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表向きは恙無く終了した文化祭だが、その総合評価は大失敗だったと言わざるを得ない。
殆どのクラスが赤字だったのは想定の範囲内である。
それについては収益を上げる事ではなく、楽しみながら学びを得る事が本来の目的だと思えば、然程問題はないだろう。
因みに収益ではなく、売上全てが寄付に使われる予定だ。
問題は三年Aクラス以外の販売系のお店が引き起こした、大小様々なトラブルである。
お釣りの計算ミスで小競り合いが起きたり、押し売り紛いの売り方をして苦情が出たり、売上の管理が杜撰過ぎて大金を紛失したり、食中毒まで起きたと言う。
食中毒の被害に遭った生徒は直ぐに救護室へと運ばれたが、そこに詰めているはずのプリシラの姿は無かった。
その頃彼女はクリスティアンと一緒に、呑気に祭りを堪能していたというのだから、呆れて言葉も出ない。
幸いな事に、症状は軽くて大事には至らなかったらしいけど。
自分で言った事くらい、ちゃんと実行しろよ。
急拵えで開催したせいか、警備に穴があって侵入者も許してしまったし。
まあ、その件については箝口令が敷かれているから、多くの生徒は知らないだろうけど。
───と、思っていたのに。
何処から漏れたのか、いつの間にやら侵入者の存在は、学園中の噂になっていた。
それによって文化祭の評価はただ下がり。
ついでにクリスティアンとプリシラの評判もだだ下がりになったのは、私としては嬉しい限りである。
その侵入者だが、取り調べを続けた結果、偽の許可証は酒場で知り合った男から入手したとの供述を得た。
学園内に護衛を帯同出来ないという情報も、この男から齎されたらしい。
が、ここからが難しかった。
酔っていたので、相手の容姿も名前もうろ覚え。
何一つ手掛かりが無いと言う。
この時点で捜査は打ち切られた。
文化祭という言葉の陰に見え隠れする転生者の存在を警戒していた事もあって、何らかの企みを持って侵入者を送り込んだのではないかと推理していたのだが、もしかしたら、コレは全く違う性質の事件なのかもしれない。
だって、良く考えたら、自分で計画した行事を自分で邪魔する意味が分からない。
誰かに危害を加えるとか、何かを運び入れるとか、逆に何かを持ち去るとかの目的があるなら分かるけど、侵入者は何も指示を受けていなかったみたいなのだ。
もしも、不審者を侵入させる事自体が目的だとしたら───。
そこまで考えて、私は思考を放棄した。
真実を知っても、ろくな事にならない予感がしたから。
「姉上、またボンヤリしてますね。
いくらトムが名馬でも、馬上で考え事をしていたら危ないですよ」
乗馬中にいつの間にかボーッとしていた私は、呆れ顔のジョエルに忠告されてしまった。
「そうよね。気を付けるわ」
私を乗せてくれているトムの首筋を軽く撫でて「ごめんね」と呟く。
それに答える様にフフンッと小さく鼻を鳴らしたトムは、少しだけ歩調を速めた。
どうやら私の集中力が切れている事に気付き、自主的に歩く速度を緩めてくれていたらしい。
本当に利口な子だ。
私達は今、ヘーゼルダイン公爵邸の広い馬場を借りて、久し振りの乗馬を楽しんでいる。
本当はアイザックも参加する予定だったのだが、サディアス殿下から急な仕事を押し付けられたらしい。
『済まない、オフィーリア。
他国から使者が来るらしくて、王都の入り口まで迎えに行かなければならなくなってしまったんだ。
話は通しておくから、僕が居なくてもウチの馬場を好きに使ってくれて構わない』
『ご心配なく。姉上と二人きりで楽しみますので』
予定をドタキャンする事を申し訳なさそうに謝るアイザックに、ジョエルが嬉々として答えた。
それに対して、なんとも言えない悔しそうな顔をしていたアイザック。
あれはちょっと可哀想だったわね。
