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第36話:魔王、炊き出しに並ぶ。そしてヒナと豚汁を巡る争い
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「……いいかい、善さん。笑顔だ。仏のような慈愛に満ちた笑顔を振りまくんだよ」
日曜日の昼下がり。都内の某公園。 ブルーシートが敷かれた一角で、私たちは「炊き出し」を行っていた。 大鍋にはたっぷりの具材が入った豚汁。山積みのおにぎり。
「はい、どうぞ。温まってくださいね」
善さんが割烹着姿で、並んでいる人々に豚汁を振る舞っている。 その後ろで、私は腕章をつけて監視――もとい、現場監督をしていた。
「……社長。なんでまた急にボランティアなんて?」 手伝いに駆り出された紫雲(首輪付き)が、おにぎりを握りながら不満げに聞く。
「税金対策と、イメージアップだよ」
私は即答した。 先日の「東京上空ガーゴイル決戦(表向きはARショー)」で、コガネ・グループの知名度は爆上がりした。 だが、同時に「あそこは何かヤバいバックがついている」「黒い噂がある」という陰謀論も増えた。 だからこうして、定期的に「善行」をアピールして、クリーンなイメージを植え付ける必要があるのさ。
「それに、この豚汁の材料費なんて、広告費に比べればタダみたいなもんだ」
私は大鍋をかき混ぜる善さんを見守る。 行列を作っているのは、事情があって家がない人々や、生活に困窮している人々だ。 彼らは善さんの豚汁を受け取り、「ありがとう」「あったけぇ……」と涙ぐんでいる。
(……フン。安い感動だね。でも、これで好感度が買えるなら安いもんだ)
列は順調に進んでいく。 だが。 列の最後尾に、ひときわ異彩を放つ男がいた。
ボロボロのコートをマントのように羽織り、頭には新聞紙で作った兜(?)。 顔は煤で汚れているが、その背筋は定規が入っているかのように伸びており、鋭い眼光は周囲を圧倒している。
「……なんだい、あのホームレスは。やけに態度がデカいね」
私は眉をひそめた。 男は、自分の番が来るのを待っているのではない。「謁見の順番」を待っているかのような威厳を漂わせている。
やがて、男の番が来た。
「……うむ。大儀である」
男は善さんの前に立つと、重々しく頷いた。
「貴様らの忠誠心、しかと受け取った。さあ、供物を寄越すがよい」
「は、はい……? どうぞ、豚汁です」
善さんが困惑しながら、お椀を差し出す。 男はお椀を受け取ると、中身をじっと見つめた。
「……肉が少ない」
「はい?」
「我は言っているのだ。肉が少ない、と。……貴様、王に対する敬意が足りんのではないか?」
男が善さんを睨みつける。その目には、本物の王者の覇気が宿っていた。 善さんが「ひぃっ」と縮み上がる。
「……おい、あんた」
私は割って入った。 タダ飯食らいに来ておいて、肉の量に文句をつけるとは何事だ。
「ここはレストランじゃないんだ。文句があるなら自分で狩ってきな」
私は男を見上げて言った。 男がゆっくりと視線を下ろし、私を見た。
「……ほう。幼子が、この我に口を利くか」
男がニヤリと笑った。
「よい度胸だ。……だが、我は寛大だ。貴様の手で、この椀に肉を追加すれば許してやろう。さあ、山盛りにせよ」
「断る。後ろがつかえてるんだ。さっさと失せな」
「……何だと?」
男の眉がピクリと動いた。 周囲の空気が、ビリビリと震え始める。 ただならぬ威圧感(プレッシャー)。 紫雲の作った「魔力炉」の恩恵を受けている私の肌が、粟立つほどの魔力を感じる。
(……この感覚。ただの人間じゃないね)
私は目を細めた。 この魔力の質。重く、深く、そして底知れない。 ヴェルベットやギルバートとは桁が違う。
男もまた、私を見て何かに気づいたようだった。
「……ぬ? 貴様、その魔力……」
男が私の顔を凝視する。 そして、その目が驚愕に見開かれた。
「……まさか。……聖女、ヒナか?」
「……あ?」
私の動きが止まった。 この世界で、私をその名で呼ぶ奴は――。
私は男の顔の煤を、脳内で除去してみた。 精悍な顔立ち。黒曜石のような瞳。そして、額に隠しきれていない小さな角の痕跡。
「……嘘だろ」
私は思わず呟いた。
「……魔王、ルシファー!?」
「フハハハハ! いかにも!」
男――魔王ルシファーは、新聞紙の兜を脱ぎ捨て、高らかに笑った。
「久しぶりだな、宿敵よ! まさかこのような場所で、豚汁を挟んで再会することになるとは!」
「……」
公園が静まり返る。 善さんと紫雲がポカンとしている。 並んでいたホームレスのおっちゃんたちが「マオウ? 新しいあだ名か?」と囁き合っている。
「……なんであんたがここにいるんだい」
私は頭痛をこらえながら聞いた。
「次元の裂け目に飲み込まれ、気づけばこの世界の公園のベンチで寝ておったのだ」
魔王は堂々と言った。
「魔力も枯渇し、腹も減った。……だが、我が覇道は終わらぬ! まずはこの豚汁を足がかりに、この世界を征服してくれようぞ!」
「豚汁で世界征服できると思ってるのかい、このバカは」
かつて数万の軍勢を率い、世界を恐怖に陥れたラスボス。 今の姿は、ただの腹ペコのおっさんだ。 ヴェルベットと同じパターンか。魔力がなくて、ただの一般人に成り下がっている。
「……まあいい。再会を祝して、肉を一切れオマケしてやるよ」
私は善さんの手からお玉を奪い、小さな豚肉の欠片を、魔王のお椀にポチャンと落とした。
「これで満足だろう? さっさと行きな」
「……貴様、我を愚弄するか」
魔王が震え出した。
「かつて世界を二分して戦った好敵手に対し……この仕打ちは何だ! せめて大根を減らして肉を増やせと言っておるのだ!」
「うるさいね! 大根は味が染みてて美味いんだよ!」
「我は肉が食いたいのだ! 貴様、さては肉を独り占めするために鍋底に隠しておるな!?」
「言いがかりをつけるんじゃないよ! これは均等に配分された計算高い豚汁なんだ!」
公園のど真ん中で、元聖女と魔王による、豚汁の具材を巡る低レベルな争いが勃発した。
「ええい、もう我慢ならぬ! 力ずくで鍋ごと奪ってやるわ!」
魔王がマント(ボロ布)を翻し、鍋に手を伸ばす。
「させるかい!」
私は【世界樹の杖】(棒)で、魔王の手をパシッと叩いた。
「痛っ!?」
「並びなさいって言ってるだろう! ルールを守れない奴には汁一滴やらん!」
「おのれ……! 魔力さえあれば、貴様など消し炭にしてくれるものを……! くっ、腹が減って力が出ぬ……!」
魔王がその場に膝をついた。 グゥゥゥ~……。 盛大なお腹の音が、公園に響き渡る。
「……ううっ……豚汁……」
魔王の目から、一筋の涙がこぼれた。 プライドよりも空腹が勝った瞬間だ。哀れすぎる。
「……はぁ」
私は大きなため息をついた。 かつての宿敵の、この落ちぶれよう。 同情はしない。しないが……こいつを野放しにして、もし魔力が回復したら厄介だ。 それに、こいつも利用価値があるかもしれない。
「……善さん」
「は、はい」
「おにぎりを二つ、つけてやりな」
「へ? あ、はい」
善さんがおにぎりをお盆に乗せる。
「……今回は特別だ。食ったら、私の事務所(ビル)に来な」
私は魔王を見下ろして言った。
「働くなら、飯くらい食わせてやるよ」
「……な、何?」
魔王が顔を上げる。
「我が……人間に仕えよと言うのか? この魔王ルシファーに?」
「嫌ならいいよ。一生ここで鳩に餌でもねだってな」
私が背を向けると、魔王は震える手でおにぎりを掴み、一口かじった。
「……う、美味い……! なんだこの白き米の塊は……! 塩加減が絶妙ではないか……!」
魔王がむせび泣きながらおにぎりを貪り食う。 陥落だ。
***
数時間後。 コガネ・タワーの最上階。 風呂に入り、さっぱりした(しかしジャージ姿の)魔王ルシファーが、ちゃぶ台でくつろいでいた。
