7 / 7
7 求婚の理由(最終話)
しおりを挟む
「今日は来ないかと思ったわ」
「何故?約束してあっただろ」
私達は、婚約者との交流の為に、ロブソン侯爵家のテラスでお茶を飲んでいる。
事前の約束通りに来たのは良いが、不機嫌なオーラ全開のウィリアム。
あのパーティーの日から、ウィリアムは、何やらずっとピリピリしている。
何がいけなかったのか?
彼の怒りのツボは、いつもよく分からない。
私は、ため息を押し殺しながら、小さなチョコレートを一粒口に入れた。
「この間から、何をそんなに怒っているの?」
「・・・・・・君は、あのパーティーの日、バルコニーで誰と何を話してたの?」
「・・・・・・っ!」
私は息を呑んだ。
何故それを知っているのだろう?
見られていたとも思えないのだが・・・。
とにかく、彼が怒っている理由は理解した。
私は一応、ウィリアムの婚約者なのだから、怒る権利は充分にあるだろう。
しかし、なんと答えれば良いのか。
やましい気持ちがある訳ではないが、バルコニーで他の男性と二人になってしまい、告白をされたのは事実だ。
「涼しい場所から戻ったばかりのはずなのに、君は頬を染めていたね」
「・・・・・・」
「しかも、君が俺の隣に並んだ時、微かに男性用のコロンの香りがした」
「・・・・・・」
「君が戻った少し後に、同じバルコニーからアーロン様が戻って来たのを見たよ。
・・・・・・これってさぁ、どう考えたら良いのかな?」
地を這うような低い声で問いかけられる。
冷たい眼差しに晒されるのが怖くて、無意識に視線が落ちていく。
「ねぇ、ソフィー。
アーロン様に、愛の告白でもされた?」
図星を指されて、肩がピクッと反応した。
それを見た彼は、深く息を吐き出した。
「やっぱりね・・・。
それで?
抱きしめられたりしちゃった?」
「っそんな事されてない!」
「いや、ただ隣で話した位では、相手のコロンの香りなんて移らないだろ」
その声が、より一層低くなる。
「冷えるからって、上着を貸して下さっただけです」
「成る程。
貸して下さった、か・・・。
お優しいですね、アーロン様は」
ウィリアムの言葉は、いつに無く皮肉っぽく聞こえる。
「そんな言い方、しなくても・・・」
彼が発する冷気が、身体中に刺さる。
何故そこまで不快感を露わにするのだろう。
まるで嫉妬でもしているみたい・・・。
そんな筈無いか。
尻軽だと思われて、嫌われただけかもしれない。
じわじわと視界が滲んできた。
「アイツを庇うの?
告白されて、ソフィーもアイツを好きになった?
俺と婚約なんてしないで、アイツと見合いをした方が良かったか?」
「お見合いの事、知ってたの・・・?」
ウィリアムの顔が苦し気に歪む。
「知ってたさ。
だから、君に求婚したんだ。
君の見合いの邪魔をする為にね」
「どうして・・・」
「ソフィーが好きだからに決まってるだろう!?
好きじゃなきゃ、求婚なんてしない!」
バンッとテーブルに手をついて、立ち上がったウィリアムに驚いた私の瞳から、透明な雫が一粒ポロリとこぼれた。
それを見たウィリアムが、「あ・・・」と小さく声を上げて固まる。
「ごめん・・・」
「・・・・・・・・・座ってください」
「・・・はい」
私は呼吸を整えて少し気持ちを落ち着かせると、ゆっくり話し始めた。
「・・・この婚約は、貴方がアボット侯爵家との縁談を断る為の物かと思っていました」
「はあ?まあ、面倒な縁談を断れてラッキーだとは思ったけど、別にその為では無い。
ソフィーに見合いの話が持ち上がってるって聞いたから、焦ってプロポーズしたんだ。
君は俺の事なんか、何とも思ってなかっただろうけど」
「・・・・・・貴方は、いつも私をなんて呼んでいますか?」
「・・・え?・・・ソフィー、だけど」
「そうですよね。
いつの間にか、勝手にそう呼び始めましたよね。
でも、私はそれを咎めた事は一度も有りません」
「うん?」
ウィリアムは私が何を言い出したのか分からないようで、困惑した表情で首を傾げる。
「こう見えても、私、一応侯爵令嬢なのですよ?
