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第十四章:彼らにとっては最後の青い春
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『はじめまして、viento(ビエント)です! 僕達はボーカルの北村、ギターの舞岡、ベースの比木、キーボードの神藤、ドラムの結城の五人で構成されるバンドです、よろしくお願いしますー! 時間もあんまりないのでさっそく演奏させていただきますね!』
一個前のバンドは『イエーイ! 俺達はRISING! 夜露死苦!』みたいな挨拶ではじめていたものだから、ずいぶんと温度差があるな……と波折は少し笑ってしまった。沙良たちのvientoというバンドはどうやら爽やか路線のようだ。キーボードがいる時点でゴリゴリのロックという可能性は大分減るのだが。
『一曲目はER(最近若者にはやりのバンドグループ)の『I'll go ahead』です!』
北村の紹介と共に、ドラムスティックの合図が鳴り響く。
イントロがなりはじめ、客席が沸く。そこまで流行りに興味のない波折は初めて聞いた曲だったが、綺麗な曲調のいい曲だな、と思った。一つ前のバンドのロックなのかパンクなのかよくわからないがとにかく激しい曲を先に聞いていた波折は、沙良がそういうものを演奏したらどうしようと考えていたため、ほっとしてしまう。キーボードの効いた爽やかな曲調が、沙良たちによく似合っている。彼らの奏でる音楽は、聞いていて心地よいような、そんな音楽だった。
「上手いじゃん、神藤」
「うん」
「なんかバンドってTHE・青春って感じがしてみててなんかぎゅーってなるわ」
「慧太も普通に青春する歳じゃん、大人みたいなこと言って」
「いやー、俺に青春なんて似合わないし」
波折がちらりと鑓水の横顔を窺い見る。
青春が似合わない。ああ、そういえば鑓水は少し歪んだ環境で育っていたんだったかな、と思い出す。
「……」
それをいったら、自分も同じだ。青春を謳歌するような、そんな環境で育ってなんかいない。
ああいった、きらきらしたなかを生きる彼に自分は、似つかわしくない。
楽しげに手拍子をする周囲の観客と、演奏している彼らがまるで別世界の映像のような、そんな錯覚を覚えた。いま、自分はこのなかに溶け込んでいるのだと、その事実があまり実感できない――
『ありがとうございましたー!』
二曲目も歌い終わった時、北村が再びMCに入る。時間制限を考えるとあと一曲、といったところだろう。トリで何を歌うのだろうか……波折がそう思っていると、北村が沙良を手招きして、自分の隣に立たせる。
『次で最後の曲なんですけど、次の曲はなんと神藤が書いたオリジナルです!』
「まじか」
北村の言葉に、生徒会のメンバーはみんな驚いた。あいつ作曲できんのか、と。波折も沙良がそこまでできるとは思っていなかったため、びっくりしていた。
『ちなみに歌詞も神藤が書いています! 神藤くん、どういった想いをこめて書いたんですか?』
『えーっと、俺の好きな人のことを想って書きました』
『えっ!? 好きな人!? おまえこの曲渡してきたとき「なんとなく書いた」とか言ってたじゃん聞いてねえよ!』
好きな人、それを聞いて波折がかあっと顔を赤らめる。そんな、一昔前の青春ドラマみたいなことを自分がされるなんて思っていもいなかったのだ。思わずドキドキとしてしまって、恥ずかしがればいいのか困ればいいのかわからない。隣に座っている鑓水にいたってはにやにやとにやけている。
『好きな人、ここにいる?』
『います』
『えー、じゃあなにかここで言ってよ。告白でもいいよ』
周りの客たちが、きゃーきゃーと騒ぎ出す。「神藤くんって好きな人いたんだ」とか「こっちまでドキドキしてくる~!」、とか。女子なんかにとってはきっと憧れのシチュエーションなんだな、と思いつつ波折はそろそろ恥ずかしさの限界に達してきて俯いてしまう。それをみている鑓水からすれば(そんなことやってるの周りにおまえだってバレるぞ……)と言いたくて仕方なかったのだが。
『いや……特別なことは言いません――先輩、好きです』
「……っ」
ぱち、と波折と沙良の目が合った。波折はかあっと頬を紅潮させて固まってしまう。ステージの上で、沙良が照れたように、微笑んだ。
『うわー! 甘酸っぱい! その先輩にでてきて欲しいところだけど時間ないから、じゃあ神藤くん曲の紹介お願いします!』
『あ、はい。『青い春』です』
沙良がキーボードのところへ戻ってゆくと、早速曲がはじまった。周りの観客が「素敵」と言っている中、波折はきゅ、と唇を噛んで黙って聞いていた。
タイトルに相応しい爽やかなイントロから入り、そして軽快な歌がはじまる。北村の声質がさらっとしているのと曲調のせいで甘ったるくは聞こえないが、歌詞がなかなかにストレートな恋の詩だ。ところどころ自分との思い出が歌詞に混ざっていて、本当に自分に向けて書かれている曲なのだと感じ取った波折はますます顔を赤くする。よく聞いていけばバンドメンバーそれぞれにソロパートがあって見せ場を用意してあげていたりと、沙良の作曲の技巧なんかがわかるのだが……今の波折にそんなことはわからない。
「……」
