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14 天国には天使がいた!
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その日は、朝早くから邸全体がソワソワと浮き足立っていて、いつもよりも明るい雰囲気だった。
「なんだか皆んな嬉しそうだけど、今日は何かあるの?」
庭園のガゼボでバラを眺めながら問うと、護衛についてくれていた騎士のレオが答えてくれた。
「ご存知なかったっすか? 今日はお坊っちゃまがご帰還なさるんです」
「ああ、ジェレミー様?」
「そうです! ジェレミー坊っちゃまは、皆んなのアイドルなのですよ」
お茶を運んで来たチェルシーも、にこやかにそう言った。
彼はここの人達にとても愛されているらしい。
「それは、お会いするのが楽しみね。
何時頃到着なさるの?」
「夕刻頃と伺っております。
旦那様も、それまでにはご帰宅なさると思いますよ」
「分かったわ」
侯爵様は領地内の視察に出ているが、ご帰宅なさったら、ジェレミー様に挨拶をする機会を作って下さるだろう。
そう思いつつ、カップを手にしたその時、門の方から馬車が入って来る音がした。
まだ昼過ぎ。お二人がご帰宅するには早い時間なのだが……。
私達は顔を見合わせて、首を傾げた。
「お客様かしら?」
「さあ? 本日は来客の予定は無かったはずなのですが……。
ちょっと様子を見て参りましょう」
チェルシーが玄関へ向かって暫くすると、邸の中が少し騒がしくなった。
「……坊っちゃま、そちらに行ってはいけませんっっ」
微かに聞こえて来た声に、ジェレミー様が早めに帰宅したのだと知った。
挨拶をしに行こうかと、一瞬だけ考えたが、形ばかりの母が侯爵様の許可も取らずに、後継者であるご子息に勝手に会うのは憚られた。
ここは侯爵様がご帰宅なさって、きちんと紹介して下さるのを待った方が得策だろう。
再びカップを手に取り、紅茶を一口飲んだのだが……。
(……何か、めっちゃ見られている)
視線を感じて顔を上げた。
だが、視線の主は、私と目が合う前にサッと建物の影に隠れてしまう。
と、言っても、隠れた場所から、フワフワの焦茶色の髪がはみ出して見えてしまっているのだが……。
「フッ……」
なんとも微笑ましい。
隣に立っているレオも、笑いを堪えている。
「ご挨拶なさったらいかがっすか?」
「勝手にお会いしても良いのかしら?」
「問題ないと思いますよ。坊っちゃまは人懐っこいんで、お喜びになられるかと」
「そう?」
ジェレミー様が喜んでくださるかどうかは定かでは無いが、レオの言葉に背中を押され、私は立ち上がった。
足音を忍ばせて、建物の影へと近付く。
その場で暫し立ち止まっていると、ジェレミー様は再び私の様子を窺う為、ソロリソロリと顔を出した。
「……ぅわぁっっ!!!」
いつの間にか近付いていた私に、彼は驚きの声を上げる。
「ふふっ。初めまして、私はミシェル・シャヴァリエと申します」
悪戯が成功して上機嫌の私は、微笑みながら彼に挨拶をした。
目の前には、焦茶色の艶やかな巻き毛に、青い大きな瞳のとても可愛らしい小さな男の子。
(わあぁぁ……可愛いぃ~~。
まつ毛長ぁい。お肌も白くてモチモチしてそうだわ~……)
まさに、天使っっ!!
「ジェレミー・デュドヴァンです。
あ、あの……、えっと……、」
天使こと、ジェレミー様は、頬を染めながらモジモジし始めた。
「はい?」
「新しい、母様ですか?」
「…………え?」
期待を込めた純粋な視線を向けられた事に驚いた。
拒絶される事なら想定していたのだが……。
しかし、改めて考えてみると、二年でここを去る予定の私が母と名乗って良いのだろうか? という疑問が湧いて来る。
深い関わりを持てば、きっと別れる時に互いに辛くなってしまう。
『新しい母に捨てられた』なんて思わせてしまうくらいならば、最初から距離を置いた方が……。
それに、私は子を産んだ事も無い。それどころか、実の母親の顔さえも知らないのだ。
そんな私が、果たして良い母親になれるのだろうか?
正直言って、全然自信が無い。
「父様と結婚するのなら、僕の母様でしょう?」
「……え…、あ、いや、その……」
「…………違うの?」
少し悲しそうな顔で首を傾げる姿を見たら、もうダメだった。
「そうっっ! そうよ。
私が貴方の新しい母様です!!」
あんなウルウルした大きな瞳で見つめられて、『違う』と答える事が出来るだろうか? いや、出来ない!!(反語!)
