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インセスト~ヘンゼルとグレーテルによる悲喜劇~
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しおりを挟む「……手、痺れていない? 大丈夫?」
不意にヴィクトールがヘンゼルの頭上で纏めてあったヘンゼルの手に視線を落とした。先ほどからヘンゼルが身動ぎするたびに鎖がガシャガシャと鳴って煩かったのだろうか。ヴィクトールはポケットから小さな鍵をとりだすと、ヘンゼルの手錠を外し、手を解放してやる。
「……わかっているね。暴れればもっと酷いことになるよ。手を解放されたからといって、キミは決して自由じゃない」
「……ッ」
「いい子。ちゃんと理解しているね……可愛がってあげる」
「あっ、」
ヴィクトールが何度目かになる口付けをヘンゼルに落とす。ヘンゼルの髪を優しく撫で、耳朶を指先で揉み、まるでヘンゼルの心とかすように。唇が熱くなってくるほどに、境界がとけてしまうくらいに繰り返されるキス。ヴィクトールのすらりとした指による愛撫で解れてしまった抵抗心。つ、と舌先で唇をつつかれ、ヘンゼルはとうとうヴィクトールの舌の侵入を許してしまった。
「ん……」
するりと熱が口の中に入り込んでくる。それと同時に、耳を塞がれてしまった。何も聞こえない、目を閉じているから何も見えない。頭の中で反響する水音が、脳内を侵食する。全ての感覚が、ヴィクトールとのキスに集中する。
うっかり侵入を許してしまったことに今更のように後悔した。本当に囚われてしまいそうになった。優しく絡められた舌先から、甘い痺れが生まれ出る。されるがままに、ただそのキスは深みを増していった。
「んっ、……ふ……」
解放された手の行き場が見つからない。どこかを掴まなければ、飛んでしまう。指先で空を掻き、もどかしさを握りしめ、ようやくたどり着いたのは、ヴィクトールの背中。わけがわからないままに、彼の背のシャツの皺をかき集めていた。
「っん……!?」
シャツの中に手を入れられ、ヘンゼルはびくんと身じろいだ。得体の知れない男・ヴィクトールへの恐怖のためか敏感になった肌は、すこし撫でられただけでも強い刺激として受け取ってしまう。
「ヘンゼルくんは、どこが好き?」
「し、知るか!」
「お腹? 胸? 脇?」
「ちょっ、やめっ」
するりと手のひらで全身を撫でられ、ぞわぞわと変な感じがヘンゼルを襲う。腹部をくるくると円を描くように這い、やがて胸元まで登ってくると軽く揉むように指先に力をこめられる。
「どこかくすぐったいところとかは? くすぐったいところって性感帯らしいね?」
「し、知らない、触るな!」
「焦ってるところも可愛いね」
「うるさい、気持ち悪……あっ……!」
「ん?」
その手が背中を滑ったとき、ヘンゼルの声が僅かうわずった。どこかぼんやりとしたヘンゼルの表情を確認すると、ヴィクトールは嬉しそに笑う。
「ヘンゼルくん」
「な、なに……んっ、」
「ここ、いいんだ?」
肩甲骨の頂きを指でするりと撫ぜ、ヴィクトールは囁いた。どこか艶やかに伏せられたヘンゼルの瞳が濡れ震えている。
「ここはねェ……昔人間が天使だったときに羽が生えていたときの名残っていわれている」
「っ、……ふ、」
「キミ、本当に天使のようだね」
「う、わ……!?」
不意にヴィクトールに体を反転させられて、ヘンゼルはみっともない声をあげてしまった。ヴィクトールはうつ伏せにしたヘンゼルの上にのしかかると、一気にシャツをたくし上げる。
「……綺麗な背中だ。さぞ、白い羽が映えるだろうね。……でも、そんな無垢なキミには黒い羽のほうが似合うかもしれない。美しいものほど、堕ちたときにはさらに美しくなるものだからね」
「ひっ……ぃ、ッ」
ヴィクトールがヘンゼルの肩甲骨に唇をよせる。びくん、とその身体がこわばると、よりその骨はくっきりと浮き出てきた。
ああ、なんてそそられるのだろう。甘そうだ。
舌先で、皮膚を味わうように舐めつける。じりじりと、熱を溶かしてゆくように。同じところになんども、なんども、しゃぶるように舌を這わせた。
「ひっ、……ん、ぐ……」
逃れられない責め苦。ゾクゾクと這い上がってくる熱。目をきつく閉じ、シーツを握りしめ、唇を噛み締めて……ヘンゼルは耐える。
「ヘンゼルくん……唇噛まないで。傷になっちゃう」
「んっ……あっ、や、だ……」
ヴィクトールがヘンゼルのたぐまったシャツに下から手を滑り込ませ、襟元から指を出す。そして、そのまま指を一本、ヘンゼルの唇に差し入れた。
「ふっ……」
きっと、これを強く噛んだりしたら何かされる。それを直感で感じ取ったヘンゼルは、されるがままに指を受け入れた。ずる、ずる、と抜き差しを繰り返される指に、唾液が絡まって気持ち悪い。次第に零れてゆく雫も、抑えることはかなわずに唇の端を伝ってゆく。
