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13 身勝手な後悔
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《side:マーティン》
妻からの手紙は、とても簡潔で事務的な物だった。
時候の挨拶もそこそこに本題に入ったその内容に、俺は驚いた。
「婚姻無効申請だと!?
・・・ふざけんな」
妻はずっと別邸で大人しくしていると、使用人からは報告を受けている。
殆ど外出もせず、訪問客も無いと聞いてすっかり安心していた。
それが、こんな事を・・・、婚姻無効申請などを企んでいたなんて!
マズい・・・かもしれない。
もしも、婚姻が無効になったら、持参金はどうなるんだ!?
俺は青くなって、別邸へと急いだ。
「お待ち下さい!!
急な訪問は、困ります!」
慌てて止めようとする執事を振り切って、二階にある妻の部屋へと足早に向かった。
自分の家の別邸に入るのに、何の遠慮が要ると言うのか。
入り口に居た侍女を押し退けると、ソファーから立ち上がった妻の姿が見えた。
「・・・・・・っ!」
そこに居たのは、女神の様な美女だった。
雪の様に真っ白な肌に艶やかな髪。
まん丸だった顔はいつの間にか細面になり、体型だってメリハリがあって魅力的だ。
部屋着の様な簡素なドレスを着て、化粧も殆どしていないのに、この美しさなのだ。
本邸に住まわせている恋人などとは雲泥の差である。
この妻に比べたらあの女の色香など、ただ下品なだけだ。
『乳臭いのは今だけだろう。
ディアナ嬢は、ビスクドールみたいな美少女だって評判だし、五年もすればきっと美人になるさ。
今から自分好みのイイ女に育て上げるのも、また一興だぞ』
婚約が決まった当初、飲み屋のカウンターで友人に言われた言葉を思い出した。
あの助言に従っていれば、今頃は・・・・・・。
蔑ろにして来た事を後悔するが、今更である。
妻は婚姻無効を求めている。
(なんとかして、引き留めなければ)
持参金は手切金代わりにくれてやると言われたが、今となっては、そういう問題では無くなっていた。
こんなにイイ女が直ぐ近くにいたのに、このまま婚姻無効になどさせてたまるか。
俺は、出て行こうとする妻を止めようと、彼女の腕を強く掴んだ。
何とか逃れようと暴れる彼女の掴まれていない方の手が、俺の頬を打った。
咄嗟に彼女を突き飛ばすと・・・・・・
そこは階段だった。
仰向けに頭から落ちて行く彼女に手を伸ばすが、もう遅かった。
背後から侍女の叫び声が聞こえる。
その侍女が、俺を押し退けて階段を駆け降りて行き、グッタリと倒れている妻に縋った。
手足があらぬ方向に曲がっている。
後頭部から染み出した血が、水溜りの様に床に広がった。
───ああ、俺の人生、終わった。
事故とはいえ、妻を殺してしまったのだ。
しかも、彼女は婚姻無効の申請書を提出している。
事故だと言う主張も疑われるかもしれない。
震える足で妻に近寄り、その右手に触れた。
夢なら早く覚めて欲しいと祈りながら。
その瞬間、俺は不思議な虹色の光に包まれて、気を失った。
目が覚めると、自室のベッドの上だった。
初めは、やっぱり夢だったのかと思い、ホッとしたのだが、直ぐにそうでは無いと気付く。
その部屋は、独身時代に使っていた部屋だったから。
結婚してからは、両親が領地へ引き篭もったので、俺と恋人が当主とその夫人の部屋を使っている。
何かがおかしいが、どうなっているのか分からなくて、混乱の渦に飲み込まれる。
どうやら時間が巻き戻ったらしいと分かるまでには、随分と時間を要した。
異常過ぎる体験に恐怖を感じなかった訳では無いが、妻殺しの罪が無くなったのだと気付いて、俺は初めて神に感謝した。
そして、今度こそ、ディアナを本当の妻として手に入れようと思っていたのだが───。
ディアナへの婚約の打診は断られた。
あろう事か、クラックソン公爵家の次男と婚約が成立したと聞く。
両親は、公爵家では勝ち目が無いと、早々に諦めた。
何故、一度目と違うんだ!?
