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52 夕焼け色
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夜会から一夜明けた今日。
私達は、早い時間から、王宮で陛下に謁見する為の身支度に追われた。
「チッ!
本来なら、今日は一日のんびりして、フェリシアの夜会の疲れを癒す予定だったのに……」
王宮へ向かう馬車に乗り込むと、眉根を寄せたウィルが、不満そうにブツブツと呟く。
「舌打ちしない。
陛下のご命令では仕方無いじゃないの。
それに、私、そんなに疲れてはいないから、心配してくれなくても大丈夫よ。
元々今回の旅は余裕を持ったスケジュールで、休息日が沢山組み込まれていたし」
ウィルが私を気遣って組んでくれた旅程である。
「フェリシアがそう言うのなら良いけど……」
まだ不服そうなウィルに少し笑ってしまう。
「ウィルは、最近とても表情が豊かになったわよね」
思わずポツリとそう言うと、ミアが怪訝そうな顔をした。
「表情が豊か?旦那様が、ですか?
そう思われているのはフェリシア様だけでは?
フェリシア様以外の人間の前では相変わらずの仏頂面ですし、きっと細かい表情の違いを読み取れるのも、フェリシア様だけだと思いますよ」
「そうなの?」
「さあ?自分では分からん。
でも、フェリシアと一緒に居る時は、いつも勝手に顔が緩む」
気のせいだろうか?
それってなんだか、『凄く好きだ』って言われているみたい。
思わず頬が熱くなる。
「ふふっ。表情が豊かになられたのは、フェリシア様の方かもしれないですね」
「俺もそう思う」
馬車の中は、和やかな空気に満ちていた。
王宮内に着いて、警備の騎士に部屋へと案内される。
ヒューバート陛下は国王になられたのだから、謁見の間とかに通されるのかと思いきや、案内されたのは私的な応接室だった。
「二人とも、いらっしゃい。
ウィルはすっぽかすかと思ったけど、フェリシア嬢と一緒だったら素直に従うんだな。
新たな発見だ」
室内では既に陛下がお茶を飲んでいて、ヘラリと笑いながら私達を迎え入れた。
その言い方だと、ウィルは、普段は呼び出されても無視してるって事かしら?
本当に気の置けない間柄なのね。
「煩い。俺のフェリシアを気軽に呼び出すな。
あと、昨日みたいな公式の場では俺達に馴れ馴れしくするな」
「固いこと言うなって。私と君達の仲じゃないか」
「どんな仲だよ。ただの腐れ縁だろ。
それで?何の用だ?」
「用なんて特に無いよ。ただ旧交を温めようと思っただけ。
ウィルは冷たいよね。フェリシア嬢と婚約してから、これまで以上に私に構ってくれなくなったんだからさぁ」
「旧交?温めたくない」
冷たく言い放ったウィルに、陛下は胡乱な視線を投げた。
「へぇ~、そんなこと言って良いのか?
夕焼けの君への積年の想いを叶える手助けをしてやったというのに……、もっと感謝して欲しいものだな」
「ちょっ…、馬鹿!黙ってろ」
『夕焼けの君』という謎の言葉を受けたウィルは、俄に慌て出した。
「何ですか?夕焼けの君って」
首を傾げた私に、陛下はとても良い笑顔を向ける。
「なんだ、まだ出会った時の話を聞いてないのか?」
「出会った時?お見合いの時ですか?」
「違う。フェリシア嬢のデビュタントの時だよ」
「おっ前、マジで後で覚えておけよ」
私の質問に飄々と答える陛下に、ウィルが殺気を放つ。
ヒューバート陛下は一応昨日即位した新国王なんだけど、そんな態度で不敬にならないのかしら?
まあ、陛下もウィルとのお喋りを楽しんでいるみたいだから良い、のかな?
「デビュタントの時、ですか……?
