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5 婚約のお披露目
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「ウィリアム様、ソフィア様、おめでとうございます」
今日はもう、何度同じ言葉を聞いたか分からない。
いい加減笑顔が引き攣ってきた。
今日は私達の婚約のお披露目パーティーが、ロブソン侯爵家で行われている。
広いホールのあちこちに、贅沢に生花が飾られ、煌めく灯りの下、美しく着飾った貴族達が集う。
繰り返される定型文の挨拶に、少々うんざりしてきた頃、懐かしい二人が満面の笑みで、私の元へやって来た。
「ソフィー様!お久し振りです。
この度は、ご婚約おめでとうございます」
声をかけて来たのは、私の親友、メリッサと、その夫のリチャードだ。
嬉しい再会に、憂鬱な気持ちが少しだけ晴れた。
「ウィリアム、こちら、私の友人のウェイクリング公爵夫妻よ」
「ソフィアの婚約者のウィリアム・レミントンです」
「リチャード・ウェイクリングです。
こちらは妻のメリッサです」
メルを見つめるリチャードの眼差しは温かい。
彼女はこの男が優しくて良い人だと勘違いしているらしいが、幼少の頃から交流がある私から見れば、実態は全く正反対である。
他人にあまり興味を示さない無愛想なこの男が、メルにだけデレデレなのだから面白い。
「ふふっ。〝妻の〟ですって。新婚さんは幸せそうで羨ましいわね。
貴女の結婚式以来ね、メル。元気にしてたかしら?」
揶揄う私にリチャードが、少しだけ目を細めて冷たい眼差しを寄越す。
私の言葉に照れたメルは、頬を薄紅色に染めている。
相変わらず可愛らしい。
「少し女性同士で話して来たら?」
気を利かせてくれたウィリアムに感謝しつつ、メルと一緒に人の輪から少し離れた。
「急な婚約発表で驚きました」
「本人が一番驚いているわよ」
「今回の婚約は、ウィリアム様からの求婚を受けて成立したのでしょう?
ソフィー様、愛されているのね」
無邪気に微笑むメルに、思わず苦笑いしながら、愚痴ってしまう。
「そうだったら良かったのにねぇ」
「違うのですか?」
「実は・・・」
私は少し声を潜めて、先日聞いてしまった侍女達の会話をメルに話した。
「つまり、ソフィー様は、嫌いな女との縁談を断る為だけの婚約だと思っているのですね?」
「おそらく」
メルは「うーん」と首を傾げながら思案顔になった。
「それは、勘違いでは?
ソフィー様もご存知の通り、私も色々ありましたので、恋をしている人間は、目を見れば大体分かるようになりました。
ウィリアム様がソフィー様を見つめる瞳は、明らかに熱を帯びているし、愛しさが溢れ出ている様に、私には見えますよ?
確かに、アボット侯爵令嬢が相手では逃げたくなるのも分かりますが、だからと言って、ソフィー様に対して愛が無いとは限りませんよね?」
「・・・・・・そう、かしら?」
「あら、ソフィー様ったら。
以前は〝メルは鈍い〟なんて仰っていた癖に、ご自分の事となると、全然ダメではないですか」
そう言ってメルは、揶揄うように、ニヤリと笑った。
程なくしてリチャードがメルを迎えに来た。
「メリッサ、そろそろ行こう。
主役の一人を独占してはいけないよ」
尤もらしい事を言っているが、おそらく早くメルを返して欲しいだけだ。
「ええ。
ソフィー様、また後日ゆっくりお茶でも致しましょう」
名残惜しく感じながらも、メルをリチャードに引き渡すと、彼はいつもの様に甘やかな眼差しで新妻を見つめた。
熱を帯びた瞳とは、こういうのを指す言葉だろう。
私を見るウィリアムの眼差しに熱を感じた事など無かった。
ーーー新婚夫婦のラブラブな空気は、今の私には毒だわ。
ウィリアムと合流しようかと思ったが、彼は他の招待客に捕まっていた。
あー、あの伯爵は話が長い事で有名な御人だ。
暫くは解放してもらえないだろう。
