女王陛下の宝飾職人

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2 王との謁見

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「やってられない‼」

その夕刻、私は茶髪のかつらにお忍び用の平民の服、それに顔を半分覆うくらい深い帽子を被って、城下の噴水広場にいた。

父との謁見後部屋に帰った私は、侍女のアンに「今日は疲れて早く休むから、夕食はいらないわ。お父様にもご一緒できないと伝えて。それと静かに過ごしたいから部屋の周りは人払いをお願いね」と言って下がらせた。

しばらくして、アンに話を聞いたエドワードがドアの前で「殿下。お加減が悪いのですか?」と聞いてきたが、それも「いいえ。アンにも言ったけど疲れただけ。ゆっくり過ごしたいから、明日も午前の公務は無しにしておいて。あなたもたまには休養を取るといいわ」と追い返した。エドワードは何かぶつぶつ言っていたが、やがて部屋の前の気配が護衛のものだけになり、私はすぐ変装に取りかかった。

その後、部屋の本棚から秘密の通路を使い噴水広場まで出てきたのだ。

王家の特徴ある菫色の瞳はそのままだが、王太女は長い黒髪と思われているし、深い帽子で瞳は見えないだろう。
それに夜の王都は人が溢れて忙しなく、私に関心を向ける者はいないはず…と思い巡らせ、初めて緊張していることを意識したが、帰るつもりはなかった。

こんな風に一人で黙って抜け出して、もし万一があれば周囲の者の責任問題になると予想出来たが、今日はもう本当にちょっとの間でも全てを捨てて逃げてしまいたかったのだ。

あれから偶然時間が空いた父に謁見できたのだが…

「何故ですか、お父様。お父様もキリアンの素行はご存じのはずです。あれではとても王配は務まりません。私を支えるどころか、私の足を引っ張る存在でしかありません」

「しかし、それを考えても公爵家がお前の後ろ盾になってくれる利益は勝っている。公爵からもキリアンの事はきちんと教育をしていくから、もう少し様子を見てくれないかと頼まれているのだ。アイリーン、これは公爵家に対して貸しになる。お前が即位してからの立場が強くなると考えられないか。それにキリアンとは幼いころからの付き合いだ。キリアンの性格を考えて、うまくあれを御せば良いではないか。女王となって多くの臣下を従えていくのに、自分の婚約者ひとり思う通りに出来ないのは問題だろう」

「お父様。私は臣下とは時に対立しながらも、国とお互いの利益になるような道を探していくつもりです。けれど、王配は別です。お父様にとって亡きお母様が王妃として支えであり、味方であり、時に苦言を呈してくれる存在であったように、私も王配にはそのような存在を望みます」

私が3歳の頃王妃であった母は亡くなった。私以外に子どもがいなかった為、周囲は再婚を強く勧めたが、父は頑として受け入れなかった。父は母を深く愛していて、今もよく私に母の素晴らしさを語る。父のせいで、私が女王となった時の王配の理想はかつての母の姿なのに、張本人は公爵家の力にこだわり続けている。

「しかし公爵も再教育をすると言っているわけだし、もう少し様子を見なさい。お前には公爵家の力が必要だ」

「私は幼い頃から国を治めるべく学び、努力して成果を上げています。

私の提案した運河を利用した輸送網で、各国の品を迅速に運べるようになりましたし、留学した時に得た友情と人脈で隣国とは友好条約を結べました。そのおかげで今は、有事に必要な援助をし合える良い関係が築けています。お父様もそれは認めてくださったはずです。公爵家の力は大きいですが、共に協力する貴族は公爵家だけではありません。私が女王として全力を尽くす為には、キリアンを王配には出来ません」

「お前の努力はよく分かっているが、もう一度キリアンとよく話し合ってみなさい」

私は失望した。どう頑張っても公爵家無しでは女王としてやっていけないと言われたようで、大きく傷つき全て放り出したくなったのだ。
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