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17 彼の想い
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色々見て周って、歩き疲れた私達は、公園の中のカフェで軽食と飲み物を購入し、テラス席で休む事にした。
「かなり沢山歩いたけど、大丈夫?」
「田舎育ちですもの、体力には自信がありますよ。
それに、お祭りが楽しくて、疲れも忘れてしまいます」
私の答えにリチャード様は嬉しそうに笑ったが、何故か急に真剣な顔になる。
少しの沈黙の後、意を決したかのように口を開いた。
「・・・今日楽しんでくれたのなら、来年も俺と一緒に来てくれないか?」
「・・・・・・えっ?
あの、でも・・・本来なら、花祭りは恋人同士で来るものでは?」
「うん。
・・・だから、メリッサを誘っている。
友人だなんて言ったけど・・・、本当は、俺が君に対して抱いているのは、友情とは少し違う感情だ。
ずっと前から、俺はメリッサの事が好きだった」
リチャード様が、私を好きって・・・
しかも、『友情とは違う』って言った?
嘘でしょ?
そんな馬鹿な。
「・・・・・・冗談・・・ですよね?」
意外過ぎる告白に、動揺のあまり視線を彷徨わせる私をよそに、リチャード様は尚も言葉を重ねる。
「サミュエルに紹介された頃からずっと、君から目が離せなかった。
初めは、自分の気持ちがよく分からなくて、サミュエルとその恋人が仲良くしている様子を、羨ましく思っているだけだって勘違いした。
でも、そのうちサミュエルと寄り添う君を見るのが苦しくなって・・・。
同じ邸に住んでいると聞いた時には、激しい嫉妬に駆られた。
その時ようやく俺は、それが恋だと自覚したんだ」
「・・・・・・」
何か答えなきゃと思い口を開くが、何も言葉が出てこない。
私は、無意味にハクハクと口を開閉させ続けた。
その様子を見て、リチャード様がフッと笑う。
「直ぐに答えを出さなくていいよ。
寧ろじっくり時間をかけて、よく考えて欲しい。
今返事を望めば、断られてしまいそうだから」
リチャード様の耳がほんのり赤くなっているのを見て、『ああ、冗談じゃ無いんだ』と思った。
いつの間にか、空には黒っぽい雲が広がっていて、遠くで小さく雷鳴が聞こえた。
「雨が降って来そうだね。
食事の途中だけど、帰った方が良さそうだな」
雨雲は思ったよりも早くやって来て、帰り道を少し進んだタイミングで、頬に水滴がポツリと落ちた。
空を見上げようとした私の頭に、リチャード様の上着がフワリとかけられる。
嗅ぎ慣れない男性用の香水の香りに包まれて、頭がクラクラした。
「少し走ろう」
リチャード様は私を支えながら走り出した。
背中に触れる腕から、彼の体温が伝わってきて、心臓が壊れてしまいそうな程に、強い拍動を繰り返す。
混乱している内に、自邸へと辿り着いていた。
雨はまだ小降りだったので、衣服は然程濡れていないが、侍女にタオルを持って来るように指示する。
少し濡れてしまった前髪を掻き上げるリチャード様の仕草が妙に色っぽくて、ぼんやりと見つめていたら、彼は頬を染めて笑う。
「見つめられると照れるんだけど」
「ごっ、ごめんなさいっ」
「いや、嬉しいよ」
「~~っっ!!」
慌てて目を逸らした私は、丁度戻って来た侍女からタオルを受け取って、リチャード様に渡す。
予定よりも早い帰宅になってしまったので、応接室へ移動して、お茶を振る舞う事にした。
昼食を少ししか食べれられなかったので、急遽、料理人にサンドイッチも用意して貰った。
応接室で向かい合って座ると、リチャード様から向けられる視線が熱を帯びている事に気付いて、『愛を告白されたのだ』と実感が湧いて来た。
そこからは、緊張と動揺で何を話したか殆ど覚えていない。
上の空の私に、リチャード様が時折、困ったように笑っていた事だけを覚えている。
「今度、王家主催の夜会があるだろう?
メリッサも参加するなら、エスコートをさせてもらえないだろうか?」
帰り際、玄関まで見送る私を振り返ったリチャード様は、少し緊張した表情でそう言った。
・・・・・・私は公爵子息から婚約を解消されたと話題になっている女だ。
その女が、他の公爵子息にエスコートされて、夜会に参加するなど、新たな噂のタネをばら撒くような物だ。
リチャード様まで嘲笑の対象にされてしまうのではないか。
そう思って、私は逡巡したのだが・・・・・・、
「こう見えても、かなり勇気を振り絞って誘っているんだ。
出来れば、断らないで欲しい」
縋るような目で見つめる彼を突き放す事など出来なくて、小さく頷く。
リチャード様を見送って、自室に戻った私は、まだふわふわと夢の中にいるような心地だった。
目の前に左手を翳すと、彼の瞳と同じ色のブレスレットがキラリと光った。
「かなり沢山歩いたけど、大丈夫?」
「田舎育ちですもの、体力には自信がありますよ。
それに、お祭りが楽しくて、疲れも忘れてしまいます」
私の答えにリチャード様は嬉しそうに笑ったが、何故か急に真剣な顔になる。
少しの沈黙の後、意を決したかのように口を開いた。
「・・・今日楽しんでくれたのなら、来年も俺と一緒に来てくれないか?」
「・・・・・・えっ?