そして、ある日、俺は二人のデートを目撃する。
カフェで微笑み合う二人は、とても親密な雰囲気だ。
───アレは、俺の妻なのに!!!
妻からの手紙は、とても簡潔で事務的な物だった。
時候の挨拶もそこそこに本題に入ったその内容に、俺は驚いた。
「婚姻無効申請だと!?
・・・ふざけんな」
妻はずっと別邸で大人しくしていると、使用人からは報告を受けている。
殆ど外出もせず、訪問客も無いと聞いてすっかり安心していた。
それが、こんな事を・・・、婚姻無効申請などを企んでいたなんて!
マズい・・・かもしれない。
もしも、婚姻が無効になったら、持参金はどうなるんだ!?
俺は青くなって、別邸へと急いだ。
「お待ち下さい!!
急な訪問は、困ります!」
慌てて止めようとする執事を振り切って、二階にある妻の部屋へと足早に向かった。
自分の家の別邸に入るのに、何の遠慮が要ると言うのか。
入り口に居た侍女を押し退けると、ソファーから立ち上がった妻の姿が見えた。
「・・・・・・っ!」
そこに居たのは、女神の様な美女だった。
雪の様に真っ白な肌に艶やかな髪。
まん丸だった顔はいつの間にか細面になり、体型だってメリハリがあって魅力的だ。
部屋着の様な簡素なドレスを着て、化粧も殆どしていないのに、この美しさなのだ。
本邸に住まわせている恋人などとは雲泥の差である。
この妻に比べたらあの女の色香など、ただ下品なだけだ。
『乳臭いのは今だけだろう。
ディアナ嬢は、ビスクドールみたいな美少女だって評判だし、五年もすればきっと美人になるさ。
今から自分好みのイイ女に育て上げるのも、また一興だぞ』
婚約が決まった当初、飲み屋のカウンターで友人に言われた言葉を思い出した。
あの助言に従っていれば、今頃は・・・・・・。
蔑ろにして来た事を後悔するが、今更である。
妻は婚姻無効を求めている。
(なんとかして、引き留めなければ)
持参金は手切金代わりにくれてやると言われたが、今となっては、そういう問題では無くなっていた。
こんなにイイ女が直ぐ近くにいたのに、このまま婚姻無効になどさせてたまるか。
俺は、出て行こうとする妻を止めようと、彼女の腕を強く掴んだ。
何とか逃れようと暴れる彼女の掴まれていない方の手が、俺の頬を打った。
咄嗟に彼女を突き飛ばすと・・・・・・
そこは階段だった。
仰向けに頭から落ちて行く彼女に手を伸ばすが、もう遅かった。
背後から侍女の叫び声が聞こえる。
その侍女が、俺を押し退けて階段を駆け降りて行き、グッタリと倒れている妻に縋った。
手足があらぬ方向に曲がっている。
後頭部から染み出した血が、水溜りの様に床に広がった。
───ああ、俺の人生、終わった。
事故とはいえ、妻を殺してしまったのだ。
しかも、彼女は婚姻無効の申請書を提出している。
事故だと言う主張も疑われるかもしれない。
震える足で妻に近寄り、その右手に触れた。
夢なら早く覚めて欲しいと祈りながら。
その瞬間、俺は不思議な虹色の光に包まれて、気を失った。
目が覚めると、自室のベッドの上だった。
初めは、やっぱり夢だったのかと思い、ホッとしたのだが、直ぐにそうでは無いと気付く。
その部屋は、独身時代に使っていた部屋だったから。
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───アレは、俺の妻なのに!!!
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