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35 怪しい行動
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私の涙が枯れた頃、ジェレミーはグレースに問い掛けた。
「もう一人、新しい侍女がいるでしょう?
確か……、シルヴィだっけ?
彼女は今、何処にいるのかな?」
「彼女は今日は、奥様の担当では無いので、今の時間は掃除中かと」
「そっか。
ねえ、フィルマン。
手が空いてる騎士に頼んで、彼女を探して捕まえておいて」
「かしこまりました」
微かに戸惑いの表情を浮かべながらも、恭しく頭を下げたフィルマンは部屋を出て行った。
「それから、シルヴィの部屋って何処?」
「彼女は私と同室です」
そう答えるペネロープに、ジェレミーは顔を向けた。
「そっか。今から部屋を調べたいんだけど」
「では、ペネロープに立ち合い人になって貰っては如何でしょう?
私は奥様に付き添ってこちらにいた方が良さそうですし、男性ばかりでは後々問題になる可能性が有りますので」
グレースがジェレミーに提案した。
「ペネロープ、いい?」
「…………はい」
ジェレミーに問われて、ペネロープは戸惑いながらも頷いた。
「グレース、母様をよろしくね」
ジェレミーは普段の可愛らしい様子とは別人の様に、テキパキと指示を出して行く。
「えっ、ちょっと待って。
ジェレミーは、シルヴィを疑っているの?
どうしてか、聞いても良い?」
「この前、母様の部屋から一人でコソコソ出て来るシルヴィを見たんです。
部屋の掃除は終わってるはずの時間だったから、変だなって思ったんだけど、『掃除の時に忘れた物を取りに入った』って言われて、その時はそうかって……」
それは、確かに怪しい。
「手には何か持ってた?」
「ううん。でも、絵ならクシャッと丸めちゃえばポケットにだって入るし、折り畳めば服の下にも隠せるでしょ?」
それもそうか。
私にとってはジェレミーの描いた絵は宝物なので、丸めるとか折り畳むとかいった発想が無かった。
でも、相手はその宝物を破り捨てる事が出来る人物なのだから、綺麗な形で持ち去る必要は無い。
「彼女については、ホントは前から気になってた事があって……。
あの人、いつも父様の事ばっかり質問してくるんですよ。僕は当然何も答えてあげないけど。
父様の部屋の近くをウロウロしてる事もあったから、父様にも『気を付けて』って言おうと思っていた所だったんです」
旦那様のお部屋や執務室の近くは、新人侍女達は立ち入りを禁じられている。
「旦那様に近付くのが目的なのかしら?」
「そうかもしれないけど、どうかな? まだハッキリとは……」
「そうね、単なる好奇心の可能性もあるしね」
好奇心で立ち入りを制限されている区域に入ったのなら、それはそれで大問題だが。
彼女の場合少し方向音痴なので、それが原因で他意は無いという可能性もあるかもしれない。
「それと、最近シルヴィ、掃除中とかに母様の事をしょっちゅうジッと見ていました」
ジェレミーの言葉を聞いて、自然と眉根が寄ってしまった。
私が感じていた視線の正体は、旦那様ではなくシルヴィだったのかも知れない。
そう考えると得体の知れない気持ち悪さを感じる。
「……確かに。何が目的かは不明だけど、気になる行動ばかりね。
でも、何も証拠は無いわ」
一つ一つを取ってみれば、大した行動ではない。
私を見ているのだって、『自分が仕える人をもっと良く知りたかった』とか言われれば、一応は納得する。気分は良くないが。
だけど、こうも色々と、妙な動きが重なると……。
「うん、証拠はありません。
でも部屋を探したら、何か見つかるかもしれないでしょ?
もし何も無かったら、僕の勘違いだったって言って、ちゃんと謝るから。……ダメ?」
こちらが雇い主であり、侯爵家でもあるので立場は圧倒的に上。
とは言え、シルヴィも一応は貴族令嬢である。
冤罪である可能性も考慮すれば、あまり大きな揉め事にするのは避けた方が良い。
だけど……。
「分かった。
シルヴィの行動は私も気になるから、私の責任において捜索をさせます。私も立ち合って来るわね。
でも、逆恨みされたりするかもしれないから、ジェレミーは関わらない方が良いと思うの。
ここでグレースと一緒に待っていて?」
「母様!?」
「ジェレミーがこんなに考えてくれているのに、泣いてばかりいるなんて、恥ずかしいもの。
多少強引な手段を使ってでも、貴方からのプレゼントを勝手に捨てた犯人を絶対に見つけます」
もしかしたら今回の件を処理する事は、ジェレミーにとって、次期当主としての良い学習機会になるのかもしれない。
だけど、それを経験させるには、彼はまだ若過ぎる。
それに、私が売られた喧嘩なのだから、私が買うのが筋ってもんだろう。
「いや、ダメですよ。
母様一人には任せておけません」
「え? 私、そんなに頼り無い?」
「う~ん………。じゃあ、一緒に行きましょう。ね?」
なんか、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるみたいな言われ方なんだけど。
「早く、行きますよっ!!」
軽くショックを受けた私の手を、グイグイと引いて部屋を出るジェレミー。
こうして私達は、複数の男性使用人とペネロープとグレースを連れて、シルヴィの部屋へと向かう事になったのだ。
「もう一人、新しい侍女がいるでしょう?