侯爵様、ごめんなさい。
後でちゃんとお叱りは受けます。
「なんだか皆んな嬉しそうだけど、今日は何かあるの?」
庭園のガゼボでバラを眺めながら問うと、護衛についてくれていた騎士のレオが答えてくれた。
「ご存知なかったっすか? 今日はお坊っちゃまがご帰還なさるんです」
「ああ、ジェレミー様?」
「そうです! ジェレミー坊っちゃまは、皆んなのアイドルなのですよ」
お茶を運んで来たチェルシーも、にこやかにそう言った。
彼はここの人達にとても愛されているらしい。
「それは、お会いするのが楽しみね。
何時頃到着なさるの?」
「夕刻頃と伺っております。
旦那様も、それまでにはご帰宅なさると思いますよ」
「分かったわ」
侯爵様は領地内の視察に出ているが、ご帰宅なさったら、ジェレミー様に挨拶をする機会を作って下さるだろう。
そう思いつつ、カップを手にしたその時、門の方から馬車が入って来る音がした。
まだ昼過ぎ。お二人がご帰宅するには早い時間なのだが……。
私達は顔を見合わせて、首を傾げた。
「お客様かしら?」
「さあ? 本日は来客の予定は無かったはずなのですが……。
ちょっと様子を見て参りましょう」
チェルシーが玄関へ向かって暫くすると、邸の中が少し騒がしくなった。
「……坊っちゃま、そちらに行ってはいけませんっっ」
微かに聞こえて来た声に、ジェレミー様が早めに帰宅したのだと知った。
挨拶をしに行こうかと、一瞬だけ考えたが、形ばかりの母が侯爵様の許可も取らずに、後継者であるご子息に勝手に会うのは憚られた。
ここは侯爵様がご帰宅なさって、きちんと紹介して下さるのを待った方が得策だろう。
再びカップを手に取り、紅茶を一口飲んだのだが……。
(……何か、めっちゃ見られている)
視線を感じて顔を上げた。
だが、視線の主は、私と目が合う前にサッと建物の影に隠れてしまう。
と、言っても、隠れた場所から、フワフワの焦茶色の髪がはみ出して見えてしまっているのだが……。
「フッ……」
なんとも微笑ましい。
隣に立っているレオも、笑いを堪えている。
「ご挨拶なさったらいかがっすか?」
「勝手にお会いしても良いのかしら?」
「問題ないと思いますよ。坊っちゃまは人懐っこいんで、お喜びになられるかと」
「そう?」
ジェレミー様が喜んでくださるかどうかは定かでは無いが、レオの言葉に背中を押され、私は立ち上がった。
足音を忍ばせて、建物の影へと近付く。
その場で暫し立ち止まっていると、ジェレミー様は再び私の様子を窺う為、ソロリソロリと顔を出した。
「……ぅわぁっっ!!!」
いつの間にか近付いていた私に、彼は驚きの声を上げる。
「ふふっ。初めまして、私はミシェル・シャヴァリエと申します」
悪戯が成功して上機嫌の私は、微笑みながら彼に挨拶をした。
目の前には、焦茶色の艶やかな巻き毛に、青い大きな瞳のとても可愛らしい小さな男の子。
(わあぁぁ……可愛いぃ~~。
まつ毛長ぁい。お肌も白くてモチモチしてそうだわ~……)
まさに、天使っっ!!
「ジェレミー・デュドヴァンです。
あ、あの……、えっと……、」
天使こと、ジェレミー様は、頬を染めながらモジモジし始めた。
「はい?」
「新しい、母様ですか?」
「…………え?」
期待を込めた純粋な視線を向けられた事に驚いた。
拒絶される事なら想定していたのだが……。
しかし、改めて考えてみると、二年でここを去る予定の私が母と名乗って良いのだろうか? という疑問が湧いて来る。
深い関わりを持てば、きっと別れる時に互いに辛くなってしまう。
『新しい母に捨てられた』なんて思わせてしまうくらいならば、最初から距離を置いた方が……。
それに、私は子を産んだ事も無い。それどころか、実の母親の顔さえも知らないのだ。
そんな私が、果たして良い母親になれるのだろうか?
正直言って、全然自信が無い。
「父様と結婚するのなら、僕の母様でしょう?」
「……え…、あ、いや、その……」
「…………違うの?」
少し悲しそうな顔で首を傾げる姿を見たら、もうダメだった。
「そうっっ! そうよ。
私が貴方の新しい母様です!!」
あんなウルウルした大きな瞳で見つめられて、『違う』と答える事が出来るだろうか? いや、出来ない!!(反語!)
侯爵様、ごめんなさい。
後でちゃんとお叱りは受けます。
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