あまり心がこもっていない祝いの言葉を聞くのも疲れて来たし、人の熱気に当てられ気味だった私は、バルコニーに出て、少し涼む事にした。
今日はもう、何度同じ言葉を聞いたか分からない。
いい加減笑顔が引き攣ってきた。
今日は私達の婚約のお披露目パーティーが、ロブソン侯爵家で行われている。
広いホールのあちこちに、贅沢に生花が飾られ、煌めく灯りの下、美しく着飾った貴族達が集う。
繰り返される定型文の挨拶に、少々うんざりしてきた頃、懐かしい二人が満面の笑みで、私の元へやって来た。
「ソフィー様!お久し振りです。
この度は、ご婚約おめでとうございます」
声をかけて来たのは、私の親友、メリッサと、その夫のリチャードだ。
嬉しい再会に、憂鬱な気持ちが少しだけ晴れた。
「ウィリアム、こちら、私の友人のウェイクリング公爵夫妻よ」
「ソフィアの婚約者のウィリアム・レミントンです」
「リチャード・ウェイクリングです。
こちらは妻のメリッサです」
メルを見つめるリチャードの眼差しは温かい。
彼女はこの男が優しくて良い人だと勘違いしているらしいが、幼少の頃から交流がある私から見れば、実態は全く正反対である。
他人にあまり興味を示さない無愛想なこの男が、メルにだけデレデレなのだから面白い。
「ふふっ。〝妻の〟ですって。新婚さんは幸せそうで羨ましいわね。
貴女の結婚式以来ね、メル。元気にしてたかしら?」
揶揄う私にリチャードが、少しだけ目を細めて冷たい眼差しを寄越す。
私の言葉に照れたメルは、頬を薄紅色に染めている。
相変わらず可愛らしい。
「少し女性同士で話して来たら?」
気を利かせてくれたウィリアムに感謝しつつ、メルと一緒に人の輪から少し離れた。
「急な婚約発表で驚きました」
「本人が一番驚いているわよ」
「今回の婚約は、ウィリアム様からの求婚を受けて成立したのでしょう?
ソフィー様、愛されているのね」
無邪気に微笑むメルに、思わず苦笑いしながら、愚痴ってしまう。
「そうだったら良かったのにねぇ」
「違うのですか?」
「実は・・・」
私は少し声を潜めて、先日聞いてしまった侍女達の会話をメルに話した。
「つまり、ソフィー様は、嫌いな女との縁談を断る為だけの婚約だと思っているのですね?」
「おそらく」
メルは「うーん」と首を傾げながら思案顔になった。
「それは、勘違いでは?
ソフィー様もご存知の通り、私も色々ありましたので、恋をしている人間は、目を見れば大体分かるようになりました。
ウィリアム様がソフィー様を見つめる瞳は、明らかに熱を帯びているし、愛しさが溢れ出ている様に、私には見えますよ?
確かに、アボット侯爵令嬢が相手では逃げたくなるのも分かりますが、だからと言って、ソフィー様に対して愛が無いとは限りませんよね?」
「・・・・・・そう、かしら?」
「あら、ソフィー様ったら。
以前は〝メルは鈍い〟なんて仰っていた癖に、ご自分の事となると、全然ダメではないですか」
そう言ってメルは、揶揄うように、ニヤリと笑った。
程なくしてリチャードがメルを迎えに来た。
「メリッサ、そろそろ行こう。
主役の一人を独占してはいけないよ」
尤もらしい事を言っているが、おそらく早くメルを返して欲しいだけだ。
「ええ。
ソフィー様、また後日ゆっくりお茶でも致しましょう」
名残惜しく感じながらも、メルをリチャードに引き渡すと、彼はいつもの様に甘やかな眼差しで新妻を見つめた。
熱を帯びた瞳とは、こういうのを指す言葉だろう。
私を見るウィリアムの眼差しに熱を感じた事など無かった。
ーーー新婚夫婦のラブラブな空気は、今の私には毒だわ。
ウィリアムと合流しようかと思ったが、彼は他の招待客に捕まっていた。
あー、あの伯爵は話が長い事で有名な御人だ。
暫くは解放してもらえないだろう。
あまり心がこもっていない祝いの言葉を聞くのも疲れて来たし、人の熱気に当てられ気味だった私は、バルコニーに出て、少し涼む事にした。
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