異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ

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第21話:大臣の腹と、聖女の除霊(物理)

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「……ひぃぃ、目が……目が合ったぁ……」

善さんの心の悲鳴が、念話を通して私の脳内に直接響いてくる。 無理もない。大臣の腹にあるその腫れ物は、苦痛に歪んだ中年男性の顔をしていて、ギョロリとした目で善さんを睨めつけているのだから。

「……ウググ……ユルサナイ……タドコロォ……」

人面瘡が、ブクブクと泡を吹きながら呻き声を上げた。 低い、怨嗟に満ちた声。腹話術なんてもんじゃない。物理的にそこから声が出ている。

「なっ!? しゃ、喋った!?」

田所大臣が半狂乱になって暴れようとする。

「落ち着いてください! 動くと危険です!」

鏡が大臣の肩を押さえつける。 その鏡の顔も、さすがに青ざめていた。 「……声帯もない腫瘍が発声する……。音響学的にも解剖学的にもあり得ない……」

ブツブツと呟いているが、その目は恐怖よりも「未知の症例への好奇心」で輝いている。このマッドサイエンティストめ。

私は隠し部屋の椅子に座り直し、腕まくりをした。

(……さて、鑑定といこうか)

(――【霊視鑑定(スピリチュアル・チェック)】)

私の魔力が、大臣の腹の「それ」をスキャンする。

……なるほどね。 こりゃあ、大臣が昔切り捨てた地方の陳情団の怨念か、それともライバル議員の生き霊か。 複数のネガティブな感情が、大臣のストレスと共鳴して具現化した「複合型カース(呪い)」だ。 質が悪いのは、これが大臣自身の生命力を餌にして成長している点だ。下手外科手術で切り取れば、大臣の命ごと持っていかれる。

「(善さん。気合入れな。相手はただのデキモノじゃない。悪霊だ)」

私は念話を送ると同時に、善さんに【精神統一】と【聖なる加護(ホーリー・プロテクト)】をかけた。

善さんの表情から恐怖が消え、スッと目が据わる。

「……静まりなさい。迷える魂よ」

善さんが、まるで高僧のような厳かな声で語りかける。 もちろん、台本は私だ。

「……ウルサイ……! コイツハ……ワレラノ……カタキダァ……!」

人面瘡が叫び、大臣の腹の皮膚を引き裂かんばかりに暴れる。

「ぐあああっ! 痛い! 腹が、腹が食い破られるぅぅっ!」

大臣が絶叫する。

「させないよ!」

私は両手を突き出した。

(――術式展開。聖属性付与【光の檻(ライト・ケージ)】!)

善さんの手から、目に見えない光の格子が放たれ、人面瘡を包み込む。 人面瘡が「ギャアアアッ!」と悲鳴を上げ、動きを封じられる。

「今だ、善さん! そのまま押し込め!」

「は、はいっ!」

善さんが両手で、大臣の腹をグイッと押し込んだ。 物理的な圧迫ではない。魔力による「除霊プレス」だ。

「……キサマァ……ナニモノダァ……!?」

人面瘡が善さん(の背後にいる私)を睨む。

「……私はただの整体師です」

善さんが淡々と答える(私が言わせている)。

「だが、私の施術(ビジネス)の邪魔をするなら、神も悪魔も許さない」

カッコいいセリフと共に、私は最大出力の浄化魔法を叩き込んだ。

(――消えな! 【極大浄化・漂白(ホーリー・ブリーチ)】!!)

カッッッ!!!

