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9 過保護な兄達
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アンジェリーナに対する恋心を自覚したエルヴィーノだったが、積極的に口説くなどと言う事は、全く考えられなかった。
だって、彼女にとっての自分は『兄様』なのだ。
(兄に恋愛感情を向けられるなんて、気持ち悪いと思われるんじゃないだろうか?)
そう思って、どうしても積極的になれない。
試しに想像してみる。
アンジェリーナに毛虫を見る様な目を向けられて、「気持ち悪い」と吐き捨てられる場面を───。
「・・・・・・・・・・・・よし、死のう」
「待て待て!急にどうした!?」
その場にいたラウルが止めてくれなかったら、本気で危なかった。
想像だけで死ねるくらい、エルヴィーノにとってアンジェリーナに嫌われる事は大問題なのだ。
それに彼自身も、ずっと父親の様な兄の様な気持ちで見守ってきた女の子に対して、女性としての魅力を感じてしまう自分に、まだ戸惑っている最中なのだ。
(もしかして、俺ってロリコンだったのだろうか?)
自分はいつから彼女に恋をしていたのか?
この年齢差は世間的に許容範囲なのか?
自問自答してみても、答えは見つからないまま。
アンジェリーナを手に入れたい欲求と、若過ぎる彼女に恋をしてしまった罪悪感を天秤にかけ、今の所は罪悪感がやや重め。
「ほら、そろそろ休憩終わりだぞー。
エルも、いつまでもアンジーの事を考えてないで、仕事しろ」
「・・・・・・」
メルクリオに何を考えていたか言い当てられて気まずいエルヴィーノは、無言で書類仕事を再開した。
執務室の扉がノックされたのは、もう少しで今日のノルマが終わりそうだとホッとした頃だった。
「今忙しいか?」
入室して来たのは、第一王子で王太子のシルヴィオだ。
「兄上、何かありましたか?」
「いや、ちょっとエルヴィーノに届け物」
エルヴィーノの机にポンっと投げてよこしたのは、書類が入った封筒。
封筒にはマル秘のマークが付いている。
「まさか兄上、影の報告書をエルヴィーノに横流ししてるんですか?」
封筒の中身を確認するエルヴィーノの手元を覗き込んだメルクリオは、溜息混じりに尋ねた。
実は学園にいる間、アンジェリーナには影が付いている。
ルーナリア教の狂信者を警戒しての事だ。
「横流しとか、人聞きの悪い言い方するなよ。
気になる記述があった部分だけな」
「いや、ダメでしょ」
「エルヴィーノは身内みたいなもんだろ?
固い事言うなよ」
二人の王子が軽く揉めている間に、報告書を読み進めていたエルヴィーノからは、ほんのりと冷気が立ち昇り始めた。
「ん?エル、どうした?」
それに気付いたメルクリオが、再び報告書を覗き込む。
そこには、マッシモ・アルボレートがしつこくアンジェリーナに付き纏っていると記載されていた。
「・・・・・・あー、死んで欲しい。マジで」
「簡単に自分の命を捨てようとしたり、他人の命が消えるのを願うのやめとけよ」
呆れた顔で窘めたのは、先程エルヴィーノの自殺願望を止めたラウルだ。
「バレない様にやるから」
「そう言う問題じゃない。
っつーか、自ら手を下す気だったのか」
「・・・冗談だ」
「「「・・・・・・」」」
『冗談には聞こえないから怖いんだよな』と、エルヴィーノ以外の三人は目で会話した。
「どーすっかなぁ・・・」
エルヴィーノはアンジェリーナが次の婚約者を探すのを邪魔したくない。
・・・・・・いや、本音では邪魔したい。
切実に!!
しかし、自分が彼女を口説き落とすという決心が出来ない以上、彼女が恋を探すのを応援するしかない。
そして、アンジェリーナが愛する相手を見つける為には、周囲に自分達の婚約が仮初の物であると匂わせておく必要があるので、「俺の婚約者に近寄るな」と声高に叫ぶ訳にもいかないのだ。
「いいんじゃ無いか?
今回は、アンジーも嫌がってるみたいだし」
「・・・そうだよな」
こんな事もあろうかと、エルヴィーノは主要な貴族家を詳しく調べて弱みを探してある。
(確か、アルボレート侯爵は賭博にハマっていて、夫人に内緒で借金を繰り返していたよな)
禍々しい笑みを浮かべながら考え込んでいるエルヴィーノを見て、メルクリオが頬を引き攣らせた。
「なんか、物凄い悪人みたいな顔してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫だ。
アンジーにはこの顔は見せないから」
「そう言う意味じゃ無いんだよ」
数日後。
父から「アンジェリーナ殿下には近付くな」と厳命されたマッシモは、渋々彼女を諦める事になる。
勿論、納得がいかなかった彼は、「何故急にそんな事を言うのですか?」と、父に理由を尋ねたのだが、何も答えては貰えなかった。
だって、彼女にとっての自分は『兄様』なのだ。
(兄に恋愛感情を向けられるなんて、気持ち悪いと思われるんじゃないだろうか?)
