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40 我儘
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《side:ウィルフレッド》
必死に誤解を解こうとする様に、元婚約者への愛情を否定するフェリシア。
胸の奥に微かな期待が湧いて来て、心臓がうるさいくらいに拍動を始める。
俯いていた顔をゆっくりと上げると、真剣な顔でこちらを見ている彼女と視線が絡んで───。
「私が好きなのは、コールドウェル様です」
彼女の口から紡がれたのは、ずっと俺が渇望していた言葉だった。
「…夢みたいだ……」
信じられない思いで呆然と呟く俺を見て、彼女はクスッと笑った。
「奇遇ですね。
今、私も、そう思ってます」
「手を、握っても?」
「お好きな様に」
テーブル越しに差し出された彼女の細い手を取って、そのまま唇を落とした。
「なっ……!?
話が違います。手を握るって言ったじゃないですか!」
「君は、好きにして良いって言った」
「言いましたけど、そういう意味では……」
ほんのりと頬を染めて狼狽える彼女が、堪らなく可愛い。
「はあ……、ダメだな。
明日から薬を塗ってもらうのは、応接室にしよう。
私室では危険過ぎる」
「どうしてですか?」
キョトンと首を傾げるフェリシア。
警戒心が無さ過ぎる。
告白の返事をもらう前だったら、きっと『全く男として意識されていないのだろうか』と落ち込んだだろう。
もしかして、俺以外に対してもいつもこうなのだろうか?
もう少し危機感を持ってもらわないと、心配過ぎて目が離せやしない。
「すぐにでもベッドに引っ張り込みたくなるからだよ。
今も、本当なら隣に座って抱き締めたいけど、我慢している。
抱き締めりしたら、タガが外れてしまいそうだから。
まあ、既に入籍は済んでいるから俺達は書類上は夫婦だし、そうなってしまっても問題は無いんだけど……」
「……えっ、と……それは、結婚式の後にしませんか?
まだ気持ちが通じ合ったばかりですので、心の準備がですね……」
「君がそう望むなら、我慢しよう。
楽しみを後に取っておくのも悪くないしな」
フェリシアの顔が、とうとう真っ赤になった。
もう首筋や胸元までもが赤く染まっている。
もしかして、見えない部分も赤いのだろうか?
……………………。
「───ウヴン゛ッッ……!」
服の下に隠された肢体を想像しそうになった俺は、咳払いをして不埒な考えを無理矢理押し込め、ギリギリの所で理性を保った。
「あーー、ところで、ひとつだけ我儘を聞いてくれないか?」
このままではマズいと思い、話題の方向性を変える事にした。
「内容にもよりますが、なんでしょうか?」
「名前で呼んで欲しい。
ウチの使用人も、国境警備団の連中も、殆どが名前で呼ばれているのに、俺だけ家名で呼ばれるのが寂しかった。
しかも、前の婚約者の事も未だに名前で呼んでるし」
前の婚約者の件を持ち出せば、フェリシアは申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「それは……、済みません。
あの……ウィルフレッド様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ウィルと呼んで欲しい。
敬称も無しで。
出来れば敬語も無しで」
「家名呼びからいきなりそれは、なかなか難易度が高いかと……」
「だが、元婚約者には…」
俺が言い掛けた言葉を、フェリシアは慌てた様子で遮る。
「だって、元婚約者は私と同じ歳なのですよ?
貴方は年上ですし、辺境伯様ですし、敬意を払うのは当たり前です」
「壁があるみたいで寂しい。
やっぱり俺みたいなオジサンとは、そんなに簡単に親しくなれないのか…」
少し大袈裟に肩を落とし、しょんぼりと項垂れて見せれば、フェリシアは「ぅ゛…」と小さな呻き声を上げて、困った様に眉を下げた。
「ぁーー、……もうっ!わかりましたっ!
