【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko

文字の大きさ
9 / 19

9 過保護な兄達

しおりを挟む
アンジェリーナに対する恋心を自覚したエルヴィーノだったが、積極的に口説くなどと言う事は、全く考えられなかった。
だって、彼女にとっての自分は『兄様』なのだ。

(兄に恋愛感情を向けられるなんて、気持ち悪いと思われるんじゃないだろうか?)

そう思って、どうしても積極的になれない。

試しに想像してみる。
アンジェリーナに毛虫を見る様な目を向けられて、「気持ち悪い」と吐き捨てられる場面を───。

「・・・・・・・・・・・・よし、死のう」

「待て待て!急にどうした!?」

その場にいたラウルが止めてくれなかったら、本気で危なかった。
想像だけで死ねるくらい、エルヴィーノにとってアンジェリーナに嫌われる事は大問題なのだ。

それに彼自身も、ずっと父親の様な兄の様な気持ちで見守ってきた女の子に対して、女性としての魅力を感じてしまう自分に、まだ戸惑っている最中なのだ。

(もしかして、俺ってロリコンだったのだろうか?)

自分はいつから彼女に恋をしていたのか?
この年齢差は世間的に許容範囲なのか?

自問自答してみても、答えは見つからないまま。

アンジェリーナを手に入れたい欲求と、若過ぎる彼女に恋をしてしまった罪悪感を天秤にかけ、今の所は罪悪感がやや重め。



「ほら、そろそろ休憩終わりだぞー。
エルも、いつまでもアンジーの事を考えてないで、仕事しろ」

「・・・・・・」

メルクリオに何を考えていたか言い当てられて気まずいエルヴィーノは、無言で書類仕事を再開した。



執務室の扉がノックされたのは、もう少しで今日のノルマが終わりそうだとホッとした頃だった。

「今忙しいか?」

入室して来たのは、第一王子で王太子のシルヴィオだ。

「兄上、何かありましたか?」

「いや、ちょっとエルヴィーノに届け物」

エルヴィーノの机にポンっと投げてよこしたのは、書類が入った封筒。
封筒にはマル秘のマークが付いている。

「まさか兄上、影の報告書をエルヴィーノに横流ししてるんですか?」

封筒の中身を確認するエルヴィーノの手元を覗き込んだメルクリオは、溜息混じりに尋ねた。
実は学園にいる間、アンジェリーナには影が付いている。
ルーナリア教の狂信者を警戒しての事だ。

「横流しとか、人聞きの悪い言い方するなよ。
気になる記述があった部分だけな」

「いや、ダメでしょ」

「エルヴィーノは身内みたいなもんだろ?
固い事言うなよ」

二人の王子が軽く揉めている間に、報告書を読み進めていたエルヴィーノからは、ほんのりと冷気が立ち昇り始めた。

「ん?エル、どうした?」

それに気付いたメルクリオが、再び報告書を覗き込む。
そこには、マッシモ・アルボレートがしつこくアンジェリーナに付き纏っていると記載されていた。

「・・・・・・あー、死んで欲しい。マジで」

「簡単に自分の命を捨てようとしたり、他人の命が消えるのを願うのやめとけよ」

呆れた顔で窘めたのは、先程エルヴィーノの自殺願望を止めたラウルだ。

「バレない様にやるから」

「そう言う問題じゃない。
っつーか、自ら手を下す気だったのか」

「・・・冗談だ」

「「「・・・・・・」」」

『冗談には聞こえないから怖いんだよな』と、エルヴィーノ以外の三人は目で会話した。

「どーすっかなぁ・・・」

エルヴィーノはアンジェリーナが次の婚約者を探すのを邪魔したくない。
・・・・・・いや、本音では邪魔したい。
切実に!!
しかし、自分が彼女を口説き落とすという決心が出来ない以上、彼女が恋を探すのを応援するしかない。

そして、アンジェリーナが愛する相手を見つける為には、周囲に自分達の婚約が仮初の物であると匂わせておく必要があるので、「俺の婚約者に近寄るな」と声高に叫ぶ訳にもいかないのだ。


「いいんじゃ無いか?
今回は、アンジーも嫌がってるみたいだし」

「・・・そうだよな」

こんな事もあろうかと、エルヴィーノは主要な貴族家を詳しく調べて弱みを探してある。

(確か、アルボレート侯爵は賭博にハマっていて、夫人に内緒で借金を繰り返していたよな)

禍々しい笑みを浮かべながら考え込んでいるエルヴィーノを見て、メルクリオが頬を引き攣らせた。

「なんか、物凄い悪人みたいな顔してるけど、大丈夫か?」

「大丈夫だ。
アンジーにはこの顔は見せないから」

「そう言う意味じゃ無いんだよ」



数日後。
父から「アンジェリーナ殿下には近付くな」と厳命されたマッシモは、渋々彼女を諦める事になる。
勿論、納得がいかなかった彼は、「何故急にそんな事を言うのですか?」と、父に理由を尋ねたのだが、何も答えては貰えなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

婚約破棄された公爵令嬢は心を閉ざして生きていく

お面屋 おいど
恋愛
「アメリアには申し訳ないが…婚約を破棄させてほしい」 私はグランシエール公爵家の令嬢、アメリア・グランシエール。 決して誰かを恨んだり、憎んだりしてはいけない。 苦しみを胸の奥に閉じ込めて生きるアメリアの前に、元婚約者の従兄、レオナールが現れる。 「俺は、アメリアの味方だ」 「では、残された私は何のためにいるのですか!?」

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

事故で記憶喪失になったら、婚約者に「僕が好きだったのは、こんな陰気な女じゃない」と言われました。その後、記憶が戻った私は……【完結】

小平ニコ
恋愛
エリザベラはある日、事故で記憶を失った。 婚約者であるバーナルドは、最初は優しく接してくれていたが、いつまでたっても記憶が戻らないエリザベラに対し、次第に苛立ちを募らせ、つらく当たるようになる。 そのため、エリザベラはふさぎ込み、一時は死にたいとすら思うが、担当医のダンストン先生に励まされ、『記憶を取り戻すためのセラピー』を受けることで、少しずつ昔のことを思いだしていく。 そしてとうとう、エリザベラの記憶は、完全に元に戻った。 すっかり疎遠になっていたバーナルドは、『やっと元のエリザベラに戻った!』と、喜び勇んでエリザベラの元に駆けつけるが、エリザベラは記憶のない時に、バーナルドにつらく当たられたことを、忘れていなかった……

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

処理中です...