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第十四章:彼らにとっては最後の青い春
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「冬廣会長……おかえりなさい!」
学園祭が始まる前と同じように……波折は篠崎の家に帰った。篠崎は波折をみるなりぱあっと瞳を輝かせ、ぎゅっと波折を抱きしめる。
「冬廣会長……僕に会えなくて寂しかったでしょう? 僕もすごく寂しくて……」
「ああ、うん」
波折は靴を脱いで、家の中にあがる。迷いなく例の改造部屋まで歩いて行けば、後ろから篠崎がるんるんとした調子でついてくる。
「冬廣会長……早く僕とエッチしたいんですよね!? 何をしますか!?」
「あー……そうだね、とびっきりアブノーマルなことやっていいよ。この部屋にくるのも最後だし」
「最後? 何言ってるんですか、これからもずっと僕と一緒ですよ。まあ、でも冬廣会長がそんなに僕とすごいことしたいなら、応えてあげなくちゃなあ」
篠崎はにこにこと笑って、波折の手を掴んだ。波折が悍ましいほどに冷めた目つきをしていることに、気付いていないのだろうか。そのまま天井からぶら下がる手錠で波折の手首を拘束してしまう。
さっそく、と篠崎が鞭を使って波折を嬲ろうとしたときのことだ。部屋の中に、ドアチャイムが鳴り響いた。時刻は9時をまわっている。こんな時間に誰だろう、と篠崎は顔をしかめたが、もう一度チャイムが鳴ったところで舌打ちをしながら玄関に出て行った。
「まったく誰ですか……今から冬廣会長と……」
波折との愉しい時間を邪魔された篠崎はご立腹だった。イライラとしながらロックを解除して、扉をあける。
「……え?」
そこに現れた人物に、篠崎は驚きのあまり固まってしまった。扉を開けた先にいたのは――
「――ガッ……」
その人物の名を口にしようとした瞬間、篠崎の口に何かが押し込まれる。固く、冷たいなにか。あんまりにも勢い良く突っ込まれたため、前歯が折れてしまい、口の中に血の味が広がる。痛み、それから恐怖。突然の来訪者への驚き。恐る恐る自らの口に入れられているものをみて、更に篠崎は絶望的な恐怖に蝕まれ、ガタガタと震えだす。
「やあ、篠崎くん。うちの波折がここに来ていると思うんだけど……お邪魔してもいいかな」
口に入れられたのは、拳銃だった。そして、拳銃を篠崎の口に突っ込んでいるのは――「ご主人様」。波折の部屋に仕込んだ隠しカメラに映しだされていた、「ご主人様」だ。
「魔術がでてきてから拳銃は廃れたもんだけど……いいよね。視覚的で且つ絶対的な恐怖を相手に与えられる。篠崎くん、これ、偽物じゃないからね。俺が引き金を弾けば、君の頭は吹っ飛ぶよ」
「……っ、……!」
なぜこの男がここに来た。波折がここにいることを知って、彼は自分に何をする。様々な思惑が篠崎の脳裏に浮かんだが、抵抗すれば自分は死ぬ。
篠崎はぼろぼろと涙を流しながら、家の奥を指さした。篠崎が素直に自分の言うことを聞き入れると判断した男はにっこりと笑うと、篠崎の口から拳銃を引き抜く。
「あっ、……あの、……な、にをしに……」
「黙って歩いて」
背中に銃をつきつけられて、篠崎はひっと飛び跳ねる。涙目になりながら歩いて、そしてあの部屋へ。篠崎が扉を開けると「その光景」が男の目に飛び込んでくる。
「……はあ、これは聞いていたよりも大分……」
まるで拷問部屋のような、たくさんのSM用の道具が置かれた部屋。その中心に手をまとめあげられて拘束された波折。男はそれらをみると一周回って感心したように笑い出す。
「久しぶりー、波折。もうちょっと遅く来たほうがよかったかな?」
「……いえ」
男は波折に近づいていって、にっこりと微笑みかける。するりと波折の頬をなで上げれば、波折はぴくん、と震えて艶やかなため息を吐いた。
「波折はすっごい淫乱でね、エッチは大好きなんだけどねー……君とのエッチは嫌だったみたいだよ?」
「……え?」
男は波折に頬ずりをしながら、篠崎に言い放った。波折は男に心酔したようにうっとりとしていて、もはや篠崎のことは目に入っていない様子。まるで自分のことなんて興味ないといった波折のその姿に、篠崎はショックを受け震えだす。
「残念。もしも波折に好かれていたら結末は変わったかもしれない。あー、いや、それはないかも。エッチが上手でも波折は莫迦のことは好きにならないから」
「え、あの、さっきから、何を……」
「教えてあげようか、波折が俺に君のことをなんて言っていたか。『莫迦に生かす価値はない』だ。どんまーい! おまえは今日ここで死ね」
その瞬間、篠崎の身体に強烈な痛みがはしる。何らかの魔術がかけられたらしい。全身が焼かれるようにびりびりと痛み、まともに動けなくなってしまった。喉にもそれは効いているのか、声を出すこともできない。篠崎はベッドに転がり、ばたばたと悶えることしかできなかった。
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