【完結】二度目の人生に貴方は要らない

miniko

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15 悋気

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《side:フィリップ》


ディアと婚約してから二年の月日が流れ、僕達は十五歳になった。

この国では十五歳の誕生日からは準成人と見做され、親の同意があれば婚姻も可能になるし、夜会のデビューもこの年に行う者が殆どだ。

僕はディアのデビュタント用に、僕の瞳の色と同じ、水色のブルーダイヤモンドのアクセサリーを発注した。
高価すぎる宝石の贈り物を、ディアは慌てて断ろうとしたのだが、
『ディアにしつこく付き纏うマーティンを牽制しなければいけないから』
と言って納得させた。
半分は単純に、ディアに僕の色を纏って欲しかったからという、独占欲の表れなのだけれど。


彼女は、婚約の解消がなかなか出来ない事を申し訳無く思っている様だが、僕にとっては寧ろ好都合だ。

当初は、良い暇潰しになるだろうと思い、彼女に協力する事を決めた。
その段階では、婚約の件はどちらでも良いと思っていた。
僕は誰か好きな女の子がいる訳でも無く、我が家はこれ以上の力をつける必要も無い。
幸い僕は嫡男でも無いので、比較的自由に伴侶を選べる立場である。
どうせどこかの令嬢と結婚しなければいけないのだから、別に相手がディアでも良いけれど、彼女が嫌だと言うなら解消しても構わない。
その程度に考えていたのだ。

だが、婚約して直ぐに僕は彼女を好きなのだと自覚し、今となっては婚約解消などする気は全く無くなってしまった。

彼女の気持ちが僕に向いていない事は分かっているが、いつかは振り向いて貰える様に、少しづつ口説いていこうと思っている。



マーティン・バークレイについては、常に動向を探らせている。

あの男は、ディアに婚約を打診した頃から派手な女遊びを控え始めて、最近では少しづつではあるが、評判が回復して来ている。
だが、それはあくまでも表向きの話。
派手には遊ばなくなっただけで、女好きの本質は変わっていない。
最近ではコソコソと娼館に出入りしている様だ。

あんな男とディアが結婚する羽目になったかもしれないと思うと、腸が煮え繰り返りそうになる。
あの時、ディアが僕に声を掛けてくれて、本当に良かった。

しかし、危機は完全に去った訳では無いので、まだ油断は出来ない。

クラックソン公爵家からの抗議を受けて、ディアへのプレゼント攻撃は収束したが、未だにあの男はディアの家の周りをウロついているらしい。
ディアには公爵家の護衛を常に付けているので、奴は今の所、遠くから眺める事しか出来ない様だが。
奴が彼女を視界に収めるだけでも腹立たしい。

せっかく評判が回復しているのだから、適当な令嬢を見つけて、サッサと婚約でも結婚でもすれば良い物を。
何故、ディアに拘るのか。
ディアに聞いた時は、歯切れの悪い答えが返って来たので、何か心当たりがあるのだろう。
あの二人に接点があるのだと思うと、胸の奥からドス黒い感情が湧いてくる。


愛の反対は嫌悪では無く、無関心だと言う。
ディアがあの男に対して抱いている思いは、嫌悪、警戒、脅威とかだろう。
決して好意的とは言えないその感情さえも、奴に向けられている事が我慢出来ない。

だから、護衛には、出来るだけあの男がディアの視界に入らない様にと命じてある。

エイヴォリー子爵にも、今後あの男からディアに手紙や品物が届いたら、彼女には見せずに僕に渡して欲しいと頼んである。
子爵は娘があの男からの手紙を受け取った時に怯えていたのを知っているので、快く僕に協力を約束してくれた。

デビュタントの夜会は王家主催なので、侯爵家嫡男のあの男も必ず出席するだろう。
だからより一層の警護が必要だ。


嫌悪や脅威の感情に対してまで嫉妬してしまうなんて、我ながら呆れてしまう。
どんだけ心が狭いんだよ?



だから、これからも、あの男が彼女に近付かない様に、細心の注意を払う。


彼女があの男を思い出す必要が無くなる様に。
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