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第十章:その弱さを知ったとき
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昼休みになると、波折はいつものように屋上へ向かった。少し寒くなってきたかな、なんて思いながら、自販機で買った紙パックのジュースを飲む。イマイチ食欲は湧いてこなくて、食べるものは買わなかった。
かた、と物音がする。視線を動かしてみれば、やはり彼が来ていた。沙良が、おずおずと屋上にはいってきたのだ。
「……先輩、こんにちは」
「……こんにちは」
沙良は何やらおどおどとしながら波折の隣に座る。その原因を知っている波折は、とくに彼の様子に気に留めることはしなかった。
……沙良は、波折の側に鑓水がいることで、気後れしてしまっているのだ。今なんかは電車での写真が出回って妙な噂がたってしまっているから、なおさら。
「あ、あの……波折先輩……今日はお弁当、ないんですか?」
「……寝坊したから」
「……ねぼう、」
あ、と沙良は俯いてしまう。察してしまったのだろう。鑓水と朝何かをしていたから、早く起きることができなかったのだと。
……わかりやすいなあ、なんて波折は思う。沙良からの好意は、とにかくわかりやすい。だから、跳ね除けられた。なのに、鑓水は違う。はじめは好意なんてもの一切みせてこなかったくせに、途中から見せてきた。今日の朝のあの態度なんて顕著たるものだ。
ああ、どうしよう。鑓水のことを今更突っぱねるのか。そんなことをしたら彼はどうなってしまう。
ぐるぐると考えて、波折はフェンスに頭をあずけて、目をとじる。はあ、と憂いげにため息をついたからだろうか――沙良が、心配そうに尋ねてきた。
「……先輩? 具合、悪いんですか?」
「……別に。ほっといて」
「……でも、顔色……」
ぴた、と額に何かがあてられた。ふと瞼をあければ、沙良が顔を覗きこんでいる。額にあてられているのは、沙良の手のひらのようだ。
「……先輩? 楽になった?」
切なげな顔をして、沙良が言う。自分にはこれが精一杯なんだ、とでもいうように。
「……」
――おまえはおまえで、どうしてこんなに突っぱねているのにまだ俺に近づいてくるんだよ。
胸が苦しい。眩しいくらいの好意が、辛い。鑓水も、沙良も……ふたりとも、本当のことを知ったら悲しむんだろうなあ――そう思って、波折は心のなかで嘆くことしかできなかった。
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