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第22話:感動の親子再会(フェイク)と、最強の偽造工作
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「いいかい、善さん。設定を復唱しな」
翌日の午後一時。決戦の一時間前。 私たちはサロンのVIPルームで、最終リハーサルを行っていた。
善さんは、鏡が用意したイタリア製の高級スーツ(グレーの落ち着いた色味)に身を包み、髪をオールバックに固めている。 見た目だけは「苦労を乗り越えて成功したイケオジ」だ。中身はガタガタ震える小動物だが。
「は、はい……。僕は……一ノ瀬……じゃなくて小金沢ゼン。十四年前、事業に失敗して多額の借金を背負い、泣く泣く生まれたばかりのヒナを施設に預けました。その後、死に物狂いで働き、借金を完済。最近やっと小さな整体院を開業し、娘を迎えに行く準備が整ったところです……」
「よし。感情をもっと込めな。『娘を捨てた罪悪感』と『再会できた喜び』をミックスさせるんだ」
私は鬼監督のごとく指導する。 この設定なら、私が貧乏だった理由も、最近になって羽振りが良くなった(高級弁当とか食べてる)理由も、すべて説明がつく。
「しかし、オーナー。口裏合わせだけでは弱いです」
鏡がタブレットを操作しながら口を挟む。 彼は今日も完璧な白衣姿だ。
「相手は児童相談所の職員です。疑うのが仕事のような連中です。感動話だけでは、DNA鑑定を要求されて終わりますよ」
「……分かってるよ。だからこそ、あんたがいるんじゃないか」
私はニヤリと笑った。
「鏡先生。あんたの『権威』と、その『悪知恵』。フル活用してもらうよ」
鏡はフッと口元を緩め、鞄から一枚の書類を取り出した。
「抜かりはありません。……これをご覧ください」
それは、K大学病院のロゴが入った、厳重な封筒だった。 中には、複雑な遺伝子配列のデータと、一枚の証明書。
【DNA親子鑑定報告書:判定結果『生物学的な親子関係が存在する確率 99.9999%』】
「……偽造かい?」
「人聞きが悪い。……私の研究室のプリンターが、たまたま『誤作動』を起こして、貴方と板東さんの名前が入った鑑定書を吐き出してしまっただけです」
鏡が涼しい顔で言う。 なんて優秀なプリンターだろうか。
「K大学病院の公印入り、そして担当医は私、鏡恭介の署名入りです。これを疑う児童相談所職員はいません。もし疑うなら、それはK大学病院と医学界全体への挑戦と見なします」
最強の盾だ。この男、味方にすると本当に心強い(そして敵に回すと恐ろしい)。
「よし! 証拠は揃った。あとは演技力だ!」
私は立ち上がり、善さんの背中をバシッと叩いた。
「行くよ、お父さん。感動の涙で、先生たちを溺れさせてやろうじゃないか!」
***
午後二時。中学校の応接室。
空気は重かった。鉛のように重かった。
「……小金沢さん。お父様は、まだですか?」
担任の佐藤先生が、時計を気にしながら尋ねる。 その横には、ハンカチを握りしめて目を赤くした園長先生。 そして正面には、眼鏡をかけた四十代くらいの女性が座っていた。児童相談所の職員、厳島(いつくしま)さんだ。目が笑っていない。完全に「仕事」の目だ。
「……もうすぐ、着くと思います。仕事の合間を抜けてくるので……」
私は小さくなって答える。 頼むよ善さん。遅刻なんてしたら、それだけで「育児放棄の兆候あり」とか書かれるんだからね。
その時。 ノックの音が響いた。
「失礼します……」
ドアが開き、善さんが入ってきた。 その姿を見た瞬間、園長先生が息を呑んだ。
「……あなたが、ヒナちゃんの……?」
善さんは深々と頭を下げた。
「遅くなりまして申し訳ありません。……小金沢、ゼンと申します」
完璧だ。 スーツの着こなし、落ち着いた所作(【精神安定】魔法済み)、そして顔に刻まれた適度なシワが、苦労人の哀愁を醸し出している。
厳島さんが鋭い視線を善さんに向けた。
「……初めまして。児童相談所の厳島です。単刀直入にお伺いしますが、なぜ十四年間も音信不通だったのですか? そしてなぜ今になって、施設を通さずにお子さんと接触したのですか?」
いきなりの尋問。 善さんの一瞬の動揺を見逃さないよう、厳島さんの目が光る。
「……すべては、私の弱さ故です」
善さんは静かに語り始めた。
