スイートアンドビターエゴイスト〜淫乱生徒会長の調教日記〜

うめこ

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第十四章:彼らにとっては最後の青い春

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 そして、パフォーマンスがはじまる。まずは音楽と花火による演出から。音楽がなりはじめて空に花火があがると、生徒たちはみんな歓声をあげていた。沙良と波折はそれぞれステージの端に対極で待機していて、沙良のほうには可織がついている。可織は沙良の衣装やカツラをチェックしながら、にこにこと笑っていた。どちらかと言えばいつもクールな可織が楽しそうにしているのは珍しい。


「ロミオとジュリエット、昔読んだの。まさかジュリエットを男の子がやることになるなんて思わなかった」

「……俺も思わなかったです……」

「波折と、神藤くんがねー。あんまり合わないなあ」

「特に俺がね」

「いやいや、大丈夫、女装は似合ってるよ。関係が合わないなあって」

「関係?」

「ロミオとジュリエットは敵同士が惹かれ合って、そして破局しちゃうお話でしょ。波折と神藤くん、仲いいからさ。そんな悲恋を二人が演じるなんて笑っちゃう」

「……」


 あはは、と笑って可織はぱしりと沙良の背を叩いた。そろそろ沙良が出る時間だ。ステージの袖で波折が「こい」と手招きをしているのが見える。可織が後ろから「がんばって」と声をかけてきて、沙良は苦笑いで答えて、舞台道具の階段に、足をかけた

 窓辺を模した舞台装置の上に沙良があがっていくと、生徒たちから歓声があがる。遠目からではすぐにジュリエットが女装した男子生徒だとは気付かないのだろう。しかし、沙良のことを知っている生徒たちが徐々に声を上げ始めて、歓声が笑い声に変わる。かーっと体が熱くなってくるのを感じながら、沙良はふん、と前を見据えた。そうすれば、波折が現れて、生徒たちの注目がそちらにいった。あの挨拶のときのようなすさまじい歓声が再び巻き起こる。すごい圧だった。声はまるで津波のようにステージに押し寄せてきて、質量さえも感じるほど。波折はいつもこんなものをあびて平然としているのかと思うと、改めて尊敬の念を抱いてしまう。


『――ああ、あれは僕の可愛い人、僕の恋する人』


 波折がセリフを言うと、ステージがわずかなざわめきを残して静まり返る。この時点でこの演目がロミオとジュリエットだと気付いている人は多分少ない。波折が次に何を言うのだろうと皆目を輝かせてステージをみている。


『闇にも眩い君の姿は、翼のはえた天使のよう』


 ああ、そろそろ自分のセリフだ、と沙良ははらはらしながら波折をみつめる。いやほんとにステージの上の波折はかっこいい。今の自分は彼と恋におちて、そして悲しい運命を辿るヒロイン。自分の状況とは違うな、と心の中で笑いながら、沙良は自分の出番がやってきたと深呼吸をする。


『ああ、ロミオ、ロミオ、どうして貴方はロミオなの?』


――ここで、生徒たちはこれがロミオとジュリエットであると気付いたらしい。会場がざわめいて、そして沙良がジュリエットのセリフを言っていることがやはりおかしいのか笑ってしまっている。沙良は自分でも気持ち悪いわ!と突っ込みながら、セリフを続ける。


『名前を捨てて。それが無理なら私を愛すると誓って。憎い敵は貴方の名前だけ、貴方はモンタギューじゃない、貴方は貴方――』


 幾度と無く練習したセリフを口する。セリフの間は花火はお休み、光の演出のみ。正直男子が見苦しい女装をしているくらいなら花火を打ち上げていたほうが綺麗なんじゃないかと思うが、意外と生徒たちは楽しんでいるようだ。

 長い長いセリフを述べていって、そしてようやくラストに近づいてゆく。


『おやすみ、別れがこんなにも甘くて切ないのなら、いつまでもおやすみを言い続けていたいわ』


 ああ、わりとこのセリフは好きだと思いながら沙良が最後のセリフを言えば、波折もそれに応えるセリフを言って――二人の出番は終わりだ。退場と共に再び花火があがる。始めの花火よりも派手で、音楽も壮大で。そんな演出に生徒たちが大きな拍手を送る。

 最後に、汐花がもう一度舞台にあがって挨拶をして、前夜祭は終了だ。あとは各々鳴り続けている花火をみたり、帰ったり。生徒会のメンバーは舞台の上をさっと片付けて、あとは花火が終わるのを待つのみだ。前夜祭はわりとあっさり、時間こそは短いものの、盛り上がりはすごいものだった。ステージ発表でも花火大会でも、すべてのパフォーマンスで生徒全員が騒ぎ立てる。明日への本番にこのテンションを持って行こうとしているみたいに。

 舞台の片付けを終えると、先に波折たちが舞台から降りて残りの花火を眺めていた。花火はそんなに何発も打ち上げられるものではないから、もたもたとしていると終わってしまう。ステージにあがっていると全くみることのできなかった花火を一目みたくて、沙良と可織も急いで波折たちのもとへ行ったのだ。


「可織ー、神藤、早く」


 鑓水が手招きをする。そろそろ終わってしまうのだろう。なんとか花火の見える、波折たちの位置まで辿り着いて二人が空を見上げると――大きな花火がひとつ、どん、とあがった。


「……おお、すごい……!」


 どうやらそれは最後の花火のようだった。ぱらぱらと光の花びらが散っていって、空には静寂が訪れる。せっかくの花火をほとんどみることができなかったのは悔しいが……沙良はぱっと顔を輝かせて波折に言う。


「……一緒に、みれましたね!」


 がし、と波折の手を掴んで沙良がそんなことを言ったものだから、他のメンバーは「え」と目を丸くした。可織と月守が(こいつ本気で波折のことが好きなのか……)といった顔をしている。沙良がしまったと引きつった笑顔を浮かべていれば、鑓水がやれやれとため息をついた。


「おいおいジュリエット、残念ながら二人きりでみてないからノーカンだ。どんまい」

「えー……ってジュリエット呼びはやめてください」

「だってジュリエットの格好してんじゃん」


 間に挟まれている波折が苦笑している。


『――夜のろうそくは燃え尽きて、楽しげな朝の光が霧のかかった山の頂で爪先立ちをしている。ここを去って生き延びるか、留まって死ぬか』

「……ん? 波折先輩、それは何かの詩ですか?」

「ロミオのセリフ」

「今日やったシーンのセリフじゃないですね。ロミジュリは全部読んだことないので聞いたことないです」

「そう」


 なんでこのタイミングでロミオのセリフを言った?と疑問に思ったが、なんとなく、花火が消えた夜空に似合う言葉だったから、すっとそのセリフは心に入り込んできた。隣で可織が「あら~……」となにやら憐れみの声をだしているということには、沙良は気づかなかった。

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