癖になっているので、すぐには難しいですが、少しづつ努力します」
なかば叫ぶ様に了承してくれたフェリシアは、もう全然無表情なんかに見えなかった。
必死に誤解を解こうとする様に、元婚約者への愛情を否定するフェリシア。
胸の奥に微かな期待が湧いて来て、心臓がうるさいくらいに拍動を始める。
俯いていた顔をゆっくりと上げると、真剣な顔でこちらを見ている彼女と視線が絡んで───。
「私が好きなのは、コールドウェル様です」
彼女の口から紡がれたのは、ずっと俺が渇望していた言葉だった。
「…夢みたいだ……」
信じられない思いで呆然と呟く俺を見て、彼女はクスッと笑った。
「奇遇ですね。
今、私も、そう思ってます」
「手を、握っても?」
「お好きな様に」
テーブル越しに差し出された彼女の細い手を取って、そのまま唇を落とした。
「なっ……!?
話が違います。手を握るって言ったじゃないですか!」
「君は、好きにして良いって言った」
「言いましたけど、そういう意味では……」
ほんのりと頬を染めて狼狽える彼女が、堪らなく可愛い。
「はあ……、ダメだな。
明日から薬を塗ってもらうのは、応接室にしよう。
私室では危険過ぎる」
「どうしてですか?」
キョトンと首を傾げるフェリシア。
警戒心が無さ過ぎる。
告白の返事をもらう前だったら、きっと『全く男として意識されていないのだろうか』と落ち込んだだろう。
もしかして、俺以外に対してもいつもこうなのだろうか?
もう少し危機感を持ってもらわないと、心配過ぎて目が離せやしない。
「すぐにでもベッドに引っ張り込みたくなるからだよ。
今も、本当なら隣に座って抱き締めたいけど、我慢している。
抱き締めりしたら、タガが外れてしまいそうだから。
まあ、既に入籍は済んでいるから俺達は書類上は夫婦だし、そうなってしまっても問題は無いんだけど……」
「……えっ、と……それは、結婚式の後にしませんか?
まだ気持ちが通じ合ったばかりですので、心の準備がですね……」
「君がそう望むなら、我慢しよう。
楽しみを後に取っておくのも悪くないしな」
フェリシアの顔が、とうとう真っ赤になった。
もう首筋や胸元までもが赤く染まっている。
もしかして、見えない部分も赤いのだろうか?
……………………。
「───ウヴン゛ッッ……!」
服の下に隠された肢体を想像しそうになった俺は、咳払いをして不埒な考えを無理矢理押し込め、ギリギリの所で理性を保った。
「あーー、ところで、ひとつだけ我儘を聞いてくれないか?」
このままではマズいと思い、話題の方向性を変える事にした。
「内容にもよりますが、なんでしょうか?」
「名前で呼んで欲しい。
ウチの使用人も、国境警備団の連中も、殆どが名前で呼ばれているのに、俺だけ家名で呼ばれるのが寂しかった。
しかも、前の婚約者の事も未だに名前で呼んでるし」
前の婚約者の件を持ち出せば、フェリシアは申し訳なさそうに瞳を伏せた。
「それは……、済みません。
あの……ウィルフレッド様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ウィルと呼んで欲しい。
敬称も無しで。
出来れば敬語も無しで」
「家名呼びからいきなりそれは、なかなか難易度が高いかと……」
「だが、元婚約者には…」
俺が言い掛けた言葉を、フェリシアは慌てた様子で遮る。
「だって、元婚約者は私と同じ歳なのですよ?
貴方は年上ですし、辺境伯様ですし、敬意を払うのは当たり前です」
「壁があるみたいで寂しい。
やっぱり俺みたいなオジサンとは、そんなに簡単に親しくなれないのか…」
少し大袈裟に肩を落とし、しょんぼりと項垂れて見せれば、フェリシアは「ぅ゛…」と小さな呻き声を上げて、困った様に眉を下げた。
「ぁーー、……もうっ!わかりましたっ!
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