44 / 67
第44話:勇者と初デート! 映画館と遊園地、そして時限爆弾
しおりを挟む
「……なんで私がこんな格好をしなきゃいけないんだい?」
日曜日の朝。コガネ・タワーのエントランス。 私は全身鏡の前で、不機嫌に自分の姿を見つめていた。
パステルピンクのワンピース、白いカーディガン、そしてフリルのついた靴下。 どこからどう見ても「清純派・可憐な女子中学生」だ。
「完璧だぜ、ボス! これなら誰が見ても『悪の組織の黒幕』には見えねえ!」 スタイリスト役のリオが親指を立てる。
「ヒナよ、武器は持ったか? その可愛らしいポシェットの中に、手榴弾くらいは入るであろう」 ルシファーが心配そうに聞いてくる。
「入れないよ。デートだって言ってるだろう。手ぶらで行くんだ」
「気をつけてくださいね、ヒナちゃん。相手は勇者……隙を見せれば、その可愛らしい首が飛びますよ」 善さんがハンカチで涙を拭っている。
「縁起でもないことを言うんじゃないよ」
私はため息をつき、タワーを出た。 中身88歳の元聖女にとって、14歳のデート服は羞恥プレイ以外の何物でもない。 だが、これも「一般人」を演じきるためだ。我慢だ。
***
待ち合わせ場所の駅前広場。 ハチ公像(の代わりに最近置かれた『忠犬ロボット・ハチ』像)の前に、彼はいた。
白のシャツに、ベージュのチノパン。爽やかなカジュアルスタイル。 だが、その背中には、不自然に長い「テニスラケットのケース」を背負っている。
「……おはようございます、ヒナさん」
レオナルドが私を見つけ、爽やかに微笑んだ。
「おはよう、レオくん。……その背中の荷物はなんだい? デートでテニスでもする気かい?」
「ああ、これですか? ……『護身用』です。いつ魔族が襲ってきてもいいように」
中身は間違いなく聖剣だ。 デートに聖剣を持参する中学生。重すぎる。
「……そうかい。じゃあ、行こうか」
私たちは歩き出した。 周囲のカップルが楽しそうに腕を組む中、私たちは一定の距離(斬撃の間合い)を保って歩く。 緊張感がすごい。
***
「まずは映画でも観ましょうか。……『一般人』のデートの定番ですよね?」
レオナルドの提案で、私たちはシネコンに入った。 選んだ映画は『恋する魔法学園 ~転生したら王子様がドSだった件~』。 今流行りの異世界恋愛ものだ。
上映中。 私はポップコーンを機械的に口に運びながら、スクリーンを眺めていた。
(……なんだい、この脚本は。魔法の詠唱が適当すぎるよ。それに、この王子、性格が悪すぎる。前世の私なら杖で頭をひっぱたいてるね)
私は心の中でツッコミを入れまくっていた。 ふと、隣のレオナルドを見る。 彼はスクリーンを食い入るように見つめ、真剣な表情をしている。
(……意外と楽しんでるのか?)
