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14 迷惑な贈り物
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「ディア?
最近元気が無いんじゃない?」
フィリップ様との交流の為に訪れた公爵邸。
少し肌寒い今日は、大きな温室の中心に設置されたテーブルで、お茶を飲んでいる。
温室の中は季節外れの蘭が見頃になっていた。
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
「良いけど。
何か心配事があるから、ちゃんと話して。
話すだけでも、少しは気が楽になる事だってあると思うよ」
仮初の婚約者である彼に、これ以上迷惑を掛けるのは心苦しい。
だが、それを言うと、フィリップ様はいつも少し不機嫌そうである。
よく考えてみたら、私の方から婚約が一時的な物である事を何度も言うのは失礼かも知れない。
最初はそう明言する事で、『フィリップ様の婚約者の座にしがみ付く心配は無いです』と伝えて、安心して貰おうと思っていた。
だが、それはある意味、『貴方の婚約者の座を利用しているだけなので、貴方自身には興味は無いですよ』と、言っている様な物だ。
実際には興味が無い訳ではない。
フィリップ様は、筆頭公爵家の子息であることや、その美しい容姿を抜きにしても素晴らしい男性なので、彼の妻になる女性は世界一幸せだろうと思う。
私では釣り合いが取れないので、叶わぬ夢を見ない様にしているだけなのだ。
だが、彼は、私の婚約者である間は、その責任を全うしようとしてくれている。
ならば、私もその幸運を素直に享受するべきではないだろうか?
でなければ、彼の好意を無にする事になってしまう。
そう考えて、私はフィリップ様に相談する事にした。
「実は、バークレイ侯爵家のマーティン様から、花や手紙が届く様になったのです」
「・・・・・・へぇ」
フィリップ様はスッと目を細めた。
なんだか、温室内の気温が微妙に下がった様な気がして、思わず肩をさすった。
「返事を出さなくても、全く気にせず何度も送って来ます。
お父様から、止めて欲しいとやんわり手紙で伝えて貰ったのですが、効果が無くて・・・・・・」
「クラックソン公爵家からも、抗議をしないといけないね。
ディアは僕の婚約者なのに、口説こうとするなんて、舐めてるとしか思えない」
「ああ、そうですね。
クラックソン公爵家にとっても、失礼な話ですよね。
考えが及ばなくて済みません」
上手く逃げられたかと思っていたのに、ラブレター紛いの手紙が来た時にはゾッとした。
この執着が続くのならば、フィリップ様との婚約解消後は、職業婦人なんて悠長な事は言ってられないかもしれない。
マーティン様が他の女性と結婚していたとしても、安心出来ないかもしれないのだ。
もしかしたら、修道院に助けを求めるしか無いのかも・・・・・・。
そんな風に考えて、自分の事でいっぱいいっぱいになっており、フィリップ様のお立場まで慮る余裕が無かったのだ。
ダメだな、私。
「謝らないで。
そんな事は気にしなくて良い。
僕は、ディアを護りたいだけなんだ。
婚約者である君を護るのは、僕の権利だから」
「・・・ありがとうございます」
義務では無くて権利だと言ってくれる彼は、本当に優しい。
一時的だとしても、私には勿体ないくらいに素敵な婚約者だ。
彼を本気で好きになってしまわない様に、気を付けなくてはいけない。
いつかは、この立場を降りなければならない時が来るのだから・・・・・・。
「それにしても、マーティン殿は何故ディアにこんなに執着しているのだろうね?
