【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko

文字の大きさ
52 / 56

52 夕焼け色

しおりを挟む
 夜会から一夜明けた今日。
 私達は、早い時間から、王宮で陛下に謁見する為の身支度に追われた。



「チッ!
 本来なら、今日は一日のんびりして、フェリシアの夜会の疲れを癒す予定だったのに……」

 王宮へ向かう馬車に乗り込むと、眉根を寄せたウィルが、不満そうにブツブツと呟く。

「舌打ちしない。
 陛下のご命令では仕方無いじゃないの。
 それに、私、そんなに疲れてはいないから、心配してくれなくても大丈夫よ。
 元々今回の旅は余裕を持ったスケジュールで、休息日が沢山組み込まれていたし」

 ウィルが私を気遣って組んでくれた旅程である。

「フェリシアがそう言うのなら良いけど……」

 まだ不服そうなウィルに少し笑ってしまう。

「ウィルは、最近とても表情が豊かになったわよね」

 思わずポツリとそう言うと、ミアが怪訝そうな顔をした。

「表情が豊か?旦那様が、ですか?
 そう思われているのはフェリシア様だけでは?
 フェリシア様以外の人間の前では相変わらずの仏頂面ですし、きっと細かい表情の違いを読み取れるのも、フェリシア様だけだと思いますよ」

「そうなの?」

「さあ?自分では分からん。
 でも、フェリシアと一緒に居る時は、いつも勝手に顔が緩む」

 気のせいだろうか?
 それってなんだか、『凄く好きだ』って言われているみたい。
 思わず頬が熱くなる。

「ふふっ。表情が豊かになられたのは、フェリシア様の方かもしれないですね」

「俺もそう思う」

 馬車の中は、和やかな空気に満ちていた。




 王宮内に着いて、警備の騎士に部屋へと案内される。
 ヒューバート陛下は国王になられたのだから、謁見の間とかに通されるのかと思いきや、案内されたのは私的な応接室だった。

「二人とも、いらっしゃい。
 ウィルはすっぽかすかと思ったけど、フェリシア嬢と一緒だったら素直に従うんだな。
 新たな発見だ」

 室内では既に陛下がお茶を飲んでいて、ヘラリと笑いながら私達を迎え入れた。
 その言い方だと、ウィルは、普段は呼び出されても無視してるって事かしら?
 本当に気の置けない間柄なのね。

「煩い。俺のフェリシアを気軽に呼び出すな。
 あと、昨日みたいな公式の場では俺達に馴れ馴れしくするな」

「固いこと言うなって。私と君達の仲じゃないか」

「どんな仲だよ。ただの腐れ縁だろ。
 それで?何の用だ?」

「用なんて特に無いよ。ただ旧交を温めようと思っただけ。
 ウィルは冷たいよね。フェリシア嬢と婚約してから、これまで以上に私に構ってくれなくなったんだからさぁ」

「旧交?温めたくない」

 冷たく言い放ったウィルに、陛下は胡乱な視線を投げた。

「へぇ~、そんなこと言って良いのか?
 夕焼けの君への積年の想いを叶える手助けをしてやったというのに……、もっと感謝して欲しいものだな」

「ちょっ…、馬鹿!黙ってろ」

 『夕焼けの君』という謎の言葉を受けたウィルは、俄に慌て出した。

「何ですか?夕焼けの君って」

 首を傾げた私に、陛下はとても良い笑顔を向ける。

「なんだ、まだ出会った時の話を聞いてないのか?」

「出会った時?お見合いの時ですか?」

「違う。フェリシア嬢のデビュタントの時だよ」

「おっ前、マジで後で覚えておけよ」

 私の質問に飄々と答える陛下に、ウィルが殺気を放つ。
 ヒューバート陛下は一応昨日即位した新国王なんだけど、そんな態度で不敬にならないのかしら?
 まあ、陛下もウィルとのお喋りを楽しんでいるみたいだから良い、のかな?

「デビュタントの時、ですか……?
 ごめんなさい。思い出せない」

「思い出せないのも無理はない。
 あの時は、お互いに名も名乗ってないんだからな。
 ただ、ちょっとぶつかって、少し言葉を交わしただけだ」

「それが、私達の本当の出会いですか」

「そうみたいだね。
 ウィルの方は、所謂、一目惚れって奴だったんじゃないかな」

「……」

 そんなに前から好いてくれていたなんて、それが本当ならば、とても嬉しいけれど。

 でも───。

 一目惚れ?
 ウィルが?
 私に?

 初対面ではあまり好印象を持たれない私の何処に惚れてくれたと言うのだろうか?
 何かの間違いでは?

 そんな風に考えてしまって黙り込んでいる私を見て、ウィルは少々慌てた様に付け加える。

「一応言っておくけど、ロリコンとか、ストーカーとかじゃないから!
 フェリシアの素性は調べたけど、婚約者がいるって知って、一旦は諦めたし。
 それに若い令嬢が好みとかでも無いからっ!」

「ふふっ。そんな事は思ってないわよ」

 笑った私に、ウィルは明らかにホッとした表情を見せた。

 そう言えば、新たな婚約者を紹介して欲しいとヒューバート陛下にお願いした時、私の髪の色の話や、デビュタントの話をしていたっけ。
 陛下はウィルの気持ちを知っていて、私達を引き合わせてくれたって事か。

 それなら……、

「ねぇ、ウィル。
 私達にとって、ヒューバート陛下は仲人の様なものでしょう?
 もうちょっと大事にしなきゃ」

「おっ、フェリシア嬢、良い事言うねぇ!
 ほら見ろウィル、彼女の言う通りだぞ」

 得意顔で胸を張る陛下を見ていると、ウィルが面倒臭いって思う気持ちもちょっとだけ分かるんだけどね。

「俺だって少しは感謝しているさ。
 フェリシアが言うなら、もうちょっとだけ、ヒューバートに優しくするよ」

 そう言ったウィルは不満顔だったけど、本当は陛下の事をとても信頼してるんだって、私は知っている。


 旧交を温める為の三人だけの茶会の時間は、のんびりと過ぎて行った。
しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

あなたの愛はもう要りません。

たろ
恋愛
15歳の時にニ歳年上のダイガットと結婚したビアンカ。 この結婚には愛などなかった。 16歳になったビアンカはできるだけ目立たないように学校でも侯爵家でも大人しくしていた。 侯爵家で肩身の狭い思いをしながらも行くところがないビアンカはできるだけ問題を起こさないように過ごすしかなかった。 でも夫であるダイガットには恋人がいた。 その恋人にちょっかいをかけられ、ビアンカは我慢の限界を超える。 そして学園を卒業さえすればさっさと離縁して外国で暮らす。 その目標だけを頼りになんとか今の暮らしに耐えていた。 そして、卒業を控え「離縁して欲しい」その言葉を何度となく夫に告げた。 ✴︎今回は短めの話を投稿していく予定です。 (作者の時間の都合により)

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

処理中です...