シャボン玉

ヨージー

文字の大きさ
4 / 4

4.

しおりを挟む
「ねぇ、一番最後まで消えなかったシャボン玉ってどんな気持ちなのかな?」
「さあ、わかんない」
「きっとさ、消えたくないって思うんじゃないかな」
「まんまだね」
「他に誰かいたら止めてもらえたり、ついていけないって諦めもつくんだ。けど、最後ってそうなれないんじゃないかな」
「難しいことを言うね」

 尚太は部屋で横になる。天井は子供の頃より少し色褪せた気がした。園崎さんははぐらかしたけど、そう、あれは初恋だった。俺の高校生活のなかで一番輝いた時間。忘れられない時間。彼女は三年生に上がる前に居なくなってしまった。彼女はだから、三年生のクラスのどこにもいない。尚太は葬儀の日も、その後も、彼女のことで涙を流せなかった。尚太のなかでは、あの夕焼けの河川敷のどうしようもなくキラキラした記憶が残っていて、消せなくて、なくしたくなくて、本当のことを受け入れきれなかった。このことは誰にも言えてないし。俺の変化なんて両親も気づいていないと思う。俺は彼女の命を奪った川の水を見ても、キラキラした思い出が、そのさきのことを考えさせてくれない。尚太の家はかろうじて浸水しなかったし、避難指示もとなりの区画までで、何も変わらない一日だった。でも、確かに何か変わってしまったようで、あの子以外にも何かがあったクラスメイトもいたようだった。でも、尚太には変わらない日々があって、理解ができなくて、わからなくなってしまった。その頃の友だちとも同窓会で顔を会わせるけど、そのことの話はあまりでてこない。皆今のことばかりだ。そのことを話すことがあってもなんだか他人事みたく聞こえてしまう。尚太よりも酷いことにあった子もだ。なんだか尚太だけが取り残されてしまったみたいに感じてしまう。忘れてはいけないとは思わない。けれど忘れたくない尚太がどこかにいる。潰れたくない、消えたくない自分の何かがある。尚太は長い息をはいた。
「次の休みは部屋の模様替えをしよう」
 尚太はその日、久しぶりにタバコを一本だけ吸った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

転身

S.H.L
青春
高校のラグビー部でマネージャーとして静かに過ごすつもりだったユリ。しかし、仲間の危機を救うため、思いがけず選手としてフィールドに戻る決意をする。自分を奮い立たせるため、さらに短く切った髪は、彼女が背負った覚悟と新しい自分への挑戦の象徴だった。厳しい練習や試合を通して、本気で仲間と向き合い、ラグビーに打ち込む中で見えてきたものとは——。友情、情熱、そして成長の物語がここに始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...