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3. 親バカ「ダンテ・クルーシオ」
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「マッシュ!! 賢者の刻印が出たというのは誠か!?」
彫りの深い整った顔に黒い顎髭を生やしている、このダンディな男の名前は、「ダンテ・クルーシオ」。
王国随一の剣豪であり、平民から男爵の地位まで一世代で上り詰めた天才である。
王国最大勢力を誇る 【メルセデス騎士団】の団長にして、第二王女を嫁に娶った彼は王国で「天性の剣聖」と呼ばれる英雄だった。
そんな親元に生まれた僕こと、マッシュは周りに相当期待されて、この世に生まれたらしい。生まれたばかりなのにプレッシャーをかけられているなんて、相当に可哀想な子だな。
だがしかし、今はその話も他人事ではない。
今は僕がマッシュで、その期待に答えなくてはならない。というか答えてしまったのだが・・・さすればどうしたらいいものか。
「マッシュ、愛してるぞぉ。ちゅっちゅっちゅ」
髭面の顔に似合わない行動を見せてくる当たり、相当に溺愛されているようだ。髭面のおっさんが、ほっぺに何度もチューしてくるなんて、これまた体験する事が出来ない事を体験しているような気がする。
「お父様、髭がチクチクして痛いです。おやめ下さい」
髭を理由に軽く牽制してみた。これで可愛い息子が嫌がるチューを安易にしてこまい。
だが、その考えはどうやら甘かったらしい。
「あぁ、ごめんなぁ~髭を剃ってくるからなぁ!」
ダンテは髭を剃るために勢い良く部屋を出て行った。違う、そうじゃない。
なんで素直に聞き入れてるんだ。あの人は・・・、次はどうやって断ろう・・・。ってこんな事を考えている場合じゃない。
現世に帰る方法を模索せねば。早く帰ってPCをシャットダウンしないと、母親に秘蔵フォルダーを見られて生き恥を晒してしまう。
このまま生きて過ごしていたら現世に帰れるのか?
それとも何かを成し遂げないといけないのか?
それに異世界転生など本当はしていないのかもしれない、この何も分からない状況下で日々を過ごすのは不安しかない。
──ドタッドタッドタッドタッ・・・!
ダンテが部屋の外に出てからものの数分、部屋の外からドタバタと騒がしい足音が聞こえる。その足音はどんどん部屋へと近付いてきた。この足音は・・・
「ん~マァッシュちゃーん? 髭を剃ってきましたよぉおおんんん」
ミュージカル歌手のように美しいビブラートを効かせながら、ハイテンションのダンテが、部屋に入場してきた。そのテンションはおかしい・・・狂気すら覚えてしまうほどだった。
そんなハイテンションのダンテの口元を見てみると髭はちゃんと綺麗に剃られおり、髭がなくなった顔はもち肌のような質感で意外にも綺麗な色白な肌をしていた。彫りは深いが顔は整っているためか、美男子のように見えてきた。
だが、そんな事は問題ではないのだ。マッシュの父親だとしても、僕からしたら見知らぬおっさんだ。見知らぬおっさんにチューされたい人なんて、きっとこの世に存在しないだろう? ここは仕方ない・・・。
「今のお父様は狂気じみています。チューするためにそこまでするなんて・・・ドン引きですね」
僕はあえて塩対応をして、ダンテとの距離を離そうとした。
これが最善の策と踏み、少しキツめの口調で言い放った言葉は、思わぬ状況を生む事となった。
「な、な、なんだ・・・って、ぐぉおおおおおおおおおおん」
最愛の息子から辛辣な言葉を受けたダンテが、奇声を上げながら膝から崩れ落ちたのだ。
お前のリアクションは、お笑い芸人か!! とツッコミを入れたくなる程のオーバーリアクションで傍から見たら痛い光景だった。
しかし、明らかにショックを受けているダンテにそれ以上の事を言えるはずもなく、床に頭をつけて落ち込んでいる父親の背中を見つめていた。
──ズッー、・・・ング・・・、ズーッ・・・
静寂に包まれている部屋にダンテの涙を啜る音が木霊し始める。
真っ赤な絨毯で蠢いているダンテは、甲子園で敗戦した野球球児のようで、泣きながら甲子園の土を集めているように見えた。こんな例えをする僕は、たぶんおっさんだろう。
しかし、この凹みようは異常だ。体験したことの無い罪悪感に苛まれてしまう。
ここまで僕を愛してくれているダンテに根負けした、仕方ない。
真っ赤な絨毯の上で蠢いているダンテに、今度は優しい口調で話した。
「お、お父様? 大丈夫ですか? 一回だけならいいですよ?」
僕がそう言った瞬間、ダンテは一瞬にして飛び起きた。ダンテの顔は、涙のせいで顔がぐちゃぐちゃで見るに堪えないものだった。
「ぐぉおおお、いや・・・大丈夫だ! 気にするんじゃない息子よ!」
気にするんじゃないと言われても、今の状況をスルーする技術など僕は持ち合わせていない。
どうすればいいか分からずに困惑していると、母親のエブリダが颯爽に部屋の中へと入ってきた。
よかった、ダンテを慰めてくれるんだ・・・、と僕は思っていたが、僕の想像しなかった出来事が起きた。
──バッチンッ!!
