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第十一章:彗星のように
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波折の気持ちが晴れることがないまま、放課となってしまった。今日もいつもどおり生徒会活動。相変わらず昼休みに沙良は屋上にこなかったから、波折が沙良と話すのは昨日の活動以来。沙良の前でなんでもないといった顔をしていられるだろうか……そんな不安を抱えながら、鑓水と共に生徒会室に向かう。
「……ん?」
生徒会室から数メートルほど離れた場所にきたところで、扉の前に二人の生徒がいることを発見する。よくよく見てみれば、沙良と華子だ。二人はぎょっとしている鑓水と波折に気づく様子はなく、何やら話をしている。華子が顔を真っ赤にして顔を隠していて、沙良が彼女を撫でながら何かを囁く。何を話しているのかは聞こえないが随分と距離が近い。二人の関係に首を突っ込むつもりはなかったが、さすがに生徒会室でそういうことをされるのは目に余る、と鑓水が波折の前にでて沙良を呼び止める。
「おい、神藤。そういうことはもっと目立たないところで、」
「あっ、鑓水先輩……! 声、大きい!」
「あ?」
鑓水の声を聞くと、沙良は慌てたように鑓水のもとへやってきた。そして予想外の沙良の反応に混乱する鑓水に、沙良はぼそぼそと小さい声で言う。
「あの子……いまから告白するので、ちょっとだけ待ってください、まだ活動始まる時間じゃないので、ね」
「……告白?」
鑓水は波折を引っ張って生徒会室に近づいてゆく。そしてそっと中を覗いて――固まってしまった。
「……まじか」
生徒会室の前でおろおろとしている華子が告白したい相手とは、おそらく生徒会室の中にいるということだろう。しかし、中にいるのは――会計の可織だけだ。つまり、華子が好きな相手は女ということになり……
「た、たぶん引かれると思いますけど、私、いってきます……!」
「よし、がんばれ!」
今にも泣きそうなくらいに顔を赤らめて、華子が生徒会室の扉に手をかける。そして後ろから沙良が彼女を勇気付けるように、両肩を叩いてやった。
「……神藤、いまの子……付き合っているとかじゃなかったんだ?」
華子が生徒会室の中へ入っていくと同時に、鑓水が沙良に尋ねてみる。そうすれば沙良は驚いたような顔をして首を振った。
「ま、まさか……違いますよ! なんでそんな風に見られているんですか!」
「え……いや、一緒に帰ってたりご飯食べてたり親しげにしてたって聞いたから……」
「ええ? 相談にのっていただけですよ。ほら、華子が好きな人が可織先輩だから、なかなか相談出来る人がいなかったらしくて……それに一年で可織先輩と同じ生徒会っていうと俺しかいないので、俺に相談してきたんです」
沙良の話を聞いている鑓水の隣で、波折は魂の抜けたような顔をしていた。
「秘密の関係」というのは、どうやら同性を好きになってしまった華子が沙良と秘密を共有している、という意味だったらしい。彼女に触れたりしていたのも、単に沙良が彼女を励ましていただけ。
「……付き合ってなかったんだ」
「――え?」
呆然としながら波折が呟いた言葉に、沙良が反応する。そうすれば沙良は面白くないといった表情でぼそりと言った。
「……俺があのあとすぐに誰かと付き合うような人に見えますか」
「……あ」
付き合ってはいなかった。しかし、二人の間にある亀裂が埋まったというわけではない。波折の拒絶によって傷ついた沙良の心が癒やされていたわけでもなんでもないのだ。
「――神藤くーん!」
――そのとき、ガラッと生徒会室の扉が開く。そして、華子が泣きながら沙良に抱きついてきた。思えば沙良も華子も同性を好きになってしまった人同士だからこそ、男女という関係でありながらこれほど距離が近いのかもしれない。
「……ふれらました」
「……えっ……そ、そっか……」
「お友達になりましょうって、言われちゃいった……当たり前だけど」
「……うん、華子、よくがんばったよ」
華子の告白は失敗したようだった。同性同士の恋愛はそううまくはいかないと、華子もわかっていたのだろう。ショックを受けながらもふられたという現実は受け止めているようだ。
「……私、がんばって可織さんの一番の友だちになる……」
「うん」
生徒会の活動がそろそろ始まる、ということに華子も気付いたらしい。メンバーたちに気を利かせて、泣きながらもその場を去っていった。
微妙な空気になりながらも、その日の生徒会の活動はスタートする。波折は、沙良が華子と付き合っていなかったという喜びを感じながらも、これからどう沙良と再び前の関係に戻れるか、ということをずっと考えていた。
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