映画のクライマックス。 ヒロインが王子に愛の告白をするシーン。
『好きです! 世界が滅んでも、あなたといたい!』
その瞬間。 レオナルドが、ボソッと呟いた。
「……愚かですね」
「え?」
「世界が滅んだら、愛もクソもないでしょう。……優先順位がおかしい。まずは世界の平和を維持し、安全を確保してから告白すべきだ」
「……」
こいつ、ガチだ。 恋愛映画を「危機管理マニュアル」として見ている。
映画が終わり、私たちはゲームセンターへ移動した。 UFOキャッチャーの前で、レオナルドが足を止める。
「……あれは、魔獣のぬいぐるみですか?」
彼が指差したのは、人気のマスコットキャラ『モチモチうさぎ』。
「可愛いだろう? 取ってあげようか?」
私は百円玉を入れた。 アームを操作する。 私の【空間把握能力】と、物理演算予測(元聖女の勘)をもってすれば、こんなもの赤子の手をひねるようなものだ。
ウィーン……ガシッ! ポトン。
一発ゲット。
「……すごいですね。魔法を使ったのですか?」 レオナルドが目を細める。
「まさか。物理だよ、物理。……ほら、やるよ」
私がぬいぐるみを渡すと、レオナルドは少し驚いた顔をして、それを受け取った。
「……ありがとうございます。……柔らかいですね」
彼がぬいぐるみをプニプニと触る。 その表情が、初めて年相応の少年のものになった。
(……ふん。やっぱりガキだね)
少しだけ空気が和んだ、その時だった。
『緊急警報! 緊急警報!』
館内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「……ッ!? なんだ!?」 レオナルドの表情が一瞬で戦士に戻る。
『お客様にご案内します。……当施設内に、爆発物が仕掛けられたとの情報が入りました。直ちに避難を……』
「爆発物!?」 周囲の客がパニックになり、出口へと殺到する。
「……ヒナさん、逃げましょう!」 レオナルドが私の手を掴む。
「待ちな! ……あれを見るんだ」
私はフロアの奥、立ち入り禁止の従業員用通路のドアが開いているのに気づいた。 そこから、奇妙な「魔力」が漏れ出している。
「……あの気配。ただの爆弾じゃないね」 私が呟くと、レオナルドもハッとした。
「……魔力反応!? ……まさか、魔族のテロか!?」
レオナルドが背中のケースから聖剣を取り出す。
「ヒナさん、君は逃げてください! 僕は確認に行きます!」
「おい、待て!」
レオナルドは私の制止も聞かず、奥へと走っていった。 やれやれ、正義感の塊だね。 放っておけばいいのに、もし彼が死んだら「勇者殺しの責任」を問われかねない。
「……仕方ない。付き合ってやるか」
私は人混みに逆らって、彼を追いかけた。
***
従業員用通路の奥。倉庫のような場所。 そこに、「それ」はあった。
段ボールの山の上に置かれた、黒い球体。 表面には禍々しい赤い紋章が浮かび上がり、ドクン、ドクンと脈打っている。
「……これは、古代魔導兵器『コア・ボム』!? なぜこんなところに!?」
レオナルドが驚愕の声を上げる。
(……ああ、あれか)
私は一目で正体を見抜いた。 あれは、魔王城の倉庫に眠っていたガラクタの一つだ。 おそらく、東京湾に城が出現した際のどさくさで流出し、リサイクルショップか何かを経由して、ここに流れ着いたのだろう。 そして、このゲーセンの強烈な電力に反応して、起動してしまったんだ。
「……あと三分で爆発します! この規模なら、半径一キロが消し飛ぶ……!」
レオナルドが聖剣を構える。
「斬るしかありません……!」
「馬鹿! やめな!」
私が叫んで飛び込んだ。
「ヒナさん!? なぜここに!?」
「その爆弾はね、衝撃を与えると即起爆するんだよ! 斬ったらあんたも私もおしまいだ!」
「なっ……じゃあどうすれば!?」 レオナルドが焦る。 解除するには、複雑な魔力コードを解読し、逆位相の魔力を流し込む必要がある。 だが、それは高度な魔法技術だ。 私がやれば一瞬だが、そうすれば私が「ただの中学生ではない」ことがバレる。
勇者の前で魔法を使わずに、魔法の爆弾を解除する。 ……無理ゲーだ。
だが、私には「金」と「人脈」がある。
「……レオくん。スマホ貸して」
「は? 今そんな場合じゃ……」