何か心当たりがあるかい?」
「・・・・・・いえ、何も・・・」
それは、半分本当で、半分嘘だ。
一度目の人生の時には全く私に興味が無さそうだったのに、何故今回はこんなに執着されているのかは分からない。
だが、もしも、マーティン様にも一度目の記憶があるとしたら・・・・・・。
一度目の最後に見た、夫の瞳の中の熱を思い出して背筋が冷たくなった。
私の反応に、フィリップ様は微かに訝しげな表情を浮かべる。
「そう・・・。まあ、いいや。
今は騙されてあげる」
私だって、出来る事なら隠し事はしたくない。
どんなに隠しても、彼は直ぐに勘付いてしまうのだし。
だけど───。
流石に、時間が巻き戻ったなんて、言える訳無いよね。
最近元気が無いんじゃない?」
フィリップ様との交流の為に訪れた公爵邸。
少し肌寒い今日は、大きな温室の中心に設置されたテーブルで、お茶を飲んでいる。
温室の中は季節外れの蘭が見頃になっていた。
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
「良いけど。
何か心配事があるから、ちゃんと話して。
話すだけでも、少しは気が楽になる事だってあると思うよ」
仮初の婚約者である彼に、これ以上迷惑を掛けるのは心苦しい。
だが、それを言うと、フィリップ様はいつも少し不機嫌そうである。
よく考えてみたら、私の方から婚約が一時的な物である事を何度も言うのは失礼かも知れない。
最初はそう明言する事で、『フィリップ様の婚約者の座にしがみ付く心配は無いです』と伝えて、安心して貰おうと思っていた。
だが、それはある意味、『貴方の婚約者の座を利用しているだけなので、貴方自身には興味は無いですよ』と、言っている様な物だ。
実際には興味が無い訳ではない。
フィリップ様は、筆頭公爵家の子息であることや、その美しい容姿を抜きにしても素晴らしい男性なので、彼の妻になる女性は世界一幸せだろうと思う。
私では釣り合いが取れないので、叶わぬ夢を見ない様にしているだけなのだ。
だが、彼は、私の婚約者である間は、その責任を全うしようとしてくれている。
ならば、私もその幸運を素直に享受するべきではないだろうか?
でなければ、彼の好意を無にする事になってしまう。
そう考えて、私はフィリップ様に相談する事にした。
「実は、バークレイ侯爵家のマーティン様から、花や手紙が届く様になったのです」
「・・・・・・へぇ」
フィリップ様はスッと目を細めた。
なんだか、温室内の気温が微妙に下がった様な気がして、思わず肩をさすった。
「返事を出さなくても、全く気にせず何度も送って来ます。
お父様から、止めて欲しいとやんわり手紙で伝えて貰ったのですが、効果が無くて・・・・・・」
「クラックソン公爵家からも、抗議をしないといけないね。
ディアは僕の婚約者なのに、口説こうとするなんて、舐めてるとしか思えない」
「ああ、そうですね。
クラックソン公爵家にとっても、失礼な話ですよね。
考えが及ばなくて済みません」
上手く逃げられたかと思っていたのに、ラブレター紛いの手紙が来た時にはゾッとした。
この執着が続くのならば、フィリップ様との婚約解消後は、職業婦人なんて悠長な事は言ってられないかもしれない。
マーティン様が他の女性と結婚していたとしても、安心出来ないかもしれないのだ。
もしかしたら、修道院に助けを求めるしか無いのかも・・・・・・。
そんな風に考えて、自分の事でいっぱいいっぱいになっており、フィリップ様のお立場まで慮る余裕が無かったのだ。
ダメだな、私。
「謝らないで。
そんな事は気にしなくて良い。
僕は、ディアを護りたいだけなんだ。
婚約者である君を護るのは、僕の権利だから」
「・・・ありがとうございます」
義務では無くて権利だと言ってくれる彼は、本当に優しい。
一時的だとしても、私には勿体ないくらいに素敵な婚約者だ。
彼を本気で好きになってしまわない様に、気を付けなくてはいけない。
いつかは、この立場を降りなければならない時が来るのだから・・・・・・。
「それにしても、マーティン殿は何故ディアにこんなに執着しているのだろうね?
何か心当たりがあるかい?」
「・・・・・・いえ、何も・・・」
それは、半分本当で、半分嘘だ。
一度目の人生の時には全く私に興味が無さそうだったのに、何故今回はこんなに執着されているのかは分からない。
だが、もしも、マーティン様にも一度目の記憶があるとしたら・・・・・・。
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「そう・・・。まあ、いいや。
今は騙されてあげる」
私だって、出来る事なら隠し事はしたくない。
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だけど───。
流石に、時間が巻き戻ったなんて、言える訳無いよね。
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