その私が、愛称で呼ぶのを許すのは、余程親しい相手か、好きな相手だけです」
「・・・え、っと・・・それって・・・」
ウィリアムの瞳が丸く見開かれ、その頬が徐々に赤く染まっていく。
私の顔も、心なしか熱くなった様な気がして、俯いた。
「ソフィー?」
「・・・・・・」
「こっちを向いて」
いつの間にか、私のすぐ横に立っていたウィリアムの手が、そっと私の頬に触れる。
「ソフィー、愛してるよ」
「・・・・・・はい」
「ソフィーも、ちゃんと言って」
「・・・ウィリアムが、好きですよ」
私を見つめて、幸せそうに笑ったその瞳は、メルが言っていた通り、蕩けるような熱を帯びていた。
【終】
「何故?約束してあっただろ」
私達は、婚約者との交流の為に、ロブソン侯爵家のテラスでお茶を飲んでいる。
事前の約束通りに来たのは良いが、不機嫌なオーラ全開のウィリアム。
あのパーティーの日から、ウィリアムは、何やらずっとピリピリしている。
何がいけなかったのか?
彼の怒りのツボは、いつもよく分からない。
私は、ため息を押し殺しながら、小さなチョコレートを一粒口に入れた。
「この間から、何をそんなに怒っているの?」
「・・・・・・君は、あのパーティーの日、バルコニーで誰と何を話してたの?」
「・・・・・・っ!」
私は息を呑んだ。
何故それを知っているのだろう?
見られていたとも思えないのだが・・・。
とにかく、彼が怒っている理由は理解した。
私は一応、ウィリアムの婚約者なのだから、怒る権利は充分にあるだろう。
しかし、なんと答えれば良いのか。
やましい気持ちがある訳ではないが、バルコニーで他の男性と二人になってしまい、告白をされたのは事実だ。
「涼しい場所から戻ったばかりのはずなのに、君は頬を染めていたね」
「・・・・・・」
「しかも、君が俺の隣に並んだ時、微かに男性用のコロンの香りがした」
「・・・・・・」
「君が戻った少し後に、同じバルコニーからアーロン様が戻って来たのを見たよ。
・・・・・・これってさぁ、どう考えたら良いのかな?」
地を這うような低い声で問いかけられる。
冷たい眼差しに晒されるのが怖くて、無意識に視線が落ちていく。
「ねぇ、ソフィー。
アーロン様に、愛の告白でもされた?」
図星を指されて、肩がピクッと反応した。
それを見た彼は、深く息を吐き出した。
「やっぱりね・・・。
それで?
抱きしめられたりしちゃった?」
「っそんな事されてない!」
「いや、ただ隣で話した位では、相手のコロンの香りなんて移らないだろ」
その声が、より一層低くなる。
「冷えるからって、上着を貸して下さっただけです」
「成る程。
貸して下さった、か・・・。
お優しいですね、アーロン様は」
ウィリアムの言葉は、いつに無く皮肉っぽく聞こえる。
「そんな言い方、しなくても・・・」
彼が発する冷気が、身体中に刺さる。
何故そこまで不快感を露わにするのだろう。
まるで嫉妬でもしているみたい・・・。
そんな筈無いか。
尻軽だと思われて、嫌われただけかもしれない。
じわじわと視界が滲んできた。
「アイツを庇うの?
告白されて、ソフィーもアイツを好きになった?
俺と婚約なんてしないで、アイツと見合いをした方が良かったか?」
「お見合いの事、知ってたの・・・?」
ウィリアムの顔が苦し気に歪む。
「知ってたさ。
だから、君に求婚したんだ。
君の見合いの邪魔をする為にね」
「どうして・・・」
「ソフィーが好きだからに決まってるだろう!?
好きじゃなきゃ、求婚なんてしない!」
バンッとテーブルに手をついて、立ち上がったウィリアムに驚いた私の瞳から、透明な雫が一粒ポロリとこぼれた。
それを見たウィリアムが、「あ・・・」と小さく声を上げて固まる。
「ごめん・・・」
「・・・・・・・・・座ってください」
「・・・はい」
私は呼吸を整えて少し気持ちを落ち着かせると、ゆっくり話し始めた。
「・・・この婚約は、貴方がアボット侯爵家との縁談を断る為の物かと思っていました」
「はあ?まあ、面倒な縁談を断れてラッキーだとは思ったけど、別にその為では無い。
ソフィーに見合いの話が持ち上がってるって聞いたから、焦ってプロポーズしたんだ。
君は俺の事なんか、何とも思ってなかっただろうけど」
「・・・・・・貴方は、いつも私をなんて呼んでいますか?」
「・・・え?・・・ソフィー、だけど」
「そうですよね。
いつの間にか、勝手にそう呼び始めましたよね。
でも、私はそれを咎めた事は一度も有りません」
「うん?」
ウィリアムは私が何を言い出したのか分からないようで、困惑した表情で首を傾げる。
「こう見えても、私、一応侯爵令嬢なのですよ?
