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15 隣国の生活(サミュエル視点)
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ーーーこんなに美しい人は見たことがない。
使節団を歓迎する夜会で、初めて会った彼女の神々しいまでの美貌に、僕は一目で恋に落ちた。
我慢出来ずに直ぐに想いを打ち明けると、恥ずかしそうに頷いて、彼女も僕を好きだと応えてくれた。
遅れてやって来た初恋に浮かれた僕は、両親を説得し、何もかも捨てて隣国へ渡った。
愛する家族も、次期当主の責任も、信頼できる友人も、支えてくれた婚約者も、何もかも。
しかし、僕はそれを激しく後悔する事になる。
彼女は聖女と言う称号のイメージとはかけ離れた、身勝手な女だったから。
「ちょっと!さっさとお茶を用意しなさいよ!」
今日も、彼女の不機嫌な声が響く。
「もっ、申し訳ありませんっ!」
怯えた侍女が必死の形相でぺこぺこ頭を下げた。
僕がこの国に来てから今迄の短い期間で、彼女の侍女は既に三人も入れ替わっている。
自分より身分の低い者には高圧的に当たり散らし、身分の高い者、特に男性には媚を売る。
セアラはそう言うタイプの女性だった。
容姿の美しさだけを見て、恋をしてしまった過去の自分を呪ったが、もう手遅れである。
魔力の多い人間から、魔力提供を受けなければ生きられない僕は、どんなに不本意でもセアラから離れる事は出来ないのだから。
「サミュエル、買い物に行くから付き合いなさいよ」
僕の命を握っている彼女の態度は、いつも高飛車だ。
彼女は僕の容姿をとても気に入っているようだったが、僕自身を愛してはいなかった。
昼間はアクセサリーのように常に僕を侍らせベッタリと張り付いているので、そのついでに魔力が供給されたが、当然ながら睡眠を削ってまでわざわざ来てはくれない。
夜遊びが好きな彼女が、深夜に寝る前の魔力提供を行い、朝の魔力提供はセアラ付き神官の中で、一番魔力量の多い者が代行してくれていた。
それでも五時間ほどは間が空いてしまうので、僕は毎朝体調が悪くなる。
メリッサといた頃は、経験しなかった事だった。
今更ながら彼女の献身を思い知らされる。
思えばあの頃は、彼女の助けを当然の事の様に受け取ってしまっていたのだと思う。
先が見えない恐怖を抱えて、自分の事だけに必死だった僕は、彼女に何も返そうとしなかった。
それどころか、手酷く裏切ったのだ。
今頃気付いたところで、どうにもならないのは分かっている。
せめて謝る機会があればいいのだが、きっともう会う事も出来ないのだろう。
昨日はいつも以上に魔力の欠乏が激しく、神官が魔力の供給に来た時には、僕は青い顔をして倒れていたそうだ。
「魔力の器の欠損ならば、もしかしたらサンドラ様の万能魔術薬で治せるかもしれませんよ?」
僕を哀れに思った神官が教えてくれた。
サンドラ様と言うのは、この国の大聖女様。聖女の中の頂点に立つお方なのだそうだ。
彼女は聖女として認定される前は、薬師として活躍しており、魔術薬研究の権威でもあるのだとの事。
昼近くになってようやく起きて来たセアラに、神官から聞いた話を確認したのだが・・・
「勝手な事言わないで!サンドラ様の貴重な聖なる魔術薬は、他国の貴族が簡単に使えるような物じゃないのよ!」
血相を変えて怒鳴られてしまった。
僕の為を思って教えてくれた神官が「余計なことを言うな」とセアラに叱られてしまうのではないかと思うと申し訳ない。
彼女の言う事が本当ならば、他国から来た僕が自分の為に薬を譲って欲しいなどと、我儘を言ってはいけないのだろう。
しかし、今までの態度や発言を見て恋心がすっかり冷めてしまっている僕は、彼女を信用出来なくなっていた。
もしかしたら、アクセサリーとしての僕を手放さない為に、態と情報を隠しているのではないかと言う気さえしてくる。
魔力の器が修復されない限り、僕は彼女から離れられないのだから。
そしてこのまま魔力の器も修復出来ず、アクセサリーとしての興味も失われた場合、僕はどうなるのだろうと考えるとゾッとする。
大聖女様の魔術薬に関しては、実家に連絡を取って、公爵家の方からこの国の神殿に問い合わせてもらおうと思った。
今日も明け方から魔力が減少し始めて、息苦しくなる。
朦朧とした意識の中で、いつも優しかったオリーブグリーンの瞳を懐かしく思い出す。
彼女は元気だろうか?