「ほら、また言ったそばから」
「あ、はい。ごめんなさい」
良くベアトリスが『貴女達姉弟は、どちらが歳上か分からないわね』と揶揄うが、本当にその通りだなとちょっと反省する。
「少し走ろうか」
そう言って脇腹を軽く蹴ると、待ってましたとばかりにトムはスピードを上げた。
心地良い風が頬を撫でる。
マノンも愛しのジョエルを背に乗せて、ご満悦の表情だ。
馬というのは、とても喜怒哀楽がはっきりした生き物だ。
テンションが高すぎるマノンを、苦笑しながら宥めているジョエルが微笑ましい。
その後も楽しい時間を過ごした私達は、そろそろお開きにしようと、トムとマノンを厩舎へ連れて行った。
鞍を取り外そうとしている所へ、困り顔になったヘーゼルダイン公爵家の執事が私を呼びに来た。
「申し訳ありません、オフィーリア様。
王宮からの使者がオフィーリア様をお呼びなのですが……」
私達はアイザックに招待された客人としてここへ来ている。
執事としては、そんな私達を厄介事に巻き込みたくはないのだと思うが、王宮からの使者であれば無碍に追い返す事は不可能だったのだろう。
「構いませんよ。お話をお伺いします」
板挟みになってしまった執事にニコリと微笑んで見せたら、彼は安堵の表情を浮かべた。
使者が待つという玄関ホールへ向かうと、何処かで見た様な顔の男性が、直立不動で私を待っていた。
もしかしたら、私達の婚約発表の際に王太子殿下に侍っていた側近の人かも。
「私に何かご用だと伺いましたが」
「王太子殿下からのお手紙をお持ちしました。その場でご確認ください」
手渡された封筒には、ご丁寧に王家の封蝋がクッキリと押されている。
振り返ると、先程の執事が懐からペーパーナイフを取り出して、私に手渡してくれた。
(サディアス殿下が私に何の用なの?)
訝しみながら中身を確認した私は、眉間に皺が寄りそうになるのを必死で堪えた。
回りくどい言葉で綴られたその手紙の内容は、要するに『今すぐに会いに来い』という命令だったのだ。
殆どのクラスが赤字だったのは想定の範囲内である。
それについては収益を上げる事ではなく、楽しみながら学びを得る事が本来の目的だと思えば、然程問題はないだろう。
因みに収益ではなく、売上全てが寄付に使われる予定だ。
問題は三年Aクラス以外の販売系のお店が引き起こした、大小様々なトラブルである。
お釣りの計算ミスで小競り合いが起きたり、押し売り紛いの売り方をして苦情が出たり、売上の管理が杜撰過ぎて大金を紛失したり、食中毒まで起きたと言う。
食中毒の被害に遭った生徒は直ぐに救護室へと運ばれたが、そこに詰めているはずのプリシラの姿は無かった。
その頃彼女はクリスティアンと一緒に、呑気に祭りを堪能していたというのだから、呆れて言葉も出ない。
幸いな事に、症状は軽くて大事には至らなかったらしいけど。
自分で言った事くらい、ちゃんと実行しろよ。
急拵えで開催したせいか、警備に穴があって侵入者も許してしまったし。
まあ、その件については箝口令が敷かれているから、多くの生徒は知らないだろうけど。
───と、思っていたのに。
何処から漏れたのか、いつの間にやら侵入者の存在は、学園中の噂になっていた。
それによって文化祭の評価はただ下がり。
ついでにクリスティアンとプリシラの評判もだだ下がりになったのは、私としては嬉しい限りである。
その侵入者だが、取り調べを続けた結果、偽の許可証は酒場で知り合った男から入手したとの供述を得た。
学園内に護衛を帯同出来ないという情報も、この男から齎されたらしい。
が、ここからが難しかった。
酔っていたので、相手の容姿も名前もうろ覚え。
何一つ手掛かりが無いと言う。
この時点で捜査は打ち切られた。
文化祭という言葉の陰に見え隠れする転生者の存在を警戒していた事もあって、何らかの企みを持って侵入者を送り込んだのではないかと推理していたのだが、もしかしたら、コレは全く違う性質の事件なのかもしれない。