ごめんなさい。思い出せない」
「思い出せないのも無理はない。
あの時は、お互いに名も名乗ってないんだからな。
ただ、ちょっとぶつかって、少し言葉を交わしただけだ」
「それが、私達の本当の出会いですか」
「そうみたいだね。
ウィルの方は、所謂、一目惚れって奴だったんじゃないかな」
「……」
そんなに前から好いてくれていたなんて、それが本当ならば、とても嬉しいけれど。
でも───。
一目惚れ?
ウィルが?
私に?
初対面ではあまり好印象を持たれない私の何処に惚れてくれたと言うのだろうか?
何かの間違いでは?
そんな風に考えてしまって黙り込んでいる私を見て、ウィルは少々慌てた様に付け加える。
「一応言っておくけど、ロリコンとか、ストーカーとかじゃないから!
フェリシアの素性は調べたけど、婚約者がいるって知って、一旦は諦めたし。
それに若い令嬢が好みとかでも無いからっ!」
「ふふっ。そんな事は思ってないわよ」
笑った私に、ウィルは明らかにホッとした表情を見せた。
そう言えば、新たな婚約者を紹介して欲しいとヒューバート陛下にお願いした時、私の髪の色の話や、デビュタントの話をしていたっけ。
陛下はウィルの気持ちを知っていて、私達を引き合わせてくれたって事か。
それなら……、
「ねぇ、ウィル。
私達にとって、ヒューバート陛下は仲人の様なものでしょう?
もうちょっと大事にしなきゃ」
「おっ、フェリシア嬢、良い事言うねぇ!
ほら見ろウィル、彼女の言う通りだぞ」
得意顔で胸を張る陛下を見ていると、ウィルが面倒臭いって思う気持ちもちょっとだけ分かるんだけどね。
「俺だって少しは感謝しているさ。
フェリシアが言うなら、もうちょっとだけ、ヒューバートに優しくするよ」
そう言ったウィルは不満顔だったけど、本当は陛下の事をとても信頼してるんだって、私は知っている。
旧交を温める為の三人だけの茶会の時間は、のんびりと過ぎて行った。
私達は、早い時間から、王宮で陛下に謁見する為の身支度に追われた。
「チッ!
本来なら、今日は一日のんびりして、フェリシアの夜会の疲れを癒す予定だったのに……」
王宮へ向かう馬車に乗り込むと、眉根を寄せたウィルが、不満そうにブツブツと呟く。
「舌打ちしない。
陛下のご命令では仕方無いじゃないの。
それに、私、そんなに疲れてはいないから、心配してくれなくても大丈夫よ。
元々今回の旅は余裕を持ったスケジュールで、休息日が沢山組み込まれていたし」
ウィルが私を気遣って組んでくれた旅程である。
「フェリシアがそう言うのなら良いけど……」
まだ不服そうなウィルに少し笑ってしまう。
「ウィルは、最近とても表情が豊かになったわよね」
思わずポツリとそう言うと、ミアが怪訝そうな顔をした。
「表情が豊か?旦那様が、ですか?
そう思われているのはフェリシア様だけでは?
フェリシア様以外の人間の前では相変わらずの仏頂面ですし、きっと細かい表情の違いを読み取れるのも、フェリシア様だけだと思いますよ」
「そうなの?」
「さあ?自分では分からん。
でも、フェリシアと一緒に居る時は、いつも勝手に顔が緩む」
気のせいだろうか?
それってなんだか、『凄く好きだ』って言われているみたい。
思わず頬が熱くなる。
「ふふっ。表情が豊かになられたのは、フェリシア様の方かもしれないですね」
「俺もそう思う」
馬車の中は、和やかな空気に満ちていた。
王宮内に着いて、警備の騎士に部屋へと案内される。
ヒューバート陛下は国王になられたのだから、謁見の間とかに通されるのかと思いきや、案内されたのは私的な応接室だった。
「二人とも、いらっしゃい。
ウィルはすっぽかすかと思ったけど、フェリシア嬢と一緒だったら素直に従うんだな。
新たな発見だ」
室内では既に陛下がお茶を飲んでいて、ヘラリと笑いながら私達を迎え入れた。
その言い方だと、ウィルは、普段は呼び出されても無視してるって事かしら?