「いいから!」
私は彼のスマホを奪い取り、スピーカーモードにして、ある番号にかけた。
プルルル……ガチャッ。
『はい、こちら株式会社コガネ、カスタマーサポートです』
「鏡! 私だ!」
『おや、デート中では?』
「緊急事態だ! このゲーセンに『タイプ3・魔導コア』がある! 暴走寸前だ!」
『……なんですって? それは厄介ですね』
「レオくん(勇者)がいるから、私が魔法を使うわけにはいかない! ……あんたのハッキングで、遠隔解除できるかい!?」
『……物理的な回線が繋がっていれば可能ですが、魔導兵器にはLANポートがありませんよ』
「チッ、役立たず!」
『ですが……そのコア、周囲の「電波」には干渉する性質があります。……そこのゲーセンのWi-Fi出力を最大にし、特定の周波数のノイズをぶつければ、一時的に機能を停止(フリーズ)させられるかもしれません』
「それだ! やりな!」
『了解。……アクセス開始。ゲーセンのルーターを乗っ取ります』
私はスマホをレオナルドに返した。
「……な、何をしたんですか?」 レオナルドが呆然としている。
「……父の会社のエンジニアに電話したんだ。爆弾処理のプロさ」
「エンジニア? スマホで?」
「見てな!」
次の瞬間。 ゲーセン内の照明が一斉に明滅し、スピーカーから「キィィィィン!」という高周波音が鳴り響いた。
ドクン……ドクン……プシュン。
黒い球体の脈動が、止まった。
「……と、止まった?」 レオナルドが目を見開く。
「今だ、レオくん! その爆弾を、誰もいない上空へ投げるんだ!」
「えっ、投げる!?」
「フリーズしてるのは数十秒だ! 早く!」
「わ、分かりました!」
レオナルドは球体を抱え上げると、窓を蹴破り、屋上の空へ向かって全力で投擲した。 勇者の馬鹿力で、球体は遥か彼方へ飛んでいく。
数秒後。 遥か上空で、小さな花火のような光が弾けた。
ドォォォン……。
被害ゼロ。完全処理だ。
「……はぁ、はぁ……助かった……」
レオナルドがその場に座り込む。
「……ヒナさん。君は一体……」
彼が私を見上げた。 疑いの眼差し。 当然だ。魔導兵器の知識、謎の電話、的確な指示。 一般の中学生で通るはずがない。
私は覚悟を決めた。
「……私はね」
「……?」
「『ミリオタ』なんだよ」
「……は?」
「ミリタリーオタクさ。爆弾とか兵器とか、ネットで調べまくって詳しくなっちゃってね。……あはは、引いた?」
私は精一杯の愛想笑いを浮かべた。
「……ミリオタ……」
レオナルドは数秒間、ポカンとしていたが……。 やがて、クスクスと笑い出した。
「……ふっ、ははは! なるほど、そうでしたか!」
彼は立ち上がり、私の頭をポンと撫でた。
「君は面白い人だ。……今日のところは、そういうことにしておきましょう」
「……助けてくれて、ありがとう。ヒナさん」
彼の笑顔は、初めて心からのものに見えた。 どうやら、「正体バレ」の危機は去ったようだ。……ギリギリで。
「……さあ、帰ろうか。おじいちゃんが待ってる」
私たちはゲーセンを後にした。 帰り道、少しだけ二人の距離が縮まった気がした。 テニスラケットケースとポシェット。 奇妙なカップルの初デートは、爆発オチで幕を閉じた。
だが。 私が安堵したのも束の間。 コガネ・タワーに戻ると、さらなるカオスが待っていた。
「おかえり、ヒナ! テレビを見るのじゃ!」 ヴェルベットが血相を変えて飛んできた。
テレビ画面には、緊急ニュースが流れている。
『速報です。……本日午後、国会議事堂前に、謎の巨大生物が出現しました!』 『生物は、「我は魔王軍四天王『剛力のバッファロー』なり! 魔王ルシファー様を出せ!」と叫んでおり……』
画面には、筋骨隆々の牛男が、機動隊の車をひっくり返している映像が。
「……また四天王かい!」
ルシファーが「あやつ、まだ生きておったか……脳筋で困るのだ」と頭を抱えている。
「レオくん、デートは終了だ」
私は隣の勇者の肩を叩いた。
「……ええ。仕事(魔物退治)の時間ですね」 レオナルドが聖剣を抜く。
「違うよ。……『説得』の時間だ」
私はスマホを取り出した。
「鏡! 装甲車を回しな! 国会議事堂へ行くよ!」
デートの余韻に浸る暇もない。 次は、永田町で魔物と政治家を相手に大立ち回りだ!
