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6 亡国の秘宝

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ドレッサーの前に座らされて、スーザンが器用に私の髪を結うのを鏡越しに眺める。
懐かしさに涙が込み上げそうになる。

本当に時間が巻き戻ったのだろうか?

それとも、夢?

・・・・・・どっちが?

今迄の・・・、十三歳から十八歳までの、不幸な人生が夢だったのか。

それとも、今、十代前半に戻って、スーザンに身支度を整えてもらっているのが夢で、本当の私は階段から落ちても死なずに寝たきりにでもなっているのだろうか。

考えれば考える程、頭が混乱を極める。

ところで、今私は何歳なんだろうか?

「ねぇ、スーザン。
私って、今、何歳だっけ?」

「まあ、まだ寝惚けていらっしゃるのですか?
それとも何かの冗談?
一ヶ月後の十三歳のお誕生日会を、あんなに楽しみにしていらしたじゃ無いですか」

「そう!そうよねっ!」

怪訝そうな顔で首を傾げるスーザン。
私はエヘヘと笑ってなんとか誤魔化した。

一ヶ月後が十三歳の誕生日。
と、いう事は・・・・・・。
婚約成立までも、後一ヶ月ちょっとしか無いという事だ。
背筋に悪寒が走る。

夢か現実かなんて、この際どっちでも良い。
コレが夢の中だとしても、もう一度あんな死に方をするかもしれないなんて、絶対にゴメンだ。

(なんとか婚約を回避出来ないだろうか・・・)

私は、その事ばかりを繰り返し考えていた。



スーザンのお陰で手早く身支度を済ませ、階下へ降りると、食堂には既に両親と弟が着席していた。

「姉様、遅い~!!」

頬を膨らませる弟は、やはり記憶の中よりも幼くて愛らしい。

「お待たせしてごめんなさいね、ちょっと寝坊しちゃって」

そう言いながら席に着く。

「あら、貴女が寝坊するなんて、珍しいわね」

「ええ、お母様。
昨夜は少し夢見が悪くって・・・」

そんな風に他愛も無い話をしながら、朝食を取る。
私が結婚するまでは日常だった光景。
これを再び経験出来るとは思わなかった。
ほのぼのとした空気に、心がジンワリ温まる。

食事中、ふと、自分の左手の指輪が目に止まった。
その指輪に付いている、小さな虹色の石。

階段から落ちて、意識を失う直前、この指輪から放たれた光に包まれた様な気がする・・・・・・。

繊細なデザインのアンティークのこの指輪は、ずっと前にお母様に貰った物。
お母様が幼い頃、お父様と婚約する時に贈られた物だと聞いている。
貰った時に、『これはお守りだから、出来るだけ身に付けておくように』と言われていたのだが・・・・・・。


「お母様、この指輪について、お聞きしたいのですが・・・」

食事が一段落した時、私はその指輪を外して、お母様に差し出した。

「まあ、懐かしい!
ほら、貴方、婚約の時に私に贈って下さった・・・」

「ああ、僕がアンティークに興味を持つ切っ掛けになった指輪だね」

ニコニコと思い出話に花を咲かせていた両親だが、その石に目が止まると、僅かに顔を曇らせた。

「石に・・・ヒビが入ってるわ。
ディアナ、もしかして貴女、何か危険な目にでもあったの!?」

「え・・・?
どういう意味ですか?」

「ディアナには話して無かったね。
実は、この指輪は、滅亡してしまった国の王族が所有していた秘宝だと言われているんだ」


お父様が語ってくれた内容はこうだ。

昔々、大陸から遥かに離れた東の海に浮かぶ小さな島国があった。
そこは、『魔素』と呼ばれる大気中に漂う魔力の元が非常に濃く、国民全員が強い魔力を持って産まれ、魔石と呼ばれる魔力を帯びた鉱石も沢山取れる国。
だが、ある時、その特性に目を付けた他国からの侵略を受けて、呆気なく滅亡してしまった。
島国故に他国の侵攻をそれまで受けた事が無かったその国の国民達は、平和ボケしていた。
強い魔力を有しているにも関わらず、誰も攻撃魔法を使うことが出来なかったのだ。

しかし、国王は殺される直前、最後の力を振り絞ってその地に呪いをかけた。
その結果、大気中の魔素は全て失われてしまった。
結局、侵略者達は望んだ物を手にする事が出来なかったのだ。
今では、その国は無くなり、島にはもう誰も住んでいないと言う。

その、魔法が盛んだった国の、王家の秘宝。
それが、この指輪だと言う話なのだ。

「まあ、どこまでが真実かは分からない。
色々と調べたが、文献が殆ど残っていないんだ。
ただ、言い伝えによれば、その指輪は持ち主の命を一度だけ救ってくれると言われている。
もしかしたら、ディアナ本人も気付かない内に命の危険が迫って、その指輪が救ってくれたのかもしれないね」

「ええ。
指輪をディアナに渡して置いて良かったわ」

微笑み頷き合う両親に、私は頬が引き攣るのを抑えながら、なんとか笑みを返した。

「・・・そう、かも、しれないですね」

『本人も知らない内に命の危機が迫る』どころか、恐らく私は夫に殺されて一度死んでいるのだ。


───などと、両親に言える筈も無く。

私は曖昧な笑みを浮かべて、その場をやり過ごしたのだった。
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