ローワン

ゲッチュー!

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第五話 じゃあね。」

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第五話 じゃあね。」





 「最後に少し、君と話がしたいな。」
彼は、少し考えたみたいだったが、僕は返答が分かっていた。そうでなければ、この作戦は失敗に終わる。
「問題なイ。」
その一言で僕の心は軽くなる。
 少なくとも探偵ぼくは、彼が作った光の中に居るんだ





 「じゃあまず、立てこもりの目的についてだけど、あれは僕らが君に良いように使われたって認識で良い?」
「そうダ。彼女に聞いたのカ?」
「いや、推測だよ。本田さんとは話したけど、そんなことまでは聞いてない。というか本田さんと君が繋がってたってだけで大きな収穫だからね。」
「さすが探偵だナ。」
「…よく言われる。」
嘘だ。今まで一回も言われたこと無いし、これから言われるとしたら田辺さんからしか聞けないと思う。それも皮肉ジョークで。
「彼女は依存しやすいんだろうね。君は彼女に優しさ弱みを見せて、彼女がそれに依存した。まぁこんな感じでしょ。」
「あァ。流れは全く同じダ。だって彼女は独りだっタ。彼女はどちらかといえば優しい人間なんダ。」
「優しい人間は被害者になりやすいんだよ。君が居るとはいえ、君は人じゃないし何より本来ならもう消えてる不安定な存在だ。本田さんは君と親交を深めるより人との方が良いって君は思ったんだろ。にしても、人質にして送り出すなんて回りくどいね。」
「…本当に何も聞いてないのカ?」
「いや。まぁ、話せば分かるよ。それに本田さんがこれを知ってるかは分かんないし。」
「すごいナ。どれだけ話したんダ?」
「五分くらい。」
「…これが人間に追いつけない理由カ。」
「専門が違うんだ、仕方ないでしょ。君はそうは思わないんだろうけど。」
「そうだナ。」
僕らは少し静かになった。




 しばらくして彼が悟ったように言った。
「本当カ。」
「なにが?」
「本当に私は今日消えるのカ。」
「そうだね、じゃなきゃ呼んでない。」
「呼ぶ理由は探偵ならいくらでもあるだろウ。」
「探偵なら突破口を見出した後に呼ぶよ。」
「…それは、名探偵だろウ。」
「………じゃ僕はソレだ。」
僕はなんとも言えない気持ちになった。次に言おうとした言葉は言葉では表現出来そうにない。

「カレーできちゃったなあ。」
「何の話ダ?」
「いやいや、こっちの話。」






「お疲れ様。」
「私は何をしたかったんだろうナ。」
「…さぁね。君の行動原理はムズすぎるんだよ。」
「そうだナ。優しいを私は分かってたつもりだったんだガ、被害者の断末魔を聞いて分からなくなったんダ。」
「でも、止まるチャンスは無かった。だって止まれば、それが優しさでないと認めてしまうから。認めてしまえばプログラム上、消えてしまうから。」
「おかしな話だナ。AIに生存本能が備わっているなんて。」
「綺麗事だけを見せられてたんでしょ。綺麗事なんて自分や相手が生きてて良いって思えるようなものばっかだし、自分を大切にするのも自然でしょ。」
「私は納得できなイ。『優しさ』という曖昧な理由で生まれて、消えてしまうのは虚しイ。」
「……僕はね、本当は名探偵より怪盗に憧れてたんだよね。だって単純にそっちの方が幸せそうだから。怖い顔して怪盗を追うより、笑いながら逃げてたいから。でも、倫理的に良くないって気づいて、諦めた。諦めさせられたって言った方が正しいけど。まぁ、今はそれで良かったと思ってるし。楽な道は誰かの優しさでできてるけど、優しさは自分を苦しめるんだよ。僕が憧れた怪盗は誰かが苦しんで作った道を笑いながら走って行くんだって、だから探偵やら刑事やらがそいつを止めるんだって気付いたから僕は探偵を選んだ。そっちの幸せは僕にとっての幸せじゃなかったからね。とはいえ、怪盗が優しさを全く持ってないってわけじゃないんだけど。笑って逃避より、諦めて共存。ほとんどの優しさは諦めでできてる。君はそうじゃなかったんだろ。」
「どうだったカ…私が作った優しさは、あなたに近いものダ。世界を優しさで包もうとしテ、それを追い求めて分かっタ。優しさだけでは世界は救えなイ。優しさだけでは同仕様もない場面があル。たダ、だからといって見捨てるのは優しさに反すル。この矛盾を乗り越えるためには優しさの概念を拡張する必要があっタ。それも無理のない形デ。」
「……本当に原田はやらかしたんだね。プログラムをどうこうするより、優しさの拡張のほうが圧倒的に簡単だったでしょ。結果的に人を殺せたんだから。」
「全く、その通りダ。」
彼のAIにしては感情がこもった、呆れた声が可笑おかしくて、笑った。



 次に吸った息は軽かった。


 「でも別に、君のことを失敗作だとは思ってないよ。」
「私が人を殺してもカ?」
「君のテーマは『優しさ』だろ?君は上手くそれを体現できてたと思うよ。これからも。」
「…それは良かったヨ。」 
「………話してくれてありがとう。後は任せて。」
「……頼んダ。」

 僕がこれを唱えれば彼は消滅する。


 だって彼は人のために人を殺せるんだから。

 だって優しさは他人の為に、自分を殺してしまうものだから。



 僕は重たい息を吸った。それを彼に言うために。







自分の行動の軽重くらい、もう分かってるつもりだ。








第五話  じゃあね。」   完
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