「……ふむ。悪くない城だ。魔王城には劣るが、眺望は褒めてやろう」
「偉そうだねぇ、居候の分際で」
私はプリンを食べながら言った。 隣ではヴェルベットが「魔王様! ご無事で何よりです!」と目を輝かせている。ギルバートは部屋の隅で体育座りをして怯えている。
「しかし、ヒナよ。……貴様、この世界で何をしておる?」
魔王が真顔で聞いてきた。
「勇者を引退して、隠居か? それにしては、随分と金を貯め込んでおるようだが」
「……私はね、この世界を『買う』ことにしたんだよ」
私はニヤリと笑った。
「武力による征服なんて時代遅れさ。これからは経済(カネ)だよ、魔王」
「……カネ、か」
魔王は興味深そうに顎をさすった。
「面白そうだ。……よかろう。魔力が戻るまでの間、貴様の『世界征服(買収)』に付き合ってやろうではないか」
こうして。 私の会社に、最強にして最悪の新入社員(魔王)が入社した。
役職は……そうだな。 「警備員」兼「クレーム処理係」でいいか。 あの威圧感なら、どんなクレーマーも一撃で撃退できるだろう。
株式会社コガネ。 従業員:元勇者パーティ(私)、元リストラ社員、元マフィア、マッドサイエンティスト、元魔王軍幹部(ニート)、元魔王軍幹部(道化師)、そして魔王。
……どう考えても、世界を救う組織じゃなくて、世界を滅ぼす組織の構成員だね。
だが、平穏な日々は長くは続かない。 魔王が来たことで、時空の歪みは限界に達していた。
「……ヒナ様。大変です」
鏡が血相を変えて部屋に入ってきた。
「……なんだい?」
「政府から連絡がありました。……東京湾の埋め立て地に、『巨大な城』が出現したと」
「……は?」
私がテレビをつけると、ニュース速報が流れていた。 東京湾の海上に、突如として出現した、禍々しい黒い城。
「……あれは……!」
魔王とヴェルベットが同時に叫んだ。
「……魔王城!?」
「なんで城ごとこっちに来るんだい!!」
私のツッコミがタワーに響き渡った。 どうやら、私の隠居生活への道は、まだまだ遠いらしい。
次回、「魔王城、東京湾に不法占拠!? 固定資産税は誰が払うの?」 お楽しみに!
日曜日の昼下がり。都内の某公園。 ブルーシートが敷かれた一角で、私たちは「炊き出し」を行っていた。 大鍋にはたっぷりの具材が入った豚汁。山積みのおにぎり。
「はい、どうぞ。温まってくださいね」
善さんが割烹着姿で、並んでいる人々に豚汁を振る舞っている。 その後ろで、私は腕章をつけて監視――もとい、現場監督をしていた。
「……社長。なんでまた急にボランティアなんて?」 手伝いに駆り出された紫雲(首輪付き)が、おにぎりを握りながら不満げに聞く。
「税金対策と、イメージアップだよ」
私は即答した。 先日の「東京上空ガーゴイル決戦(表向きはARショー)」で、コガネ・グループの知名度は爆上がりした。 だが、同時に「あそこは何かヤバいバックがついている」「黒い噂がある」という陰謀論も増えた。 だからこうして、定期的に「善行」をアピールして、クリーンなイメージを植え付ける必要があるのさ。
「それに、この豚汁の材料費なんて、広告費に比べればタダみたいなもんだ」
私は大鍋をかき混ぜる善さんを見守る。 行列を作っているのは、事情があって家がない人々や、生活に困窮している人々だ。 彼らは善さんの豚汁を受け取り、「ありがとう」「あったけぇ……」と涙ぐんでいる。
(……フン。安い感動だね。でも、これで好感度が買えるなら安いもんだ)
列は順調に進んでいく。 だが。 列の最後尾に、ひときわ異彩を放つ男がいた。
ボロボロのコートをマントのように羽織り、頭には新聞紙で作った兜(?)。 顔は煤で汚れているが、その背筋は定規が入っているかのように伸びており、鋭い眼光は周囲を圧倒している。
「……なんだい、あのホームレスは。やけに態度がデカいね」
私は眉をひそめた。 男は、自分の番が来るのを待っているのではない。「謁見の順番」を待っているかのような威厳を漂わせている。
