朱に交われば緋になる=神子と呪いの魔法陣=

誘蛾灯之

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情報の相違 ※

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 長い時間を掛けて散々後ろを解され、とろかされた。魔力を流し込まれる度に体が火照っていく。いや、もうアレキサンドライトが触れたところから異様に熱くて頭が茹だっていた。

 瑛士は、茹だった頭で夢だと思っていた記憶が甦ってくるのを感じた。

 ああ、思い出した。そうだ。一度この男とヤってるわと、脳裏でかちりと全てのものが合致したとき、足を思い切り広げられ、アレキサンドライトがのし掛かってきた。

「挿れるぞ…」
「あっ、んうっ……い…つぅ…ッ!」

 本来の使い方ではない場所に結構な質量のモノが侵入してくる。苦しい筈なのに、体が熱いせいで訳がわからなくなって思わず目の前のアレキサンドライトにしがみついた。すると額にキスをされ、更に奥の奥まで深くモノが埋まり、律動が始まる。
 突かれる度に自分のとは思えない声が漏れる。痛いと苦しいの中に快感が滲み出て、もう自分の体が怖くて思わず涙が出てきた。
 そんな瑛士にアレキサンドライトは優しく話し掛けてくる。

「大丈夫だ、大丈夫。きちんと治してやるから」

 そうはいうが、苦しいものは苦しい。だけど、そのうち快感の方が勝り、三回程熱いものがお腹を満たした辺りで記憶が吹っ飛んだ。





 □□□情報の相違□□□




 目を開けると、昼近くになっていた。

「夢…ではないな…」

 腰と喉とお尻が痛い。というよりも、まだ何か入っているような妙な感覚に思わず唸り声が出た。
 おかしいだろうと瑛士はぼやく。普通さ、魔力補充って、魔法とか、マジックアイテムとかでやるんじゃないのか?

「どんなエロゲだよぉぉぉ…」

 しかも自分が入れられて喘ぐ役とか、誰得…。
 ゆっくり身を起こすと、驚くほど体調が良くなっていた。ということはだ、と瑛士は悟った。一昨日も体調が良くなかったらしい。日本にいたときよりも元気だったから気が付いていなかったようだ。

「……とりあえずお風呂に入ろう」

 体は綺麗にしてくれたみたいだけど、やっぱり自分で洗った方が気持ち的にもさっぱりできるし、気分転換も出来る。力が抜けそうになる足を叱咤して瑛士はお風呂へと向かった。






 お風呂に入りさっぱりした瑛士はなんともなしにキッチンに立ち寄ってみた。
 すると昨日と同様に料理人とメイドがコンロ前でしゃがみこんでなにやら話し込んでいる。しきりに火を付けたり消したりをしながら頭をひねる様は異様であったが、瑛士は問題なく魔法陣が作動しているのを再確認できて満足し、部屋に戻った。

 さて、暇である。
 掃除をしつくしてしまった部屋は誇り一つなく、なんなら掃除道具も磨いたために本当にやることがなくて瑛士は途方にくれていた。
 こっそり廊下の掃除をしてても良いだろうか。いや、それは先日怒られてしまったから、掃除をしていてもバレなさそうな密閉空間なら即見つかりはしないだろうと思い至り、瑛士は掃除道具を布で巻き、メイドに見付からないように良さげな部屋を探した。

 瑛士はとある扉の前で足を止めた。

「こことか掃除しがいがありそうだな」

 重そうな扉を開いて中に入ると、そこは書斎であった。山ほどある本が押し込まれた棚が全ての壁際に設置されており、窓際には机と椅子。憧れの書斎にごくりと唾を飲み込みながら瑛士は近くの本棚に近寄った。

「こんなに本がたくさん……」

 自慢ではないが瑛士はわりと読書好きであった。それこそ学校の図書室の本は完読し、大人になった今でさえ創作活動をしながら電子書籍を読みまくっていた。
 本に餓えていた瑛士は目についた本を一冊手に取るとページを捲る。
 文字は問題なく読める。わからない単語もあるが、その前後の流れておおよその予想はついた。手に取ったのは歴史と魔法陣についてのものだったようで、瑛士はゲームの考察本的な感じで流し見ていると、気になる文章が目に留まった。

「…これ…」

 それは魔法陣の故障についてのものだ。

 少し前から完成された魔法陣が破壊される問題が起きている。原因は不明。
 この現象はある日突然に魔法陣の一部が変形してしまうもので、その現象が落書きされたように見えることから、イタズラ好きの妖精であるグレムリンの名前がついた。グレムリンは年々増加し、それがアスコニアスに集中していることから、魔法士団の研究員が調査した結果、魔王の呪いが漏れ出ているせいだと判明したという。

「魔王の呪いか……。というより、そんなの実際にいるものなのか」

 魔王なんて存在は体の良い悪役のイメージしかないから、実際にいるなんて実感が湧かない。

 さらに読み進めると、魔王を討伐した時に異界から神子を招いたとの記述がある。
 なんでも異界からの神子は魔王の呪いを受けにくく、更には魔法陣に関しては特殊な能力を持ち合わせている為、大変重宝されていたとか。

 パラパラとページを捲る。
 とするなら、俺はこの神子召喚に巻き込まれたって考えるのが妥当だな。そこでふと、あの夜に衝突した女の子と光を思い出した。今の流れだと神子はあの女の子ということになる。
 今ごろはお城でなんやかんやと世話を焼かれているのだろう。
 他にもなにかあるかと続きに目を走らせると、気になる箇所を見つけた。

