【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

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177 忘れかけていた悪夢

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 卒業試験の勉強などで忙しくしている内に年が明けた。
 年明け直ぐに行われた試験では、勉強の成果を無事に発揮し、入学以来初めて学年五位以内に入る事が出来た。
 アイザックは、あんなに授業を休んでいるのに不動の一位。
 ベアトリスは二位である。

 卒業準備が着々と進む中、学園が休みの今日は、ジョエルを連れてヘーゼルダイン公爵邸の馬房へ愛馬達に会いに来た。
 偶には息抜きも必要である。

 丁寧にブラッシングしてやると、トムはウットリと目を細めながら、プフゥと鼻息を吐き出した。
 特に首の辺りが気持ち良いらしい。

「うわっ、止めろよ。
 そんなに動いたらブラッシング出来ないだろっ!」

 隣で騒いでいるのは、勿論ジョエルである。
 マノンはジョエルの体にグリグリと顔を擦り寄せて来るので、ブラッシングがやり難いらしい。

「私が人参で気を引きましょうか?」

「お願いします」

「ほら、マノン。人参だよー」

 鼻先に人参を突き付けてみるが、チラリと一瞥しただけで、フンッと顔を逸らされた。
 全く興味を持ってくれない。
 マノンが夢中になるのはジョエルに対してだけである。
 相変わらず愛が重い。

 結局、ジョエルがスリスリグリグリされている間に、私が彼女にブラシをかけた。



 ワイワイ言いながら馬達の手入れをしていると、蹄の音が近付いて来た。

「馬場に姿が見えないと思ったら、こっちに居たのか?」

 出掛けていたアイザックとスレイプニルが帰って来たのだ。

「ええ、さっき少し運動させて、今は手入れをしていました」

 アイザックはハーフアップに結った私の髪を見て、嬉しそうに目を細めた。

「その髪飾り、似合ってる」

 そう言えば、今日の髪飾りは、アイザックがマドック男爵領に行った時に買って来てくれたお土産の銀細工だったなと思い出した。

「フフッ。可愛いでしょう?」

「なかなか使ってくれないから、気に入らなかったのかと心配した」

「そんな事無いですよ。学園にして行くには、少し大きくて派手だから、なかなか機会が無かっただけです」

 馬と小鳥が戯れているデザインの髪飾りは、とても可愛くて気に入っていた。

「女性のアクセサリーで馬がデザインされている物は珍しいよね。
 これを見付けた時、直ぐにオフィーリアの顔が浮かんだ」

「ありがとうございます」

 アイザックはいつも、適当に選んだ物ではなく、私に似合う物とか私が気に入りそうな物を厳選して贈ってくれる。
 プレゼント自体も嬉しいけど、そこに込められた気持ちが嬉しい。

「それにしても、思ったより早いお帰りでしたね」

 少し拗ねた様子で会話に割り込んだジョエルに、アイザックは溜息混じりで答える。

「レイラらしき人物の目撃情報があって駆け付けたのだが、残念ながら人違いだったよ」

 レイラ(仮)の捜索は今でも続いているが、有力な情報は思う様に集まって来ない。
 やっぱり平凡な色味なのが悪いのだろうか?
 逆に、何の関係もない琥珀の瞳とライトブラウンの髪の女性達が疑いの目で見られてしまう事も多いらしく、街では若干の混乱が起きていると聞く。
 無関係な女性達にとっては、とんだ風評被害である。

 こんなに探しても見つからないなんて、一体何処に潜んでいるのか?
 もう、サッサと自首してくれりゃあ良いのに。

 各領地の境界を中心に、あちこちで検問を行なっているらしいし、王都周辺と港町周辺は巡回の騎士も増やして職務質問が頻繁に行われている。
 お陰でちょっと王都の治安が良くなった。

「教皇達の方は取り調べもほぼ終わって、そろそろ刑罰が決まるんだが……」

「やっぱり、公開処刑ですかね?」

 ジョエルが何気なく言った台詞に、思わずビクッと肩が跳ねた。

 そうだよね。
 考えてみれば、彼等の罪は王位の簒奪未遂だもの。公開処刑だって充分に有り得る。

 何度も夢で見たシーンが、脳裏を掠める。
 広場に集まった民衆の歓声と怒号。
 罪人の死を願う沢山の人達の、憎悪に満ちた眼差し。

「その可能性が高いけど……。
 ……どうした? オフィーリア、顔色が悪い」

「姉上、大丈夫ですか?」

 会話を中断したアイザックとジョエルが、心配そうな視線を私に向ける。

「あの……、刑罰の決定をする場には、アイザックも出席するのですか?」

 おずおずと質問をすると、アイザックは私の顔を覗き込んで、安心させる様に微笑んだ。

「うん、何か希望があるなら言ってごらん。
 常識的な範囲なら、僕も意見が出来るはずだから」

「………………火刑は、嫌」

 私の震える唇からその言葉が零れ落ちた瞬間、ヒュッと小さく息を飲んだのは、アイザックだったのか、ジョエルだったのか。
 私は俯いていたので、彼等がどんな表情をしているのかも、全く見えていなかった。

「うん、大丈夫。火刑にはさせないよ」

 アイザックは私を緩く抱き締めて、暫く頭を撫でてくれた。
 その温かくて優しい大きな手のお陰で、波立っていた心が、少しずつ落ち着いた。


「……済みません、無理を言いましたね。
 今言った事は、忘れて下さい」

 正直に言えば、あの夢の光景を思い出すだけで、今でも血の気が失せて体が震える。
 火刑だけでなく、公開処刑だってちょっと嫌だ。
 でも、王家の威信を保つ為には、重罪人を見せしめにするのも必要なんだって事は分かってる。
 私の我儘で、秩序を乱すべきじゃない。

「君が思っているよりも、僕は力を持っているんだよ。
 何の為に、日々サディアス殿下の弱味を握っていると思ってるの?」

 おどけた調子でそんな事を言うから、私はクスッと小さく笑みを零した。

「でも、不当に刑が軽くなってしまったりしませんか?」

「オフィーリアは何も心配しなくて良いよ。
 僕だって彼等の罪と罰を軽くするつもりは無いから」

 ニッコリと黒い笑みを浮かべるアイザックに、私は躊躇しながらも頷いた。
 具体的な事を何も言わないのは、きっと一般人が知るべきではない手段を用いるつもりなのだろう。
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