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第十三章:予兆
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「……あれっ」
一階に降りてみると、二人は見当たらない。どこかへいってしまったのかと焦ってとりあえず昇降口をみてみれば、外に二人の背中をみつける。どこへいくんだ、と思いつつ沙良も靴を履いて二人の後をつけていった。
二人はそのまま人気のない校舎の裏側にはいっていく。本格的に雲行きがあやしい。奥の草陰のほうへ入っていき、ようやく二人が足を止めたところで、沙良も影に隠れて二人を見守った。
「冬廣会長。お尻、こっちにむけて」
「……うん」
(……え?)
かろうじて声が聞こえる。波折は篠崎に命じられて、壁に手をついて臀部を彼に突き出した。そうすれば篠崎はにたりと笑って、一度パシリとその尻を叩く。そして……波折のスラックスを脱がしにかかった。
(なっ……えっ? えっ?)
昨日、何があった!? 沙良の頭は疑問符でいっぱいだ。この状況は、普通に考えばセックスをしようとしているようにみえる。ただあの二人はそんなことをする間柄ではなかったはず。沙良は何が起こっているのかわからず、目を白黒とさせて見守っていたが……
「ううっ……」
波折が、辛そうな顔をしていた。それをみて、ざわ、と胸の中がざわつくのを感じる。篠崎はろくに慣らしもせずに波折のなかにペニスを突っ込んで、ガツガツと腰を振っていた。波折は顔をしかめ、唇を噛んで、壁をひっかきながら耐えている。
二人の関係が変わって、そういうことをするに至ったのなら、自分は何も言うべきではない。そう思ったが。明らかにあの二人のセックスには上下関係があって、波折は抵抗できないままに犯されている。どうして? なんでこんなことに? 様々な思惑が浮かんできたが……答えがでるまえに、沙良は動いてしまっていた。
「――あの」
沙良が声を発した瞬間。二人がバッと勢い良く沙良の方へ視線を移す。微かに波折がほっとしたような顔をしているのをみて、沙良の中で「篠崎が無理やりこの行為を強制している」という答えがでる。怒りで腸が煮えくり返りそうになった。そのまま突っ込んでいって殴り飛ばしてもよかったかもしれない。しかし。
「……校内でこういった淫らな行為をしないでもらえますか」
一呼吸して、沙良は冷静に波折から篠崎を離す方法を考える。そこで、自分が生徒会役員であるという立場を利用した。私情丸出しで篠崎に殴りかかったところで勝てる気がしないからだ。とりあえず、自分が学校で波折とセックスをしたことがあるのは棚にあげておいて、篠崎を糾弾することのみを考える。
「……たしか、貴方は……神藤くん。一年の副会長」
「そうです、風紀委員長さん。風紀委員長が自ら風紀を乱すというのはいかがなものでしょう。いくら憎いからって生徒会長を強姦するなんて」
「……っ」
篠崎は何も言い返せずに、押し黙る。篠崎にとって、沙良は鑓水とは違う。篠崎は沙良が波折と関係を持っていることを知らないため、今の状況は単純に「副会長」に注意をされているという状況だ。逆らえば下手をすれば処罰をくらってしまう。
「……」
篠崎は苦虫を噛み潰したような顔をして、その場を去って行ってしまった。沙良は彼を追う気にもなれず、へたりと座り込んだ波折に駆け寄る。
「大丈夫ですか……波折先輩……」
波折がちらりと沙良を見上げる。波折の顔を間近でみた沙良は、その疲れきった風貌に息を呑んだ。しゃがみこんで、彼を抱き寄せて、頭を撫でてやる。
「……どうしたんですか? なんで篠崎さんとあんなことを?」
「……」
波折は沙良の胸元に頬を寄せる。しかし、なかなか口を割ろうとはしなかった。沙良は鑓水のように同棲しているというわけでもないため、距離をおくのに理由をはっきりと告げる必要はない。
「……なんでもないよ。気にしないで」
「いや気にしますよ! 昨日何があったんですか? 何か脅迫でもされました?」
「ほんと……大丈夫だから」
「……じゃあとりあえず昼休みは絶対俺と一緒に行動してくださいよ。俺がいればあの人も近づいてこないでしょ」
「……」
波折は顔をあげて沙良を見つめる。すごく、ありがたい話だった。家に帰れば犯されまくるというのは変わらないにしても、学校は安息地になる。それだけで大分楽になる。
そうあとは……「一週間」、耐えればいいだけのこと。
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