エブリダの渾身のビンタが、ダンテの左頬を直撃したのだ。
僕は今まで二十数年生きてきたが、人が人を本気でビンタするのを目の当たりにした事はなかった。
それを目の前で見てしまうなんて、こっちの世界に来てから初めての経験をたくさん経験してしまっている。
ヒット音の大きさから、ビンタの強さが伺えたが・・・、感想は、凄く痛そうでした。
ダンテはというと顔を押さえながら、真っ赤な絨毯の上をのたうち回っている。そんなダンテに追い打ちをかけるようにエブリダが怒鳴る。
「いつもいつも、マッシュを困らせて何をしているんですか!!」
エブリダの怒涛の声が、のたうち回るダンテに突き刺さる。
ダンテはウーッと呻き声を上げながら起き上がった。左頬には、手形がくっきりと浮かび上がり赤く腫れている。
「困らせる気はなかった、すまん! いつものように愛を育んでたんだ。
いつものようにって......この親父......筋金入りの親バカだ。
このやり取りを毎回のようにしているのだと、なんとなく察した。
「だから、マッシュにも嫌われるんです! もう知りません!」
キョトンとした顔で見守る僕と見るも無惨なダンテを置いて、大きな足音を立てながらエブリダは部屋を後にした。
そのエブリダの後を追って、言い訳をしながらダンテも部屋から出て行く。
その二人の姿を見て、おいおい、一歳にもならない僕を置いていくなー!っと心の中で叫び、この両親の元に生まれたマッシュの運命は大丈夫なのか? と心配してしまった。
彫りの深い整った顔に黒い顎髭を生やしている、このダンディな男の名前は、「ダンテ・クルーシオ」。
王国随一の剣豪であり、平民から男爵の地位まで一世代で上り詰めた天才である。
王国最大勢力を誇る 【メルセデス騎士団】の団長にして、第二王女を嫁に娶った彼は王国で「天性の剣聖」と呼ばれる英雄だった。
そんな親元に生まれた僕こと、マッシュは周りに相当期待されて、この世に生まれたらしい。生まれたばかりなのにプレッシャーをかけられているなんて、相当に可哀想な子だな。
だがしかし、今はその話も他人事ではない。
今は僕がマッシュで、その期待に答えなくてはならない。というか答えてしまったのだが・・・さすればどうしたらいいものか。
「マッシュ、愛してるぞぉ。ちゅっちゅっちゅ」
髭面の顔に似合わない行動を見せてくる当たり、相当に溺愛されているようだ。髭面のおっさんが、ほっぺに何度もチューしてくるなんて、これまた体験する事が出来ない事を体験しているような気がする。
「お父様、髭がチクチクして痛いです。おやめ下さい」
髭を理由に軽く牽制してみた。これで可愛い息子が嫌がるチューを安易にしてこまい。
だが、その考えはどうやら甘かったらしい。
「あぁ、ごめんなぁ~髭を剃ってくるからなぁ!」
ダンテは髭を剃るために勢い良く部屋を出て行った。違う、そうじゃない。
なんで素直に聞き入れてるんだ。あの人は・・・、次はどうやって断ろう・・・。ってこんな事を考えている場合じゃない。
現世に帰る方法を模索せねば。早く帰ってPCをシャットダウンしないと、母親に秘蔵フォルダーを見られて生き恥を晒してしまう。
このまま生きて過ごしていたら現世に帰れるのか?
それとも何かを成し遂げないといけないのか?
それに異世界転生など本当はしていないのかもしれない、この何も分からない状況下で日々を過ごすのは不安しかない。
──ドタッドタッドタッドタッ・・・!