その私が、愛称で呼ぶのを許すのは、余程親しい相手か、好きな相手だけです」
「・・・え、っと・・・それって・・・」
ウィリアムの瞳が丸く見開かれ、その頬が徐々に赤く染まっていく。
私の顔も、心なしか熱くなった様な気がして、俯いた。
「ソフィー?」
「・・・・・・」
「こっちを向いて」
いつの間にか、私のすぐ横に立っていたウィリアムの手が、そっと私の頬に触れる。
「ソフィー、愛してるよ」
「・・・・・・はい」
「ソフィーも、ちゃんと言って」
「・・・ウィリアムが、好きですよ」
私を見つめて、幸せそうに笑ったその瞳は、メルが言っていた通り、蕩けるような熱を帯びていた。
【終】
226
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(15件)
あなたにおすすめの小説
村娘あがりの娼婦ですが、身請けされて幸せです
春月もも
恋愛
村を飛び出して王都に来たリリアは、いまは高級娼婦として生きている。
ここは通過点のはずだった。
誰かに選ばれて終わる物語なんて、わたしには関係ないと思っていたのに。
触れない客。
身体ではなく、わたしの話を聞きに来るだけの商人。
「君と話す時間を、金で買うのが嫌になった」
突然の身請け話。
値札のついた自分と向き合う三日間。
選ばれるのではなく選ぶと決めたとき、
通過点は終わりになる。
これは救いではなく対等な恋の話。
前世の私は重い女だったので、今世は恋なんてしません。
ありま氷炎
恋愛
前世は余りにも夫が大好きで、愛が重すぎた。
だから捨てられた。
なので生まれ変わった今は、恋なんてするつもりはなかったのだけど……。
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
婚約破棄の帰り道
春月もも
恋愛
婚約破棄を宣言されたその日、彼女はただ静かに頷いた。
拍手の中を背筋を伸ばして歩き、令嬢としての役目をひとつ終える。
やがて醜聞にまみれ、「傷物」「行き遅れ」と囁かれながらも、
薔薇と風だけを相手に庭でお茶を飲む日々。
気品だけを残して、心はゆっくりと枯れていく。
――そんな彼女の前に現れたのは、
かつて身分違いで諦めた幼馴染、隣国の若き王だった。
「迎えに来た」
静かな破滅の先に訪れる、軍を率いた一途な求婚。
これは、声を荒げずにすべてを覆す、上品な逆転劇。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
片思いが両思いに♡
二人がお互いの気持ちに気づいて良かった!
それまでのジレジレの展開が青春みたいで、キュンキュンしちゃいました♪
遠回りしながらのハッピーエンド最高でした。
素敵なお話を、ありがとうございました^ ^
ご感想頂き、有難うございますヾ(*´∀`*)ノ♥
キュンキュンして貰えて光栄です!
両片思いやすれ違いのお話が大好物なので、他にも沢山書いております。
気になる物があれば、また読んでみてくださると嬉しいです♪
『金で〜』を読んでからこちらを読みました。
ソフィーはもっとお転婆?だった様な感じなのに、こちらではなんだか乙女で可愛らしかったです。
また素敵なお話を期待しております。
いつもお読み頂き、有難うございます😊
ソフィーは、基本的には気が強くてしっかり者だけど、自分の恋愛には免疫が無く、あまり自信もないタイプ・・・みたいなイメージで書きました。
「金で〜」の方は、前半の性格が強く出ていて、この作品では本人の恋愛模様が中心なので後半の性格が強く出ています。
乙女なソフィーを可愛いと言って貰えて良かったです。
お互いの気持ちを告げあって晴れて両想いに。
てか、ソフィに先に貴方は特別だから愛称呼びを許してるのよ、と言わせちゃうウィリアムヘタレ。
婚約申し込み=愛の告白にはならないからね。
リチャードにはかなわないでしょうが、ウィリアムも激愛妻家間違いなし(笑)
お幸せに✨
二組の子供が縁を結べたら素敵だなぁ。
完結お疲れ様でした。
気づいたら完結してました(涙)
次回作でお会いできますように。
ありゃ。ウィリアム、ヘタレ認定されちゃいましたね(笑)
きっと、ソフィの尻に敷かれて、超ラブラブな幸せ夫婦になると思いますヽ(*´∀`)
ソフィとメルの子供同士のお話、楽しそうですね!妄想が捗る_φ(・_・メモメモ
最後までお読み頂き、有難うございました(≧∀≦)