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7 王太子殿下
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一通り挨拶を済ませ、私達は王太子殿下の向かい側のソファーに腰を下ろした。
「わざわざ呼び出して悪かったね。
先日の夜会では、私の妹がフェリシア嬢に大変失礼な発言をしたと聞いた。
不愉快な思いをさせて申し訳無かった。
しかも、そのせいで婚約を解消したそうだが……」
「姉の婚約解消はまだ成立しておりません。
ジェフリー・ファーガソンが婚約は解消しないとゴネているからです。
申し訳ないと思うのならば、婚約解消に手を貸して下さい」
王太子殿下直々の異例の謝罪に対して、マーヴィンが不遜な態度で言い放った。
私はサッと血の気が引いた思いで、マーヴィンを肘でつつく。
「貴方は少し黙っていなさい。
……先程王太子殿下が仰った事は、概ね間違っておりません。
ですが、王女殿下に言われたから婚約解消したわけでは無いので、お気になさらなくて結構です」
「そう言って貰えると助かる。
フェリシア嬢も望んでいるのなら、速やかに婚約が解消出来る様にこちらからも手を打とう」
「ありがとうございます」
私が頭を下げている隙を突いて、再びマーヴィンが口を開く。
「あの女は今日は顔を出さないのですか?
自分で謝りもしないのですね」
「マーヴィン!?」
(今この子、王女殿下を〝あの女〟って言った!!)
「あの女は離宮で謹慎中だ。
一歩も外に出さない様に指示してある。
自分の口から謝らせる事も考えたが、あの女を君達と会わせたとしても、不快な思いをさせるだけだと私が判断した。
もう二度と、大切な姉君に無礼は働かせないから、その点は安心して欲しい」
弟の発言に益々青褪める私を他所に、王太子殿下は何事もなかったかの様に返事をした。
しかも、殿下まで〝あの女〟呼ばわり。
殿下の言葉にマーヴィンは漸く溜飲を下げた様で、提供された紅茶を優雅な所作で一口飲んだ。
(緊張してるって言ってたの、何処の誰だったっけ?)
「二度と…と、仰いましたが、あの女の処遇をどうなさるおつもりですか?
まさかいつまでも謹慎させている訳にはいかないでしょう?」
「あの女の身勝手な行動には、私もずっと頭を悩ませていた。
だから、社交の場には出さない様にしていたんだ」
(ああ、王女殿下の噂の半分は真実だったのね)
「ならば、どうしてあの夜会には出席したのです?」
「あの夜会は、トアール国との国交正常化記念で、あちらの国王陛下も態々出席して下さっていた。
そこで妹を紹介して、気に入って貰えたらトアール国に持ち帰って頂く手筈だったんだよ」
───トアール国に持ち帰る?
荷物みたいに言ってるけど、それってまさか……。
「見合いだったって事ですか?」
マーヴィンがズバッと聞いた。
「まあそんな所だ。
妹の意思など聞くつもりは無いから、正確には見合いでは無いかもしれないけどね」
お互いに見定めるのでは無く、トアール国王が一方的に判断すると言う意味なのだろう。
だが常識的に考えて、クラリス王女がいくら美しくても、あんな地雷の様な女性を娶りたいと思うだろうか?
上手く本性を隠して縁談が成立しても、後から問題になるに違いない。
「ええっと……、失礼ですが、それはトアール国にとって迷わk………いえ、その…」
気になっている事を聞こうとするが、どう取り繕っても不敬になる表現しか出てこない。
口籠もっている私に、王太子殿下は朗らかに笑った。
「今日の面会はプライベートだから、言葉を選ばなくても良いよ。
確かに、問題のある王女を押し付けるなんて、普通なら国同士の関係が危ぶまれる案件だけど、トアール国王陛下はちょっと変わった趣味をお持ちでね。
我儘でどうしようもない女性を教育し直すのがお好きなんだよ」
『教育』と言えば聞こえが良いけれど、実質『調教』なのでは?
トアール国王は、確か御歳62才。
ご高齢にも関わらず色んな意味でまだまだ現役で、沢山の側妃を抱えた後宮を構えていると言う話は、私でも聞いた事がある位に有名だ。
王太子殿下が言うには、そこに集められた女性の半分以上は各国から引き取って鍛え直した問題児なのだとか。
その問題児達は、殆どの場合一年ほどで大人しい仔猫の様に調きょ…いや、教育されるらしい。
一体何が行われているのやら?