VIPルームが、真昼の太陽のような強烈な閃光に包まれた。

「うおっ!?」 SP代わりのリオが、眩しさに腕で顔を覆う。 鏡はサングラス(いつの間に用意した?)をかけ、その光景を食い入るように見つめている。

光の中で、人面瘡が断末魔を上げる。

「……バ、カナ……コンナ……チカラ……ニンゲンジャ……ナイィィィ……!!」

黒い霧となって蒸発していく怨念。 それは天井の換気扇へと吸い込まれ、私が予め設置しておいた【空気清浄結界】によって完全に無害化され、消滅した。

光が収まる。

「……はぁ、はぁ……」

善さんが、ガクリと膝をついた。 私も隠し部屋でドッと疲れが出た。やっぱり、悪霊相手はカロリーを使うねぇ。

「……だ、大臣。いかがですか?」

鏡が、素早く大臣の元へ駆け寄り、腹部を確認する。

田所大臣は、恐る恐る自分の腹を見下ろした。

そこにあったはずの、醜悪な人面瘡は。 跡形もなく消え去っていた。 赤くただれていた皮膚も、ツルツルとした健康的な肌色に戻っている。

「……消えた」

大臣が、震える手で腹をさする。

「ない。痛みも、あの囁き声も……完全に、消えた!」

大臣はベッドから飛び起き、自分の腹を何度も叩いた。

「おおぉ……! 素晴らしい! なんという爽快感だ! まるで憑き物が落ちたようだ!」

そりゃそうだ。憑き物を落としたんだからね。

大臣は涙目で善さんの手を取り、ブンブンと握手をした。

「ありがとう! 板東先生! あなたは命の恩人だ! いや、日本の救世主だ!」

「い、いえ……私はただ、凝りをほぐしただけで……」

善さんが謙遜するが、大臣の耳には届いていない。

「鏡君! 君の言った通りだった! 彼は本物だ!」

「ええ。申し上げた通りです」

鏡が誇らしげに胸を張る。

田所大臣は興奮冷めやらぬ様子で、上着の内ポケットから名刺入れを取り出した。

「板東先生。君に、借りができた。……私はね、受けた恩は必ず返す主義なんだ」

大臣は一枚の名刺を善さんに渡すと、真剣な眼差しで言った。

「何か、望みはあるか? 金か? それとも、何か困っていることはないか?」

来た。 この瞬間を待っていた。

私は善さんに、事前に打ち合わせておいた「要求」を伝えさせた。

「……大臣。お心遣い、感謝いたします」

善さんは静かに切り出した。

「金銭は、正規の施術料をいただければ十分です。ですが……一つだけ、懸念がございます」

「なんだ? 言ってみろ」

「当店は、ご覧の通り独自の技術を用いた整体院です。しかし、昨今の法改正や規制強化により、我々のような『新しい技術』が、誤解を受け、活動を制限されることを危惧しております」

要するに、「厚労省の権限で、うちの店を変な法規制で潰したり、ヤミ医療として摘発したりしないでくれ」というお願いだ。

大臣はニヤリと笑った。

「なんだ、そんなことか」

大臣はドンと胸を叩いた。

「任せておけ! 君の技術は、国益だ。私が大臣の椅子に座っている限り……いや、引退した後も、私の派閥が全力で『コガネ』を守らせよう」

言質を取った! 現職大臣による、「不可侵条約」の締結だ。 これで保健所も警察も税務署(の半分くらい)も、この店には手出しできなくなった。

「それに、だ。君のような人材を野放しにしておくのは惜しい」

大臣はさらに続けた。

「どうだ? 厚労省の『未病対策特別顧問』という肩書きを持ってみないか? 非常勤だが、身分は国家公務員に準ずる扱いにしてやる」

「ええっ!?」

善さんが素っ頓狂な声を上げる。 リストラされた無職のおっさんが、いきなり国家公務員(特別職)!?

「はっはっは! 良い返事を待っているぞ!」

大臣は上機嫌で、施術料(言い値で五百万円請求した)を即決で支払い、SPと共に帰っていった。 来た時とは別人のように、背筋を伸ばし、意気揚々と。

……嵐が去った後のVIPルーム。

「……社長。僕、どうなっちゃうんでしょうか……」

善さんが魂の抜けた顔で呟く。

「どうなるもこうなるも、あんたは今日から『先生』であり『特別顧問』様だよ」

私は隠し部屋から出てきて、善さんの背中をバンと叩いた。

「すごい出世じゃないか。リストラした元の会社が見たら、腰を抜かすよ」

「いや、プレッシャーで僕の胃に穴が開きそうです……」

「大丈夫、鏡先生がいるから」

私が鏡を見ると、彼はタブレットに何かを打ち込みながら、恍惚とした表情を浮かべていた。

「……素晴らしい症例でした。オーナーの『光』の術式、確かに記録しました。これを医学的に解明できれば、ノーベル賞は確実……いや、人類の歴史が変わる……」

こっちはこっちで、別の世界に行っちゃってるね。

「さて、と」

私は大きく伸びをした。

これで、金、武力、医療、そして政治。 全てのカードが揃った。

「株式会社『コガネ』、これにて基盤固めは完了だね」

私はニヤリと笑った。

だが。 人生というのは、上り調子の時こそ、足元に落とし穴があるものだ。

プルルルル……!

