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第十章:その弱さを知ったとき

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 憂鬱な月曜日がやってくる。週末の余韻に耽る生徒たちが、再び始まる一週間にうんざりとした顔をしながら登校してきた。

 そんななか、沙良は他の生徒たちとは真逆の、晴れやかな顔をして歩いている。学校にいけば波折に会えるからだ。

 波折は色々と貞操観念に問題があるということを知ってしまったが、同時に鑓水とは付き合っていないとも知った。また以前のようにゆっくりと距離をつめていける、そう思うと学校も楽しみで仕方なかった。

 今日も、沙良は朝一に図書室に向かった。清々しい気分のときほど、図書室にいきたくなるのだ。弾む心を落ち着ける、そんな静かな時間を沙良は楽しいと感じていた。
 
 ……が。


「……あ」


 今日も、いた。図書室に設けられた学習スペースに、鑓水がいたのだ。


「……おはよーございます鑓水先輩」

「お、神藤」


 司書に聞こえないようにこっそりと挨拶をすれば、鑓水がぱっと顔をあげる。朝からこの人に会うとは、正直なところ気分は最悪だ。別に鑓水のことを嫌いというわけではないが、この人には言いたいことが山ほどある。


「鑓水先輩……俺のこと騙したでしょ」

「騙した?」

「波折先輩と付き合ってなかったじゃないですか!」

「んあ? 俺付き合っているとか一言も言ってなくね?」

「……あれ、そうでしたっけ」

「おまえの質問に肯定した記憶はねーもん」

「……そういえば、そんな気が……じゃ、じゃあ! 波折先輩とセフレとかやめてくださいよ! 不健全です!」

「はー? やーだね。俺あいつのこと手放すつもりねーし。やめて欲しいなら波折のこと自分のものにしろよ。おまえの思う健全な方法でさ」


 むむむ……と沙良が黙りこむと、鑓水はそんな沙良をからかうような目つきで見る。

 反論できないから、悔しかった。波折の言い方は鑓水とそういった関係であることに同意しているようだったし、むしろ好んでいるような気がする。「やめろ」というのは沙良の自分勝手な言い分だ。


「まあ、そんな話は置いておいてさ」


 鑓水は沙良の不機嫌そうな表情を堪能したあと、ころりと表情を変えて沙良の肩を抱く。

 ぐい、と引っ張られてバランスを崩しそうになりながらも沙良が鑓水の見ていたものを覗けば、それは以前鑓水が持っていた英語のレポートだった。


「これこれ、これ読んでよ」

「え、俺英語わかんないです」

「いやよく見ろって」

「え~? なんですか……あ、」


 鑓水が指さしたところをよく見て、沙良は目を見開く。それは、レポートのタイトルの下に添えてある、執筆者の名前。そこに書いてあったのは、


「……アサバ カイ……って淺羽先生!?」

「そうそう、すげーのな、この魔術の理論は淺羽先生が提唱したらしいぜ」

「魔術の理論って……あの、魔術の源は人間の想いうんぬんかんぬんって奴ですか?」

「それ! まだこの理論は認められてはいないみたいだけどさ、これが証明されればすごいよな、俺達すげー人に教わっていることになるぜ」

「おおお……淺羽先生ってすごいんですね」


 素直に感心している沙良を、鑓水がまじまじと見つめる。ふふん、と笑うと沙良をす、と指さして尋ねてきた。


「そういえば神藤って魔術試験ではどの項目が一番得点高かったの」

「え? 俺ですか? A分野ですかね……攻撃魔術の。その理論が正しかったらありえなくないですか? 俺別に攻撃的な性格なんてしてないし」

「Aなんだ? そりゃたしかに意外だな」

「鑓水先輩は?」

「俺はBだよ」

「防御の魔術? 鑓水先輩らしくない……やっぱりその理論間違っているんじゃないですか」

「うーん……この理論が正しければ波折のこともう少し分かれるような気がしたんだけどな」


 鑓水ははあ、と溜息をついて立ち上がった。沙良がちらりと時計をみてみれば、もう朝のホームルームが始まる時間だ。鑓水はレポートを鞄にしまいながら笑う。


「まあ……俺とおまえって色々対極なのな」

「……そうですね」


 魔術の理論については沙良はよくわからない。しかし、鑓水の言う「対極」という言葉には同意する。波折への想いがまるで違う。自分は鑓水とは違ってちゃんと愛してあげたいんだ、そう思いながら、沙良は図書室をでていく鑓水についていった。

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