次回、「国会議事堂占拠!? 牛男 vs 勇者 vs 政治家、そしてヒナの買収工作」 お楽しみに!
日曜日の朝。コガネ・タワーのエントランス。 私は全身鏡の前で、不機嫌に自分の姿を見つめていた。
パステルピンクのワンピース、白いカーディガン、そしてフリルのついた靴下。 どこからどう見ても「清純派・可憐な女子中学生」だ。
「完璧だぜ、ボス! これなら誰が見ても『悪の組織の黒幕』には見えねえ!」 スタイリスト役のリオが親指を立てる。
「ヒナよ、武器は持ったか? その可愛らしいポシェットの中に、手榴弾くらいは入るであろう」 ルシファーが心配そうに聞いてくる。
「入れないよ。デートだって言ってるだろう。手ぶらで行くんだ」
「気をつけてくださいね、ヒナちゃん。相手は勇者……隙を見せれば、その可愛らしい首が飛びますよ」 善さんがハンカチで涙を拭っている。
「縁起でもないことを言うんじゃないよ」
私はため息をつき、タワーを出た。 中身88歳の元聖女にとって、14歳のデート服は羞恥プレイ以外の何物でもない。 だが、これも「一般人」を演じきるためだ。我慢だ。
***
待ち合わせ場所の駅前広場。 ハチ公像(の代わりに最近置かれた『忠犬ロボット・ハチ』像)の前に、彼はいた。
白のシャツに、ベージュのチノパン。爽やかなカジュアルスタイル。 だが、その背中には、不自然に長い「テニスラケットのケース」を背負っている。
「……おはようございます、ヒナさん」
レオナルドが私を見つけ、爽やかに微笑んだ。
「おはよう、レオくん。……その背中の荷物はなんだい? デートでテニスでもする気かい?」
「ああ、これですか? ……『護身用』です。いつ魔族が襲ってきてもいいように」
中身は間違いなく聖剣だ。 デートに聖剣を持参する中学生。重すぎる。
「……そうかい。じゃあ、行こうか」
私たちは歩き出した。 周囲のカップルが楽しそうに腕を組む中、私たちは一定の距離(斬撃の間合い)を保って歩く。 緊張感がすごい。
***
「まずは映画でも観ましょうか。……『一般人』のデートの定番ですよね?」
レオナルドの提案で、私たちはシネコンに入った。 選んだ映画は『恋する魔法学園 ~転生したら王子様がドSだった件~』。 今流行りの異世界恋愛ものだ。
上映中。 私はポップコーンを機械的に口に運びながら、スクリーンを眺めていた。
(……なんだい、この脚本は。魔法の詠唱が適当すぎるよ。それに、この王子、性格が悪すぎる。前世の私なら杖で頭をひっぱたいてるね)
私は心の中でツッコミを入れまくっていた。 ふと、隣のレオナルドを見る。 彼はスクリーンを食い入るように見つめ、真剣な表情をしている。
(……意外と楽しんでるのか?)