私のポケットに入っていた、ガラケーが鳴った。 これは仕事用のスマホではない。孤児院から支給されている、緊急連絡用のボロい携帯電話だ。

(……嫌な予感がするねぇ)

こんな時間に、孤児院から電話? 私は眉をひそめながら、通話ボタンを押した。

「……はい、小金沢です」

『ヒ、ヒナちゃん!? 大変なのよ!』

受話器の向こうから聞こえてきたのは、孤児院の園長先生(六十代女性)の悲鳴のような声だった。

「どうしたの、園長先生。落ち着いて」

『落ち着いてなんていられないわよ! さっき、学校と児童相談所から連絡があって……!』

「……は?」

児童相談所(ジドウソウダンジョ)。 その単語が出た瞬間、私の背筋が凍りついた。私たち孤児にとって、それは警察よりも恐ろしい、絶対的な権力を持つ組織だ。

『あ、あのね、ヒナちゃんが最近、夜遅くに「怪しい雑居ビル」に出入りしているって、近所の人から通報があったのよ! しかも……』

園長先生の声が震える。

『……「中年の男」と一緒にいるところを見たと……。その……援助交際とか、パパ活とか……そういうのを疑われていて……!』

「ぶふっ!?」

横で盗み聞きしていたリオが、プロテインを吹き出した。

『明日の午後二時、学校で緊急の三者面談をすることになったの! 児童相談所の職員も来るわ! もし……もし本当にそんなことをしていたら、ヒナちゃんは施設措置変更(もっと厳しい施設送り)になっちゃう!』

園長先生が泣き出さんばかりに捲し立てる。

(……まずい。これは詰んだかもしれない)

もし、ここで「整体院を経営してます」なんて言っても、中学生の労働は禁止だし、私がオーナーだなんて誰も信じない。 かといって「ただ遊んでました」で済む相手じゃない。相手は子供を守る正義の味方(ジドウソウダンジョ)だ。「不健全な交遊」と判断されれば、私は隔離され、店にはガサ入れが入り、全てが終わる。

私の脳みそが、光の速さで回転する。 この状況を打開する、唯一の嘘(言い訳)は――。

「……違うの、園長先生。誤解よ」

私は声を震わせ、迫真の演技に入った。

『ご、誤解って……じゃあ、あの中年の男性は誰なの!?』

「あのおじさんは……その……」

私はチラリと善さんを見た。 善さんが「え? 僕?」という顔で指差す。

私は意を決して、爆弾を投下した。

「……私の、お父さんなの」

『……はい?』

園長先生の声が裏返った。

「実はね、生き別れた本当のお父さんが、私を探し当ててくれたの。……あのお店は、お父さんの職場なの。私は、お父さんに会いたくて、こっそり通ってたの……」

沈黙。 長い沈黙の後、園長先生が息を呑む音が聞こえた。

『……ほ、本当なの!? 死んだって聞いていたお父さんが、生きていたの!?』

「うん……。でも、お父さん、リストラされたりして大変だったから、今まで名乗り出られなかったんだって。最近やっと、整体師として独立できたからって……」

嘘に嘘を重ねていく。だが、これしか道はない。 「実の父親との再会」なら、深夜の密会も、怪しい店への出入りも、すべて美談になる!

『そうだったの……! よかった、本当によかったわねぇ……!』

園長先生が感動して泣き始めた。チョロい、いや、優しい先生で助かった。

『分かったわ! じゃあ、そのことを学校と児童相談所の人に説明しましょう! 明日の三者面談、その「お父さん」にも来てもらって!』

「……え?」

『当然でしょ? 身元引受人になれるかどうかの確認もあるし、感動の対面じゃない! 私も同席するから、絶対連れてきてね!』

ガチャリ。 通話が切れた。

私は携帯を握りしめたまま、凍りついた。

最大のピンチを切り抜けるための嘘が、さらなる地獄を招いてしまった。 明日の面談。 場所は学校。相手は担任、園長、そして児童相談所のプロ。 そこで、「板東善次郎=小金沢ヒナの実父」という設定を、完璧に証明しなければならない。

「……どうしたの、ヒナ?」

リオが怪訝そうに聞く。

私はゆっくりと振り返り、善さんを見た。

「……善さん」

「は、はい? 嫌な予感がするんですけど……」

「おめでとう。あんたに娘ができたよ」

「はあああああ!? ど、どういうことですか!?」

「明日、私の『父親』として学校に来な。……失敗したら、私とあんたは『誘拐犯と被害者』として警察沙汰だ」

「ひぃぃぃぃっ!! 無理ですぅぅぅ!!」

善さんの絶叫が、VIPルームに響き渡る。

大臣の呪いは解けても、血縁の呪縛(偽装)からは逃れられない。 八十八歳のババア、最大の試練。 それは、魔王でも悪霊でもなく、「感動の親子再会(偽)」を演じきることだった。
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