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12 夜会の招待
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「メルは、もう社交には出ないつもりなのかしら?」
「悩んでいる所なのです。
今回の件では、スタンリー公爵家からかなりの報酬を頂きました。
だから私一人、結婚せずに遊んで暮らした所で、問題は無いのです。
家族も無理に嫁に行かなくて良いと言ってくれてはいるのですが・・・それでは兄が益々縁遠くなりそうでしょう?
女性としては、小姑が居ると分かっている家に嫁に入るのは遠慮したい物ですよね。
ですから、やはりなんとか嫁ぎ先を探さねばならないかと」
私の話を聞いたソフィー様の顔が、パッと嬉しそうに華やいだ。
「じゃあ、我がロブソン侯爵家の夜会で社交に復帰するのはどうかしら?
丁度、メルを誘おうと思って、招待状を持ってきているの」
「でも、侯爵家の夜会では、高位貴族の方ばかりなのではないですか?」
「お父様の事業の関係者や、遠縁の者とか、子爵家や男爵家の方もご招待する予定だから、そんなに畏まらなくても大丈夫よ」
全く味方がいない夜会よりも、友人の家の夜会からスタートした方が、少しはマシかもしれない。
それでも色々言われるのは、覚悟しなければならないが。
「お言葉に甘えて参加させて頂こうかしら」
夜会の当日は、お兄様がエスコートを引き受けてくれた。
宵闇が迫る街並みを、馬車に乗ってソフィー様のお邸へと向かう。
薄暗い窓の外を何となく眺めながら、これから始まるであろう試練に思いを馳せた。
「メリッサ、大丈夫か?」
「ええ、お兄様。
いつまでも引き篭もってはいられませんから」
少し過保護なお兄様の瞳は、私よりも不安気に揺れている。
この歳になっても、家族に心配ばかりかけているとは、不甲斐ない。
「心配しないで。私、結構強いのですよ」
お兄様と会話をしている間に、馬車は今夜の戦場へと辿り着いた。
「メリッサ、無理をしなくても良いんだぞ」
「大丈夫です。お兄様」
兄のエスコートでホールに足を踏み入れた私の背中に、幾つもの不躾な視線が突き刺さる。
騒めきに紛れて聞こえる嘲笑の声。
ーーー大丈夫。俯いたら負けだ。凛と前を向いて。
私は意識的に背筋を正して、グッと奥歯を噛み締めた。
先ずは、主催者であるロブソン侯爵夫妻にご挨拶しなければ。
辺りを見回すと、早足で寄って来てくれるソフィー様が目に入った。
「メル。よく来てくれたわね。
ウチの家族に挨拶に行くなら、私が紹介するわ」
公爵令息の婚約者だった私だが、サミュエル様のご病気のせいで、社交の経験は少ない。
お兄様は言わずもがなだ。
高位貴族に慣れていない私達を気遣って下さったのだろう。
本当に優しい方だ。
談笑する侯爵令嬢と私達に、更に視線が集まっているが、気にしていないフリをする。
ソフィー様は私達を侯爵夫妻の元へ案内してくれた。
「お父様とお母様に紹介したい方がいるの。
こちら、私の大切な友人、メリッサ・ハミルトン子爵令嬢。お隣は彼女のお兄様です」
周囲で耳をそば立てている貴族達に聞こえるように、ソフィー様は〝大切な〟の部分をやや強調した。
「初めまして、メリッサ・ハミルトンと申します。
本日はお招き頂きありがとうござます」
丁寧にカテーシーをしながら、ご挨拶をした。
「初めまして、メリッサ嬢。
娘からよくお話は聞いていますよ。
雷撃事件の事とか」
侯爵様は揶揄うようにそう言った。
何の話をしてくれているのだ。
私はソフィー様を軽く睨んだ。
侯爵夫妻とも談笑を始めた私達は、益々注目を集めている。
主催者家族と懇意にしていると知らしめる事は、私を悪意から護るのに効果的だろう。
ソフィー様には足を向けて寝られない。
「悩んでいる所なのです。
今回の件では、スタンリー公爵家からかなりの報酬を頂きました。
だから私一人、結婚せずに遊んで暮らした所で、問題は無いのです。
家族も無理に嫁に行かなくて良いと言ってくれてはいるのですが・・・それでは兄が益々縁遠くなりそうでしょう?
女性としては、小姑が居ると分かっている家に嫁に入るのは遠慮したい物ですよね。
ですから、やはりなんとか嫁ぎ先を探さねばならないかと」
私の話を聞いたソフィー様の顔が、パッと嬉しそうに華やいだ。
「じゃあ、我がロブソン侯爵家の夜会で社交に復帰するのはどうかしら?
丁度、メルを誘おうと思って、招待状を持ってきているの」
「でも、侯爵家の夜会では、高位貴族の方ばかりなのではないですか?」
「お父様の事業の関係者や、遠縁の者とか、子爵家や男爵家の方もご招待する予定だから、そんなに畏まらなくても大丈夫よ」
全く味方がいない夜会よりも、友人の家の夜会からスタートした方が、少しはマシかもしれない。
それでも色々言われるのは、覚悟しなければならないが。
「お言葉に甘えて参加させて頂こうかしら」
夜会の当日は、お兄様がエスコートを引き受けてくれた。
宵闇が迫る街並みを、馬車に乗ってソフィー様のお邸へと向かう。
薄暗い窓の外を何となく眺めながら、これから始まるであろう試練に思いを馳せた。
「メリッサ、大丈夫か?」
「ええ、お兄様。
いつまでも引き篭もってはいられませんから」
少し過保護なお兄様の瞳は、私よりも不安気に揺れている。
この歳になっても、家族に心配ばかりかけているとは、不甲斐ない。
「心配しないで。私、結構強いのですよ」
お兄様と会話をしている間に、馬車は今夜の戦場へと辿り着いた。
「メリッサ、無理をしなくても良いんだぞ」
「大丈夫です。お兄様」
兄のエスコートでホールに足を踏み入れた私の背中に、幾つもの不躾な視線が突き刺さる。
騒めきに紛れて聞こえる嘲笑の声。
ーーー大丈夫。俯いたら負けだ。凛と前を向いて。
私は意識的に背筋を正して、グッと奥歯を噛み締めた。
先ずは、主催者であるロブソン侯爵夫妻にご挨拶しなければ。
辺りを見回すと、早足で寄って来てくれるソフィー様が目に入った。
「メル。よく来てくれたわね。
ウチの家族に挨拶に行くなら、私が紹介するわ」
公爵令息の婚約者だった私だが、サミュエル様のご病気のせいで、社交の経験は少ない。
お兄様は言わずもがなだ。
高位貴族に慣れていない私達を気遣って下さったのだろう。
本当に優しい方だ。
談笑する侯爵令嬢と私達に、更に視線が集まっているが、気にしていないフリをする。
ソフィー様は私達を侯爵夫妻の元へ案内してくれた。
「お父様とお母様に紹介したい方がいるの。
こちら、私の大切な友人、メリッサ・ハミルトン子爵令嬢。お隣は彼女のお兄様です」
周囲で耳をそば立てている貴族達に聞こえるように、ソフィー様は〝大切な〟の部分をやや強調した。
「初めまして、メリッサ・ハミルトンと申します。
本日はお招き頂きありがとうござます」
丁寧にカテーシーをしながら、ご挨拶をした。
「初めまして、メリッサ嬢。
娘からよくお話は聞いていますよ。
雷撃事件の事とか」
侯爵様は揶揄うようにそう言った。
何の話をしてくれているのだ。
私はソフィー様を軽く睨んだ。
侯爵夫妻とも談笑を始めた私達は、益々注目を集めている。
主催者家族と懇意にしていると知らしめる事は、私を悪意から護るのに効果的だろう。
ソフィー様には足を向けて寝られない。
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