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第四章:フォール・イン・ラブ
10
「……帰ります」
風呂からあがったらしい波折はリビングにきて沙良の顔をみるなり、そう言った。顔を青ざめさせて、目線が落ち着かない。シャワーをあびて頭もすっきりしたのだろう、状況をのみ込み始めたようだ。
「か、帰るっていっても……もう外、暗いですよ。危ないし、泊まっていきませんか。明日は学校休みだし」
「……帰る」
「ちょ、ちょー! 波折先輩」
リビングの端においてあった自分の荷物を掴むと、波折は沙良に背を向けて歩き出す。慌てて沙良が波折の手を掴めば、ぎょっとしたように肩を震わせて、その手を払った。
振り向いた波折は何かに怯えるように、唇を震わせている。じろりと沙良を睨みつけ、一歩、後退した。
「……もう、俺に関わるな。俺に、近付くな」
「な……お、落ち着いてください、波折先輩……あれは事故みたいなもので……すみません、あんなことしたのは謝りますから……!」
「そうじゃない……ああいうことになったのは、沙良のせいじゃないから怒ってなんかいない……でも、……とにかく、これ以上沙良と親しくなりたくない」
「怒ってないならなんで……!」
「……っ」
あんまりにも拒絶されるものだから、思わず沙良は波折を引き寄せて、自分の腕のなかに閉じ込めてしまった。そうすれば波折はびくん、と震えて、逃げるように沙良の胸板をぐいぐいと押してくる。
「だから……こういう風になるのが、嫌なんだよ……! 沙良……あんまり俺のこと、気にかけるな!」
「意味わかんねえって! 好きなんだから仕方ないだろ! あっ、……と、友達として!」
「俺のこと好きになると沙良が傷つくんだってば!」
「……それ、昼間言ってた、波折先輩が友達作っちゃいけない理由ですか? 俺、言ったじゃないですか、無理やりにでも波折先輩との間の壁壊すって。たとえ傷つくとしても、俺は波折先輩と友達になりたい」
「……だって、あんな……あんなことしたら……友達以上の関係になるかもしれないから……」
「えっ?」
友達以上の関係。そう言われて、沙良はぴたりと固まる。
昼間は少しだけ穏やかだったのに、今になって急に拒絶してきたのは……あの異空間でいやらしいことをしてしまって、その行動が友達以上の関係になるということにつながるかもしれないから? 人に好かれることをなぜか恐れる波折にとって、友達以上の「好き」は脅威になる。
「……波折先輩……なんで先輩はそんなに人に好かれることを怖がっているんですか?」
「……」
「……そのわりには完璧な人として振舞っているし。本当に人から嫌われたいならもっと人目を避ければいいじゃん」
「……そ、それは……」
波折の行動には一貫性がない。だから本人もこんなにふらふらとした態度をとるんじゃないか。本当は人と仲良くなりたいのに好かれることを怖がって、好かれることを怖がるわりには羨望の眼差しを受けるJSの生徒会長として振る舞って。
「……先輩。俺、迷惑?」
「えっ……」
「先輩は俺のこと、嫌いですか」
理解できない。波折が話してくれなければ、きっと真実はわからない。
でも、波折のことが好きという気持ちはとまらない。どんなに波折が人からの好意におびえているとしても、彼のことが好き。
沙良は波折を抱く腕に力を込める。
「や、やめっ……」
腰に手を添えて、頭を引き寄せて。彼の首元に顔をうずめて。そうしてやれば波折はどさりと荷物を落とす。
「……き、嫌い……嫌いだよ、沙良のことは」
「……嘘でしょ」
「嫌いだ……! 大嫌いだって! 鬱陶しいんだよ!」
「……あっそ」
波折は必死に沙良を拒絶した。
ちょっとずつ距離を縮められそうだったのに。また、ぱっくりと距離が空いてしまった。ああ、ちくしょう、魔女めなんてことするんだよ。
沙良のなかでもやもやと不満が渦巻くが、波折への気持ちは変わらない。
「……俺は好きだよ、先輩」
ぴく、と震えた波折は、それ以上抵抗してこなかった。抱きしめ返してもくれなかった。ただ、そっと沙良の肩に頬を寄せて、すん、と鼻をすすっていた。
風呂からあがったらしい波折はリビングにきて沙良の顔をみるなり、そう言った。顔を青ざめさせて、目線が落ち着かない。シャワーをあびて頭もすっきりしたのだろう、状況をのみ込み始めたようだ。
「か、帰るっていっても……もう外、暗いですよ。危ないし、泊まっていきませんか。明日は学校休みだし」
「……帰る」
「ちょ、ちょー! 波折先輩」
リビングの端においてあった自分の荷物を掴むと、波折は沙良に背を向けて歩き出す。慌てて沙良が波折の手を掴めば、ぎょっとしたように肩を震わせて、その手を払った。
振り向いた波折は何かに怯えるように、唇を震わせている。じろりと沙良を睨みつけ、一歩、後退した。
「……もう、俺に関わるな。俺に、近付くな」
「な……お、落ち着いてください、波折先輩……あれは事故みたいなもので……すみません、あんなことしたのは謝りますから……!」
「そうじゃない……ああいうことになったのは、沙良のせいじゃないから怒ってなんかいない……でも、……とにかく、これ以上沙良と親しくなりたくない」
「怒ってないならなんで……!」
「……っ」
あんまりにも拒絶されるものだから、思わず沙良は波折を引き寄せて、自分の腕のなかに閉じ込めてしまった。そうすれば波折はびくん、と震えて、逃げるように沙良の胸板をぐいぐいと押してくる。
「だから……こういう風になるのが、嫌なんだよ……! 沙良……あんまり俺のこと、気にかけるな!」
「意味わかんねえって! 好きなんだから仕方ないだろ! あっ、……と、友達として!」
「俺のこと好きになると沙良が傷つくんだってば!」
「……それ、昼間言ってた、波折先輩が友達作っちゃいけない理由ですか? 俺、言ったじゃないですか、無理やりにでも波折先輩との間の壁壊すって。たとえ傷つくとしても、俺は波折先輩と友達になりたい」
「……だって、あんな……あんなことしたら……友達以上の関係になるかもしれないから……」
「えっ?」
友達以上の関係。そう言われて、沙良はぴたりと固まる。
昼間は少しだけ穏やかだったのに、今になって急に拒絶してきたのは……あの異空間でいやらしいことをしてしまって、その行動が友達以上の関係になるということにつながるかもしれないから? 人に好かれることをなぜか恐れる波折にとって、友達以上の「好き」は脅威になる。
「……波折先輩……なんで先輩はそんなに人に好かれることを怖がっているんですか?」
「……」
「……そのわりには完璧な人として振舞っているし。本当に人から嫌われたいならもっと人目を避ければいいじゃん」
「……そ、それは……」
波折の行動には一貫性がない。だから本人もこんなにふらふらとした態度をとるんじゃないか。本当は人と仲良くなりたいのに好かれることを怖がって、好かれることを怖がるわりには羨望の眼差しを受けるJSの生徒会長として振る舞って。
「……先輩。俺、迷惑?」
「えっ……」
「先輩は俺のこと、嫌いですか」
理解できない。波折が話してくれなければ、きっと真実はわからない。
でも、波折のことが好きという気持ちはとまらない。どんなに波折が人からの好意におびえているとしても、彼のことが好き。
沙良は波折を抱く腕に力を込める。
「や、やめっ……」
腰に手を添えて、頭を引き寄せて。彼の首元に顔をうずめて。そうしてやれば波折はどさりと荷物を落とす。
「……き、嫌い……嫌いだよ、沙良のことは」
「……嘘でしょ」
「嫌いだ……! 大嫌いだって! 鬱陶しいんだよ!」
「……あっそ」
波折は必死に沙良を拒絶した。
ちょっとずつ距離を縮められそうだったのに。また、ぱっくりと距離が空いてしまった。ああ、ちくしょう、魔女めなんてことするんだよ。
沙良のなかでもやもやと不満が渦巻くが、波折への気持ちは変わらない。
「……俺は好きだよ、先輩」
ぴく、と震えた波折は、それ以上抵抗してこなかった。抱きしめ返してもくれなかった。ただ、そっと沙良の肩に頬を寄せて、すん、と鼻をすすっていた。
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