本当に気の置けない間柄なのね。
「煩い。俺のフェリシアを気軽に呼び出すな。
あと、昨日みたいな公式の場では俺達に馴れ馴れしくするな」
「固いこと言うなって。私と君達の仲じゃないか」
「どんな仲だよ。ただの腐れ縁だろ。
それで?何の用だ?」
「用なんて特に無いよ。ただ旧交を温めようと思っただけ。
ウィルは冷たいよね。フェリシア嬢と婚約してから、これまで以上に私に構ってくれなくなったんだからさぁ」
「旧交?温めたくない」
冷たく言い放ったウィルに、陛下は胡乱な視線を投げた。
「へぇ~、そんなこと言って良いのか?
夕焼けの君への積年の想いを叶える手助けをしてやったというのに……、もっと感謝して欲しいものだな」
「ちょっ…、馬鹿!黙ってろ」
『夕焼けの君』という謎の言葉を受けたウィルは、俄に慌て出した。
「何ですか?夕焼けの君って」
首を傾げた私に、陛下はとても良い笑顔を向ける。
「なんだ、まだ出会った時の話を聞いてないのか?」
「出会った時?お見合いの時ですか?」
「違う。フェリシア嬢のデビュタントの時だよ」
「おっ前、マジで後で覚えておけよ」
私の質問に飄々と答える陛下に、ウィルが殺気を放つ。
ヒューバート陛下は一応昨日即位した新国王なんだけど、そんな態度で不敬にならないのかしら?
まあ、陛下もウィルとのお喋りを楽しんでいるみたいだから良い、のかな?
「デビュタントの時、ですか……?
ごめんなさい。思い出せない」
「思い出せないのも無理はない。
あの時は、お互いに名も名乗ってないんだからな。
ただ、ちょっとぶつかって、少し言葉を交わしただけだ」
「それが、私達の本当の出会いですか」
「そうみたいだね。
ウィルの方は、所謂、一目惚れって奴だったんじゃないかな」
「……」
そんなに前から好いてくれていたなんて、それが本当ならば、とても嬉しいけれど。
でも───。
一目惚れ?
ウィルが?
私に?
初対面ではあまり好印象を持たれない私の何処に惚れてくれたと言うのだろうか?
何かの間違いでは?
そんな風に考えてしまって黙り込んでいる私を見て、ウィルは少々慌てた様に付け加える。
「一応言っておくけど、ロリコンとか、ストーカーとかじゃないから!
フェリシアの素性は調べたけど、婚約者がいるって知って、一旦は諦めたし。
それに若い令嬢が好みとかでも無いからっ!」
「ふふっ。そんな事は思ってないわよ」
笑った私に、ウィルは明らかにホッとした表情を見せた。
そう言えば、新たな婚約者を紹介して欲しいとヒューバート陛下にお願いした時、私の髪の色の話や、デビュタントの話をしていたっけ。
陛下はウィルの気持ちを知っていて、私達を引き合わせてくれたって事か。
それなら……、
「ねぇ、ウィル。
私達にとって、ヒューバート陛下は仲人の様なものでしょう?
もうちょっと大事にしなきゃ」
「おっ、フェリシア嬢、良い事言うねぇ!
ほら見ろウィル、彼女の言う通りだぞ」
得意顔で胸を張る陛下を見ていると、ウィルが面倒臭いって思う気持ちもちょっとだけ分かるんだけどね。
「俺だって少しは感謝しているさ。
フェリシアが言うなら、もうちょっとだけ、ヒューバートに優しくするよ」
そう言ったウィルは不満顔だったけど、本当は陛下の事をとても信頼してるんだって、私は知っている。
旧交を温める為の三人だけの茶会の時間は、のんびりと過ぎて行った。
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