ダンテが部屋の外に出てからものの数分、部屋の外からドタバタと騒がしい足音が聞こえる。その足音はどんどん部屋へと近付いてきた。この足音は・・・
「ん~マァッシュちゃーん? 髭を剃ってきましたよぉおおんんん」
ミュージカル歌手のように美しいビブラートを効かせながら、ハイテンションのダンテが、部屋に入場してきた。そのテンションはおかしい・・・狂気すら覚えてしまうほどだった。
そんなハイテンションのダンテの口元を見てみると髭はちゃんと綺麗に剃られおり、髭がなくなった顔はもち肌のような質感で意外にも綺麗な色白な肌をしていた。彫りは深いが顔は整っているためか、美男子のように見えてきた。
だが、そんな事は問題ではないのだ。マッシュの父親だとしても、僕からしたら見知らぬおっさんだ。見知らぬおっさんにチューされたい人なんて、きっとこの世に存在しないだろう? ここは仕方ない・・・。
「今のお父様は狂気じみています。チューするためにそこまでするなんて・・・ドン引きですね」
僕はあえて塩対応をして、ダンテとの距離を離そうとした。
これが最善の策と踏み、少しキツめの口調で言い放った言葉は、思わぬ状況を生む事となった。
「な、な、なんだ・・・って、ぐぉおおおおおおおおおおん」
最愛の息子から辛辣な言葉を受けたダンテが、奇声を上げながら膝から崩れ落ちたのだ。
お前のリアクションは、お笑い芸人か!! とツッコミを入れたくなる程のオーバーリアクションで傍から見たら痛い光景だった。
しかし、明らかにショックを受けているダンテにそれ以上の事を言えるはずもなく、床に頭をつけて落ち込んでいる父親の背中を見つめていた。
──ズッー、・・・ング・・・、ズーッ・・・
静寂に包まれている部屋にダンテの涙を啜る音が木霊し始める。
真っ赤な絨毯で蠢いているダンテは、甲子園で敗戦した野球球児のようで、泣きながら甲子園の土を集めているように見えた。こんな例えをする僕は、たぶんおっさんだろう。
しかし、この凹みようは異常だ。体験したことの無い罪悪感に苛まれてしまう。
ここまで僕を愛してくれているダンテに根負けした、仕方ない。
真っ赤な絨毯の上で蠢いているダンテに、今度は優しい口調で話した。
「お、お父様? 大丈夫ですか? 一回だけならいいですよ?」
僕がそう言った瞬間、ダンテは一瞬にして飛び起きた。ダンテの顔は、涙のせいで顔がぐちゃぐちゃで見るに堪えないものだった。
「ぐぉおおお、いや・・・大丈夫だ! 気にするんじゃない息子よ!」
気にするんじゃないと言われても、今の状況をスルーする技術など僕は持ち合わせていない。
どうすればいいか分からずに困惑していると、母親のエブリダが颯爽に部屋の中へと入ってきた。
よかった、ダンテを慰めてくれるんだ・・・、と僕は思っていたが、僕の想像しなかった出来事が起きた。
──バッチンッ!!
エブリダの渾身のビンタが、ダンテの左頬を直撃したのだ。
僕は今まで二十数年生きてきたが、人が人を本気でビンタするのを目の当たりにした事はなかった。
それを目の前で見てしまうなんて、こっちの世界に来てから初めての経験をたくさん経験してしまっている。
ヒット音の大きさから、ビンタの強さが伺えたが・・・、感想は、凄く痛そうでした。
ダンテはというと顔を押さえながら、真っ赤な絨毯の上をのたうち回っている。そんなダンテに追い打ちをかけるようにエブリダが怒鳴る。
「いつもいつも、マッシュを困らせて何をしているんですか!!」
エブリダの怒涛の声が、のたうち回るダンテに突き刺さる。
ダンテはウーッと呻き声を上げながら起き上がった。左頬には、手形がくっきりと浮かび上がり赤く腫れている。
「困らせる気はなかった、すまん! いつものように愛を育んでたんだ。
いつものようにって......この親父......筋金入りの親バカだ。
このやり取りを毎回のようにしているのだと、なんとなく察した。
「だから、マッシュにも嫌われるんです! もう知りません!」
キョトンとした顔で見守る僕と見るも無惨なダンテを置いて、大きな足音を立てながらエブリダは部屋を後にした。
そのエブリダの後を追って、言い訳をしながらダンテも部屋から出て行く。
その二人の姿を見て、おいおい、一歳にもならない僕を置いていくなー!っと心の中で叫び、この両親の元に生まれたマッシュの運命は大丈夫なのか? と心配してしまった。
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