そう思って、どうしても積極的になれない。
試しに想像してみる。
アンジェリーナに毛虫を見る様な目を向けられて、「気持ち悪い」と吐き捨てられる場面を───。
「・・・・・・・・・・・・よし、死のう」
「待て待て!急にどうした!?」
その場にいたラウルが止めてくれなかったら、本気で危なかった。
想像だけで死ねるくらい、エルヴィーノにとってアンジェリーナに嫌われる事は大問題なのだ。
それに彼自身も、ずっと父親の様な兄の様な気持ちで見守ってきた女の子に対して、女性としての魅力を感じてしまう自分に、まだ戸惑っている最中なのだ。
(もしかして、俺ってロリコンだったのだろうか?)
自分はいつから彼女に恋をしていたのか?
この年齢差は世間的に許容範囲なのか?
自問自答してみても、答えは見つからないまま。
アンジェリーナを手に入れたい欲求と、若過ぎる彼女に恋をしてしまった罪悪感を天秤にかけ、今の所は罪悪感がやや重め。
「ほら、そろそろ休憩終わりだぞー。
エルも、いつまでもアンジーの事を考えてないで、仕事しろ」
「・・・・・・」
メルクリオに何を考えていたか言い当てられて気まずいエルヴィーノは、無言で書類仕事を再開した。
執務室の扉がノックされたのは、もう少しで今日のノルマが終わりそうだとホッとした頃だった。
「今忙しいか?」
入室して来たのは、第一王子で王太子のシルヴィオだ。
「兄上、何かありましたか?」
「いや、ちょっとエルヴィーノに届け物」
エルヴィーノの机にポンっと投げてよこしたのは、書類が入った封筒。
封筒にはマル秘のマークが付いている。
「まさか兄上、影の報告書をエルヴィーノに横流ししてるんですか?」
封筒の中身を確認するエルヴィーノの手元を覗き込んだメルクリオは、溜息混じりに尋ねた。
実は学園にいる間、アンジェリーナには影が付いている。
ルーナリア教の狂信者を警戒しての事だ。
「横流しとか、人聞きの悪い言い方するなよ。
気になる記述があった部分だけな」
「いや、ダメでしょ」
「エルヴィーノは身内みたいなもんだろ?
固い事言うなよ」
二人の王子が軽く揉めている間に、報告書を読み進めていたエルヴィーノからは、ほんのりと冷気が立ち昇り始めた。
「ん?エル、どうした?」
それに気付いたメルクリオが、再び報告書を覗き込む。
そこには、マッシモ・アルボレートがしつこくアンジェリーナに付き纏っていると記載されていた。
「・・・・・・あー、死んで欲しい。マジで」
「簡単に自分の命を捨てようとしたり、他人の命が消えるのを願うのやめとけよ」
呆れた顔で窘めたのは、先程エルヴィーノの自殺願望を止めたラウルだ。
「バレない様にやるから」
「そう言う問題じゃない。
っつーか、自ら手を下す気だったのか」
「・・・冗談だ」
「「「・・・・・・」」」
『冗談には聞こえないから怖いんだよな』と、エルヴィーノ以外の三人は目で会話した。
「どーすっかなぁ・・・」
エルヴィーノはアンジェリーナが次の婚約者を探すのを邪魔したくない。
・・・・・・いや、本音では邪魔したい。
切実に!!
しかし、自分が彼女を口説き落とすという決心が出来ない以上、彼女が恋を探すのを応援するしかない。
そして、アンジェリーナが愛する相手を見つける為には、周囲に自分達の婚約が仮初の物であると匂わせておく必要があるので、「俺の婚約者に近寄るな」と声高に叫ぶ訳にもいかないのだ。
「いいんじゃ無いか?
今回は、アンジーも嫌がってるみたいだし」
「・・・そうだよな」
こんな事もあろうかと、エルヴィーノは主要な貴族家を詳しく調べて弱みを探してある。
(確か、アルボレート侯爵は賭博にハマっていて、夫人に内緒で借金を繰り返していたよな)
禍々しい笑みを浮かべながら考え込んでいるエルヴィーノを見て、メルクリオが頬を引き攣らせた。
「なんか、物凄い悪人みたいな顔してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫だ。
アンジーにはこの顔は見せないから」
「そう言う意味じゃ無いんだよ」
数日後。
父から「アンジェリーナ殿下には近付くな」と厳命されたマッシモは、渋々彼女を諦める事になる。
勿論、納得がいかなかった彼は、「何故急にそんな事を言うのですか?」と、父に理由を尋ねたのだが、何も答えては貰えなかった。
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