使節団を歓迎する夜会で、初めて会った彼女の神々しいまでの美貌に、僕は一目で恋に落ちた。
我慢出来ずに直ぐに想いを打ち明けると、恥ずかしそうに頷いて、彼女も僕を好きだと応えてくれた。
遅れてやって来た初恋に浮かれた僕は、両親を説得し、何もかも捨てて隣国へ渡った。
愛する家族も、次期当主の責任も、信頼できる友人も、支えてくれた婚約者も、何もかも。
しかし、僕はそれを激しく後悔する事になる。
彼女は聖女と言う称号のイメージとはかけ離れた、身勝手な女だったから。
「ちょっと!さっさとお茶を用意しなさいよ!」
今日も、彼女の不機嫌な声が響く。
「もっ、申し訳ありませんっ!」
怯えた侍女が必死の形相でぺこぺこ頭を下げた。
僕がこの国に来てから今迄の短い期間で、彼女の侍女は既に三人も入れ替わっている。
自分より身分の低い者には高圧的に当たり散らし、身分の高い者、特に男性には媚を売る。
セアラはそう言うタイプの女性だった。
容姿の美しさだけを見て、恋をしてしまった過去の自分を呪ったが、もう手遅れである。
魔力の多い人間から、魔力提供を受けなければ生きられない僕は、どんなに不本意でもセアラから離れる事は出来ないのだから。
「サミュエル、買い物に行くから付き合いなさいよ」
僕の命を握っている彼女の態度は、いつも高飛車だ。
彼女は僕の容姿をとても気に入っているようだったが、僕自身を愛してはいなかった。
昼間はアクセサリーのように常に僕を侍らせベッタリと張り付いているので、そのついでに魔力が供給されたが、当然ながら睡眠を削ってまでわざわざ来てはくれない。
夜遊びが好きな彼女が、深夜に寝る前の魔力提供を行い、朝の魔力提供はセアラ付き神官の中で、一番魔力量の多い者が代行してくれていた。
それでも五時間ほどは間が空いてしまうので、僕は毎朝体調が悪くなる。
メリッサといた頃は、経験しなかった事だった。
今更ながら彼女の献身を思い知らされる。
思えばあの頃は、彼女の助けを当然の事の様に受け取ってしまっていたのだと思う。
先が見えない恐怖を抱えて、自分の事だけに必死だった僕は、彼女に何も返そうとしなかった。
それどころか、手酷く裏切ったのだ。
今頃気付いたところで、どうにもならないのは分かっている。
せめて謝る機会があればいいのだが、きっともう会う事も出来ないのだろう。
昨日はいつも以上に魔力の欠乏が激しく、神官が魔力の供給に来た時には、僕は青い顔をして倒れていたそうだ。
「魔力の器の欠損ならば、もしかしたらサンドラ様の万能魔術薬で治せるかもしれませんよ?」
僕を哀れに思った神官が教えてくれた。
サンドラ様と言うのは、この国の大聖女様。聖女の中の頂点に立つお方なのだそうだ。
彼女は聖女として認定される前は、薬師として活躍しており、魔術薬研究の権威でもあるのだとの事。
昼近くになってようやく起きて来たセアラに、神官から聞いた話を確認したのだが・・・
「勝手な事言わないで!サンドラ様の貴重な聖なる魔術薬は、他国の貴族が簡単に使えるような物じゃないのよ!」
血相を変えて怒鳴られてしまった。
僕の為を思って教えてくれた神官が「余計なことを言うな」とセアラに叱られてしまうのではないかと思うと申し訳ない。
彼女の言う事が本当ならば、他国から来た僕が自分の為に薬を譲って欲しいなどと、我儘を言ってはいけないのだろう。
しかし、今までの態度や発言を見て恋心がすっかり冷めてしまっている僕は、彼女を信用出来なくなっていた。
もしかしたら、アクセサリーとしての僕を手放さない為に、態と情報を隠しているのではないかと言う気さえしてくる。
魔力の器が修復されない限り、僕は彼女から離れられないのだから。
そしてこのまま魔力の器も修復出来ず、アクセサリーとしての興味も失われた場合、僕はどうなるのだろうと考えるとゾッとする。
大聖女様の魔術薬に関しては、実家に連絡を取って、公爵家の方からこの国の神殿に問い合わせてもらおうと思った。
今日も明け方から魔力が減少し始めて、息苦しくなる。
朦朧とした意識の中で、いつも優しかったオリーブグリーンの瞳を懐かしく思い出す。
彼女は元気だろうか?
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