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第1章 幼少期
2. 地獄の日々の記憶
しおりを挟む地獄のような日々が、走馬灯のように脳内に流れた。
早朝に起床し早急に朝食を済ませる。
その後、すぐに体術・剣術などの武術の訓練が始まる。
それは訓練という名の暴力だった。各武術の師範代にお構い無しに殴られ、それにひたすら耐え抜くというものだ。
忍耐力を鍛える訓練でもあるらしいが、幼い僕の体は打たれる度に軋み、鈍い音が立つのを歯を食いしばって耐え抜くしかない。
その地獄のような訓練は、二時間にも渡って繰り広げられる。
訓練が終わる時はいつも生きているのが奇跡のような状態で、息をしようとしても上手く出来ない。
恐らく肋骨が折れて、肺に突き刺さり呼吸苦を起こしているのだろう。その状態で僕は訓練所にしばらく放置される。
時間の感覚は上手く分からない。いつも意識を失いかけた時、治癒魔法を持った魔道衆により治療をされている。
生命力を鍛えるためらしいが、そんなの知った事ではない。
そして、いつもの見慣れた天井を見て目を覚ます。静養室だ。
ここは安息の地だ……誰にも責め苦を受けること無く休める。
だが、その時間も長くは続かない。父上から教育を委任されている教育官によって、無理矢理に勉強部屋へと連れて行かれるのだ。
勉強部屋に着くと、鬼の形相の教育官が鞭を持って待ち構えている。基礎的な学力を身に付けるための学科や、語学・薬草学・魔法学などの応用学などの教養を身につけるために三時間みっちりと勉強を行う。勉強中、居眠りなどの怠慢な態度を取ると鞭が飛んでくる。その罰はさほど理不尽には感じなかったが、難しい問題を間違えても鞭が飛んでくる。これが理不尽で、習っていないところの科目ですらも容赦がない。
おかげで勉強が終わる頃には、鞭によるミミズ腫れが体の至るところに出来上がる。
この後、治療される事なく大食堂にて昼食を一人で食べる。
食べている間も教育官によって常に見張られているため、早く昼食を食べ終えないといけない。落ち着ける時間などはない。
食べ終えると、すぐに次の教育が始まる。
父上が直々に教える「竜化」に対する教育だ。
治癒魔法を持っている魔道衆が二人、いつでも治療できるように待機している中でコントロールの難しい竜化を習う。
父上は体の一部を竜化させた後、僕に同じ部位を竜化させるようにと投げ掛けてくる。
幸いにも体の一部を竜化させるのは、小さい頃から祖父に教わっていたから得意で難なく達成できる。
父上は異常なまでの殺気を放ちながら、殺傷能力を高めるため手を竜化させる。父上の両手が鋭利な黒い鉤爪へと変貌する。
命の危機に瀕した時、竜になれるという迷信が存在する。
その影響もあって父上は、本気で殺すつもりで僕に襲い掛かってくる。勿論、父上も本気で殺すつもりはないのだろうが、僕が必死になって避けないと本当に死んでしまいそうな攻撃だ。
この状況は、父上が満足するまで繰り広げられる。
次の訓練は「完全な竜へと成る竜化」だ。
苦手なのはここからなのだ。僕の内側に潜む何かが完全に竜になることを止めている……気がする。
それは定かではないのだが、本能的に体が自己防衛しているのだろう。
そのせいで完全な竜になることが出来ず、父上から”半殺しの刑”を受ける。
息子だからと手を抜く事なく、毎日のように地獄のような訓練を繰り返す。
三歳の頃から始まった英才教育の影響で、幼い僕の人格は変わっていった。幼いながらにして大人の思考を持ち、人を疑うという癖を身につけたのだった。
僕は父上を恨み、その下で働く従者達も恨んだ。
幼い僕の心は、みるみる内に荒んでいった。
その心を癒してくれたのは、父上以外の家族だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そう言えば、もうひとつ嫌な記憶を思い出した。
祖父が亡くなる前日に、僕に継承する物があると言った。
カルシファス家の別棟にある大広間で受け取る約束をして、祖父と密かに会ったのだが、何故か……部屋の入口から憤然とした面持ちの父上が入ってきた。
「サイラキアス……私の息子にまで……」
そう口から零すと父上は、目にも止まらぬ速さで祖父へと近づき、一瞬で右手を巨大な竜の手に竜化させた。
次の瞬間、祖父は宙を舞っていた。
父上が竜化させた右手で祖父を薙ぎ払うようにして壁へと叩き付けたのだ。
「んぐぅ……ぬ……」
全身を壁で強く打った祖父は、息をするのもままならず床へと這いつくばっていた。
その間に父上は僕の元へ駆け寄ると、僕を腰元まで力一杯に引き寄せた。
祖父を見下すように見据える父親の腰の元で、僕は大好きな祖父を助けたかったのに身体を動かせずにいた。
それからの詳しい事は、何故か覚えていないが、その次の日に祖父は亡くなった。思い出したくない、嫌な記憶である事は確かである。
その記憶の詳細を思い出そうとすると、悔しい想いが心の底から沸き上がり、血を滾らせる。
その度に頭が割るような痛みに襲われてしまうため、なるべく思い出さないようにしている。
嫌な過去の記憶を一通り辿ると、僕は医務室で目を覚ました。
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