「借金取りに追われ、今日食べるものもない日々でした。娘を巻き込むわけにはいかなかった……。遠くから見守ることしかできなかったんです」
善さんの声が震える。 これは演技じゃない。実際に借金で苦しみ、家族(妻)に捨てられた実体験がフラッシュバックしているのだ。リアリティが違う。
「最近やっと、借金を返し終えました。でも……今さら『お父さんだ』なんて名乗り出る資格があるのか、怖かった。だから、最初は客として、遠くから見守るつもりで……」
「でも、血は争えませんね」
そこで、私が割って入った。
「私、すぐ分かったの。あ、この人、私のお父さんだって」
私は善さんの手に、自分の手を重ねた。
「だから、私から会いに行ったの。……パパ、もう離れないよね?」
上目遣い。涙目。十四歳(中身八十八歳)の必殺技だ。
園長先生が「うぅっ……」と号泣し始めた。 担任の佐藤先生も、目頭を押さえている。
だが、厳島さんだけは冷静だった。
「……お話は分かりました。ですが、これは行政の手続きです。感情論だけで『はいそうですか』とは言えません」
厳島さんが眼鏡の位置を直した。
「ご本人が父親だと主張されても、客観的な証拠がなければ、不純異性交遊の疑いは晴れません。……DNA鑑定など、血縁を証明できるものはありますか?」
来た。予想通りの展開だ。
善さんが一瞬詰まる。 そこへ、ドアが再びノックされた。
「失礼します。……遅くなりました」
颯爽と入ってきたのは、白衣姿の鏡恭介だった。 その圧倒的な「エリートオーラ」に、場の空気が一変する。
「えっ……? か、鏡先生!?」
厳島さんが椅子から腰を浮かせた。どうやら顔見知りらしい。さすがK大の有名医師だ。
「厳島さん。お久しぶりです。……本日は、小金沢氏の主治医、および身元保証人として同席させていただきました」
鏡は優雅に一礼すると、一枚の封筒をテーブルに置いた。
「これが、先日当院で行った、お二人のDNA鑑定結果です」
厳島さんが震える手で封筒を開け、書類を確認する。 K大学病院のロゴ。99.9999%の文字。そして鏡の署名。
「……こ、これは……」
「間違いなく、親子です。私が医学的見地から保証します」
鏡が断言する。 これに異を唱えられる公務員は、日本中探してもそうはいないだろう。
厳島さんは書類と、善さんと、鏡を交互に見比べ……やがて、深くため息をついた。
「……分かりました。鏡先生がそこまでおっしゃるなら、疑う余地はありません」
厳島さんの表情から、険しさが消えた。
「小金沢さん。……いえ、お父様。大変なご苦労をされたんですね」
勝った。 完全勝利だ。
園長先生が泣きながら善さんの手を取る。 「よかった……本当によかったわぁ……! ヒナちゃんを、よろしくお願いしますね!」
「あ、はい……必ず、幸せにします」
善さんも、安堵と緊張の糸が切れたのか、本気で涙ぐんでいる。 その涙が、さらに周囲の感動を誘う。
こうして、地獄の三者面談は、涙と感動の「親子再会劇」として幕を閉じた。 私は晴れて「父親公認」のもと、整体院(実家)に通うことが許されたのだ。
***
「……疲れた……もう一歩も動けない……」
帰り道。 私たちは鏡の運転する高級車の中で、泥のようにぐったりしていた。
「お疲れ様です、パパ」
私がニヤニヤしながら善さんを呼ぶと、善さんは「勘弁してくださいよぉ……」と情けない声を出した。
「でも、これで堂々とできるわね。あんたの戸籍上の手続きも、鏡が裏で手を回して誤魔化すんでしょ?」
リオが後部座席で足を組みながら言う。
「ええ。五条先生のコネを使えば、戸籍の偽造……いえ、『修正』など造作もありません」
鏡がハンドルを握りながら、涼しい顔で答える。
私は窓の外を眺めた。 これで、学校も、児童相談所もクリアした。 私を縛る鎖は、もう何もない。
「……さあ、邪魔者は消えたよ」
私は拳を握りしめた。
「次は、いよいよ世界進出だ。日本の富裕層だけじゃ物足りない。海外のセレブたちからも、外貨を毟り取ってやるよ!」
善さんが「ええ……まだやるんですかぁ……」と遠い目をしているが、無視だ。 私の野望は、止まらない。
だが。 私はまだ知らなかった。 この「偽装親子」という設定が、後に私の恋愛事情(もちろん皆無だが)や、善さんの私生活に、とんでもない誤解とカオスを招くことになるなんて。
次回、「パパ活疑惑の次は、隠し子疑惑!? 善さん、モテ期到来(ただし修羅場)」 お楽しみに!