確か……、シルヴィだっけ?
彼女は今、何処にいるのかな?」
「彼女は今日は、奥様の担当では無いので、今の時間は掃除中かと」
「そっか。
ねえ、フィルマン。
手が空いてる騎士に頼んで、彼女を探して捕まえておいて」
「かしこまりました」
微かに戸惑いの表情を浮かべながらも、恭しく頭を下げたフィルマンは部屋を出て行った。
「それから、シルヴィの部屋って何処?」
「彼女は私と同室です」
そう答えるペネロープに、ジェレミーは顔を向けた。
「そっか。今から部屋を調べたいんだけど」
「では、ペネロープに立ち合い人になって貰っては如何でしょう?
私は奥様に付き添ってこちらにいた方が良さそうですし、男性ばかりでは後々問題になる可能性が有りますので」
グレースがジェレミーに提案した。
「ペネロープ、いい?」
「…………はい」
ジェレミーに問われて、ペネロープは戸惑いながらも頷いた。
「グレース、母様をよろしくね」
ジェレミーは普段の可愛らしい様子とは別人の様に、テキパキと指示を出して行く。
「えっ、ちょっと待って。
ジェレミーは、シルヴィを疑っているの?
どうしてか、聞いても良い?」
「この前、母様の部屋から一人でコソコソ出て来るシルヴィを見たんです。
部屋の掃除は終わってるはずの時間だったから、変だなって思ったんだけど、『掃除の時に忘れた物を取りに入った』って言われて、その時はそうかって……」
それは、確かに怪しい。
「手には何か持ってた?」
「ううん。でも、絵ならクシャッと丸めちゃえばポケットにだって入るし、折り畳めば服の下にも隠せるでしょ?」
それもそうか。
私にとってはジェレミーの描いた絵は宝物なので、丸めるとか折り畳むとかいった発想が無かった。
でも、相手はその宝物を破り捨てる事が出来る人物なのだから、綺麗な形で持ち去る必要は無い。
「彼女については、ホントは前から気になってた事があって……。
あの人、いつも父様の事ばっかり質問してくるんですよ。僕は当然何も答えてあげないけど。
父様の部屋の近くをウロウロしてる事もあったから、父様にも『気を付けて』って言おうと思っていた所だったんです」
旦那様のお部屋や執務室の近くは、新人侍女達は立ち入りを禁じられている。
「旦那様に近付くのが目的なのかしら?」
「そうかもしれないけど、どうかな? まだハッキリとは……」
「そうね、単なる好奇心の可能性もあるしね」
好奇心で立ち入りを制限されている区域に入ったのなら、それはそれで大問題だが。
彼女の場合少し方向音痴なので、それが原因で他意は無いという可能性もあるかもしれない。
「それと、最近シルヴィ、掃除中とかに母様の事をしょっちゅうジッと見ていました」
ジェレミーの言葉を聞いて、自然と眉根が寄ってしまった。
私が感じていた視線の正体は、旦那様ではなくシルヴィだったのかも知れない。
そう考えると得体の知れない気持ち悪さを感じる。
「……確かに。何が目的かは不明だけど、気になる行動ばかりね。
でも、何も証拠は無いわ」
一つ一つを取ってみれば、大した行動ではない。
私を見ているのだって、『自分が仕える人をもっと良く知りたかった』とか言われれば、一応は納得する。気分は良くないが。
だけど、こうも色々と、妙な動きが重なると……。
「うん、証拠はありません。
でも部屋を探したら、何か見つかるかもしれないでしょ?
もし何も無かったら、僕の勘違いだったって言って、ちゃんと謝るから。……ダメ?」
こちらが雇い主であり、侯爵家でもあるので立場は圧倒的に上。
とは言え、シルヴィも一応は貴族令嬢である。
冤罪である可能性も考慮すれば、あまり大きな揉め事にするのは避けた方が良い。
だけど……。
「分かった。
シルヴィの行動は私も気になるから、私の責任において捜索をさせます。私も立ち合って来るわね。
でも、逆恨みされたりするかもしれないから、ジェレミーは関わらない方が良いと思うの。
ここでグレースと一緒に待っていて?」
「母様!?」
「ジェレミーがこんなに考えてくれているのに、泣いてばかりいるなんて、恥ずかしいもの。
多少強引な手段を使ってでも、貴方からのプレゼントを勝手に捨てた犯人を絶対に見つけます」
もしかしたら今回の件を処理する事は、ジェレミーにとって、次期当主としての良い学習機会になるのかもしれない。
だけど、それを経験させるには、彼はまだ若過ぎる。
それに、私が売られた喧嘩なのだから、私が買うのが筋ってもんだろう。
「いや、ダメですよ。
母様一人には任せておけません」
「え? 私、そんなに頼り無い?」
「う~ん………。じゃあ、一緒に行きましょう。ね?」
なんか、聞き分けの悪い子供に言い聞かせるみたいな言われ方なんだけど。
「早く、行きますよっ!!」
軽くショックを受けた私の手を、グイグイと引いて部屋を出るジェレミー。
こうして私達は、複数の男性使用人とペネロープとグレースを連れて、シルヴィの部屋へと向かう事になったのだ。
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