「いい子……いい子だね、ヘンゼルくん」
「あ、あぁっ……」
再び、背中へキスの雨。閉じることのできない唇から、不意にはしたない声が溢れてしまった。
「……ッ」
自分のものとは思えない甲高い声に羞恥を覚え、ヘンゼルは微かに顔を赤らめた。再び出してたまるかと、ぎゅっとキツくシーツを握りしめる。
「ヘンゼルくん、大丈夫……僕しか聞いていない。恥ずかしくなんてないよ」
「ぅ、あ……、っ」
「きかせて……ねぇ、」
「はっ、ぁあ……!」
かり、と軽く肩甲骨を噛まれる。そして、舌先をぐりぐりと押し付けられたかと思うと、軽く吸い上げられた。やがて、背中の中心をはしる綺麗な筋に、ヴィクトールは舌を這わせる。窪みにはめこむようにしてゆっくりと、背筋を辿るように舐め上げた。
力を込めすぎて白くなりかけた手に、ヴィクトールのそれを重ねられる。まるで、全身を彼に包まれたような心地になってヘンゼルは諦めたように目を閉じた。……逆らうことなんて、できやしない。
「あっ、……ん……」
ずるりと唇から指が引き出される。そして、それは首筋を、鎖骨を……
「ひっ……! ん、ぐ……」
局部に触れられて、ヘンゼルはビクリと腰を浮かせた。ヴィクトールはその瞬間に、ぐっと腕ごとヘンゼルの腹部に手を滑らせて、手のひらで大きく局部を揉みしだき始める。
「あっ、ちょっ……んっ、ぁふっ……」
背中、局部と同時に責められてわけがわからなくなってくる。じわじわと這い上がってくる熱が怖くて、ヘンゼルは枕に額を押し付け歯をくいしばった。腰だけを浮かせ這うような体勢になっているのが屈辱的だったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。この熱を、どうにかしなければ……
「ヘンゼルくん……気持ちよさそうだね。ここ、先からでてる」
「あぁっ……! やめ、さわる、なぁ……あぁ……」
「腰揺れてる……もっと感じて、素直になりなよ」
鈴口をぐり、と親指で擦られて、堪らず腰が跳ねた。先走りを指先に絡め、何度も何度もヴィクトールは同じ動きを繰り返す。ぬち、ぬち、と卑猥な音が耳奥に届いてかあっと顔が熱くなってくる。
「はは、びくびくいってる。気持ちいいんでしょ? ほら、ヘンゼルくん」
「……、……」
「嘘つき、首なんて振って……それでイッたりしたら酷いことするからね?」
「……!」
はっ、と冷たい笑い声が上から降ってきて、ゾワリと寒気が全身を貫いた。そしてその瞬間、ヴィクトールはヘンゼルのものを軽く握って、上下に手を揺らし始める。
「あッ……! まっ、まって……それ、だめッ、……ひ、ぁあっ!」
「なに? 僕が聞きたいのは『だめ』じゃない。どうしたの? まさかイッたりとかしないよね?」
「ひっ、あっ、あっ、だめ、だめ、ほんと、むり、止め、やだ、」
ゾクゾクと下腹部に熱が集まってくる。身体を捩り、シーツを引っ掻き、逃げようとしてもヴィクトールがそれを許してくれるはずがない。次第に早くなっていく手の動きにヘンゼルは身体を震わせて限界を迎えようとしていた。頭が、真っ白。ヤバイ、イク、むりむり、イク……!
――酷いこと、される
「きもち、いい、です……気持ちいい、から……! やめてください、酷いことは、しないでください……!」
ああ、なんてことを……なんてことを言ってしまったんだ。羞恥心と敗北感で、ヘンゼルの全身からがくりと力が抜ける。項垂れるヘンゼルの耳元にヴィクトールが唇を寄せる。
「気持ちいい……? へぇ、気持ちいいんだ? 男にこんなことをされてヘンゼルくん、気持ちいいんだねぇ……君変態だね」
「……っ」
「ヘンゼルくん……君、素質あるよ」
「そし……つ?」
彼の指す『素質』がなんのことかわからないわけがない。「男に抱かれる素質」だ。「気持ちいい」というのは言わされた、ということもあるが紛れもない事実だ。熱くて堪らないこの身体がなによりの証拠。
「……なに? 泣いてるの?」
目の前が真っ暗になった。自分も、おなじだ。身売りをしている人達と、おなじ。あんなに、嫌だったのに。
「泣かないでよ。言ったでしょう? 抱かれることはなにも悪いことなんかじゃないって」
「あ、あぁっ……」
「いい子……ちゃんと言えたんだからね、ヘンゼルくん……とびっきり気持ちよくしてあげる」
「んっ、ふ、ぁあ……ッ」
嫌だったのに……
「んンッ……!?」
根元をぎゅっと掴まれ、思わずヘンゼルの腰がびくんと跳ねる。耳元で、吐息混じりのヴィクトールの笑い声が聞こえて、ヘンゼルは逃げるように首を捻る。
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