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第十二章:スイートアンドビター
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二人が向かった水族館は、数年前に出来たばかりの大きな水族館だ。観光名所ともなりつつあるこの水族館は休日は特に人で賑わっている。
「波折先輩、水族館ってきたことあります?」
「ないんだよね」
「あ、そうですか! 俺も小さい頃行ったきりなのですごく楽しみです!」
「……家族で行ったの?」
「はい。母親が生きていた頃に。……あのー……聞いてもいいですか? 波折先輩の家族って、」
「家族? 死んだよ」
「あっ……すみません」
「あー、いやいや、いいんだ、どうでもいいことだから」
「そ……そうですか」
無粋なことを聞いてしまったな、と思うと同時に、亡くなった家族のことをどうでもいいと言い切った波折にびっくりする。記憶にないくらい昔に亡くなったのだろうか。あんまり聞いてはいけないような気がして、これ以上は聞けなかったが。
水族館の中に入ると、たくさんの人にあふれていた。家族連れや恋人同士と思われる人々が目につく。周りからみれば自分たちは男友達同士できた変わり者に見えているのかな、なんて思って少し面白くなった。
受付をして進んでいくと、館内の青い光に包まれる。入ってすぐのところに水槽があって、小さな魚が泳いでいる。波折が目をぱちぱちとさせながらそれに近づいていったから、沙良も後ろについてゆく。
「……綺麗ですね」
「……うん」
水槽をみつめる波折の瞳が、きらきらとブルーに輝いていた。沙良は魚よりもそっちが気になって、ついつい波折のことをちらちらとみてしまう。ゆらゆらと揺らめく青に照らされた波折が、本当に綺麗だった。
波折は思うがままにどんどん進んでいってしまう。水槽をじっとみては無言で固まって、そしてまた次の水槽。夢中になっているその姿がなんだかいつもよりも幼くみえて可愛らしい。
「波折先輩、魚、好きですか?」
「魚? うーん、わからない」
「すごく楽しそうにみていたから」
「そう? 何も考えないでみてた」
波折が沙良を顧みて、目を細める。
「……先輩」
「え?」
「あ、いや……」
なんだかその表情が儚くみえた。このまま青い光に攫われてしまうような、そんな気がした。
館内が水の光に照らされているからだろうか、時折自分たちが水のなかにいるような錯覚を覚える。だから、水族館ってなんだか不思議な空間だな、と思いながら沙良は波折の隣を歩いてゆく。
「……きらきらしてる」
ぽつりと波折が呟いた。ふと気付けば二人はトンネル型の水槽の前に立っていた。一歩トンネルに足を踏み入れれば、横にも上にもきれいな青があって、光に包まれる。トンネルはこの水族館のなかでも人気スポットのため、たくさんの人がここで滞留していた。しかし、沙良はそのなかでも波折のことしか見えなかった。華奢で、どことなく儚くて……青を纏った波折は、そう――きらきらしている。
「沙良」
「……はい」
「……眩しいね」
ちか、と青い光を顔にあびた波折が目を細めた。そして……沙良は、そんな波折をみて「眩しい」と感じた。きらきら、きらきら。遠い遠い、一枚の絵の中のようにその光景はどこか非現実的で、綺麗。このままここに閉じ込められてしまいたいと思ってしまうくらいだった。
「波折先輩、水族館ってきたことあります?」
「ないんだよね」
「あ、そうですか! 俺も小さい頃行ったきりなのですごく楽しみです!」
「……家族で行ったの?」
「はい。母親が生きていた頃に。……あのー……聞いてもいいですか? 波折先輩の家族って、」
「家族? 死んだよ」
「あっ……すみません」
「あー、いやいや、いいんだ、どうでもいいことだから」
「そ……そうですか」
無粋なことを聞いてしまったな、と思うと同時に、亡くなった家族のことをどうでもいいと言い切った波折にびっくりする。記憶にないくらい昔に亡くなったのだろうか。あんまり聞いてはいけないような気がして、これ以上は聞けなかったが。
水族館の中に入ると、たくさんの人にあふれていた。家族連れや恋人同士と思われる人々が目につく。周りからみれば自分たちは男友達同士できた変わり者に見えているのかな、なんて思って少し面白くなった。
受付をして進んでいくと、館内の青い光に包まれる。入ってすぐのところに水槽があって、小さな魚が泳いでいる。波折が目をぱちぱちとさせながらそれに近づいていったから、沙良も後ろについてゆく。
「……綺麗ですね」
「……うん」
水槽をみつめる波折の瞳が、きらきらとブルーに輝いていた。沙良は魚よりもそっちが気になって、ついつい波折のことをちらちらとみてしまう。ゆらゆらと揺らめく青に照らされた波折が、本当に綺麗だった。
波折は思うがままにどんどん進んでいってしまう。水槽をじっとみては無言で固まって、そしてまた次の水槽。夢中になっているその姿がなんだかいつもよりも幼くみえて可愛らしい。
「波折先輩、魚、好きですか?」
「魚? うーん、わからない」
「すごく楽しそうにみていたから」
「そう? 何も考えないでみてた」
波折が沙良を顧みて、目を細める。
「……先輩」
「え?」
「あ、いや……」
なんだかその表情が儚くみえた。このまま青い光に攫われてしまうような、そんな気がした。
館内が水の光に照らされているからだろうか、時折自分たちが水のなかにいるような錯覚を覚える。だから、水族館ってなんだか不思議な空間だな、と思いながら沙良は波折の隣を歩いてゆく。
「……きらきらしてる」
ぽつりと波折が呟いた。ふと気付けば二人はトンネル型の水槽の前に立っていた。一歩トンネルに足を踏み入れれば、横にも上にもきれいな青があって、光に包まれる。トンネルはこの水族館のなかでも人気スポットのため、たくさんの人がここで滞留していた。しかし、沙良はそのなかでも波折のことしか見えなかった。華奢で、どことなく儚くて……青を纏った波折は、そう――きらきらしている。
「沙良」
「……はい」
「……眩しいね」
ちか、と青い光を顔にあびた波折が目を細めた。そして……沙良は、そんな波折をみて「眩しい」と感じた。きらきら、きらきら。遠い遠い、一枚の絵の中のようにその光景はどこか非現実的で、綺麗。このままここに閉じ込められてしまいたいと思ってしまうくらいだった。
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