翌日の午後一時。決戦の一時間前。 私たちはサロンのVIPルームで、最終リハーサルを行っていた。
善さんは、鏡が用意したイタリア製の高級スーツ(グレーの落ち着いた色味)に身を包み、髪をオールバックに固めている。 見た目だけは「苦労を乗り越えて成功したイケオジ」だ。中身はガタガタ震える小動物だが。
「は、はい……。僕は……一ノ瀬……じゃなくて小金沢ゼン。十四年前、事業に失敗して多額の借金を背負い、泣く泣く生まれたばかりのヒナを施設に預けました。その後、死に物狂いで働き、借金を完済。最近やっと小さな整体院を開業し、娘を迎えに行く準備が整ったところです……」
「よし。感情をもっと込めな。『娘を捨てた罪悪感』と『再会できた喜び』をミックスさせるんだ」
私は鬼監督のごとく指導する。 この設定なら、私が貧乏だった理由も、最近になって羽振りが良くなった(高級弁当とか食べてる)理由も、すべて説明がつく。
「しかし、オーナー。口裏合わせだけでは弱いです」
鏡がタブレットを操作しながら口を挟む。 彼は今日も完璧な白衣姿だ。
「相手は児童相談所の職員です。疑うのが仕事のような連中です。感動話だけでは、DNA鑑定を要求されて終わりますよ」
「……分かってるよ。だからこそ、あんたがいるんじゃないか」
私はニヤリと笑った。
「鏡先生。あんたの『権威』と、その『悪知恵』。フル活用してもらうよ」
鏡はフッと口元を緩め、鞄から一枚の書類を取り出した。
「抜かりはありません。……これをご覧ください」
それは、K大学病院のロゴが入った、厳重な封筒だった。 中には、複雑な遺伝子配列のデータと、一枚の証明書。
【DNA親子鑑定報告書:判定結果『生物学的な親子関係が存在する確率 99.9999%』】
「……偽造かい?」
「人聞きが悪い。……私の研究室のプリンターが、たまたま『誤作動』を起こして、貴方と板東さんの名前が入った鑑定書を吐き出してしまっただけです」
鏡が涼しい顔で言う。 なんて優秀なプリンターだろうか。
「K大学病院の公印入り、そして担当医は私、鏡恭介の署名入りです。これを疑う児童相談所職員はいません。もし疑うなら、それはK大学病院と医学界全体への挑戦と見なします」
最強の盾だ。この男、味方にすると本当に心強い(そして敵に回すと恐ろしい)。
「よし! 証拠は揃った。あとは演技力だ!」
私は立ち上がり、善さんの背中をバシッと叩いた。
「行くよ、お父さん。感動の涙で、先生たちを溺れさせてやろうじゃないか!」
***
午後二時。中学校の応接室。
空気は重かった。鉛のように重かった。
「……小金沢さん。お父様は、まだですか?」
担任の佐藤先生が、時計を気にしながら尋ねる。 その横には、ハンカチを握りしめて目を赤くした園長先生。 そして正面には、眼鏡をかけた四十代くらいの女性が座っていた。児童相談所の職員、厳島(いつくしま)さんだ。目が笑っていない。完全に「仕事」の目だ。
「……もうすぐ、着くと思います。仕事の合間を抜けてくるので……」
私は小さくなって答える。 頼むよ善さん。遅刻なんてしたら、それだけで「育児放棄の兆候あり」とか書かれるんだからね。
その時。 ノックの音が響いた。
「失礼します……」
ドアが開き、善さんが入ってきた。 その姿を見た瞬間、園長先生が息を呑んだ。
「……あなたが、ヒナちゃんの……?」
善さんは深々と頭を下げた。
「遅くなりまして申し訳ありません。……小金沢、ゼンと申します」
完璧だ。 スーツの着こなし、落ち着いた所作(【精神安定】魔法済み)、そして顔に刻まれた適度なシワが、苦労人の哀愁を醸し出している。
厳島さんが鋭い視線を善さんに向けた。
「……初めまして。児童相談所の厳島です。単刀直入にお伺いしますが、なぜ十四年間も音信不通だったのですか? そしてなぜ今になって、施設を通さずにお子さんと接触したのですか?」
いきなりの尋問。 善さんの一瞬の動揺を見逃さないよう、厳島さんの目が光る。
「……すべては、私の弱さ故です」
善さんは静かに語り始めた。
「借金取りに追われ、今日食べるものもない日々でした。娘を巻き込むわけにはいかなかった……。遠くから見守ることしかできなかったんです」
