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第十一章:彗星のように
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「波折……」
トイレの個室の中で、波折は鑓水に抱かれながら泣いていた。沙良のあの行動をみたあとだと、うまく慰めることもできず、鑓水はただ抱きしめてあげることしかできなかった。
波折の気持ちも、沙良の気持ちも、鑓水はどちらも理解できたから複雑な気分だった。
波折はおそらく、今まで誰かに突き放された経験などない。誰かのなかの自分の居場所を失っていくという感覚を味わったことはないだろう。「ご主人様」に支配され触れ合う人々すべてに求められ。好意から逃げる方法は知っていても、逃げられたときの立ち直り方は、知らない。
そして沙良は――先ほどの場面をみた限りだと、進んで華子という少女に乗り換えようとしているように見える。沙良も彼なりに一途に愛した波折にとことん突き放されて酷いショックを受けた後だったから……ああして自らの傷を舐めようとするのは仕方のないこと。
「波折……いいよ、ずっとこうしていろ。苦しかったら俺に縋っていいんだからな。自分で立ち直れそうになったら、そのときは背中を押してやるから」
「……けいた」
「……顔上げて」
「ん……」
鑓水は波折の顎を持って、唇を重ねる。今の波折に、言葉の慰めはそんなに響かない。愛が抜け落ちて喪失感に嘆く波折に、自分の愛をいっぱい注いでやろうと、優しいキスをした。波折は泣きながらも鑓水の背に腕をまわし、もっと、とねだった。
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