まっすぐな、恋のうた。よどみがなくて、きれいで、きらきらしていて。そんなものが自分に向けられて、なんだかどうしようもなくて。
「……なんで、俺のことなんか好きなの」
「波折?」
ぼそ、と波折が何かを呟いたから鑓水がはっと波折のほうに顔を向ければ……波折は俯いて、泣いていた。
一個前のバンドは『イエーイ! 俺達はRISING! 夜露死苦!』みたいな挨拶ではじめていたものだから、ずいぶんと温度差があるな……と波折は少し笑ってしまった。沙良たちのvientoというバンドはどうやら爽やか路線のようだ。キーボードがいる時点でゴリゴリのロックという可能性は大分減るのだが。
『一曲目はER(最近若者にはやりのバンドグループ)の『I'll go ahead』です!』
北村の紹介と共に、ドラムスティックの合図が鳴り響く。
イントロがなりはじめ、客席が沸く。そこまで流行りに興味のない波折は初めて聞いた曲だったが、綺麗な曲調のいい曲だな、と思った。一つ前のバンドのロックなのかパンクなのかよくわからないがとにかく激しい曲を先に聞いていた波折は、沙良がそういうものを演奏したらどうしようと考えていたため、ほっとしてしまう。キーボードの効いた爽やかな曲調が、沙良たちによく似合っている。彼らの奏でる音楽は、聞いていて心地よいような、そんな音楽だった。
「上手いじゃん、神藤」
「うん」
「なんかバンドってTHE・青春って感じがしてみててなんかぎゅーってなるわ」
「慧太も普通に青春する歳じゃん、大人みたいなこと言って」
「いやー、俺に青春なんて似合わないし」
波折がちらりと鑓水の横顔を窺い見る。
青春が似合わない。ああ、そういえば鑓水は少し歪んだ環境で育っていたんだったかな、と思い出す。
「……」
それをいったら、自分も同じだ。青春を謳歌するような、そんな環境で育ってなんかいない。
ああいった、きらきらしたなかを生きる彼に自分は、似つかわしくない。
楽しげに手拍子をする周囲の観客と、演奏している彼らがまるで別世界の映像のような、そんな錯覚を覚えた。いま、自分はこのなかに溶け込んでいるのだと、その事実があまり実感できない――
『ありがとうございましたー!』
二曲目も歌い終わった時、北村が再びMCに入る。時間制限を考えるとあと一曲、といったところだろう。トリで何を歌うのだろうか……波折がそう思っていると、北村が沙良を手招きして、自分の隣に立たせる。
『次で最後の曲なんですけど、次の曲はなんと神藤が書いたオリジナルです!』
「まじか」
北村の言葉に、生徒会のメンバーはみんな驚いた。あいつ作曲できんのか、と。波折も沙良がそこまでできるとは思っていなかったため、びっくりしていた。
『ちなみに歌詞も神藤が書いています! 神藤くん、どういった想いをこめて書いたんですか?』
『えーっと、俺の好きな人のことを想って書きました』
『えっ!? 好きな人!? おまえこの曲渡してきたとき「なんとなく書いた」とか言ってたじゃん聞いてねえよ!』
好きな人、それを聞いて波折がかあっと顔を赤らめる。そんな、一昔前の青春ドラマみたいなことを自分がされるなんて思っていもいなかったのだ。思わずドキドキとしてしまって、恥ずかしがればいいのか困ればいいのかわからない。隣に座っている鑓水にいたってはにやにやとにやけている。
『好きな人、ここにいる?』
『います』
『えー、じゃあなにかここで言ってよ。告白でもいいよ』
周りの客たちが、きゃーきゃーと騒ぎ出す。「神藤くんって好きな人いたんだ」とか「こっちまでドキドキしてくる~!」、とか。女子なんかにとってはきっと憧れのシチュエーションなんだな、と思いつつ波折はそろそろ恥ずかしさの限界に達してきて俯いてしまう。それをみている鑓水からすれば(そんなことやってるの周りにおまえだってバレるぞ……)と言いたくて仕方なかったのだが。
『いや……特別なことは言いません――先輩、好きです』
「……っ」
ぱち、と波折と沙良の目が合った。波折はかあっと頬を紅潮させて固まってしまう。ステージの上で、沙良が照れたように、微笑んだ。
『うわー! 甘酸っぱい! その先輩にでてきて欲しいところだけど時間ないから、じゃあ神藤くん曲の紹介お願いします!』
『あ、はい。『青い春』です』
沙良がキーボードのところへ戻ってゆくと、早速曲がはじまった。周りの観客が「素敵」と言っている中、波折はきゅ、と唇を噛んで黙って聞いていた。
タイトルに相応しい爽やかなイントロから入り、そして軽快な歌がはじまる。北村の声質がさらっとしているのと曲調のせいで甘ったるくは聞こえないが、歌詞がなかなかにストレートな恋の詩だ。ところどころ自分との思い出が歌詞に混ざっていて、本当に自分に向けて書かれている曲なのだと感じ取った波折はますます顔を赤くする。よく聞いていけばバンドメンバーそれぞれにソロパートがあって見せ場を用意してあげていたりと、沙良の作曲の技巧なんかがわかるのだが……今の波折にそんなことはわからない。
「……」
まっすぐな、恋のうた。よどみがなくて、きれいで、きらきらしていて。そんなものが自分に向けられて、なんだかどうしようもなくて。
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