想像するのが怖い。
「わざわざ呼び出して悪かったね。
先日の夜会では、私の妹がフェリシア嬢に大変失礼な発言をしたと聞いた。
不愉快な思いをさせて申し訳無かった。
しかも、そのせいで婚約を解消したそうだが……」
「姉の婚約解消はまだ成立しておりません。
ジェフリー・ファーガソンが婚約は解消しないとゴネているからです。
申し訳ないと思うのならば、婚約解消に手を貸して下さい」
王太子殿下直々の異例の謝罪に対して、マーヴィンが不遜な態度で言い放った。
私はサッと血の気が引いた思いで、マーヴィンを肘でつつく。
「貴方は少し黙っていなさい。
……先程王太子殿下が仰った事は、概ね間違っておりません。
ですが、王女殿下に言われたから婚約解消したわけでは無いので、お気になさらなくて結構です」
「そう言って貰えると助かる。
フェリシア嬢も望んでいるのなら、速やかに婚約が解消出来る様にこちらからも手を打とう」
「ありがとうございます」
私が頭を下げている隙を突いて、再びマーヴィンが口を開く。
「あの女は今日は顔を出さないのですか?
自分で謝りもしないのですね」
「マーヴィン!?」
(今この子、王女殿下を〝あの女〟って言った!!)
「あの女は離宮で謹慎中だ。
一歩も外に出さない様に指示してある。
自分の口から謝らせる事も考えたが、あの女を君達と会わせたとしても、不快な思いをさせるだけだと私が判断した。
もう二度と、大切な姉君に無礼は働かせないから、その点は安心して欲しい」
弟の発言に益々青褪める私を他所に、王太子殿下は何事もなかったかの様に返事をした。
しかも、殿下まで〝あの女〟呼ばわり。
殿下の言葉にマーヴィンは漸く溜飲を下げた様で、提供された紅茶を優雅な所作で一口飲んだ。
(緊張してるって言ってたの、何処の誰だったっけ?)
「二度と…と、仰いましたが、あの女の処遇をどうなさるおつもりですか?
まさかいつまでも謹慎させている訳にはいかないでしょう?」
「あの女の身勝手な行動には、私もずっと頭を悩ませていた。
だから、社交の場には出さない様にしていたんだ」
(ああ、王女殿下の噂の半分は真実だったのね)
「ならば、どうしてあの夜会には出席したのです?」
「あの夜会は、トアール国との国交正常化記念で、あちらの国王陛下も態々出席して下さっていた。
そこで妹を紹介して、気に入って貰えたらトアール国に持ち帰って頂く手筈だったんだよ」
───トアール国に持ち帰る?
荷物みたいに言ってるけど、それってまさか……。
「見合いだったって事ですか?」
マーヴィンがズバッと聞いた。
「まあそんな所だ。
妹の意思など聞くつもりは無いから、正確には見合いでは無いかもしれないけどね」
お互いに見定めるのでは無く、トアール国王が一方的に判断すると言う意味なのだろう。
だが常識的に考えて、クラリス王女がいくら美しくても、あんな地雷の様な女性を娶りたいと思うだろうか?
上手く本性を隠して縁談が成立しても、後から問題になるに違いない。
「ええっと……、失礼ですが、それはトアール国にとって迷わk………いえ、その…」
気になっている事を聞こうとするが、どう取り繕っても不敬になる表現しか出てこない。
口籠もっている私に、王太子殿下は朗らかに笑った。
「今日の面会はプライベートだから、言葉を選ばなくても良いよ。
確かに、問題のある王女を押し付けるなんて、普通なら国同士の関係が危ぶまれる案件だけど、トアール国王陛下はちょっと変わった趣味をお持ちでね。
我儘でどうしようもない女性を教育し直すのがお好きなんだよ」
『教育』と言えば聞こえが良いけれど、実質『調教』なのでは?
トアール国王は、確か御歳62才。
ご高齢にも関わらず色んな意味でまだまだ現役で、沢山の側妃を抱えた後宮を構えていると言う話は、私でも聞いた事がある位に有名だ。
王太子殿下が言うには、そこに集められた女性の半分以上は各国から引き取って鍛え直した問題児なのだとか。
その問題児達は、殆どの場合一年ほどで大人しい仔猫の様に調きょ…いや、教育されるらしい。
一体何が行われているのやら?
想像するのが怖い。
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