Abnormal -アブノーマル-

うめこ

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第二章 Redemption -レデンプション-

29

「どうやって殺すかな、八木さんみたいに手足捥いでやろうか」


そう言った男の声は、笑っているのに、冷たかった。

その瞬間だった。
胸の奥のどこかが、ぱちん、と弾けたように熱を持つ。
息が浅くなる。
指先に、焼けつくような感覚が走った。
体の奥で、光が生まれる――あの感覚を、綾辻は知っていた。

攻性魔力行使術式。
あのとき鑓水という男が言った言葉が、耳の奥で蘇る。

――きっかけさえあれば、あなたは魔女になります。


「……今さら、なんだよ」


綾辻は、息の奥でかすかに笑った。
こんな連中、消えてしまえばいい。

――どうせ、初めてではないのだから。

そう思った。
本気で、そう思った。

けれど、次の瞬間。
脳裏に浮かんだのは、真木の声だった。


『それでもあなたに人を殺してほしくないと思うのは、俺のわがままですか』


その言葉が、ふっと胸の奥に落ちた。
何かが一瞬でほどけていくようだった。
同時に、熱も、怒りも、すうっと引いていった。

あの笑顔。
雨の日に傘を差し出す手。
くだらない冗談に笑いあった夜。
あれが、確かに「生きている」ということだった。

――そして。

希美の笑顔が浮かんだ。
花の冠を作って、俺に「似合う?」と首を傾げていた。
その小さな指先、あたたかな体温。
あれは、どんな魔法よりも美しい光だった。


(……そうか。殺すっていうのは、これを穢すってことなんだ)


胸の奥で呟く。
その瞬間、指先の光が、音もなく消えた。


(もう、遅いのに……。すでに、穢しているのに)


残ったのは、震える手と、痛みだけ。


「……俺は、もう、やらない」


誰に聞かせるでもなく、綾辻は呟いた。
それは祈りでもあり、懺悔でもあった。

男たちの怒号がまだ響いている。
けれど、その声はもう、遠くに聞こえる。
綾辻の心の中には、静かな雨の音だけが残っていた。

希美の笑い声と、真木の声が、その奥でそっと重なり、
まるで薄い光のように、綾辻を包んでいた。

そのとき――乾いた銃声が、夜の空気を裂いた。
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