だって、良く考えたら、自分で計画した行事を自分で邪魔する意味が分からない。
誰かに危害を加えるとか、何かを運び入れるとか、逆に何かを持ち去るとかの目的があるなら分かるけど、侵入者は何も指示を受けていなかったみたいなのだ。
もしも、不審者を侵入させる事自体が目的だとしたら───。
そこまで考えて、私は思考を放棄した。
真実を知っても、ろくな事にならない予感がしたから。
「姉上、またボンヤリしてますね。
いくらトムが名馬でも、馬上で考え事をしていたら危ないですよ」
乗馬中にいつの間にかボーッとしていた私は、呆れ顔のジョエルに忠告されてしまった。
「そうよね。気を付けるわ」
私を乗せてくれているトムの首筋を軽く撫でて「ごめんね」と呟く。
それに答える様にフフンッと小さく鼻を鳴らしたトムは、少しだけ歩調を速めた。
どうやら私の集中力が切れている事に気付き、自主的に歩く速度を緩めてくれていたらしい。
本当に利口な子だ。
私達は今、ヘーゼルダイン公爵邸の広い馬場を借りて、久し振りの乗馬を楽しんでいる。
本当はアイザックも参加する予定だったのだが、サディアス殿下から急な仕事を押し付けられたらしい。
『済まない、オフィーリア。
他国から使者が来るらしくて、王都の入り口まで迎えに行かなければならなくなってしまったんだ。
話は通しておくから、僕が居なくてもウチの馬場を好きに使ってくれて構わない』
『ご心配なく。姉上と二人きりで楽しみますので』
予定をドタキャンする事を申し訳なさそうに謝るアイザックに、ジョエルが嬉々として答えた。
それに対して、なんとも言えない悔しそうな顔をしていたアイザック。
あれはちょっと可哀想だったわね。
「ほら、また言ったそばから」
「あ、はい。ごめんなさい」
良くベアトリスが『貴女達姉弟は、どちらが歳上か分からないわね』と揶揄うが、本当にその通りだなとちょっと反省する。
「少し走ろうか」
そう言って脇腹を軽く蹴ると、待ってましたとばかりにトムはスピードを上げた。
心地良い風が頬を撫でる。
マノンも愛しのジョエルを背に乗せて、ご満悦の表情だ。
馬というのは、とても喜怒哀楽がはっきりした生き物だ。
テンションが高すぎるマノンを、苦笑しながら宥めているジョエルが微笑ましい。
その後も楽しい時間を過ごした私達は、そろそろお開きにしようと、トムとマノンを厩舎へ連れて行った。
鞍を取り外そうとしている所へ、困り顔になったヘーゼルダイン公爵家の執事が私を呼びに来た。
「申し訳ありません、オフィーリア様。
王宮からの使者がオフィーリア様をお呼びなのですが……」
私達はアイザックに招待された客人としてここへ来ている。
執事としては、そんな私達を厄介事に巻き込みたくはないのだと思うが、王宮からの使者であれば無碍に追い返す事は不可能だったのだろう。
「構いませんよ。お話をお伺いします」
板挟みになってしまった執事にニコリと微笑んで見せたら、彼は安堵の表情を浮かべた。
使者が待つという玄関ホールへ向かうと、何処かで見た様な顔の男性が、直立不動で私を待っていた。
もしかしたら、私達の婚約発表の際に王太子殿下に侍っていた側近の人かも。
「私に何かご用だと伺いましたが」
「王太子殿下からのお手紙をお持ちしました。その場でご確認ください」
手渡された封筒には、ご丁寧に王家の封蝋がクッキリと押されている。
振り返ると、先程の執事が懐からペーパーナイフを取り出して、私に手渡してくれた。
(サディアス殿下が私に何の用なの?)
訝しみながら中身を確認した私は、眉間に皺が寄りそうになるのを必死で堪えた。
回りくどい言葉で綴られたその手紙の内容は、要するに『今すぐに会いに来い』という命令だったのだ。
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