【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

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48 何も分かっていない

 隣に寄り添っていたウィルが、私を守る様にズイッと一歩前に出る。
 その顔には相手を威圧する様な薄い笑みが浮かんでいた。
 ほんのりと冷気が漂ってくる様な気さえする。

「ファーガソン侯爵家のご子息ですね?
 初めまして。ウィルフレッド・コールドウェルと申します。
 以前、が大変になったそうで、

「……つ、ま?」

 ウィルが冷ややかな声色で、かなりの嫌味を交えた挨拶をすると、ジェフリーは愕然とした表情で呟いた。

 婚約を解消して直ぐの頃のジェフリーは、意味不明の手紙や贈り物を送って来て、私は彼の執着心に恐怖を感じた。
 だが今のジェフリーは、なんだか以前よりも少し小さくなった様に見える。

(ちょっと窶れたかしら?)

「あの…お二人は、婚約中、では……?」

「挙式は後日になりますが、入籍だけ先に済ませたのですよ」

 顔色を無くしてしどろもどろに問うジェフリーに、ウィルはサラリと答えた。

「……そんな………」

 震える声で呟く彼の瞳は、頼りなく揺れていて……、いつも自信に満ちた顔をしていたジェフリーしか知らない私は、少しだけ動揺してしまう。

「…………フェリシア、最後にっ……、最後に少しでも良いから、二人だけで話をさせてくれないか?」

 大きなショックを受けた様子の彼は、私に縋る様にそう言った。
 確かに、別れる時にきちんとした話し合いをしなかった事は、私もちょっとだけ引っ掛かっていた。
 もしも彼がまだ私に未練を残しているのならば、それを断ち切る為にも、話し合う必要があるのかもしれない。

 ウィルの顔を見上げると、冷たい表情でゆるりと首を横に振った。

 まあ、そりゃあそうよね。当たり前だわ。

「ファーガソン侯爵令息。
 申し訳ありませんが、夫以外の男性と二人きりになる事は出来かねます」

「それから、俺の妻を名前で呼ぶのはご遠慮願いたい」

 あー、これ、きっとずっとイライラしてたのね。
 ウィルは名前呼びに拘りがあるから余計に嫌なのかも知れない。


 取り敢えず、折衷案として、ウィルも同席して貰って話を聞く事となった。
 ウィルは最後まで渋い顔をしていた。
 気持ちは分かるし、出来ればウィルの嫌がる事はしたく無いけど、きちんと理解させる為には、私から直接引導を渡すのが一番だと思うの。
 別れてからずっと、ジェフリーと会うのが怖いと思っていたし、話し合うなんて無理だと思っていたけど、近くにウィルが居てくれるだけで大きな安心感がある。
 だから、最後に言いたい事を全部言ってやろう。


 私達は人気の無いバルコニーに場所を移した。
 閉じた出入り口のガラス扉にウィルは背を預け、腕組みをしながら不機嫌そうに、少し離れた私達の様子を伺っている。

 冷んやりとした外気に晒され、寛ぐ為のソファーも設置されていないこの場所を選んだのは、長話をするつもりは無いのだと言外に示す為。
 それなのに……。
 話し合いを要求したはずの彼は、モジモジするばかりで、なかなか口を開こうとしない。


「こんな結末になるなんて……」

 気が遠くなる様な長い沈黙の後、ジェフリーはボソッと呟いた。

「こんな、とは、私達の歩む道が別れてしまった事でしょうか?」

「僕とクラリス王女の間には何も無かったんだ。
 確かに疑われる様な状況を作った僕が悪いのかもしれないけど、でも、まさかフェリシ……貴女と別れる事になるなんて……っ!!」

 ジェフリーが私を『フェリシア』と呼びそうになった瞬間、物凄い殺気が扉の方から飛んで来て、ジェフリーはビクッと肩を震わせた。


 それにしても……やっぱりこの人は、何も分かっていないのだわ。

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