映画のクライマックス。 ヒロインが王子に愛の告白をするシーン。
『好きです! 世界が滅んでも、あなたといたい!』
その瞬間。 レオナルドが、ボソッと呟いた。
「……愚かですね」
「え?」
「世界が滅んだら、愛もクソもないでしょう。……優先順位がおかしい。まずは世界の平和を維持し、安全を確保してから告白すべきだ」
「……」
こいつ、ガチだ。 恋愛映画を「危機管理マニュアル」として見ている。
映画が終わり、私たちはゲームセンターへ移動した。 UFOキャッチャーの前で、レオナルドが足を止める。
「……あれは、魔獣のぬいぐるみですか?」
彼が指差したのは、人気のマスコットキャラ『モチモチうさぎ』。
「可愛いだろう? 取ってあげようか?」
私は百円玉を入れた。 アームを操作する。 私の【空間把握能力】と、物理演算予測(元聖女の勘)をもってすれば、こんなもの赤子の手をひねるようなものだ。
ウィーン……ガシッ! ポトン。
一発ゲット。
「……すごいですね。魔法を使ったのですか?」 レオナルドが目を細める。
「まさか。物理だよ、物理。……ほら、やるよ」
私がぬいぐるみを渡すと、レオナルドは少し驚いた顔をして、それを受け取った。
「……ありがとうございます。……柔らかいですね」
彼がぬいぐるみをプニプニと触る。 その表情が、初めて年相応の少年のものになった。
(……ふん。やっぱりガキだね)
少しだけ空気が和んだ、その時だった。
『緊急警報! 緊急警報!』
館内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「……ッ!? なんだ!?」 レオナルドの表情が一瞬で戦士に戻る。
『お客様にご案内します。……当施設内に、爆発物が仕掛けられたとの情報が入りました。直ちに避難を……』
「爆発物!?」 周囲の客がパニックになり、出口へと殺到する。
「……ヒナさん、逃げましょう!」 レオナルドが私の手を掴む。
「待ちな! ……あれを見るんだ」
私はフロアの奥、立ち入り禁止の従業員用通路のドアが開いているのに気づいた。 そこから、奇妙な「魔力」が漏れ出している。
「……あの気配。ただの爆弾じゃないね」 私が呟くと、レオナルドもハッとした。
「……魔力反応!? ……まさか、魔族のテロか!?」
レオナルドが背中のケースから聖剣を取り出す。
「ヒナさん、君は逃げてください! 僕は確認に行きます!」
「おい、待て!」
レオナルドは私の制止も聞かず、奥へと走っていった。 やれやれ、正義感の塊だね。 放っておけばいいのに、もし彼が死んだら「勇者殺しの責任」を問われかねない。
「……仕方ない。付き合ってやるか」
私は人混みに逆らって、彼を追いかけた。
***
従業員用通路の奥。倉庫のような場所。 そこに、「それ」はあった。
段ボールの山の上に置かれた、黒い球体。 表面には禍々しい赤い紋章が浮かび上がり、ドクン、ドクンと脈打っている。
「……これは、古代魔導兵器『コア・ボム』!? なぜこんなところに!?」
レオナルドが驚愕の声を上げる。
(……ああ、あれか)
私は一目で正体を見抜いた。 あれは、魔王城の倉庫に眠っていたガラクタの一つだ。 おそらく、東京湾に城が出現した際のどさくさで流出し、リサイクルショップか何かを経由して、ここに流れ着いたのだろう。 そして、このゲーセンの強烈な電力に反応して、起動してしまったんだ。
「……あと三分で爆発します! この規模なら、半径一キロが消し飛ぶ……!」
レオナルドが聖剣を構える。
「斬るしかありません……!」
「馬鹿! やめな!」
私が叫んで飛び込んだ。
「ヒナさん!? なぜここに!?」
「その爆弾はね、衝撃を与えると即起爆するんだよ! 斬ったらあんたも私もおしまいだ!」
「なっ……じゃあどうすれば!?」 レオナルドが焦る。 解除するには、複雑な魔力コードを解読し、逆位相の魔力を流し込む必要がある。 だが、それは高度な魔法技術だ。 私がやれば一瞬だが、そうすれば私が「ただの中学生ではない」ことがバレる。
勇者の前で魔法を使わずに、魔法の爆弾を解除する。 ……無理ゲーだ。
だが、私には「金」と「人脈」がある。
「……レオくん。スマホ貸して」
「は? 今そんな場合じゃ……」
「いいから!」
私は彼のスマホを奪い取り、スピーカーモードにして、ある番号にかけた。
プルルル……ガチャッ。
