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第九章:戦場の天使
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ある日、士官学校において「特別訓練」が行われることになった。
教官が口にしたその言葉に、ざわめきが走る。普段の剣術や座学とは異なる――ほんの一握りの者しか触れることのできない訓練だ、と。
整列した生徒たちの前に運び込まれたのは、一見すればただの兵器だった。剣。銃。砲弾。
だが、どこか常軌を逸している。目を凝らせば、表面に奇妙な文様が走っているのが見える。それは人の手で刻まれたにしては不自然で、どこか有機的でさえあった。
「ベールヴァルド家が造った“特別兵器”だ」
教官が告げる声に、エディの背筋が粟立つ。
特別訓練の内容は単純だった。兵器を手に取り、目標を撃ち抜く。ただそれだけ。
最初に指名されたのは――やはり、イリスだった。
無表情のまま、彼は黒光りする銃を受け取る。
次の瞬間、砲声ともつかぬ轟音が訓練場に響きわたった。標的の岩は跡形もなく粉砕され、爆風に巻かれた土嚢が吹き飛ぶ。
生徒たちは息を呑んだ。
――なにを、見せられているのだ。
兵器というには禍々しすぎる力。銃口からあふれた光はまるで生き物のように脈動し、標的を貪り喰らった。
イリスは淡々と銃を置く。そこに感情はない。ただ一連の動作を終えただけという顔。だが、その無感動さこそが、逆に異様さを際立たせていた。
次に剣が渡された。握った者の手が震える。振り下ろした瞬間、白刃は眩く輝き、地を割った。生徒は歓声をあげかけたが、すぐに黙り込む。剣を振るった当人が、額から汗を流しながらへたり込んだからだ。
教官は「時間だ」と短く告げて兵器を取り上げる。訓練はひどく短い。触れられるのはほんの数分にも満たない。
それでも、威力は圧倒的だった。
エディの胸がざわめく。
ゾクリとする。恐怖か、興奮か、自分でも判別がつかない。
――これが、ベールヴァルドの力。
――これを当然のように扱うイリス。
目の前の男は人間なのか、それとも化け物なのか。
畏怖。嫉妬。憧憬。嫌悪。すべてが渦を巻き、エディの胸を締めつける。
ああ。やはり、どうしても追いつけない。
彼は自分とは違う場所に立っている。
その日、エディのなかに小さな芽が宿った。
劣等感に形を与える、ひどく禍々しい芽。
イリスを超えたいという思いが、やがて「彼を理解しなければならない」という執着へと変わっていくことを、まだこのときは知らなかった。
教官が口にしたその言葉に、ざわめきが走る。普段の剣術や座学とは異なる――ほんの一握りの者しか触れることのできない訓練だ、と。
整列した生徒たちの前に運び込まれたのは、一見すればただの兵器だった。剣。銃。砲弾。
だが、どこか常軌を逸している。目を凝らせば、表面に奇妙な文様が走っているのが見える。それは人の手で刻まれたにしては不自然で、どこか有機的でさえあった。
「ベールヴァルド家が造った“特別兵器”だ」
教官が告げる声に、エディの背筋が粟立つ。
特別訓練の内容は単純だった。兵器を手に取り、目標を撃ち抜く。ただそれだけ。
最初に指名されたのは――やはり、イリスだった。
無表情のまま、彼は黒光りする銃を受け取る。
次の瞬間、砲声ともつかぬ轟音が訓練場に響きわたった。標的の岩は跡形もなく粉砕され、爆風に巻かれた土嚢が吹き飛ぶ。
生徒たちは息を呑んだ。
――なにを、見せられているのだ。
兵器というには禍々しすぎる力。銃口からあふれた光はまるで生き物のように脈動し、標的を貪り喰らった。
イリスは淡々と銃を置く。そこに感情はない。ただ一連の動作を終えただけという顔。だが、その無感動さこそが、逆に異様さを際立たせていた。
次に剣が渡された。握った者の手が震える。振り下ろした瞬間、白刃は眩く輝き、地を割った。生徒は歓声をあげかけたが、すぐに黙り込む。剣を振るった当人が、額から汗を流しながらへたり込んだからだ。
教官は「時間だ」と短く告げて兵器を取り上げる。訓練はひどく短い。触れられるのはほんの数分にも満たない。
それでも、威力は圧倒的だった。
エディの胸がざわめく。
ゾクリとする。恐怖か、興奮か、自分でも判別がつかない。
――これが、ベールヴァルドの力。
――これを当然のように扱うイリス。
目の前の男は人間なのか、それとも化け物なのか。
畏怖。嫉妬。憧憬。嫌悪。すべてが渦を巻き、エディの胸を締めつける。
ああ。やはり、どうしても追いつけない。
彼は自分とは違う場所に立っている。
その日、エディのなかに小さな芽が宿った。
劣等感に形を与える、ひどく禍々しい芽。
イリスを超えたいという思いが、やがて「彼を理解しなければならない」という執着へと変わっていくことを、まだこのときは知らなかった。
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