やがて、男の番が来た。
「……うむ。大儀である」
男は善さんの前に立つと、重々しく頷いた。
「貴様らの忠誠心、しかと受け取った。さあ、供物を寄越すがよい」
「は、はい……? どうぞ、豚汁です」
善さんが困惑しながら、お椀を差し出す。 男はお椀を受け取ると、中身をじっと見つめた。
「……肉が少ない」
「はい?」
「我は言っているのだ。肉が少ない、と。……貴様、王に対する敬意が足りんのではないか?」
男が善さんを睨みつける。その目には、本物の王者の覇気が宿っていた。 善さんが「ひぃっ」と縮み上がる。
「……おい、あんた」
私は割って入った。 タダ飯食らいに来ておいて、肉の量に文句をつけるとは何事だ。
「ここはレストランじゃないんだ。文句があるなら自分で狩ってきな」
私は男を見上げて言った。 男がゆっくりと視線を下ろし、私を見た。
「……ほう。幼子が、この我に口を利くか」
男がニヤリと笑った。
「よい度胸だ。……だが、我は寛大だ。貴様の手で、この椀に肉を追加すれば許してやろう。さあ、山盛りにせよ」
「断る。後ろがつかえてるんだ。さっさと失せな」
「……何だと?」
男の眉がピクリと動いた。 周囲の空気が、ビリビリと震え始める。 ただならぬ威圧感(プレッシャー)。 紫雲の作った「魔力炉」の恩恵を受けている私の肌が、粟立つほどの魔力を感じる。
(……この感覚。ただの人間じゃないね)
私は目を細めた。 この魔力の質。重く、深く、そして底知れない。 ヴェルベットやギルバートとは桁が違う。
男もまた、私を見て何かに気づいたようだった。
「……ぬ? 貴様、その魔力……」
男が私の顔を凝視する。 そして、その目が驚愕に見開かれた。
「……まさか。……聖女、ヒナか?」
「……あ?」
私の動きが止まった。 この世界で、私をその名で呼ぶ奴は――。
私は男の顔の煤を、脳内で除去してみた。 精悍な顔立ち。黒曜石のような瞳。そして、額に隠しきれていない小さな角の痕跡。
「……嘘だろ」
私は思わず呟いた。
「……魔王、ルシファー!?」
「フハハハハ! いかにも!」
男――魔王ルシファーは、新聞紙の兜を脱ぎ捨て、高らかに笑った。
「久しぶりだな、宿敵よ! まさかこのような場所で、豚汁を挟んで再会することになるとは!」
「……」
公園が静まり返る。 善さんと紫雲がポカンとしている。 並んでいたホームレスのおっちゃんたちが「マオウ? 新しいあだ名か?」と囁き合っている。
「……なんであんたがここにいるんだい」
私は頭痛をこらえながら聞いた。
「次元の裂け目に飲み込まれ、気づけばこの世界の公園のベンチで寝ておったのだ」
魔王は堂々と言った。
「魔力も枯渇し、腹も減った。……だが、我が覇道は終わらぬ! まずはこの豚汁を足がかりに、この世界を征服してくれようぞ!」
「豚汁で世界征服できると思ってるのかい、このバカは」
かつて数万の軍勢を率い、世界を恐怖に陥れたラスボス。 今の姿は、ただの腹ペコのおっさんだ。 ヴェルベットと同じパターンか。魔力がなくて、ただの一般人に成り下がっている。
「……まあいい。再会を祝して、肉を一切れオマケしてやるよ」
私は善さんの手からお玉を奪い、小さな豚肉の欠片を、魔王のお椀にポチャンと落とした。
「これで満足だろう? さっさと行きな」
「……貴様、我を愚弄するか」
魔王が震え出した。
「かつて世界を二分して戦った好敵手に対し……この仕打ちは何だ! せめて大根を減らして肉を増やせと言っておるのだ!」
「うるさいね! 大根は味が染みてて美味いんだよ!」
「我は肉が食いたいのだ! 貴様、さては肉を独り占めするために鍋底に隠しておるな!?」
「言いがかりをつけるんじゃないよ! これは均等に配分された計算高い豚汁なんだ!」
公園のど真ん中で、元聖女と魔王による、豚汁の具材を巡る低レベルな争いが勃発した。
「ええい、もう我慢ならぬ! 力ずくで鍋ごと奪ってやるわ!」
魔王がマント(ボロ布)を翻し、鍋に手を伸ばす。
「させるかい!」
私は【世界樹の杖】(棒)で、魔王の手をパシッと叩いた。
「痛っ!?」
「並びなさいって言ってるだろう! ルールを守れない奴には汁一滴やらん!」
「おのれ……! 魔力さえあれば、貴様など消し炭にしてくれるものを……! くっ、腹が減って力が出ぬ……!」
魔王がその場に膝をついた。 グゥゥゥ~……。 盛大なお腹の音が、公園に響き渡る。
「……ううっ……豚汁……」
魔王の目から、一筋の涙がこぼれた。 プライドよりも空腹が勝った瞬間だ。哀れすぎる。
「……はぁ」
私は大きなため息をついた。 かつての宿敵の、この落ちぶれよう。 同情はしない。しないが……こいつを野放しにして、もし魔力が回復したら厄介だ。 それに、こいつも利用価値があるかもしれない。
「……善さん」
「は、はい」
「おにぎりを二つ、つけてやりな」
「へ? あ、はい」
善さんがおにぎりをお盆に乗せる。
「……今回は特別だ。食ったら、私の事務所(ビル)に来な」
私は魔王を見下ろして言った。
「働くなら、飯くらい食わせてやるよ」
「……な、何?」
魔王が顔を上げる。
「我が……人間に仕えよと言うのか? この魔王ルシファーに?」
「嫌ならいいよ。一生ここで鳩に餌でもねだってな」
私が背を向けると、魔王は震える手でおにぎりを掴み、一口かじった。
「……う、美味い……! なんだこの白き米の塊は……! 塩加減が絶妙ではないか……!」
魔王がむせび泣きながらおにぎりを貪り食う。 陥落だ。
***
数時間後。 コガネ・タワーの最上階。 風呂に入り、さっぱりした(しかしジャージ姿の)魔王ルシファーが、ちゃぶ台でくつろいでいた。
「……ふむ。悪くない城だ。魔王城には劣るが、眺望は褒めてやろう」
「偉そうだねぇ、居候の分際で」
私はプリンを食べながら言った。 隣ではヴェルベットが「魔王様! ご無事で何よりです!」と目を輝かせている。ギルバートは部屋の隅で体育座りをして怯えている。
「しかし、ヒナよ。……貴様、この世界で何をしておる?」
魔王が真顔で聞いてきた。
「勇者を引退して、隠居か? それにしては、随分と金を貯め込んでおるようだが」
「……私はね、この世界を『買う』ことにしたんだよ」
私はニヤリと笑った。
「武力による征服なんて時代遅れさ。これからは経済(カネ)だよ、魔王」
「……カネ、か」
魔王は興味深そうに顎をさすった。
「面白そうだ。……よかろう。魔力が戻るまでの間、貴様の『世界征服(買収)』に付き合ってやろうではないか」
こうして。 私の会社に、最強にして最悪の新入社員(魔王)が入社した。
役職は……そうだな。 「警備員」兼「クレーム処理係」でいいか。 あの威圧感なら、どんなクレーマーも一撃で撃退できるだろう。
株式会社コガネ。 従業員:元勇者パーティ(私)、元リストラ社員、元マフィア、マッドサイエンティスト、元魔王軍幹部(ニート)、元魔王軍幹部(道化師)、そして魔王。
……どう考えても、世界を救う組織じゃなくて、世界を滅ぼす組織の構成員だね。
だが、平穏な日々は長くは続かない。 魔王が来たことで、時空の歪みは限界に達していた。
「……ヒナ様。大変です」
鏡が血相を変えて部屋に入ってきた。
「……なんだい?」
「政府から連絡がありました。……東京湾の埋め立て地に、『巨大な城』が出現したと」
「……は?」
私がテレビをつけると、ニュース速報が流れていた。 東京湾の海上に、突如として出現した、禍々しい黒い城。
「……あれは……!」
魔王とヴェルベットが同時に叫んだ。
「……魔王城!?」
「なんで城ごとこっちに来るんだい!!」
私のツッコミがタワーに響き渡った。 どうやら、私の隠居生活への道は、まだまだ遠いらしい。
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