『はい、こちら株式会社コガネ、カスタマーサポートです』
「鏡! 私だ!」
『おや、デート中では?』
「緊急事態だ! このゲーセンに『タイプ3・魔導コア』がある! 暴走寸前だ!」
『……なんですって? それは厄介ですね』
「レオくん(勇者)がいるから、私が魔法を使うわけにはいかない! ……あんたのハッキングで、遠隔解除できるかい!?」
『……物理的な回線が繋がっていれば可能ですが、魔導兵器にはLANポートがありませんよ』
「チッ、役立たず!」
『ですが……そのコア、周囲の「電波」には干渉する性質があります。……そこのゲーセンのWi-Fi出力を最大にし、特定の周波数のノイズをぶつければ、一時的に機能を停止(フリーズ)させられるかもしれません』
「それだ! やりな!」
『了解。……アクセス開始。ゲーセンのルーターを乗っ取ります』
私はスマホをレオナルドに返した。
「……な、何をしたんですか?」 レオナルドが呆然としている。
「……父の会社のエンジニアに電話したんだ。爆弾処理のプロさ」
「エンジニア? スマホで?」
「見てな!」
次の瞬間。 ゲーセン内の照明が一斉に明滅し、スピーカーから「キィィィィン!」という高周波音が鳴り響いた。
ドクン……ドクン……プシュン。
黒い球体の脈動が、止まった。
「……と、止まった?」 レオナルドが目を見開く。
「今だ、レオくん! その爆弾を、誰もいない上空へ投げるんだ!」
「えっ、投げる!?」
「フリーズしてるのは数十秒だ! 早く!」
「わ、分かりました!」
レオナルドは球体を抱え上げると、窓を蹴破り、屋上の空へ向かって全力で投擲した。 勇者の馬鹿力で、球体は遥か彼方へ飛んでいく。
数秒後。 遥か上空で、小さな花火のような光が弾けた。
ドォォォン……。
被害ゼロ。完全処理だ。
「……はぁ、はぁ……助かった……」
レオナルドがその場に座り込む。
「……ヒナさん。君は一体……」
彼が私を見上げた。 疑いの眼差し。 当然だ。魔導兵器の知識、謎の電話、的確な指示。 一般の中学生で通るはずがない。
私は覚悟を決めた。
「……私はね」
「……?」
「『ミリオタ』なんだよ」
「……は?」
「ミリタリーオタクさ。爆弾とか兵器とか、ネットで調べまくって詳しくなっちゃってね。……あはは、引いた?」
私は精一杯の愛想笑いを浮かべた。
「……ミリオタ……」
レオナルドは数秒間、ポカンとしていたが……。 やがて、クスクスと笑い出した。
「……ふっ、ははは! なるほど、そうでしたか!」
彼は立ち上がり、私の頭をポンと撫でた。
「君は面白い人だ。……今日のところは、そういうことにしておきましょう」
「……助けてくれて、ありがとう。ヒナさん」
彼の笑顔は、初めて心からのものに見えた。 どうやら、「正体バレ」の危機は去ったようだ。……ギリギリで。
「……さあ、帰ろうか。おじいちゃんが待ってる」
私たちはゲーセンを後にした。 帰り道、少しだけ二人の距離が縮まった気がした。 テニスラケットケースとポシェット。 奇妙なカップルの初デートは、爆発オチで幕を閉じた。
だが。 私が安堵したのも束の間。 コガネ・タワーに戻ると、さらなるカオスが待っていた。
「おかえり、ヒナ! テレビを見るのじゃ!」 ヴェルベットが血相を変えて飛んできた。
テレビ画面には、緊急ニュースが流れている。
『速報です。……本日午後、国会議事堂前に、謎の巨大生物が出現しました!』 『生物は、「我は魔王軍四天王『剛力のバッファロー』なり! 魔王ルシファー様を出せ!」と叫んでおり……』
画面には、筋骨隆々の牛男が、機動隊の車をひっくり返している映像が。
「……また四天王かい!」
ルシファーが「あやつ、まだ生きておったか……脳筋で困るのだ」と頭を抱えている。
「レオくん、デートは終了だ」
私は隣の勇者の肩を叩いた。
「……ええ。仕事(魔物退治)の時間ですね」 レオナルドが聖剣を抜く。
「違うよ。……『説得』の時間だ」
私はスマホを取り出した。
「鏡! 装甲車を回しな! 国会議事堂へ行くよ!」
デートの余韻に浸る暇もない。 次は、永田町で魔物と政治家を相手に大立ち回りだ!
次回、「国会議事堂占拠!? 牛男 vs 勇者 vs 政治家、そしてヒナの買収工作」 お楽しみに!
61
あなたにおすすめの小説
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる