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第十章:その弱さを知ったとき

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「……これやばい、久々」


 波折の家からの通学には、電車を使う。朝の通勤通学ラッシュの時間帯の電車は、やはり乗車率200%超えであろう満員電車だ。普段は学校から近い家に住んでいる友人の家に止まっている鑓水にとって、満員電車は不慣れで辛いものだった。車内に入った瞬間にげっそりとした表情を浮かべる。


「なんでこうも昔から日本は満員電車なんだ……」

「さあ……」


 波折は慣れているのか、平然としている。時折大きく車体が揺れても、焦る様子もなくうまくバランスをとってしっかり立っている。


「うわっ」


 しかし、ある大きな駅に止まった時。出入りする人の波に流されて、二人は端の方へ追いやられてしまった。鑓水が壁に手をついて、その間に波折が入り込むような体勢になってしまう。


「……近い」

「俺は楽かな。慧太頑張って」

「……おまえ」


 二人の身長差は5センチメートルほどしかない。ぎゅうぎゅうの車内で向い合ってこのような体勢をとれば、顔の距離がものすごく近くなる。ちょっと動けばキスもできてしまうようなこの状況でもからからと笑う波折に、鑓水は苦笑いだ。


「平日は俺のうちに泊まらないほうがいいんじゃない? この満員電車が無理ならな」

「……そーしたいところだけど」


 息のかかる距離。鑓水は腕を使って周りから波折の顔を隠すようにすると、軽く唇を重ねる。


「……俺、いますごくおまえの側にいたいんだ」

「……そう。別に毎日来てもらっても構わないけど」

「じゃあ、いく」

「食費だせよ」

「……はい」


 もう一度、キスをする。視線を感じてちらりと横をみれば、OLと思われる女性が顔を赤らめながらじっと二人をみていた。
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