「……ん?」

 瑛士は何度も読み返した。
『破壊された魔法陣の修復は不可能であり、魔王を封印している魔法陣がグレムリンによって破壊されていた場合、一から封印しなおす必要がある』

「修復は不可能…?」

 瑛士はそこの文章を何度も読み返し首をひねった。おかしい、だって現にコンロは直っていた。ちゃんと点火もしていたし、なんなら炎の調整だって出来ていたようにも見えた。
 情報が古いんじゃないかと、裏表紙に書いているだろう発行年を調べようとしたが、あいにくこの国が今何年なのか分からないことに気が付いた。

 本をそっと戻す。

 もしかして、この魔法陣を戻すことが不可能となっているのなら、俺が戻せてしまったのは不味いのではないか?下手したら違法とかやってはいけないことにだった場合、捕まるのではと瑛士がグルグル考え始めた時、門が空いたような音がした。
 アレキサンドライトが帰ってくる時間になっていたらしい。
 慌てて瑛士は壁に立て掛けていた掃除道具を回収して部屋へと走った。







 昨日見たのを参考に端の方で頭を下げていると、通りすがりにアレキサンドライトに髪の毛をグシャグシャにかき混ぜられた。

「クー、顔をあげてみろ」
「……」

 何なんですか?と声には出さずに言われるまま顔を上げると、アレキサンドライトが瑛士の顔を見て驚いていた。そして唇に曲げた人差し指を当てて何かを考え込んでいる。「……そうか、そういう感じになるんだなと」呟くのが聞こえ、瑛士はなんのこっちゃでそのまま突っ立っているしか出来ない。
 ようやく思考の海から戻ってきたアレキサンドライトがニッコリ笑い、こう言った。

「後で鏡を見せてやる」







 玄関でのお迎えでは意味が全く分からなかったが、部屋にヘリオドルが手鏡を持ってきてくれて、ようやくアレキサンドライトの言葉の意味を理解した。

「……目が、赤い…?」

 正確にいうならば、下半分が焦げ茶のままなのだが上半分が赤く染まっていた。まるでアレキサンドライトの瞳のような色だ。これは一体どういう事なのか。
 瑛士のその疑問は夕飯時に判明した。

「恐らく行為の際、クーに私が注ぎ込んでいる魔力が良い感じに浸透している証だろう」

 アレキサンドライトのその言葉に瑛士はフォークで持ち上げていた肉を皿の中に落としてしまった。

「そのー、どういう事ですか?」
「言葉通りの意味だ。クーのぐちゃぐちゃになっていた生身に私が魔力を注いで修復し続けているんだ。冷静に考えたらこうなるのは当然の事だったって話だ」
「全然意味がわからないのですが…」

 アレキサンドライトは手元の水を飲んだ。

「つまりは、今クーの体内の三割程は私の魔力で動かしているようなものだ。ああ、違うな。体内循環魔力も含めたら五割だ。何でだかお前は魔力を生み出す器官が正常でないみたいでな、私がああやって魔力を注ぎ込んでおかないと命が危険なんだ。というか、もしかして魔力とかそういう知識はお前の世界とは違うのか?」
「……そもそも魔力も魔法も存在していないです」

 今度はアレキサンドライトがビックリしていた。
「冗談だろ?」というアレキサンドライトに瑛士は「冗談ではありません」と答える。すると、アレキサンドライトは信じられないという顔をしながらも、魔力の事や魔法の事を教えてくれた。

 この世界の人間は生まれつき魔力を作り出し循環させているのだという。
 魔力は食事で摂ったものから『臓』、いわゆる消化器官で生み出し、心臓と血液によって体内に巡らせる。しかし瑛士の場合、召喚が正常ではなかったため、今のところ自力で魔力を生み出せず、心臓で貯蔵できず、血液で巡らすこともうまくできていないらしい。
 日常生活においても魔力は消費するものなので、生み出せないままだと衰弱死するのだと。

 そこまで教えて貰って、瑛士はハッとした。

 ということは、昨日は相当ヤバかったのではないか?
 これは、無自覚のうちに相当アレキサンドライトに迷惑を掛けている。
 思わず冷や汗を流して瑛士はアレキサンドライトを見た。どうやって対価を支払えば良いのか検討もつかない。
 顔色を悪くしている瑛士にアレキサンドライトはニヤリとした。

「あの、その、アレキサンドライト様…」
「クー」
「は、はい!」
「ダレクと呼べ。そっちのが言いやすいだろ?」
「……はい?」

 なんで突然呼び方の話になっているのか。
 しかしアレキサンドライトは手を組んで、「ほら呼んでみろ」と促してくる。

「………………、……ダレク様」
「よし。それでいい」

 満足げにダレクは目を細めると、中断していた食事を開始した。なんなんだよと瑛士はダレクを見ながら皿の中に転がっている肉をフォークに突き刺した。

「ところで、クー」
「はい、何でしょう。…ダレク様」
「私の書斎になにか用でもあったのか?」
「!?」

 バレてる。入っては不味かったかと慌てて謝罪を述べようとしたが、それよりも早くダレクは続けた。

「明日は休みだ。本が好きなら町で好きな本を買ってやる」

 と言われ、瑛士は心のなかで小踊りしたのだった。

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