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暖房のないコンクリート打ちっぱなしの屋内は冷えきっている。四階建ての最上階にある部室からはコートに身を包んだ学生たちが見下ろせた。しかし、屋内にいるはずの友也たちもまたコートに身を包んで、先ほどまで暖かかったはずの缶コーヒーを飲んでいた。両手はコートのポケットに突っ込んだままで、カイロを握っている。このフロアのサークル部員たちの暗黙の常識といえるだろう。学生の集まるサークル搭の最上階は設備に不備を持ったまま予算の都合上手付かずとなっており、廃部寸前の部活が拠点として配置されていた。
「本庄さん、聞きましたか?」
友也は中の空いた缶コーヒーを机において話しかけた。
「何をだ佐切くん」
貴音は椅子に深く腰掛け、膝掛けを利用していた。膝掛けは真っ黒で、彼女のコートもファーを除けば真っ黒だ。明かりが蛍光灯一つの暗い屋内ではもう少し目立つ色合いにしてくれないとホラーチックだ。
「最近続いてた不審火、連続放火事件ですね。あれで死者がでたらしいですよ」
「ああ、今日はその話で持ちきりだったな」
「本庄さん話し相手いたんですか」
友也の意外そうな表情に貴音が眉を潜めた。
サークル室の扉が軋んだ音をたてて開いた。肩幅のある大柄な武井慎吾だった。
「武井さんお疲れさまです」
友也はまだかろうじて暖かさのある缶コーヒーを差し出した。
「おつかれ」
慎吾は缶コーヒーを受け取った。慎吾の表情が少し暗い気がした。
「コーヒーおごり?」
「ああ、この間佐切くんが連れてきた田口幸也だったかな、彼が礼に佐切くんに持たせたそうだ」
貴音は慎吾に話しかけつつも不穏な慎吾の表情を感じ取っているようだ。
「少し聞きたいんだが、今話題になっている連続放火犯、そいつの手口って知ってるか?」
「放火犯の手口?知らないです」
友也は顔を横にふる。
「どうしてまた、放火犯なんだ?」
貴音は慎吾に椅子に掛けるよう促しながら言葉を待った。
「ああ、実は今日部活の練習中にちょっとしたことがあって」
友也はそういえば慎吾が何かしらの運動部と貴音たちのミス研兼部していることを思い出した。
「ちょっとしたこと?」
「うーん、ロケットから異臭がしてな」
「ロケット?」
友也が首をかしげた。
「ん、ああ、バドミントンのな」
「ああ、慎吾、バドミントン部だったんだ」
貴音が友也を一睨みした。
「続けて」
「ロケットがためてあるかごの一つ全体からガソリンみたいな匂いがしたんだ」
「ガ、ガソリン?」
友也は眉をひそめる。
「そう、ガソリンだ。ロケット一つ一つからガソリンの匂いがした」
「それで、放火犯と関係があるかってことね」
貴音が余裕のある表情を崩さずに話した。
「いや、もしかしたらって、だけなんだけどな」
「でも不味くないですか?」
二人の視線が友也に集まった。
「運動部から放火犯なんて、廃部になっちゃいますよ」
「まあ、何かの間違いだとは思いたい」
慎吾がうなだれるように頭を下げた。
「ここで話していても答えの分かる話じゃないわね」
貴音が表情を崩さず話した。
「週末に、現場検証していきましょう」
「本庄さん、聞きましたか?」
友也は中の空いた缶コーヒーを机において話しかけた。
「何をだ佐切くん」
貴音は椅子に深く腰掛け、膝掛けを利用していた。膝掛けは真っ黒で、彼女のコートもファーを除けば真っ黒だ。明かりが蛍光灯一つの暗い屋内ではもう少し目立つ色合いにしてくれないとホラーチックだ。
「最近続いてた不審火、連続放火事件ですね。あれで死者がでたらしいですよ」
「ああ、今日はその話で持ちきりだったな」
「本庄さん話し相手いたんですか」
友也の意外そうな表情に貴音が眉を潜めた。
サークル室の扉が軋んだ音をたてて開いた。肩幅のある大柄な武井慎吾だった。
「武井さんお疲れさまです」
友也はまだかろうじて暖かさのある缶コーヒーを差し出した。
「おつかれ」
慎吾は缶コーヒーを受け取った。慎吾の表情が少し暗い気がした。
「コーヒーおごり?」
「ああ、この間佐切くんが連れてきた田口幸也だったかな、彼が礼に佐切くんに持たせたそうだ」
貴音は慎吾に話しかけつつも不穏な慎吾の表情を感じ取っているようだ。
「少し聞きたいんだが、今話題になっている連続放火犯、そいつの手口って知ってるか?」
「放火犯の手口?知らないです」
友也は顔を横にふる。
「どうしてまた、放火犯なんだ?」
貴音は慎吾に椅子に掛けるよう促しながら言葉を待った。
「ああ、実は今日部活の練習中にちょっとしたことがあって」
友也はそういえば慎吾が何かしらの運動部と貴音たちのミス研兼部していることを思い出した。
「ちょっとしたこと?」
「うーん、ロケットから異臭がしてな」
「ロケット?」
友也が首をかしげた。
「ん、ああ、バドミントンのな」
「ああ、慎吾、バドミントン部だったんだ」
貴音が友也を一睨みした。
「続けて」
「ロケットがためてあるかごの一つ全体からガソリンみたいな匂いがしたんだ」
「ガ、ガソリン?」
友也は眉をひそめる。
「そう、ガソリンだ。ロケット一つ一つからガソリンの匂いがした」
「それで、放火犯と関係があるかってことね」
貴音が余裕のある表情を崩さずに話した。
「いや、もしかしたらって、だけなんだけどな」
「でも不味くないですか?」
二人の視線が友也に集まった。
「運動部から放火犯なんて、廃部になっちゃいますよ」
「まあ、何かの間違いだとは思いたい」
慎吾がうなだれるように頭を下げた。
「ここで話していても答えの分かる話じゃないわね」
貴音が表情を崩さず話した。
「週末に、現場検証していきましょう」
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