あの、でも・・・本来なら、花祭りは恋人同士で来るものでは?」
「うん。
・・・だから、メリッサを誘っている。
友人だなんて言ったけど・・・、本当は、俺が君に対して抱いているのは、友情とは少し違う感情だ。
ずっと前から、俺はメリッサの事が好きだった」
リチャード様が、私を好きって・・・
しかも、『友情とは違う』って言った?
嘘でしょ?
そんな馬鹿な。
「・・・・・・冗談・・・ですよね?」
意外過ぎる告白に、動揺のあまり視線を彷徨わせる私をよそに、リチャード様は尚も言葉を重ねる。
「サミュエルに紹介された頃からずっと、君から目が離せなかった。
初めは、自分の気持ちがよく分からなくて、サミュエルとその恋人が仲良くしている様子を、羨ましく思っているだけだって勘違いした。
でも、そのうちサミュエルと寄り添う君を見るのが苦しくなって・・・。
同じ邸に住んでいると聞いた時には、激しい嫉妬に駆られた。
その時ようやく俺は、それが恋だと自覚したんだ」
「・・・・・・」
何か答えなきゃと思い口を開くが、何も言葉が出てこない。
私は、無意味にハクハクと口を開閉させ続けた。
その様子を見て、リチャード様がフッと笑う。
「直ぐに答えを出さなくていいよ。
寧ろじっくり時間をかけて、よく考えて欲しい。
今返事を望めば、断られてしまいそうだから」
リチャード様の耳がほんのり赤くなっているのを見て、『ああ、冗談じゃ無いんだ』と思った。
いつの間にか、空には黒っぽい雲が広がっていて、遠くで小さく雷鳴が聞こえた。
「雨が降って来そうだね。
食事の途中だけど、帰った方が良さそうだな」
雨雲は思ったよりも早くやって来て、帰り道を少し進んだタイミングで、頬に水滴がポツリと落ちた。
空を見上げようとした私の頭に、リチャード様の上着がフワリとかけられる。
嗅ぎ慣れない男性用の香水の香りに包まれて、頭がクラクラした。
「少し走ろう」
リチャード様は私を支えながら走り出した。
背中に触れる腕から、彼の体温が伝わってきて、心臓が壊れてしまいそうな程に、強い拍動を繰り返す。
混乱している内に、自邸へと辿り着いていた。
雨はまだ小降りだったので、衣服は然程濡れていないが、侍女にタオルを持って来るように指示する。
少し濡れてしまった前髪を掻き上げるリチャード様の仕草が妙に色っぽくて、ぼんやりと見つめていたら、彼は頬を染めて笑う。
「見つめられると照れるんだけど」
「ごっ、ごめんなさいっ」
「いや、嬉しいよ」
「~~っっ!!」
慌てて目を逸らした私は、丁度戻って来た侍女からタオルを受け取って、リチャード様に渡す。
予定よりも早い帰宅になってしまったので、応接室へ移動して、お茶を振る舞う事にした。
昼食を少ししか食べれられなかったので、急遽、料理人にサンドイッチも用意して貰った。
応接室で向かい合って座ると、リチャード様から向けられる視線が熱を帯びている事に気付いて、『愛を告白されたのだ』と実感が湧いて来た。
そこからは、緊張と動揺で何を話したか殆ど覚えていない。
上の空の私に、リチャード様が時折、困ったように笑っていた事だけを覚えている。
「今度、王家主催の夜会があるだろう?
メリッサも参加するなら、エスコートをさせてもらえないだろうか?」
帰り際、玄関まで見送る私を振り返ったリチャード様は、少し緊張した表情でそう言った。
・・・・・・私は公爵子息から婚約を解消されたと話題になっている女だ。
その女が、他の公爵子息にエスコートされて、夜会に参加するなど、新たな噂のタネをばら撒くような物だ。
リチャード様まで嘲笑の対象にされてしまうのではないか。
そう思って、私は逡巡したのだが・・・・・・、
「こう見えても、かなり勇気を振り絞って誘っているんだ。
出来れば、断らないで欲しい」
縋るような目で見つめる彼を突き放す事など出来なくて、小さく頷く。
リチャード様を見送って、自室に戻った私は、まだふわふわと夢の中にいるような心地だった。
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