【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

文字の大きさ
40 / 56

40 我儘

しおりを挟む
《side:ウィルフレッド》


 必死に誤解を解こうとする様に、元婚約者への愛情を否定するフェリシア。
 胸の奥に微かな期待が湧いて来て、心臓がうるさいくらいに拍動を始める。

 俯いていた顔をゆっくりと上げると、真剣な顔でこちらを見ている彼女と視線が絡んで───。


「私が好きなのは、コールドウェル様です」

 彼女の口から紡がれたのは、ずっと俺が渇望していた言葉だった。

「…夢みたいだ……」

 信じられない思いで呆然と呟く俺を見て、彼女はクスッと笑った。

「奇遇ですね。
 今、私も、そう思ってます」

「手を、握っても?」

「お好きな様に」

 テーブル越しに差し出された彼女の細い手を取って、そのまま唇を落とした。

「なっ……!?
 話が違います。手を握るって言ったじゃないですか!」

「君は、好きにして良いって言った」

「言いましたけど、そういう意味では……」

 ほんのりと頬を染めて狼狽える彼女が、堪らなく可愛い。

「はあ……、ダメだな。
 明日から薬を塗ってもらうのは、応接室にしよう。
 私室では危険過ぎる」

「どうしてですか?」

 キョトンと首を傾げるフェリシア。
 警戒心が無さ過ぎる。
 告白の返事をもらう前だったら、きっと『全く男として意識されていないのだろうか』と落ち込んだだろう。
 もしかして、俺以外に対してもいつもこうなのだろうか?
 もう少し危機感を持ってもらわないと、心配過ぎて目が離せやしない。

「すぐにでもベッドに引っ張り込みたくなるからだよ。
 今も、本当なら隣に座って抱き締めたいけど、我慢している。
 抱き締めりしたら、タガが外れてしまいそうだから。
 まあ、既に入籍は済んでいるから俺達は書類上は夫婦だし、そうなってしまっても問題は無いんだけど……」

「……えっ、と……それは、結婚式の後にしませんか?
 まだ気持ちが通じ合ったばかりですので、心の準備がですね……」

「君がそう望むなら、我慢しよう。
 楽しみを後に取っておくのも悪くないしな」

 フェリシアの顔が、とうとう真っ赤になった。
 もう首筋や胸元までもが赤く染まっている。
 もしかして、見えない部分も赤いのだろうか?

 ……………………。


「───ウヴン゛ッッ……!」

 服の下に隠された肢体を想像しそうになった俺は、咳払いをして不埒な考えを無理矢理押し込め、ギリギリの所で理性を保った。


「あーー、ところで、ひとつだけ我儘を聞いてくれないか?」

 このままではマズいと思い、話題の方向性を変える事にした。

「内容にもよりますが、なんでしょうか?」

「名前で呼んで欲しい。
 ウチの使用人も、国境警備団の連中も、殆どが名前で呼ばれているのに、俺だけ家名で呼ばれるのが寂しかった。
 しかも、前の婚約者の事も未だに名前で呼んでるし」

 前の婚約者の件を持ち出せば、フェリシアは申し訳なさそうに瞳を伏せた。

「それは……、済みません。
 あの……ウィルフレッド様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「ウィルと呼んで欲しい。
 敬称も無しで。
 出来れば敬語も無しで」

「家名呼びからいきなりそれは、なかなか難易度が高いかと……」

「だが、元婚約者には…」

 俺が言い掛けた言葉を、フェリシアは慌てた様子で遮る。

「だって、元婚約者は私と同じ歳なのですよ?
 貴方は年上ですし、辺境伯様ですし、敬意を払うのは当たり前です」

「壁があるみたいで寂しい。
 やっぱり俺みたいなオジサンとは、そんなに簡単に親しくなれないのか…」

 少し大袈裟に肩を落とし、しょんぼりと項垂れて見せれば、フェリシアは「ぅ゛…」と小さな呻き声を上げて、困った様に眉を下げた。

「ぁーー、……もうっ!わかりましたっ!
 癖になっているので、すぐには難しいですが、少しづつ努力します」

 なかば叫ぶ様に了承してくれたフェリシアは、もう全然無表情なんかに見えなかった。
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...