225 / 261
第十三章:予兆
4
しおりを挟む――そして、放課後が訪れる。生徒会の活動が始まってから、沙良はいつ風紀委員がくるのか気が気ではなかった。あんな自分よりも体格のいい男に迫られて正面から論破できるほど沙良に度胸はない。たぶん軽く肩を叩かれたりしただけて怖気づいて逃げてしまうと思う。
「――失礼します」
コンコンと扉をノックする音が聞こえて、開かれる。沙良がハッとして扉の方を見やれば――
(き、きた……!)
「生徒会長にお話がありまして」
――存外に早く登場した。篠崎基と、風紀委員と思われる数名の生徒たち。生徒会活動が始まってまだ数分しか経っていない。まだ心の準備ができていなかった沙良はその場を動けず固まっていたが……
「お話なら俺がするんで。外でしましょう」
鑓水がすっと篠崎の前にでる。笑ってはいるが、その眼光は鋭い。じろりと篠崎を睨みつける鑓水は、そう、ガンを飛ばしている。見た目が不良じみている鑓水にそんなことをされれば普通の人ならば逃げるだろう――しかし篠崎はそんなことはなかった。
「鑓水くん。貴方には用がないんです」
「俺達もあんたらに用はねえな。邪魔だ、帰れ」
「横暴な発言だ……それが副会長の言うことですか」
「どうせろくでもないイチャモンつけにきたんだろ。こっちは暇じゃねえんだよ。っていうか学園祭のことは文実に言いやがれ、俺達はただのサポート役だっつーの」
じりじりと火花が散っている。おろおろとする沙良の横で、波折は涼しい顔をしていた。慣れているのだろう。この場は鑓水に任せたとでもいうように、淡々と作業を続けている。しかし――
「だから……番犬には用がないんです。どいてください」
「あ!? 誰が番犬だって!? あっ……おい、コラ!」
篠崎は鑓水を押しのけて生徒会室に入って来てしまった。
「あ、あの……波折先輩今忙しいんで、」
「どいてください」
「ひいっ」
波折のもとに向かってきた篠崎たちを、沙良は震える声で制止したがあっさりと跳ね除けられる。そのあまりの情けなさに、沙良は苛々とした様子の鑓水にぽかっと殴られた。波折の前に立つ篠崎を威嚇するように、鑓水がその背を睨みつけている。「番犬」とはよく言ったものだ……と沙良はもはや他人ごとのようにその様子を眺めていた。
「……お話とはなんでしょうか」
「この件です。ここに、問題点がありますが」
篠崎が資料を波折に突き出した。とんとんと資料を叩きながら、篠崎はその問題点とやらを説明している。波折は表情を崩すことなくそれを聞いていたが、鑓水は我慢ならなかったのかズカズカと二人の間に割り込んでいった。
「だーかーら! これはどう考えても文実が担当することだろ! っていうかこんなの問題でもなんでもねー! 全校生徒にちゃんと概要を説明して、それでみんな納得したんだよ!」
「普通の生徒では気付かないような些細な問題です。しかしその些細な問題が後に」
「問題じゃねえだろ! おまえらの指摘は間違いじゃない、解釈をねじ曲げているだけだ、っていうかどーやったらそんな解釈になるんだよ!」
――風紀委員の指摘は、学園祭について細かく説明されている資料におかしなところがあるというもの。しかし、彼らの言っていることはそこに書いてある文章を非常にひねくれた見方をした場合に生じる「おかしなところ」であり、普通にみればそんな解釈にはなりえない……揚げ足取りに近い、そんな指摘であった。鑓水が風紀委員たちに文句を言いながら、退室を促している。しかし、篠崎はでていくつもりがないらしい。鑓水を押しのけて、なんとか波折の前にでようとする。
「文実に言えとおっしゃっていますが、貴方たちこそが生徒たちの責任をもっているのです。貴方たちにこうしたことは訴えるべきです」
「……」
波折はその資料を眺めながら、じっと篠崎を見上げる。「相手にすんな」と鑓水が目で波折に訴えかけているが……波折はやがてため息をつくと、その資料を手にとって言った。
「……わかりました、私たちが適切な表現に訂正し、文化祭実行委員会に言っておきます」
「……そうですか。では、お願いします」
波折が返事をすると、篠崎は礼をして、あっさりと生徒会室を出て行ってしまった。風紀委員会に敗北したような、そんな雰囲気になってしまったのが気に食わなかったのか、鑓水が波折に咎めるような口調で言う。
「あんな奴らの相手すんなって! あいつら、学園祭を良くしようとしているんじゃなくて俺達を邪魔したいだけなんだぞ」
「あのまま彼らの相手をするのとこの資料を訂正するのじゃあ、後者の方が時間の短縮になる」
「……そうだけどよ~!」
鑓水はどうにも納得いかないらしい。理不尽な理由で自分たちが言い負かされたようなものなのだから。波折がそのことを気にも留めていないのも、また気に食わないらしい。
「……っていうわけで慧太。これ直しておいて」
「はあ!? しかも俺がやんの!? ……クッソ、まじあいつらうぜえ」
生徒会室の雰囲気は最悪。これからもこうしたことが続くのかと思うと、沙良は憂鬱で仕方なかった。
1
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる