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第十四章:彼らにとっては最後の青い春
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体育館の外は、出店で賑わっている。泣いているらしい波折がいく場所と言えば……もっと、人気のないところだろう。沙良はきょろきょろとして人の少ないところを探して……それらしいところを見つける。体育館の裏。あそこには出店もないし、人目に触れないだろう。
泣いていた……なんでだろう、と沙良はぐるぐると考える。普通の女の子だったら、サプライズ的なあの曲に喜んで泣くのだろうが……波折はどうだろう。もしかしたら皆の前でああいうことを言われるのが嫌だった? でも名前まではあげていないし……。悪いことしたかな、なんで泣いちゃったのかな、考えて考えて、気づけば体育館の裏にたどり着いていた。
「あ……」
案の定、そこに波折はいた。壁によりかかるようにしてしゃがみこんでいる。ひく、ひく、と時折肩がゆれているから、やっぱり泣いているようだ。
「あの……波折先輩?」
「えっ……沙良?」
波折に近づいていって、声をかける。そうすると、波折がぱっと顔をあげた。
どきっとした。涙に濡れた瞳がきらきらと輝いていて、びっくりするくらいに、綺麗だったから。そして沙良を視界に留めた瞬間、波折が眉をきゅっと寄せて更にぼろぼろと涙を流し出したから。
「波折先輩……もしかして……ああいうの嫌だった……?」
「ま、まさか……! よかったよ、すごくよかった。沙良のつくった曲よかったよ」
「じゃあ……どうして泣いているんですか」
沙良がしゃがみこんで波折の顔を覗きこめば……その視線から逃げるように俯いた。手の甲で涙を拭っている様子は弱々しくて、沙良を不安にさせる。
「……俺は……汚い人間だから。あんなふうにきらきらしたものは、似つかわしくない」
「汚くないよ、先輩……俺、先輩の全部を好きだから。あの曲、先輩のことを想ってかいたんだよ、受け取ってください」
「……でも、」
なかなか泣き止まない波折の手を、沙良がつかむ。
「あの曲のタイトル……「青い春」とかいって、ありがちなタイトルだけど、ちゃんと先輩のこと考えて付けました。俺、JSにはいってよかったって思っています。先輩に会えたから、今の高校生活が楽しい。高校ってさ、一番青春っぽい時期でしょう。俺の青春、全部先輩に持っていかれているから……俺の一番大切な時期、先輩に恋していたから……だから、あんなタイトルにしたんです」
「……さら」
「好きです、先輩。あのたった3分の曲にはこめられないくらい、大好きです」
「――んっ……」
ぐ、と頭を引き寄せてキスをする。
「……っ」
がやがやと、遠くの方から賑いが聞こえてくる。風がゆるりと吹けば、木の葉が揺れた。誰かに見つかればきっと騒ぎになるキスを、こうしてこっそりと二人ですることに微かな高揚を覚える。青春とか、あんまり連呼はしたくないけれど、なんだかものすごく青春っぽいことをしているなあ……そう思った。
「先輩」
「……ん」
「……今度、うちで俺があれをピアノで弾くから、聞いてくれますか」
「うん……」
ああ、泣かないでよ。どうしてこの人はそんなに自分を否定するのだろう。たしかにこの人にはまだまだ謎な部分が多いけれど……それでも、俺は好きなのに。俺が好きって事実は変わらないのに。
沙良は波折の涙を指で拭ってやって、手を引いて立たせてあげた。いまだぐすぐすとしている波折を、ぎゅっと抱きしめてあげる。
「……さら」
「はい」
「ありがと……」
「はい……」
いつかこの人に、屈託のない笑顔を見せて欲しいなあ……。
そう願って、沙良はもう一度、波折にキスをした。
泣いていた……なんでだろう、と沙良はぐるぐると考える。普通の女の子だったら、サプライズ的なあの曲に喜んで泣くのだろうが……波折はどうだろう。もしかしたら皆の前でああいうことを言われるのが嫌だった? でも名前まではあげていないし……。悪いことしたかな、なんで泣いちゃったのかな、考えて考えて、気づけば体育館の裏にたどり着いていた。
「あ……」
案の定、そこに波折はいた。壁によりかかるようにしてしゃがみこんでいる。ひく、ひく、と時折肩がゆれているから、やっぱり泣いているようだ。
「あの……波折先輩?」
「えっ……沙良?」
波折に近づいていって、声をかける。そうすると、波折がぱっと顔をあげた。
どきっとした。涙に濡れた瞳がきらきらと輝いていて、びっくりするくらいに、綺麗だったから。そして沙良を視界に留めた瞬間、波折が眉をきゅっと寄せて更にぼろぼろと涙を流し出したから。
「波折先輩……もしかして……ああいうの嫌だった……?」
「ま、まさか……! よかったよ、すごくよかった。沙良のつくった曲よかったよ」
「じゃあ……どうして泣いているんですか」
沙良がしゃがみこんで波折の顔を覗きこめば……その視線から逃げるように俯いた。手の甲で涙を拭っている様子は弱々しくて、沙良を不安にさせる。
「……俺は……汚い人間だから。あんなふうにきらきらしたものは、似つかわしくない」
「汚くないよ、先輩……俺、先輩の全部を好きだから。あの曲、先輩のことを想ってかいたんだよ、受け取ってください」
「……でも、」
なかなか泣き止まない波折の手を、沙良がつかむ。
「あの曲のタイトル……「青い春」とかいって、ありがちなタイトルだけど、ちゃんと先輩のこと考えて付けました。俺、JSにはいってよかったって思っています。先輩に会えたから、今の高校生活が楽しい。高校ってさ、一番青春っぽい時期でしょう。俺の青春、全部先輩に持っていかれているから……俺の一番大切な時期、先輩に恋していたから……だから、あんなタイトルにしたんです」
「……さら」
「好きです、先輩。あのたった3分の曲にはこめられないくらい、大好きです」
「――んっ……」
ぐ、と頭を引き寄せてキスをする。
「……っ」
がやがやと、遠くの方から賑いが聞こえてくる。風がゆるりと吹けば、木の葉が揺れた。誰かに見つかればきっと騒ぎになるキスを、こうしてこっそりと二人ですることに微かな高揚を覚える。青春とか、あんまり連呼はしたくないけれど、なんだかものすごく青春っぽいことをしているなあ……そう思った。
「先輩」
「……ん」
「……今度、うちで俺があれをピアノで弾くから、聞いてくれますか」
「うん……」
ああ、泣かないでよ。どうしてこの人はそんなに自分を否定するのだろう。たしかにこの人にはまだまだ謎な部分が多いけれど……それでも、俺は好きなのに。俺が好きって事実は変わらないのに。
沙良は波折の涙を指で拭ってやって、手を引いて立たせてあげた。いまだぐすぐすとしている波折を、ぎゅっと抱きしめてあげる。
「……さら」
「はい」
「ありがと……」
「はい……」
いつかこの人に、屈託のない笑顔を見せて欲しいなあ……。
そう願って、沙良はもう一度、波折にキスをした。
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