善さんの声が震える。 これは演技じゃない。実際に借金で苦しみ、家族(妻)に捨てられた実体験がフラッシュバックしているのだ。リアリティが違う。
「最近やっと、借金を返し終えました。でも……今さら『お父さんだ』なんて名乗り出る資格があるのか、怖かった。だから、最初は客として、遠くから見守るつもりで……」
「でも、血は争えませんね」
そこで、私が割って入った。
「私、すぐ分かったの。あ、この人、私のお父さんだって」
私は善さんの手に、自分の手を重ねた。
「だから、私から会いに行ったの。……パパ、もう離れないよね?」
上目遣い。涙目。十四歳(中身八十八歳)の必殺技だ。
園長先生が「うぅっ……」と号泣し始めた。 担任の佐藤先生も、目頭を押さえている。
だが、厳島さんだけは冷静だった。
「……お話は分かりました。ですが、これは行政の手続きです。感情論だけで『はいそうですか』とは言えません」
厳島さんが眼鏡の位置を直した。
「ご本人が父親だと主張されても、客観的な証拠がなければ、不純異性交遊の疑いは晴れません。……DNA鑑定など、血縁を証明できるものはありますか?」
来た。予想通りの展開だ。
善さんが一瞬詰まる。 そこへ、ドアが再びノックされた。
「失礼します。……遅くなりました」
颯爽と入ってきたのは、白衣姿の鏡恭介だった。 その圧倒的な「エリートオーラ」に、場の空気が一変する。
「えっ……? か、鏡先生!?」
厳島さんが椅子から腰を浮かせた。どうやら顔見知りらしい。さすがK大の有名医師だ。
「厳島さん。お久しぶりです。……本日は、小金沢氏の主治医、および身元保証人として同席させていただきました」
鏡は優雅に一礼すると、一枚の封筒をテーブルに置いた。
「これが、先日当院で行った、お二人のDNA鑑定結果です」
厳島さんが震える手で封筒を開け、書類を確認する。 K大学病院のロゴ。99.9999%の文字。そして鏡の署名。
「……こ、これは……」
「間違いなく、親子です。私が医学的見地から保証します」
鏡が断言する。 これに異を唱えられる公務員は、日本中探してもそうはいないだろう。
厳島さんは書類と、善さんと、鏡を交互に見比べ……やがて、深くため息をついた。
「……分かりました。鏡先生がそこまでおっしゃるなら、疑う余地はありません」
厳島さんの表情から、険しさが消えた。
「小金沢さん。……いえ、お父様。大変なご苦労をされたんですね」
勝った。 完全勝利だ。
園長先生が泣きながら善さんの手を取る。 「よかった……本当によかったわぁ……! ヒナちゃんを、よろしくお願いしますね!」
「あ、はい……必ず、幸せにします」
善さんも、安堵と緊張の糸が切れたのか、本気で涙ぐんでいる。 その涙が、さらに周囲の感動を誘う。
こうして、地獄の三者面談は、涙と感動の「親子再会劇」として幕を閉じた。 私は晴れて「父親公認」のもと、整体院(実家)に通うことが許されたのだ。
***
「……疲れた……もう一歩も動けない……」
帰り道。 私たちは鏡の運転する高級車の中で、泥のようにぐったりしていた。
「お疲れ様です、パパ」
私がニヤニヤしながら善さんを呼ぶと、善さんは「勘弁してくださいよぉ……」と情けない声を出した。
「でも、これで堂々とできるわね。あんたの戸籍上の手続きも、鏡が裏で手を回して誤魔化すんでしょ?」
リオが後部座席で足を組みながら言う。
「ええ。五条先生のコネを使えば、戸籍の偽造……いえ、『修正』など造作もありません」
鏡がハンドルを握りながら、涼しい顔で答える。
私は窓の外を眺めた。 これで、学校も、児童相談所もクリアした。 私を縛る鎖は、もう何もない。
「……さあ、邪魔者は消えたよ」
私は拳を握りしめた。
「次は、いよいよ世界進出だ。日本の富裕層だけじゃ物足りない。海外のセレブたちからも、外貨を毟り取ってやるよ!」
善さんが「ええ……まだやるんですかぁ……」と遠い目をしているが、無視だ。 私の野望は、止まらない。
だが。 私はまだ知らなかった。 この「偽装親子」という設定が、後に私の恋愛事情(もちろん皆無だが)や、善さんの私生活に、とんでもない誤解とカオスを招くことになるなんて。
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