さらに数百万の現金、そして最強のコネクションを手に入れて、要塞屋敷を後にした。

帰りの車内。 善さんは緊張の糸が切れて気絶するように眠り、鏡は興奮冷めやらぬ様子でタブレットに記録を打ち込んでいる。

私は、窓の外を流れる東京の夜景を見つめながら、封筒の厚みを指先で確かめた。

(……勝ったね)

私の老後は、安泰だ。 いや、もう「老後」なんてレベルじゃない。 私はこの力で、この国をも動かせるかもしれない。

「……ヒナ。あんた、悪い顔してるわよ」

リオが小声で突っ込んでくる。

「……ふふっ。これからが楽しみなだけさ」

私は夜の闇に溶けるように、静かに、そして凶悪に笑った。 株式会社『コガネ』、次なるステージへ。 伝説は、ここから加速する。
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